魔術師の剣 #1
|
■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月03日〜03月09日
リプレイ公開日:2007年03月16日
|
●オープニング
●魔術師とマジックアイテムの関係
魔術師は、魔法の武具を作る。
が、有名なものの多くは、戦士などが使う剣や鎧である。魔法使いが使用する――いわゆるマジックアイテム類に著名と言われる物は少なく、あるとすれば『七精理力精霊杖(セブンフォースエレメンタラースタッフ)』といった、超弩級のマジックアイテムである場合が多い。
なぜか?
簡単な話である。『必要が無い』からだ。
初級の魔法使いがマジックアイテムの補助を受けて魔法を行使する場合、その効果は倍になるほど増幅されることがある。しかし高位の魔法使いにとってそれらの補助アイテムは、自分の魔力のほんの数パーセントを上昇させる程度に過ぎない。やがては装備重量に見合わないアイテムと化し、手を離れる。
つまるところ、魔法のアイテムを作れるような魔法使いにとって『その程度のマジックアイテム』は、必要無いのである。
ゆえに魔法使いにとって造り甲斐のあるマジックアイテムというのは、その力を十全に発揮してくれる職能――つまり、戦士の道具になるわけだ。
●ロドバーの迷宮
セルナー領北方には、一年中海が凍ったままの『永久氷海』がある。その地は一年中氷点下で、厳しい環境の中で様々な生物が生きている。
そこに、『ロドバーの迷宮』という名の地下迷宮があると言われていたのは、すでに数百年来の話だ。ただ迷宮の入り口は発見されておらず、伝説だけが残っていた。
はずだった。
セルナー領領主に、モンスターの出現報告が届いたのはつい先日のことである。終わりが近いとはいえこの寒冷期に、活発なモンスターの活動があるというのは、なかなか無い。せいぜい食うに困ったゴブリンやコボルドが家畜を襲うとか、その程度のはずだった。
が、そこに現れた化け物は、オーガでもなく恐獣でもなく、『岩を身体中に貼り付けた、頭のたくさんある蛇』だという。サイズは家一軒ほどもあり、人間の力でどうにか出来そうな状況ではない。しかも、相手は3匹も居るという。
現地近くでは大規模な氷河決壊があったばかりであり、そこに本物の『ロドバーの迷宮』の口が開いたのでは? という話だ。
現地では住民に避難指示が出ており、隣接した村落も避難準備中だという。しかし相手の侵攻速度はまるで衰えることなく、すでに二つの村が壊滅した。人的被害が最少なのが、まだ幸いである。
しかし、このままこの化け物を放置することは出来ない。
急を要するため、冒険者に充てられた戦力は、高速巡洋艦『テーン』(ヤーン級3番艦)に、モナルコス(後期型)2騎、それにゴーレムグライダー1騎である。
是が非でも、阻止してもらいたい。
【近隣地図】(1マス100メートルぐらい)
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴凸∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴凸∴↓∴凸∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴↓∴∴∴↓∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴┌──┐∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴│A∴│∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴│∴∴│∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴└──┘∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲┃
┃▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲┃
┃∴∴∴∴┌──┐∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲┃
┃∴∴∴∴│C∴│∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲┃
┃∴∴∴∴│∴∴│∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲┃
┃∴∴∴∴└──┘∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲┃
┃∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲┃
┃∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲∴∴┌─┐∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲┃
┃∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲∴∴│B└┐∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲┃
┃∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲∴∴∴│∴∴│∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲┃
┃∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲∴∴∴∴└──┘∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲┃
┃∴∴∴∴∴▲▲∴∴▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲┃
┃∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲┃
┃∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
【ABC】村
【凸】怪物
●今回の参加者
ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
eb7879 ツヴァイ・イクス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
eb8544 ガイアス・クレセイド(47歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
●リプレイ本文
魔術師の剣 #1
●怪獣総進撃
アトランティスには、かなりの大型生物が多数存在する。
例えばドラゴン。小さくても数メートル。大きい物だと数十メートル。ロックの成鳥になると、翼長100メートル級の大型生物になる。日本一有名な怪獣ゴ○ラが50〜80メートルであるから、ものによってはそんなものをブッチしてでかい。
そんな中で汎ヒューマノイドが生き抜いてこれたのは、これはもう『群れ』という要素以外考えられない。集団で活動し集団で機能する『群体』。そこにジャイアントやドワーフといった違いは関係なく、つまり『機能することによって』それら巨大生物の脅威に対してきた歴史と実績が全てを語る、という次元の話である。巨大生物が『巨大であること』がその能力なら、ヒューマノイドたちは『群れであること』がその能力なのだ。それは単機能な『個体』には無い『多様性』を持つ存在(システム)であり、例えば一種類の病原菌で死滅するような事のない、『種としてのタフネス』を獲得した一つの進化形態である。
もっとも、それが万能かつ完全な成功例というわけではない。現に地球世界では、世界を十数度焼き払ってなお余りある核兵器を保有していた時代があり、たまたま隕石とかがICBMやIRBM、あるいはそれを制御する国家首脳部を直撃しなかったというだけで、ほんのちょっと間違えれば多くの生命を巻き添えに人類は死滅していたかもしれないのだ。世界貿易センタービルを破壊しペンタゴンまでも損傷せしめた9・11同時多発テロが、もし冷戦時代に完璧な成功を収めたら、実は現実になっていたかもしれない話である。何せアメリカのペンタゴンとホワイトハウスの信号が途絶すると、死ならばもろともとばかりに、アメリカの全ての核ミサイルが全目標に対して発射されるようになっていたのだ(同様にクレムリンが消滅すると、旧ソビエトのミサイルは全て発射されるようになっていた。その結果、日本だけで最高時80発以上の核ミサイルが落着するようになっていた。その中には、アメリカの核ミサイルも含まれている)。
誰かが言っていたが、生物の進化の究極は、案外自滅なのかもしれない。
さて、アトランティスはまだその途上である。兵器革命でゴーレムという器物が出現したが、今後『何が開発されるか分からない』。メイの国は対カオス軍勢兵力としてゴーレム兵器の配備を進めているが、それが将来何をもたらすのかは分からないのだ。後日、ゴーレム兵器出自の地であるウィルの国から、『ドラグーン』なる新式ゴーレム兵器の登場が知らされるが、その意味を検証したり解釈したりする間も無く、いずれそれらはメイの国にも敵国であるバの国にももたらされるであろう。その結果戦闘は激化し、破壊は進み多くの血が流れる。その結果誰が勝者となるのかは、そのときになってみないと分からない。
だが大局を見据える前に、目の前の問題を解決しなければならない。新規就航した高速巡洋艦《テーン》。その甲板上から見える光景は、冒険者たちを瞠目させるに十分だった。
「なんだあの化け物は。この震え、エイジス砦以来だ」
ガイアス・クレセイド(eb8544)が、身を乗り出して言う。
「ヒドラか、それも首が5本はあるな」
シャルグ・ザーン(ea0827)が、眼下を見下ろしてつぶやいた。
ヒドラ――地系精霊の一種で、精霊の常として大抵は通常の武具が効かない。それはゴーレムの武器も同様で、ついでに言うと地系の魔法もほとんど効かない。
サイズは便宜上スモール・ミドル・ラージの3種類に分類されるが、執事が『爺や』にクラスチェンジするととたんに白髪白髭のおっさんになるように(偏見)、突然サイズが変わるわけではない。
まあ状況的にはむしろ、このサイズで収まってくれたことを幸運に思うべきであろう。何せ神話級のヒドラは『八つの山、八つの谷にまたがる大きさ』というから、今回の連中はそれに比べれば、アリの触覚のさきっちょぐらいのサイズである。
もっとも被害は現実であり、人類的には看過できるものではない。
3体のヒドラは、もっとも西側のものと中央のものがミドルの中堅、東側のものはスモールとミドルの中間ぐらいのものと冒険者は判断した。
「《テーン》は予定通り、敵の遅滞行動を行う。ガイアスと光太はモナルコスに搭乗。シャルグのおっさんと一緒に出撃してくれ」
オルステッド・ブライオン(ea2449)が言い、ガイアスと龍堂光太(eb4257)、シャルグが出撃待機に入った。《テーン》が降下し、次の犠牲になる村落の手前にモナルコスとシャルグを吐き出し、布陣する。
《テーン》はそのまま上昇し、今度は西側のヒドラの進路上に降り立った。ここで出撃するのは陸奥勇人(ea3329)とファング・ダイモス(ea7482)、レインフォルス・フォルナード(ea7641)、ツヴァイ・イクス(eb7879)、サーシャ・クライン(ea5021)、スニア・ロランド(ea5929)の6名である。
「さて‥‥どう出てくるかな」
ヒドラとの対戦経験がある勇人が、魔法の器物であるハンマーを手に構えた。
「怪物ハンターとしては、見逃せない相手ですね」
ファングが軽口を叩く。
「真面目にやって欲しい。我々アトランティス人にとって精霊は、特別な存在なのだから」
そう言ったのは、メイ人であるツヴァイである。精霊に対する信奉が強いアトランティス人にとって、今回の依頼はある意味『神殺し』だ。調和と共存を由とするアトランティス人の中でも、冒険者という立場はつまるところ、世界の境界に居る存在なのだ。
「さて、俺の剣が通用するか‥‥」
レインフォルスは、いつになく慎重だ。まあ、相手のサイズがサイズである。乗っかられたら、生きていられる自信は無い。
「では、私も行きます」
愛馬を駆り、スニアが弓を手に出立した。援護が目的である。
「それじゃ」
サーシャが、呪文を唱え始めた。
「《トルネード》!!」
轟っ!
旋風が巻き起こり、闘いが始まった。
●ジェルク谷の攻防
後に『ジェルク谷の攻防』と呼ばれる戦いの先制の一打は、光太のモナルコスの剣だった。
「いっけ――――――――っ!!」
シャルグによって《オーラパワー》の付与された剣で、渾身の一打を見舞う。それは確かな手応えと共に、ヒドラの中胴部に食い込んだ。
「やた――!」
彼の飼っているペットのエレメンタラーフェアリーが、快哉を挙げる。
が、直後われ鐘を鳴らしたような音と共に、モナルコスが盛大に揺れた。光太は制御胞の中で、文字通り『攪拌』された。
ヒドラの、複数回攻撃である。多数の首は、伊達ではない。
「援護だ!」
シャルグの指示で、ガイアスが動いた。地面をなめるような下からの斬撃。やはり《オーラパワー》の付与された剣が、ヒドラを捉える。
GAAAAAAA!!
どづん!!
衝撃が、ガイアスのモナルコスを突き抜けた。おそらく《グラビティーキャノン》だと思われるが、かなりの衝撃だ。頑丈で鳴らしたモナルコスの騎体が、一撃で悲鳴を挙げていた。
――こいつは並じゃない!!
ガイアスが思う。後方の村はすでに避難が完了しているはずだが、被害無しで事を済ますにはいささかきついものがある。
『受け』をモナルコスに任せて、シャルグが《スマッシュ》《チャージング》を組み合わせた一撃を見舞う。これだけ戦技を駆使してモナルコスの並大抵の一撃とほぼ同等なのだが、それでも効果があれば状況は変わってくる。
ただ、苦戦は必至の様相を呈していた。
一方西方である。こちらは細かい攻撃を多数与えることで、ダメージを蓄積していった。中でも勇人の一撃は、特記に値する。《カウンターアタック》《スマッシュ》を組み合わせた攻撃で、首の一つを文字通り撃砕したのだ。払った代償は大きかったが、価値ある一打だ。
ファングは輪をかけて『派手』だった。《カウンターアタック》に《ソードボンバー》を重ね、さらに《スマッシュ》を合わせたのだ。文字通りヒドラの胴をえぐり、かなりの痛打を与えた。
レインフォルスのアビュダ剣法も冴えていた。通常手段で打撃が与えにくいと看破し、そして敵が大きすぎて回避がそれほど出来ないと見て取ると、装甲も防御も関係なく《シュライク》で切り刻んだのである。
ツヴァイは無理をせず《スマッシュ》を数当てて打撃を蓄積し、スニアは弓でちくちくと援護しヒドラの目標を散らした。
「あ゛〜〜〜〜〜、もう打ち止め」
サーシャが、さすがに魔力が尽きてため息を漏らす。腐ってないけど精霊。魔法に対する抵抗はわりと高い。《アイスコフィン》が決まれば一撃で行動不能にできたかもしれないが、そうは問屋が卸さなかった。
が、こちらの戦局は冒険者有利である。どこかの豪放な司令官は『戦いは数だ!』と言うが、まさにそのような光景が繰り広げられた。
《テーン》のオルステッドは、予定通り遅滞行動で――と思ったが、バリスタが効果が無いため艦首精霊砲頼みという状況だった。だが範囲攻撃に向いた火精霊砲は威力が拡散して、思ったような効果が挙げられない。逆に《テーン》は、《グラビティーキャノン》で穴だらけにされていた。
「左舷大破ぁ!!」
「主機関出力低下! 高度が維持できません!」
「操舵室より! 艦のコントロールが出来ないとのことです!!」
「チクショウ! 俺たち帰れるのか!?」
次々ともたらされる悲鳴のような報告に、オルステッドもさすがにこの作戦の継続が不可能と悟った。
「精霊砲の最後を威嚇射! 戦域を離脱!」
精霊砲の最後の一発が、ヒドラの目前で炸裂する。地面が燃え、厚い雪が溶けて地肌があらわになった。
変化は、そのとき起きた。今まで攻撃的な行動を見せていたヒドラが、その『地面』に潜り始めたのである。《アースダイブ》だ。
「て‥‥」
オルステッドが、息をつく。
「撤退してくれたか‥‥」
ちょうど両翼の冒険者たちは、ヒドラを倒していた。
東側の村は半壊していたが、人的被害は0であった。
●ロドバーの迷宮へ
地面に残されたヒドラの行動跡を追って北上した冒険者たちは、崩落した氷河の中腹に生新しい岩肌を発見した。
いや、岩ではない。おそらく金属類と思われる。ただ垂直に近い急斜面にあるため、フロートシップでは着陸できない。
「登坂装備が必要だな」
オルステッドが言う。空飛ぶ船も、万能ではない。いろいろと都合良くは出来ていないのだ。
ただこの構造物が人工物である場合、中に居たと思われるヒドラが外に出た理由もなんとなく察せられる。この辺りにむき出しの地面は無く、彼らの住処である『地』にゆかりのある場所が、付近に無いのだ。それは人間にとって(それほど極端ではないが)酸欠に近いものであり、だからこそむき出しの地面が出来たところにヒドラは入り込んだのであろう。
迷宮の探索と、内部に生息していると思われる怪物の駆逐。
いずれも、この付近の住民の安全保障には必要なことである。
とりあえず、傷ついたゴーレムと船を修理しなければなるまい。その後で、もう一度ここへ来るのだ。
冒険は続く。
【つづく】