魔術師の剣 #2

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月22日〜04月29日

リプレイ公開日:2007年05月07日

●オープニング

●意外と忘れられているかもしれないが
 約半年前、ステライド王が『阿修羅の剣探索』のふれを出したのは、冒険者の全てが知るところである。冒険者ギルドは、ある意味『そのために』組閣されたと言っても良い。日々緊張を高めているカオス勢力との戦闘やバの国との決戦を前に、伝説の、超弩級魔法剣『阿修羅の剣』を入手すれば、戦局は文字通り『変わる』。かつてその剣を持った勇者は、一人で戦況をひっくり返したのだ。
 無論、誇張もある。実際はジェトの国との同盟を武器に、メイの戦力を束ねて建て直したということらしい。しかし阿修羅の剣の逸話は、その謎の消失と相まって『色々と』話題を生み出している。
 一騎当千、あるいは、一兵で万騎を屠るという伝説は、『その逸話自体が武器』になる。相手が威名にひるめば、状況は有利に働く。
 つまりその器物がどんな稚拙なものでも、存在するというだけで逸話と同等の兵力になるのだ。
 真の勇者に、そんなものは必要ない。しかし、民や兵たちには『伝説』が必要なのである。そのための、阿修羅の剣探索と言ってもいい。

●ロドバーの迷宮
 ロドバーの迷宮の探索開始が延びたのは、山間部の雪融けを待ったためである。
 雪山の一番危険な時期は、実は春先だ。その時期雪は緩み、密度が増して重量を持つ。我々がよく『雪崩』と思っている現象も実は結構種類があり、春先の雪崩が一番恐い。嵩は無いが密度の高い雪は、厳冬期の粉雪の雪崩と違い、直撃しただけで人間を圧死させる。現代のカナダ某地の雪崩現象では、数ヘクタールに及ぶ森林を『伐採』した雪崩もあるのだ。雪崩が通った跡は、まるでチェーンソーで木を切り倒したような切り株が多数残っていたそうである。
 ロドバーの迷宮は、山一つが遺跡という剛毅なコンストラクチャーである。全体の形は、どうやらピラミッドに準じているらしい。
 一応、エジプト文明との年代は合う。もっともアトランティスは時間軸について曖昧なところがあるので、『それ』と決めつけるのは危険だ。
 幸い、ヒドラの出現以降この迷宮からモンスターが出現したという報告はない。つまりこの迷宮には、『外に出るようなモンスター』はもういないらしい。
 あとは内部を探索し、阿修羅の剣の有無を確認する。そして出来れば、可能な限りの魔法の武具を確保する。
 実入りの大きそうな話ではあるが、リスクはMAXである。覚悟を決めて参加していただきたい。

 なお、以下は《バイブレーションセンサー》などの事前調査で判明した範囲の、内部マップである。参考にされたい。

・1マス=5メートル
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【?〜?】区画番号
【品】壁
【◎】何か独立した物体
【□■】床素材の違う区画

●今回の参加者

 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7879 ツヴァイ・イクス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
 eb8162 シャノン・マルパス(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8544 ガイアス・クレセイド(47歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

ズドゲラデイン・ドデゲスデン(eb8300

●リプレイ本文

魔術師の剣 #2

●迷宮の状況
 迷宮内は、ほんのりと暖かかった。熱を感じるほどではないが不快な熱さではなく、良くできた空調設備があるような清浄な空気が満ちている。
「この様子なら、有毒ガスの心配はあまりなさそうですね」
 手ぬぐいと鳥かごを用意していた、アトラス・サンセット(eb4590)が周囲を見渡して言う。
「モナルコスの配置は完了した。いつでもいける」
 シャノン・マルパス(eb8162)が、モナルコスの制御胞ハッチを開けて言う。
 今回フロートシップがルノリスなのは、斜面上に直接ゴーレムなどを付けなければならないためである。たとえ石段のような形のピラミッドであったとしても、ゴーレムや人材を登坂させたり降下させるのは大変なリスクを伴う。むしろフロートシップのある今この迷宮が発見されたのは、人間達にとって好都合であった。そうでもなければ、入り口に行くたびに毎回報告書を執筆するような冒険が発生したであろう。
 もっとも、油断はならない。おそらく飛行恐獣を使用したのだと思われるが、カオス勢力のほうが内部に早く侵入しているのである。
 そして迷宮の床には、小型〜中型の恐獣の足跡があった。モナルコスの戦闘能力に遜色は無いが、数で圧されると手こずる場合がある。地の利が微細でも向こうにある以上、油断は出来なかった。
「まずは拠点を作る。左の部屋を使おう」
 シャルグ・ザーン(ea0827)が言い、一同は資材を運び出した。

●最初の部屋?
 左方の部屋は、ゴーレムを置いておくのにも拠点を構築するのにも都合の良い部屋だった。とりあえずオルステッド・ブライオン(ea2449)が室内を調べ、罠や仕掛けなどが無いことを確認する。
「これ‥‥壊そうと思っていたんだが‥‥」
 ツヴァイ・イクス(eb7879)が、『それ』を見上げてつぶやいた。他の者も、いささか困惑したような顔をしている。
 地図上に『◎』で記された『独立物体』。それは、像だった。エジプトのファラオの棺のような形をしているが、サイズはモナルコスより大きな5メートルぐらい。動きそうな――というか一体成形の弁当箱みたいな構造なので、動くもくそも無いのだが――気配は無い。
 そしてその素材は、おそらく黄金であろうと思えた。現代社会で言うなら、存在するだけで金の仕手相場が下落するような量の、金塊である。
 無論、運び出すのは不可能だ。解体して少しずつ運ぶしかあるまい。フロートシップにそれだけの搭載量は無いし、今は人手も無い。それに、そんな重作業をこなせる者がゴーレムしか無い以上、ゴーレムの稼働時間を使い潰すわけにはいかない。
 むしろ、これだけの黄金像が無造作に置いてあること自体が異常であった。つまるところこの迷宮には、『これ以上の価値あるもの』が存在するのである。そう考えなければ、希少金属が無造作に置いてある説明がつかない。
 ともあれ一同は?室に拠点を構築し、迷宮探索を開始した。

●最初の探索、?室
「では、わが輩達はここから開始する」
 シャルグが言い、墨石で通路横の部屋の壁に大きな十字を書いた。
 ここで探索を担当するのは、シャルグとシャノン、ガイアス・クレセイド(eb8544)、ファング・ダイモス(ea7482)、エイジス・レーヴァティン(ea9907)である。都合上『A班』としておこう。
 ?室は、構造解析では入り口も出口も無い場所である。ただ内部に独立物体が2個あるため、油断はならない。
 シャノンとガイアスのモナルコスを中心に、壁を破壊する作業が始められた。が、これが結構難航した。壁がやたら頑丈なのだ。
「いったい何で出来て居るんでしょうね」
 ファングが、グレイブを振るいながら言う。
『恐ろしく固い『何か』だ。地精霊の通り抜けられないところを見ると、コンクルとかそういう類のものではあるまい』
 ガイアスのモナルコスの振るう槌も、先ほどからかなりの騒音の割に進んでいない。この音は当然内部にも響いているであろうが、この戦力ならなんとか出来る心算であった。
 ぼこっ!!
「開いた‥‥時間かかったなぁ‥‥」
 エイジスが、正直なところを漏らす。しばらく穴を広げる作業を行い、一同は内部に入った。
 内部にある独立物体は、やはり像であった。ただこちらは黄金ではなく、サイズも小さい。
「これは‥‥ブランではないのか?」
 シャルグが言う。サイズにして1.8メートル程度のファラオ像。その輝きは、魔法金属ブランのものに似ていた。経済が混乱するような量のブランである。
 もっともこれは中空らしく、内部には何か別のものが詰まっているようだった。
『何かの魔法装置では?』
 シャノンが言う。ブランあるところに魔法在り。現実、床面には大きく幾何学模様が描かれていて、何かの装置風にも見えた。
「専門の解析班が必要だな‥‥」
 シャルグが言う。どうもこの迷宮は、奥が深そうである。

●通路?の探索
 オルステッドが率いるかたちで迷宮北西を目指した冒険者達は、見事な作りの回廊を見物することになった。
「これは、ドワーフの手によるものね」
 サーシャ・クライン(ea5021)が、壁面を見て言う。
「故郷のものに似ているかと思ったが‥‥まったくの大違いだ」
 エジプト出身の、レインフォルス・フォルナード(ea7641)が、故郷のピラミッドと比べて言った。
「これは、聖職者にはあまり見せられませんね」
 アトラスが言う。壁面の絵は、ジーザス教圏では『悪魔』とされる異教のものが多い。逆を言うと、遙か古代このアトランティスにも『宗教』のようなものがあったという証左になる。現在存在しない理由が那辺になるかは不明だが、貴重な資料になることは間違いない。
 もっとも、困るのはジーザス教圏の者達であろうが。何せ描かれているのは、異教の者達ばかりなのだ。
「カオスの魔物じゃないのか?」
 ツヴァイが言うが、そもそもカオスの魔物自体目撃例が希少である。天界人がそれに答えられるはずもない。
 さて問題の北西部に来たが、ここは魔法の探索でも判然としなかった場所だ。何が出てくるか分からない――と思ったら、あった。扉のようなものである。
 もっとも門の形にレリーフがあるだけで、壁には違いない。壁には何か仕掛けがあるらしく、壁の中央部に石版があった。
「これ、ラテン語よ。かなり古いけど、間違いなくラテン語だわ」
 サーシャが言う。
『昇降機』
 サーシャが読んだところによると、そう書かれているそうだ。
「『使用方法。石版の位置でタリスマンを右回転させると開く、左回転させると閉まる。上にずらすと上昇、下に下げると下降。重量制限――6000リトゥラ』単位が古くてわからないわね」
 使用方法の説明を見て、サーシャが言った。
「『タリスマン』が見つからないと、どうにもならんな」
 オルステッドが言う。
 正常に動くかも知れない魔法装置を破壊するのは、得策ではない。それに、彼らには大分想像がついてきた。この迷宮が作られた目的である。
「ここは、工房か何かだな」
 オルステッドが言った。いつの世のものかは分からないが、少なくとも『機能』を持って作られた、住居なりなんなりに近い場所である。規模からすると一人で使用していたわけではなく、複数の魔法使いが使用していた可能性が高い。
 まあ、さしずめ彼らがキャンプを張った場所は、出荷倉庫というところだろう。
 彼らはそのまま?区画へ進んだ。予定では、床素材が違う場所である。
 そして、そこは石版で封鎖されていた。風化が進み摩滅していたが、つまり他の壁材などに比べてローテクで作られていたわけである。
「これは、どう解釈すればいい?」
 ツヴァイが問いかける。
「この『工房』は、何かが理由で閉鎖されたんだと思うわ。それもかなり穏便に。ちゃんと保存処理をして、塞ぐべき場所を塞いであるから、遺棄されたっていうのは違うわね」
 サーシャが言う。さすがにウィザードである。
「多分、?区画は倉庫の部分。で、?の区画は侵入者よけの罠。?の区画の目的は分からないけど、上か下から回り込むんじゃないかしら?」
 後ほど分かることだがサーシャの推論はほとんど合っていた。実際に?区画でカオスニアンが全滅していたのである。全員、焼き殺されていた。かなり剣呑な罠が据えられているらしい。

●探索の総括
 全員が一度?区に戻って、状況を推察した。
「この迷宮は現在も稼働していて、なんらかの機能を保持していると考えていいのか?」
 シャノンの問いに、サーシャが首を振った。
「『当事者』にとっての役目は完了していると見たほうがいいわね。でなければ、封鎖する必要も無いし。急激な気候変化とかそういう天変地異が理由なら、何をおいても逃げることを優先するはず。それをしなかったっていうことは、この迷宮は『順当な理由で引っ越しした』のよ」
 多少思いこみな部分もあるが、それなりに説得力のある説明である。
「じゃあ、ここには何も残っていないのですか?」
 武具関連に期待を寄せていた、ファングが言う。
「そうでも無いわ。ブランの魔法装置とか、『研究対象』としては興味の尽きないものがあるし、もしかしたら魔法の剣とかの製法が残っているかもしれない。黄金とかの素材も豊富だし、意外と得るものは多いんじゃないかな」
 単に金銭的な話しだけでもすでにかなりの収支を挙げている現状ならば、迷宮に残されたものの価値はまだ計り知れないものがある。何より古い魔法技術の多くは失われ、現在は再現不可能な状態なのだ。
「一度での探索は諦めるべきか‥‥」
 シャルグがつぶやく。壁の破壊などで損逸するものの大きさを考えれば、やむを得ない判断である。
「優れた魔法使いの手が必要だな」
 オルステッドが言った。
「結局この迷宮でモノを言うのは、力ではなく知恵だ。カオスニアンたちは力押しして全滅した。あの魔法の罠を再現できれば、城塞防御とかにも役に立つ」
 そこで、全員の脳裏をなぜか『ブレイクな人』の姿がよぎったことを付け加えておこう。

 いずれにせよ、探索は分割して行う必要がある。今後はカオス勢力の跳梁を避けつつ、探索をしっかり進める必要があるだろう。
 あとは、魔法をしっかり理解している人が必要であるが‥‥。

「「「「う〜〜〜ん」」」」

 アテはあるが問題もある人物なので、ちょっと考えたい一同であった。

 ま、続く。

【つづく】