●リプレイ本文
Weapons Enchanter 第1期
●門戸が開かれたのが冒険者の理由
ゴーレム魔法は、国家的な機密事項である。ゆえにそれが、悪く言えば無頼の輩である冒険者に教授されるというのは、ある意味異常事態だ。冒険者を縛るモノは無く、例えばそのスキルを修得して他国へ売却に行っても、文句は言えないのである。
だがしかし、どこへ売るというのか? メイの国はゴーレム後進国であり、周囲の国のほうが技術としては進んでいる。ジェトの国は元よりゴーレム兵器の実効運用を推進するつもりは無いようだし、バの国は論外だ。
つまり、メイの国がゴーレム魔法を世間に広めても、損をすることが無いのである。むしろ得なことなら、考えるまでもなく列挙できる。
そして、ステライド王は冒険者の順応力と成長力を正しく把握している。撒いた種がどのような成長をするか分からないが、少なくともなにがしかの花をつけ実を結ぶことは確実なのだ。ゆえに、収穫してから何に使用するかは為政者の裁量の問題であり、成長した彼らになんら責任は無い。
それがキワモノなものでも、要は使いようである。ガチガチに凝り固まった貴族主義の門弟たちでは不可能な、規格外の収穫物が得られる可能性。そこに今回の重要なポイントがあるのだ。
●それぞれの理由
フェリーナ・フェタ(ea5066)は、エルフのレンジャーで天界人である。魔法に関する知識は無いが、一心あってこの講義に応募した。
志望の動機は、「皆を守りたいから」だそうである。友人や仲間を守るために、メイの国を守る。キャラクターやステイタスと言い換えてもいいかもしれないが、つまるところ「自分が悲しい思いをしないため」とも言える。
「エゴは強力な武器になります。志望の動機としては十分でしょう」
解釈によっては辛辣なカルロの返答であったが、物事には大抵二面性がある。フェリーナが創るであろうゴーレムは兵器であり、敵対者の命を奪いその家族や友人を悲しませることになるのだ。きれい事では済まないことをしっかり指摘され、フェリーナはややへこんだ。言葉を飾ろうとも、裏を返すとどろどろとしたものが渦巻いていることに気づかされたためだ。
――きれい事じゃダメなんだ‥‥。
自分の内面を見せられて、フェリーナは気持ちを新たにした。自分と向き合い肯定することが、兵器を創る者としての第一歩である。
カルヴァン・マーベリック(ea8600)もエルフで天界人である。水のウィザードで結構な腕前だ。
彼の志望動機は、「自分の能力を十全に発揮したい」である。
「ゴーレムはいずれ大量に投入されるようになるでしょう。そのときに自分の力を十全に発揮したいのです」
カルヴァンの返答に、カルロは満足そうな笑みを浮かべた。
「冒険者に無粋な問いはしません。ただ興味本位になって、搭乗者のことを忘れないように願います。ゴーレムはまだまだ未知の部分が多く、過去にあった『人食いゴーレム』のような事件がまた起こらないとも限りません。ゴーレムニストは搭乗者の生命を握る重要職であることを忘れないでください」
気負いのある者ほど、うかつなミスをしやすい。危険を直視し、しっかりと足場固めを行わなければ大事故を引き起こすことになるだろう。それは時として、自分の責任では負いきれない事のほうが多いのだ。
シュタール・アイゼナッハ(ea9387)は、フランク王国の地のウィザードである。サングラスにあこがれる39歳多分独身。求道者で、志望の動機も『道を極めたい』であった。
「わしとしては戦闘に貢献できぬ分、こういうところで役立てるようになりたいからな」
と言うシュタールに、カルロは「それは結構です」と素っ気ない。理由を問うと、『余計な先入観を入れたくないから』とのことだった。
「ゴーレム魔法については未だ未知の部分が多く、その可能性は果てしなく広がっています。事細かく情報を伝授してもいいのですが、それは私のフィルターがかかった視野のもので、皆さんが考えるべき『モノ』とは多分違います。私が教授するのはごく平板なものであって、『奥義』とか『秘技』と呼べるようなものはありません。むしろそうではなく、各々の可能性を伸ばす方向で物を考えて欲しいのです」
カルロとしては、ギリギリの選択肢であろう。もちろん受けるほうもだ。
ウルリカ・ルナルシフォル(eb3442)はノルマン王国出身のジプシーで、シフールである。志望の動機を聞かれて、一番不鮮明なのは彼女だった。結局彼女自身が突き詰めて達した結論は、『後世に残す』という言葉だった。
「知識は伝えてこそ意義のあるもの。わしはバードではないが、後々ついてくる者達に道を残してやれば、それは一つの歴史となろうて」
「その言葉は、『額面』として受け取っておきましょう。人間は、快楽のために生きる生物です。その言葉のどこかには、自分の快楽のためにつながる『何か』があるはずです。つまり、『必要だから』。何が何のために必要なのか見極めたとき、あなたの望みは近くに見えると思いますよ」
脳天気な性癖でも決して愚昧ではないシフールに、この言葉は多少なりともしみこむものがあったようだ。
月下部有里(eb4494)は、地球人の医師だ。現代医学をジ・アースに持ち込み、それなりの成果を挙げている。風の精霊魔法を修得しており、基礎知識は十分という状態である。
彼女は、メイの国のゴーレム事情に貢献するためにゴーレムニストを志望した。解剖学とゴーレムの関係などの興味は尽きないが、つまるところ知的好奇心と実益がマッチしたのである。
「今後、戦局はさまざまに変わってゆくと思います。そのために自分の知識が役立てば、医学を――学問をたしなむ者として、喜ぶべきことでしょう」
「チキュウジンの方々には、私も(個人的に)かなり(オタクな方向で)お世話になっていますから、期待しています。がんばってください」
何かよこしまな気配が疾風のごとく通過していったのは、気のせいだろうか。
アリウス・ステライウス(eb7857)は、メイ出身のウィザードである。火の精霊魔法を使用するが、彼の志望動機は『強化ゴーレムの作成』という単純かつ明快なものだった。
「私はゴーレム魔法を極め、ゴーレムをさらなる『モノ』にしたい。人間は武器を持ち火を得て、鉄と魔法の時代を迎えた。天界は『カガク』の時代になっているというが、アトランティスは『ゴーレムの時代』となるだろう。その先駆者となるならば、それに勝る栄誉は無い」
「ん〜〜、あまりがっつきすぎないよう注意してくださいね。私みたいに趣味が過ぎて、失敗してしまう例もありますから」
苦笑いしながら言ったカルロの言葉は、先日の『カッパーゴーレム強奪事件』のことを言っているのだろう。探求に没頭するあまりに、とんでもない結果を招いてしまう。カルロが今まで、まったくの失敗無しで来たわけではないのだ。特にアリウスは火の魔法使いであるがゆえに、彼の失敗は『爆発! 爆発! 爆発! 爆発! 爆発! 爆発! 爆発!(中略29行)爆発! 爆発! 爆発! さらに爆発!』という結果にもなりかねない。
まあ、失敗を必要以上に怖れることはないが、十分な慎重さも必要である。
「戦場で命をかけて、ゴーレムに乗ってあらゆる脅威と闘う奴等の為に、現地で故障しても直したりしてやりたいと思ったからゴーレムニストに志願したんだ。こっちの世界にきて俺に何ができるのかずっと考えてたんだが、やっと答えが出せるかもしれないな」
天界人の布津香哉(eb8378)が、ちょっとLな態度で言った。
「戦場志願とは、剛毅なものですね。ですが、もっとも過酷な場所になることは間違いないでしょう。才ある者が戦うのは、武の道だけではありません。後詰めで兵站を担当する者のほうが大変なんです」
と、そこでカルロが言葉を切った。
「ま、勲功を挙げれば専門の工房を持って、研究に没頭する道もあります。その気になれば、ガ○ダムだって作れますよ。がんばってください」
本心を言い当てられ、香哉はぎょっとした。まあ、普段の態度と違い真剣に話しを聞いて瞳をきらきらさせていたら、それなりに底意も読めるというものである。彼は本来放蕩者なのだ。
クラリベル・ミューゼル(ec2341)とポロン・ノーティラス(ec2395)、マリア・タクーヌス(ec2412)の3人は、見習いウィザードである。素地はあるがまだ術の一つも覚えておらず、魔法使いとは言い難い職分だ。報告書的にはいわゆる『行殺』と呼ばれる簡素な報告だけで終わってしまうが、それぞれがそれぞれ理由を持ってゴーレムニストへの道を歩み始めている。
例えばクラリベルは、『皆に必要とされたいから』という理由で応募し、『ゴーレムによる空中戦力の強化』を目的にこの道を選んだ。ポロンは『自分の限界に挑戦したい』と応募を決め、マリアは『生活のため』という非常に生臭い理由で応募している。
ただ、これらの理由を笑うわけではない。彼らにはゴーレム魔法と同様の可能性があり、どのように化けるのか分からないのだ。カルロもそれが分かっているから、見習いの彼らの受講を許可したのであろう。
さて、第1回の『報告』はここで終わる。座学に関する内容は、詳細を編纂し図書館に掲載するので、今後の参考にされたい。ここからは、受講者から上がった質問に対するカルロの返答を入れておこう。
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■ゴーレム魔法に関する質疑応答
Q:ゴーレム魔法の『適性』や『傾向』とは、具体的に云えばどういうものなのか?
Q:精霊には火水風土、陽月とあるのですが、それぞれに得意な分野が異なるのですか?
Q:精霊魔法の属性による機能の説明をお願いできませんか?
Q:地、水、火、風以外の陽や月属性のゴーレム魔法というのは無いのでしょうか?
Q:『地』『水』『火』『風』のそれぞれの属性で作られるゴーレムや器物の傾向
A:2段階あるので分けて説明します。
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1.動力器物
【初級】のゴーレム魔法から製作可能な、ゴーレム動力器物。素材が金属などにランクアップすると、難度は【専門】【達人】と上昇してゆく。
地:木片にかけることで、地面との反発力を得る浮揚動力を得る。フロートチャリオット、フロートシップの浮揚動力に使用されている。
水:木片にかけることで、水流を発生させる。ゴーレムシップの動力に使用されている。
風:木片にかけることで、風流を発生させる。ゴーレムグライダーやフロートシップの推進動力に使用されている。
火:木片にかけることで、炎を発する。小型化が難しく100円ライターのようなものは作れないが、火精霊砲などに使用されている。
2.人型ゴーレム
【専門】のゴーレム魔法から製作可能。4つの精霊をバランス良く付与して、精霊力を運動能力に変換する『魔法装置』を作る。これが『パペット』と呼ばれるゴーレムの素体で、上位のゴーレムを作るには同じ能力の高位の魔法使いが必要。無論、チームワークも問われる。
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前者と後者では、内容がまったく違います。ですから比較しにくいのですが、チャリオットやグライダーなどは一人でも比較的安易に作れます。人型ゴーレムが難しいのは、最低4名の共同作業だからです。
なお、陽月の魔法はゴーレム製作には関与しないようですね(精霊歴1040年5月9日現在)。
Q:また、それは修得精霊魔法の内最も得意なものの影響を受けるのか?
A:使用する精霊魔法の種類のレベルに依存します。水メインでも地の精霊魔法を担当するなら、地の精霊魔法のレベルを使用します。
Q:ゴーレムニストが知っておいたほうが良い知識や、修得しておいた方が良い技能は何か?
Q:推奨される一般スキルはありますか?
A:『ものによる』というのが返答ですね。パペット製作なら冶金知識が必要ですし、武器防具の製作なら格闘戦などの知識が必要な場合もあります。つまるところ『ゴーレム魔法が必須』という以外は手探りです。ちなみにわたくし(カルロ)は、船舶関連の知識を数多く修得しています。
Q:カルロさんの域に達する場合、凡人のわしとかはどれ位の修行が必要なのだろうか?
A:私は先達であっても、凡百の魔法使いとそう変わりませんよ。要は『必要なときに必要な能力を発揮できるか?』です。
Q:1次魔力の付与はゴーレムニストでないウィザードでも可能なのでしょうか?
A:NO。
Q:1次魔力の付与、最終魔力の付与ともに精霊魔法の修得ランクによる制限はありますか?
A:YES。
Q:あるならば、初級、専門、達人、超越の各ランクで素材制限の目安を提示して頂けないですか?
Q:またランク、属性によるゴーレム器物の作成制限はありますか?
Q:ゴーレム作成に必要な精霊魔法の習熟度は?
A:先ほども言いましたが、初級は動力器物まで。専門でストーンゴーレム。達人で金属ゴーレムが可能ですが、銀以上の素材がどこまでできるかは分かっていません(精霊歴1040年5月9日現在)。
Q:支障がなければ今後の講義予定を教えていただけませんか?
A:記録係の予定表を参照してください。
Q:ゴーレムニスト魔法と精霊魔法は具体的にどう関係するのか?
A:精霊魔法が基本で、ゴーレム魔法は呪文の種類と一緒です。ただし天界のゴーレム魔法とは内容が違うので、互換性はありません。逆を言えば、優秀なウィザードはすぐにでも優秀なゴーレムニストになりえます。
Q:ゴーレムニスト魔法を会得するに当たり有用な天分は何か?
A:基本的にウィザードと同じです。ただ職能として何を担当するかで、変わってくるでしょう。技術職も兼任するなら、器用さも必要になります。
Q:ゴーレムニストは『魔法使いのさらに適性のある者がなる職能』って聞いてるけど適性ってのは何を指すのか?
A:精霊魔法の習熟度と天分です。
【つづく】