エイジス砦奪還作戦A
|
■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:12人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月14日〜03月19日
リプレイ公開日:2007年03月26日
|
●オープニング
●日之本一之助という人間
日之本一之助は現実主義者である。
このおファンタジーな世界で何を言うという感じではあるが、とにかく徹頭徹尾『現実的な』対処しかしない。それは精神論とかそういうのを全て排除し、憶測や推論で行動せず一定の成果を挙げる、ということに特化した人物だからだ。大陸的な視点の持ち主であり、そして他人が自分ほど『我慢強いわけではないこと』も理解している。
つまり、彼は『異端』なのだ。
彼は、ゲームのように戦争を楽しんでいるわけではない。もちろん殺戮に快感を覚えるようなキチ(ピー)でもなく、死体に欲情する変態でもない。彼のパーソナリティーは至極単純な部分に帰結しており、そしてそれが彼の全存在であるとも言える。
つまるところ彼は、『義』の人なのである。
彼の家訓というか行動原理は、『恩義を受けたら忘れるな。特に貧しい者からの恩義は命をかけて返せ』である。ゆえに彼は冒険者にもならず名声も求めず、一村落の用心棒としてただ寝食のみを報酬に命を危険にさらしていた。
普通の人間なら、どこかで見切りを付けているはずである。それがセーラ神に仕えるジーザス教徒でもだ。彼らには、神の威光を広く大地に知らしめるという義務がある。それは彼らにとって、命より大事な使命だ。
一之助は元小田原藩藩士ではあるが、いまとなっては浪人に近い。ゆえに今回のメイディアへの招聘に応じたのであろうが、彼の望みが那辺にあるかは不明だ。仕官や名声に興味があるなら、用心棒をしていた村に適度に見切りをつけて、何か行動を起こしているはずである。
その理由を聞くと、彼は必ず「富と名声です」と答える。が、それをそのまま信じる者は少ない。
結局のところ、何を考えているか分からないのが、日之本一之助という人物である。
◆◆◆
「今回の作戦は、虎を釣るための餌の確保です」
『日之本一之助の作戦室』には、結構多数の冒険者が集まっていた。しかし皆一様に、顔に『意味不明』の疑問符を浮かべている。
「ディアネー・ベノン救出において、『鮮血の虎』ガス・クドの位置の捕捉は必須事項です。しかし我々には、それを知るすべがありません。都合良く敵の間諜が情報を持ってきてくれるとは限りませんし、それが十割確実とも限りません。信用と信頼は別物です」
言わずもがなの話を、日之本は言った。そして皆、それを成すことが出来ないので歯噛みしているのである。
「しかし、ガス・クドの行動には一定のパターンがあります。これはおそらく、カオスニアン勢力においてガス・クドが振られた役割と思われますが、『冒険者の面目を潰す』ということです」
『冒険者の面目限定』と言われて、冒険者一同の半分が「何を馬鹿な」と半笑いになった。そんなものを限定して潰す理由が、果たしてあるのだろうか? そう思ったのだ。
まあ、無理もない。だが、ほとんどの者は次の日之本の説明を受けて得心の行った顔になった。
「カオスニアンが冒険者をねらい打ちにする理由は、十二分にあります。この国の歴史を図書館で調べて来ましたが、カオス勢力とは過去2度もの大戦があり、その2度とも『天界人』と呼ばれる外来人によって彼らは敗北しているのです。カオスニアンにとって天界人――つまり我々は目の上の瘤以上にやっかいな存在であり、カオスニアンは彼ら自身の士気を維持するために天界人――今の多くは冒険者となった我々を、封殺する必要があるのです」
場内が、静まりかえった。カオスニアンが自分たちを恐れていると言われても、ピンと来なかったからだ。
――それと今回の作戦とどう関係するのか?
場内から質問が上がった。
「ガス・クドが対冒険者用の『兵器』ならば、それは冒険者が活躍している場所に必ず『投入』されます。エイジス砦ではわざわざ冒険者の到着を待ったかのような戦場展開を行い、派手に勝利をアピールしました。ディアネー嬢を捕縛されたときは、『戦いにすら持ち込みませんでした』。つまり、彼らは研究しつくしているのです。我々冒険者というものを。彼らは決して野蛮なだけの蛮族ではなく、戦略眼を持つことの出来る智賢あるヒューマノイドなのです」
過大評価な気がしないでもないが、反論の余地は少ない。そして思い当たる者には、よくわかる話だった。
「ゆえに、ディアネー嬢を救出するために我々は、ガス・クドをエイジス砦に『おびき寄せ』、『名無しの砦』から虎の存在する可能性を引きはがします。うまくすればディアネー嬢と捕虜たちを、最小限の戦力と被害で救出することが出来るでしょう。しかしそのためには、エイジス砦を出来るだけ派手な勝利で獲得しなければなりません。つまり動員可能な『冒険者戦力』を全てつぎ込み、勝利するのです。貴族も兵士も損失せずに、冒険者のの手によってやり遂げるのです。ガス・クドがやったように」
無理難題を、日之本が言った。
――ガスがエイジス砦に居た場合は?
冒険者から質問が上がった。
「その可能性は、きわめて低いでしょう」
日之本が即答する・
「現在ステライド、リザベ、セルナーの各領には、約50人以上の『虎』が出没しています。それら全てが本物である可能性はゼロです。つまりカオスニアンは、ガス・クドが冒険者を打ち倒した威名を使って、トンネル掘削に充てる奴隷を無傷で徴収しているのです。効率的なやり方ですね。そして『そのような手段』を使う以上、本物のガス・クドも奴隷の徴収に当たっているはずです。そうでなければ、トンネルのある最重要拠点のはずの『名無しの砦』で、虎が一人しか確認出来ないはずがありません。またそこに居た虎が、遠距離範囲攻撃に秀でた者であることからも裏付けが取れます。つまり砦の虎の役割は、『多くの敵を寄せ付けないこと』です。おそらくその槍使いは、接近戦に持ち込めばその戦闘能力のほとんどを削ぐことが出来るでしょう」
いつどこで調べたんだテメェみたいな情報を、日之本が言った。そういえば『名無しの砦』では、日之本は『やることがある』と言って作戦に参加していない。
「編成と作戦詳細は皆さんに任せます。『装飾過剰な勝利』のために、死力を尽くしてください」
●リプレイ本文
エイジス砦奪還作戦A
●冒険者・進軍
エイジス砦は、守るに易く攻めるに難しい。元来砦というものは『そういう機能』を持ったものであり、それが城壁を持つ構造物の『意味』である。
が、古来からカオスニアンが城塞を持つということは、あまりない。遊牧民のように定置せず、拠点を持たないため始末が付けられなかったのだ。
が、今回彼らは、2ヶ所の『拠点』を持った。『名無しの砦』と『エイジス砦』である。
もちろん、理由があってのことだろう。特に『名無しの砦』は、カオスニアンが捕虜を使ってトンネルを掘らせている場所であり、ここに拠点を置くというのは十分に考えられる話だ。
では、『エイジス砦』は?
こちらも簡単である。『冒険者を辱めるため』だ。
エイジス砦は、冒険者の勝利の象徴である。しかし『鮮血の虎』ガス・クドがこれを撃破し、敗戦の地として人々に喧伝された。勝利の後だけに、その落差は激しい。
その雪辱を果たすために、20人以上の冒険者と100人以上の騎士・兵士で編成された部隊が、粛々とエイジス砦へと向かっていた。そしてそれが全て、陽動のための布石であることも承知している。
ガス・クドをおびき寄せるために、完膚無き勝利をしに、冒険者は向かうのだ。
●作戦開始
作戦手順は、至極簡単である。まず《エルタワ》を南側の湖沼に配置し、モナルコスを出動させる。南側に配置されてきたバリスタ類を、ゴーレムグライダーや飛行可能な騎乗動物に乗った冒険者が一つ一つ潰してゆく。
そして敵兵力をおびき出し、野戦をしかけている隙にフロートシップ《ヤーン》で砦を強襲。人質となる可能性のある捕虜を確保し、内部から敵を挟撃する。ここまでやれば、後は敵の駆逐のために骨を折るだけだ。
その始まりについては、本作戦のために特別にあつらえられた人間兵器、マスクド・ゼットマンことゼットが投入される。彼の先攻によって、状況が開始されるという次第だ。
ちなみに彼が担うべきは、敵バリスタの無力化である。ゆえに。
ちゅど――――――――――――――――――――――――――――――――ん!!
最初の一撃が超越レベルの《グラビティーキャノン》であったこともやむなしであろう。その一撃は、《アースダイブ》で潜入したゼットが地面から顔だけを出し、砦の北西の一角にある防城楼『ごと』吹っ飛ばしたのである。
あ――――――――。
その様子を見ていた冒険者の一部(特にゼット氏に指令を与えていた人たち)は、アゴを落としていた。物事には限度というものが普通あるが、彼の脳にその単語は多分無い。
「状況開始だ! 錨をあげろ! 総員出撃!」
フォーレスト・マッハ侯爵が指揮鞭を執る。今回の作戦に投入された全戦力が、いままさに動き始めたのだ。
●対バリスタ部隊突入
バリスタは効果的に使われると、やっかいな武器である。その威力は、場合によっては《ストーンウォール》を撃破しゴーレムの装甲も貫く。連射が出来ないのが難点だが、最初の一撃で決められると極めてやっかいだ。
もちろんアベレージの高い射撃武器は、通常の弓矢などである。数もそろうし、射手もそれなりに居る。平均的に防備が弱いこの世界では、弓矢は決して弱い武器ではないのだ。ましてや数にものを言わせた飽和攻撃を行えば、その効果は抜群に発揮される。
そのような状況を作らないためには、先手を打ち敵の射撃武器を破壊することである。しかし固定式のバリスタはともかく、移動式のものはどこに設置されているかまでは分からない。
ゆえに、輸送艦《エルタワ》と搭載ゴーレム4騎は、それらを引きつける役目を担った。マッハ侯爵が戦死でもするとメイの国には大打撃だが、メイの国側に『指揮だけをしていればいい騎士』など存在しない。まさに全員野球の精神で事に当たらねばならなかった。
《エルタワ》の着水に前後して、砦から矢が飛来してきた。モナルコスが大型の盾を構えながら、矢に対する防備を固める。誰かが書類を操作して増設した《エルタワ》のバリスタも、今は沈黙している。城塞の一角を破壊されたと言っても、それが即城塞の機能を失わせるわけではない。このときすでに例のアレは行動を開始していたが、それが効果を発揮するのはもう少し時間がかかる。
そこへ。
シルビア・オルテーンシア(eb8174)の駆るゴーレムグライダーがダイブしてきた。後ろにはフィーノ・ホークアイ(ec1370)が乗っている。
フィーノは矢弾をかわしながら城壁に接近すると、そこで機をほぼ直角に反転させた。胃が地面にこぼれるような不快感があるが、かまってはいられない。
僚機となるもう1騎のゴーレムグライダーが同じように敵前をパスするが、こちらは少々矢弾を受けたようだった。
そして、本当の変化は2回目のダイブで発生した。突然城壁部に竜巻が発生し、10名ほどのカオスニアン弓兵を巻き上げ城壁から振り落としたのである。密集していたため、ひとたまりも無かった。
実は、フィーノの《トルネード》である。最初はタイミングを誤り魔法を発動させられなかったが、2回目できっちり決めたのだ。僚機は鎧騎士が負傷しているが、同乗者がきっちり弓矢で援護している。
そして3回目のダイブの時には、それにペガサスとその搭乗者であるイェーガー・ラタイン(ea6382)が加わった。イェーガーは南側に配置されていた、合計7器のバリスタの、弦を正確に射抜いてゆく。たちまち半数のバリスタが使用不能になったが、イェーガーのペガサスも矢を受け継戦不能になった。やむなく撤退するが、その隙にバリスタの一撃がシルビアのゴーレムグライダーを直撃したのである。
機関部を射抜かれバランスと推力を失ったグライダーは、水面に落着した。そこを矢弾が襲いかかるが、からくもモナルコスが防御に入って墜落の怪我だけで済んだ。
この次の瞬間、彼女らを狙っていたバリスタのある防城楼が、楼ごと崩壊し空中に持ち上げられ、崩落したことを付け加えておく。
敵の飛び道具を十分減らしたところで、最後の仕上げにエルタワのバリスタ隊が射撃を始めた。しかし、それが次の瞬間に『単なる陽動』であったことをカオスニアンたちは知ることになる。兵員を満載した《リネタワ》が進撃してきて、残りのバリスタを次々と破壊したのだ。
射手は、メイでも弓の名手で名高いアリオス・エルスリード(ea0439)である。その頃には、他の場所のバリスタも沈黙していた。
どが――――――――ん!!
そしてまるで示し合わせていたかのように、西側の城門が内側から破壊されたのである。タイミングは、ばっちりであった。
●騎兵隊出撃
騎士から成る騎兵と歩兵の先頭に立つのは、リィム・タイランツ(eb4856)の駆るフロートチャリオットである。過日不覚を取ったとはいえ、それでくじけるような彼女ではない。
チャリオットには他に、クウェル・グッドウェザー(ea0447)とゼディス・クイント・ハウル(ea1504)、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)が搭乗していた。いずれも魔法使いで、攻防取り混ぜた編成である。
カオスニアンは城門を破壊され、野戦以外の選択肢を封殺された。敵兵200余に対しこちらは100弱。野戦では純粋に数が物を言うが、冒険者側には二つの戦術オプションがあった。つまり、魔法とゴーレムである。
フロートチャリオットは、先陣を切って侵攻した。敵兵が戦列を整える前に、戦列そのものを攪乱してしまおうという意図である。これにはチャリオットの『質量』が物を言ったが、それ以外に後列の二人の精霊魔法がかなり効いた。ソフィアの《グラビティーキャノン》もゼディスの《アイスブリザード》も、広範囲に影響を及ぼす魔法である。移動精霊砲台と化したチャリオットは縦横無尽に敵陣を切り裂き、そしてカオスニアンに打撃を与えた。防備は、クウェルの《ホーリーフィールド》がこなした。多くの矢弾をそらし、被害を最少にとどめたのである。
そしてそこへ、西側から騎士隊が、さらに南側からモナルコス4騎とリア・アースグリム(ea3062)、ルイス・マリスカル(ea3063)らが随伴するゴーレム戦隊が食いついた。
この攻撃は、極めて効果的だった。突進力のあるゴーレム隊と正規の訓練を受けた騎馬隊の挟撃を受けて、すでにカオスニアンは数の優位を維持できなくなっていた。
そしてとどめに、高速巡洋艦《ヤーン》が、砦内部に突撃したのである。捕虜の安全の確保と、内部のカオスニアンの掃討が目的だ。
指揮はマグナ・アドミラル(ea4868)が執り、フォーリィ・クライト(eb0754)以下3名の冒険者と兵士20名余の兵士、そして2騎のモナルコスが下ろされた。
遅きに失した感はあったが、ここでついに敵の恐獣が出てきた。アロサウルス2体に、『暴君竜』ティラノサウルス1体。小型〜中型恐獣の始末は兵士たちに任せ、マグナたちは大型恐獣に正面から当たった。
この時、砦の北東陣地では、ゼットが一人で文字通り大暴れしていた――素手で。
まあ彼の素手攻撃は、並大抵の武器より痛いのだが。
当初、この3体の大型恐獣に対し援護は期待できそうになかったが、ここでも『冒険者らしい連携』が活きていた。兵士を下ろして空荷になった《リネタワ》が飛び立ち、城壁の上から両舷合計16器のバリスタで援護に入ったのである。その射手の中にはアリオスの姿もあり、連射できないならと矢の装填を他の兵士に任せ、片舷8連射のバリスタ攻撃を恐獣に見舞ったのだ。
結果、2匹のアロサウルスは頭蓋を砕かれ即死し、ティラノサウルスも目を射抜かれまともな戦闘が不可能になった。搭乗していたカオスニアンは城壁にたたきつけられ死亡し、制御を失ったティラノサウルスは文字通り『暴君のように』暴れ回った。近在の建築物を破壊し敵味方問わず吹き飛ばし、倒す頃にはマグナたちもモナルコス隊もかなりのダメージを負っていた。
最終的にはエイジス砦の名の由来になった冒険者がティラノにとどめを刺し、勝敗は完全に決した。敵の司令官はプテラノドンに乗って逃亡し、カオスニアンも散り散りに逃げていったのである。
こちらの損害は、兵に死亡者が若干名。負傷者は多数居たが、許容範囲であろう。
想定より冒険者に怪我が多かったが、ゴーレム兵器の損失もなく結果的に完勝という結果になった。
状況的には、満足のゆく結果であった。
●捕虜救出
捕虜となっていた農民たちは、80名ほどに減っていた。彼らはやつれきっているのにすこぶる元気で、不気味なぐらい活発であった。
これが麻薬摂取の症状であることを、ソフィアはすぐに看破した。ケーファーから預かった書き付けにあるとおりに、農民たちから食事や労務についての聞き取りを行い、おそらくはコカの葉の絞り汁などを使用した麻薬と当たりをつけて対処法をアリオスを始めとする冒険者たちに伝達した。
幸い砦には、実際に使用されていたコカの葉や大麻などが残っており、輸送中に農民たちが禁断症状に苦しむことは無かった。問題はこれほどの人数をどうやってどこに収容するかということであったが、それについては王?に戻った時にはすでに解決していた。タム村という安全な村に、そのための治療施設が作られていたのである。
資金を出したのは王宮らしいが、それを提案した者については誰も知らなかった。あるいは知らない振りをしていただけかもしれないが。
ともあれ、『準備の準備』はととのった。
次はいよいよ、『名無しの砦』攻略である。
【おわり】