エイジス砦防衛戦
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■シリーズシナリオ担当：三ノ字俊介 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：5 G 97 C 参加人数：12人 サポート参加人数：-人 冒険期間：03月27日〜04月03日 リプレイ公開日：2007年04月05日 |
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●オープニング
●敗戦の地、そして雪辱の地《エイジス砦》。
かつては単なるカオスニアンの居留地だったが、現在は石造りの城塞が建設されている。五つの防城楼は、侵攻する敵に対し十字砲火を浴びせる機能を持っていたが、そのうちの北西の一つは根本から消滅していた。本城奪取戦においてある魔法使いが、『バリスタを潰してくれ』と頼まれ実行したのである。
いや、根こそぎ吹っ飛ばすのはどうかと思うけどさ（記録者談）。
そのほか内部施設にも多数の被害が見られ、砦としての機能は半分以下と言っていい。元よりカオスニアンが、大型恐獣などを管理する施設が大半を占めている。人間用には、あまり出来ていないのだ。
施設としての価値は、補修後に発生する。この場所はカオス勢力にとってもメイの国にとっても地勢的に重要な位置で、この場所を所有することは相手ののど元に刃物を突きつけることに近い。互いが互いに補給線や戦線を刻む事が可能で、つまりはこの場所の所有者が戦争を有利に展開できるのだ。
この場所は一度冒険者が勝利して切り取り、そしてカオスニアンによって――正確には『鮮血の虎』ガス・クド一人に敗北し、取り返された。そしてまた、冒険者たちはこの砦を奪取したのである。
ただし、完勝したというわけではない。敵に『虎』は存在せず、いうなれば『通常兵力』のみを相手にしたのだ。こちらが寡兵であったとしても、まだ勝ち鬨を挙げるまでには至らない。なぜなら冒険者が敗北したのは『虎』たちにであって、『カオスニアンでは無い』のだ。
しかし、冒険者たちは寡兵を以て砦攻めに成功し、これを陥落せしめた。被害は最少で、『人々から見れば』完勝である。
だが、誰もまだ終わったとは思っていない。
――虎の牙を折る！！
雪辱を果たさない限り、人々の心から暗雲が晴れることは無いのだ。
●虎狩り作戦
「今回の目的は、『虎の威』を失墜させることです」
冒険者の集まった作戦室で、きっぱりと日之本一之助が言った。
「砦の防衛は主目的ではありません。あくまで狙いは、『十の虎』と『鮮血の虎の脅威』です」
微妙な違いがあるようだが、話の続きを聞くべきであろう。
「ガス・クドは『風評を利用した、情報戦』を仕掛けています。つまり『冒険者など相手ではない』と、人々に見せつけているのです。彼らの行動目的は『冒険者や天界人の権威の失墜』に集約しており、戦術的な勝利より戦略的勝利を優先しています。つまり彼は、『政治のために戦争をしている』のです」
小難しい話になったが、要約すると「脅すだけで金や食料を供与させる北朝鮮外交と同じ」である。「俺は虎だ。食い物と金と奴隷をよこせ」と言って、略奪狼藉を働くのだ。
その理由の一つが、『名無しの砦』におけるトンネル掘削にあったことは、現在は判明している。また別の領地では、カオス勢力の脅迫を受け膝を折った領主も何人か居るらしい。
「それもこれも、全ては春の大侵攻を見込んでのことでしょう。山岳部の雪が溶ける遅めの春までに、メイの国そのものにくさびを打ち、国内に亀裂を入れておくのです。敵ながら、面白い戦略を考えたものです」
不謹慎な台詞が出たが、戦略家としての日之本は正しい評価をしていると言える。これほど『戦争』に精通したカオスニアンは、古今類を見ない。おそらくカオスの出現した４０００年来の『革新的状況』であろう。
「ですが、今回はそれを逆手に取ります」
逆襲のプランを、日之本が言った。
「我々の準備する兵力は、冒険者と《モナルコス》４騎、そして輸送艦《エルタワ》です」
砦の内部に船のコマを置き、砦西方に４つのチェスのコマを置く。
――少なくないか？
冒険者から、当然の疑問が出た。
「ええ、今回は砦を放棄する予定です。兵員の損害が思いの外大きかったので、もう一方の『ベノンの聖女救出作戦』に全てをつぎ込みました。エイジス砦は極少数の寡兵を以て防衛し、『ガス・クド』をさんざんからかって放棄します」
無茶苦茶なことを、日之本は言ってのけた。そしてその後に、衝撃的な事を言った。
「ガス・クドには、私が当たります」
ざわっ。
冒険者たちがざわつく。
――出来るのか？
当然の疑問が、冒険者から出た。
「まあ、倒すのは絶対不可能でしょうが、２〜３分、うまくいけば５分ぐらいは封殺できるでしょう。私が刀に手をかけたら、一斉攻撃。全員で『十の虎』と、敵通常兵力を叩いてください。『十の虎』については、『全員本物である未満』という状況だと思いますので、まず間違いなく何名かは倒せると思います。つまりガス・クドは、『名も無き冒険者に押さえ込まれ、味方に甚大な被害を許す』ことになるのです」
冒険者たちが考え込むようなことを、日之本は言った。日之本のどこが『名も無き冒険者』だと――。
と、そこまで思って、冒険者たちは日之本が今まで一度も戦場に立ったことが無いことを思い出した。
そう、冒険者の間で彼が噂になることはあっても、『一般の人々は日之本を知らない』のである。つまり『名も無き冒険者』。人々にとっては、『その他大勢の一人』なのだ。
「我々の最大のつけ込みどころは、相手の『油断』です。個人戦闘能力が大陸最強クラスであっても、機能しなければ『戦闘能力は０』です。こちらは少数の組織戦を行い、相手を機能させない戦いをして、そして逃げます。高まった相手の威名は、反作用で大きく落ちるか崩れるでしょう。これはメイの国の国益に、大変な貢献をすることになります。うまくすれば、相手は春になっても動けないかもしれません。我々が狙うのは、『そういう勝利』です」
●今回の参加者
ea1587 風 烈（31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国）ea2449 オルステッド・ブライオン（23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国）
ea3329 陸奥 勇人（31歳・♂・浪人・人間・ジャパン）
ea7482 ファング・ダイモス（36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国）
ea9907 エイジス・レーヴァティン（33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国）
eb4189 ハルナック・キシュディア（23歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス）
eb4244 バルザー・グレイ（52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4267 ブラッグァルド・ドッグ・ブラッド（36歳・♀・天界人・人間・天界（地球））
eb7879 ツヴァイ・イクス（29歳・♀・ファイター・人間・メイの国）
eb8005 マフマッド・ラール・ラール（41歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国）
eb8122 ドミニク・ブラッフォード（37歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国）
eb8962 カロ・カイリ・コートン（34歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国）
●リプレイ本文
エイジス砦防衛戦●寡兵を以て‥‥。
『寡兵を以て敵を討つ』。
戦争の好きな人間にとって、これほど燃えるシチュエーションはなかなか無い。映画やドラマでも、主役は主役本人かその仲間数名で、絶望的多数の敵を排し勝利を収める。その手段が知謀や暴力でもあまり関係ない。つまり『絶望的状況の打破』に、カタルシスが発生するのだ。
そういう意味では、今回の作戦は初端から『絶望的状況』である。敵はおそらく頭数だけで桁数が違い、そして総合戦闘能力は、もし計測する機械があったら２〜３桁は違うだろう。
――あの男は臆病者だ。カオスニアンを『智賢ある者』などとは笑わせる。
マフマッド・ラール・ラール（eb8005）は、視線に侮蔑を込めながら日之本を見ていた。どれほどの勝ち星を挙げていても、カオスニアンを『認める』者など信用ならない。天界人にありがちな『人道主義』みたいなものを振りかざしていたら、彼が日之本を斬っていたかもしれない。
それほど、カオスニアンとアトランティス人との確執は、根深い。
「しっかし、ボロボロだなぁ‥‥」
ブラッグァルド・ドッグ・ブラッド（eb4267）が、仕掛けの設置をしながらつぶやいた。ここはエイジス砦の北西部――だった場所である。前回の攻撃で、魔法で根こそぎ破壊されたという場所だ。
「これだけ破壊されていると、逆にやりやすい。相手も攻めやすいだろうから、仕掛けは効果的に使用されるはずだ」
オルステッド・ブライオン（ea2449）が、崩落しかけた城壁の、石のスキマにくさびを打ち込みながら言った。うまく行けば、ひも１本でこのあたり一帯が崩れるはずである。
「しっかし、日之本のダンナも無茶言うよな」
陸奥勇人（ea3329）が、ぼやくように言っていた。どう考えても本作戦、まともな神経を持つ人間の発想ではない。
「死を恐れていないという意味では、あのケーファー・チェンバレンという人物に通じるものがあるかもな」
黙々と準備を整えているのは、ツヴァイ・イクス（eb7879）である。
「そのチェンバレンという人物はよくは知らぬが、死ぬようなタイプの人間には見えんな。ああいうのがわりと長生きするものだ」
経口飲料を飲みながら、バルザー・グレイ（eb4244）が言った。歳経た人物の発言だけに、重みがある。
「ちゃっちゃっちゃっ。四の五の言う必要は無いぜよ！ あんお人はようやっちょる！ 信じていいじゃろが！」
カロ・カイリ・コートン（eb8962）は、割と親日之本派だ。『メイの国に貢献する』という意味では、今までの日之本の功績は計り知れない。
「おーい、モナルコスを回してくれ。《エルタワ》が着床するのに、邪魔ながれきがあるんだ」
風烈（ea1587）が、休憩を取っていた一同に向かって言う。
砦中央には、輸送艦《エルタワ》を着陸させるための準備が進んでいた。
「あの辺も片付けないといけませんね」
『場所を空けてください。どかします』
エイジス・レーヴァティン（ea9907）の指示で、ドミニク・ブラッフォード（eb8122）の駆るモナルコスが動いた。大型の盾をシャベル代りにして、がれきをどかしてゆく。
「うっしゃあああああっ！！」
ファング・ダイモス（ea7482）は《バーストアタック》と《ソードボンバー》で細かいがれきを文字通り吹っ飛ばしていた。
「整備は順調ですか？」
「はい、万全です」
日之本の問いに、ハルナック・キシュディア（eb4189）が応じた。彼には、任務の総仕上げの仕事が日之本から振られていた。
やがて、時が来る――。
●虎を虚仮にする
「見えたぞ！ 敵だ！」
ブラッグァルドの声に、準戦闘態勢で待っていた一同は飛び起きた。
「数は？」
「約３００！」
オルステッドの問いに、ブラッグァルドは答えた。これはもう圧倒的多数とかではなく、絶望的多数である。
「準備は出来ている。総員戦闘配置――日之本はどうした？」
烈の言葉に全員が妙な違和感を感じたとき、砦の周囲が黎明の明かりに照らされた。定石通りの夜明けの襲撃。そして物見をしていたブラッグァルドが、その違和感に答えを出した。
「もう外に出ている！ あいつ、いきなりおっぱじめる気のようだぞ！」
どうやら日之本は、襲撃をきっちり見積もっていたらしい。
『我こそは天下太平左右衛門長上兼嗣！ カオスニアンの首長、『鮮血の虎』と名高いガス・クドどのに一騎討ちを所望す！』
日之本の名乗りが、朝靄の中にこだました。
◆◆◆
ガス・クドは、砦の前に人間が一人立っているのをきっちり見つけていた。
「我こそは天下太平左右衛門長上兼嗣！ カオスニアンの首長、『鮮血の虎』と名高いガス・クドどのに一騎討ちを所望す！」
自分の軍勢から嘲笑が沸くのを背中に感じ、ガスは満足な気分になった。相手がどのようなヤツだろうと、『冒険者』である限り負ける気がしない。相手が何を考えていようと、自分の『戦争』の相手ではなかった。
まさに、カモがネギしょってきた気分である。何をしようと、自分の威名に華を添えるだけ。バカを一人殺して、砦を制圧し敵を皆殺しにする。それで、全てが解決する。
慢心が無いと言えば嘘になる。しかし、誰が自分を倒すというのだろうか？ それこそ竜戦士ペンドラゴンでも呼ばない限り、不可能なはず。
そして、人間たちが未だ阿修羅の剣を見つけられずにいることも承知している。ならば、この阿呆は『キシドー』とか言うものに縛られたただのバカであろう。
いつものように大剣をひっつかみ、ガスは前に出た。後ろには、『十の虎』たちが並ぶ。
「俺がガス・クドだ」
そしていつものように、名乗り返した。これで、相手は『キシドー』に則らねばならなくなる。正々堂々の勝利以外の選択肢が、無くなるのだ。
――まったく、人間てのはバカばかりだぜ。
それが間違いであることを、この後ガスは体験する。
◆◆◆
砦のほうから見た日之本は、非常に分かりやすい青い装具を着ていた。青い騎士とか青い戦士とか、そういう名前のつきやすそうな、芝居がかった格好である。
ガスが前に出てきたとき、胸の高鳴りを抑える作業に集中しなければならない者が数名居た。ガスに煮え湯を飲まされた者たち。この中には、少なくない。
『一騎討ちに応じていただき、感謝する』
『別にかまわねぇヨ。さあ、おっ始めようぜ！ かかってきな！』
地に大剣を刺し、そして両手を懐に入れる。ガス流の無手居合い術の構えである。
その間合いに、日之本はざくっと踏み込んだ。無造作と言える歩調でだ。
『では、参ります』
日之本の手が、刀に――かかった！
「出撃！ 出撃！ 出撃！」
正面の門が、モナルコスによって破壊的な勢いで開け放たれた。そこあら冒険者たちが飛び出し――日之本とガスの戦いは、まだ始まっていなかった。
ゴーレムを含む冒険者たちが、走る――日之本は動かない。
やがて日之本とガスの居る戦線に達しても、日之本は動かなかった。妙なのは、ガスも動かないことだ。
そしてその『戦線』を通過して二人が動かないことを確認した時、冒険者たちはガスが動かないのではなく、『動けない』のだということに気づいた。
敵戦線に動揺が走った。十の虎のうち三人ほどが後退しはじめ、敵兵団も浮き足立っていた。
「吶喊ぜよ！」
カロが叫ぶ。そこに、まさに破城槌のごとくバルザーとマフマッド、カロ、ドミニクのモナルコスが突っ込んだ。ゴーレム本来の、体格差と重量を活かした蹂躙戦法である。
そして、ブラッグァルドが放った火矢が地面に突き刺さると、敵の戦列の中程で爆発的に炎が燃え上がった。木炭の粉末に硫黄と燐を混ぜて作った、準火薬様燃焼剤に引火した火が、撒いた油を劇性燃焼させたのだ。
これは、日之本が用意したものである。火薬の知識を手に入れた日之本が、密かに準備していたらしい。罠にしか使用できずまずもって一度しか通用しない手段だが、その辺りは罠に造詣が深いオルステッドが、適所を選択して最大の効果を挙げるようにした。
敵の戦列を壊乱させ戦列を崩し分断たところで、ファング、エイジス、烈、そしてツヴァイと勇人が吶喊する。目指すは十の虎である。
そして、戦術上はこの時点で、冒険者の勝利は確定していた。
●虎狩り
エイジスと烈が対峙したのは、巨大なハンマーを持つ『虎』だった。オーガを思わせる体躯で、一見してパワーファイターであることが見て取れた。
「うおおおおおおおっ！」
文字通り必殺の一撃が振るわれるが、それをエイジスはことごとく盾で受ける。そして二人がかりで、手数を武器にその『虎』を瞬殺した。ずたずたに引き裂かれ、『虎』は一撃も与えられないまま斃れた。
ファングと勇人、ツヴァイが当たった『虎』は、双剣使いだった。戦技たくましいカオスニアンで、小技でチクチクダメージを与えてくる。
が、ファングが倍返しとばかりに《カウンターアタック》《バーストアタック》で相手の武器を奪うと、あとは勇人の《スマッシュＥＸ》で重篤なダメージを与えられ、首を狩られた。
ゴーレム隊のほうは、歩兵を轢き潰しながら『虎』退治をしていた。本来相手がどれほどの者でも、ゴーレムとサシで勝負して勝てる者は少ない。マフマッドのモナルコスが足を砕かれ擱坐したが、相手に力を発揮させる前に３人の『虎』を倒した。
《エルタワ》からの援護射撃で、多数のカオスニアンが死傷し、そしてハルナックが『笛』と呼ばれる音を鳴らす道具を風にかざしながら出撃すると、そこでついに日之本が動いた。
それはまさに、全軍撤退の合図だったのである。
●ガス・クドの目
撤退の合図が響いたとき、ついに日之本が動いた。抜きはなった剣で斬りかかり――。
ギン！
折られた。ｖｓエイジス戦の再現である。
しかし日之本はさらに小太刀を抜き――また折られた。最後に小柄を抜き折られ、完全に無手になったように見えた。
「よくも虚仮にしてくえたな‥‥テメェは殺す！」
ガスが、がっつと大剣を地面から抜きはなったとき、日之本がさらに動いた。
その動きは、まさに『神速』であった。人間の限界を超えた動き――《オーラマックス》である。そして手の中から『何か』を同時に五発放ち、そのうちの一発がガスの右目を潰していた。
それは、菱の実だった。殺傷力は無いが、目を潰すぐらいのことは出来る。
そして、日之本は逃げ出した。脱兎のごとく、などというのは生ぬるい。１００メートル走９秒７７の世界記録を持つアサファ・パウエル（ジャマイカ）にロケットモーターをつけたような速度でである。ガスにだって追いつけない。
そしてハルナックの駆るグライダーに飛び乗り、そのまま逃げた。
エルタワが離床したのは、そのときだった。
●戦果
「敵兵被害１００名余。十の虎のうち最低５人は殺害。ガスは右目を奪われ、戦うことも出来ないまま撤収。こちらの被害はモナルコス１騎大破に負傷者のみ。完勝です」
帰路の《エルタワ》で戦果をまとめていた日之本の声に、船乗りたちを含めた一同が声を挙げた。
「しかし、なぜガスは動かなかったんだ？」
ツヴァイが、日之本に当然の問いかけをした。
「相手と同じ事をしただけです。以前の報告を見る限り、ガスは後の先は取っても武器を持つ相手に先制攻撃をしたことはありません。つまり、ガスは『戦う冒険者』を相手に想定した攻撃シフトを持っており、『戦わない冒険者』を想定したことなど無いのです」
戦地に行って戦わない者など居ない。それは勝利することが目的であり、その手段として戦闘というものがあるからだ。
だから、ガスは戦わない騎士や戦士などは知らない。知らないものに対処するには、考慮し検討する時間が必要である。
しかし、日之本はその時間を与えなかったのだ。剣に手をかけ、臨戦態勢になった瞬間冒険者の攻撃が始まり、日之本の攻撃を『待って』いた間に状況は完全に崩壊した。
本来ならそこで撤収なり体勢を整えるべきなのだが、日之本の力量を知らないガスは、日之本の力量を計り損ねた。一発当たれば「この程度」の人物だと分かっただろうが、知らないものに適切な対処はなかなか出来ない。自分が可能なことは相手も出来る――そう想定するならば、ガスは背を向けた瞬間殺されるかもしれないのだ。
つまり、ガスは鏡に映った自分自身と戦っていたのである。
そして日之本は、状況が確定してから完全に無手になるまで自分の武器を破壊させ、相手の油断を誘うと同時に、ここでも『想定外の早さの攻撃』という《オーラマックス》を活用したのだ。
そして、勝つだけ勝って逃げた。砦を放棄したのだから敗北のはずなのだが、誰も負けたとは思っていない。
そして、それを聞いた冒険者一同は唖然とした。『戦わないこと』が正解と言われれば、それは自身の存在意義を否定されたも同然である。
「ともあれ、これで私はお払い箱です。私が使った手段は２度も使えませんし、それに相手は『天下太平左右衛門長上兼嗣』氏を必死になって捜すでしょうから、しばらくメイの国には居られません。ただ、敵の攻略法について一定の指針は与えられたと思います。あとは、皆さんでなんとかしてください」
そう言うと、日之本は自室に戻って寝入ってしまった。
――やられた。
皆、何かそんな気分になっていた。
ただ、悪い気分ではなかった。
のち、メイの国には２００人以上の『青い天界人』の噂が立つ。
それはカオスニアンの諜報機関の処理能力をとっくに越えており、日之本の居場所が知られることは無かった。
ガス・クドの姿が見られなくなったことは、あるいは新たな嵐の前兆かもしれないが、今は勝利を喜ぶべきであろう。
【おわり】
