●リプレイ本文
Weapons Enchanter 第1期2
●受講の前に
今回の講義に入る前に、今回は受講者とカルロ工房長が1対1で直接面談した。理由は分からないが、何か確認したいことでもあったらしい。以下は、その会話記録です。
●フェリーナ・フェタの場合
――お名前をお願いします。
「フェリーナ・フェタ(ea5066)だよ。エルフのレンジャーで天界人。現在花嫁修行中です!」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「前回『きれい事』って言われたのが気になっているかなぁ‥‥私は人を傷つけるのも傷つけられるのも嫌。だから、兵器開発に携わっている自分が想像出来ないの。ただ、殺し合いに手を貸すのは嫌なのに、戦争の道具を作る魔法を学ぶっていうのも矛盾していると思う。自分でも分かっているんだけど‥‥」
――この受講によって、間違いなくゴーレム工房に関わることになりますが、それでもよろしいのですか?
「今は、あまり考えないことにしているわ。ただ『兵器を作れ』って言われたら、もしかしたら何も出来ないかもしれない‥‥」
――まさに『綺麗事』なのですが、それならばメイの国のために働いてくれる有志に席をお譲りしたほうがよろしくありませんか?
「理詰めで考えたらそうなんだろうけど‥‥うーん、どう答えたらいいか分からないです」
●カルヴァン・マーベリック(ea8600)
――お名前をお願いします。
「カルヴァン・マーベリックだ。よろしく頼む」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「魔法を使う者としてはまさに莞爾(かんじ)といったところだろう。理論(ロジック)の積み重ねで構築される芸術品。ゴーレムという『もの』がどのような器物なのか、十分理解できた。ただ、あえて工房長どのはそうしているのかもしれないが、感情論に基づく話が多いと思う。まるで私たちの内面を暴き出そうとしているようで、正直不快だ」
――あなたが感情を出すのは珍しいですね。
「別に感情を出すのが嫌いな訳ではない。それに値する事象が無いだけだ。ゴーレムも同じだろう。今は特別扱いされているが、いずれ鎧騎士という職能ではなくとも、当たり前のように使われる日がきっと来る。まあそれには工房長の言うとおり、『誰でも使える精霊力の制御システム』の開発が必須ではあるが。だが、その部分だけは落胆を隠せないな。私が今言ったことは、魔法の武具が当たり前に存在した、滅亡文明の技術レベルの話だ。とうてい、私の生きている間に実現出来るとは思えない」
――そういう意味では、あなたのご懸念は現実化しそうに無いですね。
「『少数の天才が莫大な予算を費やして組み上げた技術』の話か? その定義を破ることが出来なければ、確かに『技術の暴走』は無いだろう。しかし予測は裏切られるものだ。それを可能にする『少数の中の極少数』が、その『馬鹿の壁』をいつなんどき打ち破るともしれない。それが私ではない可能性は無い。『その時』が来れば、あるいは答えが見つかるかもしれない」
●シュタール・アイゼナッハ(ea9387)の場合
――お名前をお願いします。
「シュタール・アイゼナッハ。フランク王国のウィザードで天界人かのぅ」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「あまり『自分の考え』はまとまらなかったかのぅ。基本的に目指しているものが違うからかもしれんのぅ。わたしにとって『ゴーレムニスト』というのは、通過点でしかないからかもしれんのう」
――日よけ眼鏡の話ですか?
「そうそう、結局わたしの人生の目標は、このアトランティスに来て定められたものですから。別の天界である『チキュウ』の技術。それを総なめするまえの、一つの『階梯(プロセス)』でしかありません。工房長には悪いですが」
――まあ、それでもメイの工房には貢献していただくことにはなると思いますが。
「職人としての『職分』には興味ありますね。技術は積み上げですから、回り道にも『正解』があるかもしれませんから」
●ウルリカ・ルナルシフォル(eb3442)の場合
――お名前をお願いします。
「しふしふ、ノルマン王国出身、シフールのジプシー、ウルリカ・ルナルシフォルじゃ」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「シフにはやはり難しすぎるかの? わしが求めているのは、どうやら『社会に貢献できるゴーレム』のようじゃ。いろいろ意見を言わせてもらったが、結局わしは凡百の平民と変わらぬ視点しか持ち合わせておらんな。別に気にしたことではない。平民出身だから当たり前じゃ。だから軍事々々された話を延々されても、わしの行きたい道にはたどり着けんだろう。結局『平民のために』というのがわしの傲(おご)りじゃな。チキュウ人の言う『ミンシュシュギ』に毒されているのかもしれん」
――戦争、お嫌いですか?
「あまり好きなヤツはおらんと思うが。回避できるなら回避したほうがよかろう。わしらジプシーや放蕩者のシフール族にとって、戦争は邪魔者以外の何者でもない。それに平民は、戦争が無いほうが楽に暮らせる。こんな高価な兵器を作るより、領民にパンを与えたほうが良かろうに」
――それでも戦争をしなければならない時は?
「わからんが、カオスとの戦いについては決着をつけるしかあるまい。こっちにやる気が無くても、向こうがやる気満々だからな」
●月下部有里(eb4494)の場合
――お名前をお願いします。
「地球人の月下部有里です。よろしくお願いいたします」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「私の望む『オーラ魔法』と『ゴーレム技術』の融合について検証できなかったことが悔しいです。もっとも、まだ座学に毛の生えた程度の受講内容で何でもかんでも――というわけにいかないのは承知していますが。ですが私の提案は、絶対有用なはずです」
――自信があるのですね。
「地球では、すでにこの世界より800〜1000年は技術が進んでいます。機械技術に限った話ですが。ですが『技術開発』というカテゴリでは、地球人にはそれだけのトライ・アンド・エラーの蓄積があります。それを踏まえれば、効率的なゴーレム技術の開発に貢献できるでしょう」
――しかし、それだけ進んだ世界でも戦争は無くならないのですか?
「いえ‥‥それは‥‥確かにそうです。しかしそれは一部の独裁者や、ヒエロニストやロビイストを食い物にしているパシフィックの問題で、人間の本質的な物とは考えていません」
――では、チキュウにはご近所のケンカなどはすでに無いのですか?
「‥‥いえ、無くなっていません‥‥。暴力はマクロでもミクロでも、紛争を解決する一番簡単な手段です‥‥」
●アリウス・ステライウス(eb7857)の場合
――お名前をお願いします。
「アリウス・ステライウス。メイの国出身。エルフのウィザードだ」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「おおむね満足しています。ただ自分の職分である《火》の精霊魔法の扱いが、初級の魔法については『解放』を促進しているのに、人型ゴーレムが『抑制』ないし『制御』のベクトルで使用しなければならないということにやや困惑していますね。確かに火系の精霊魔法は瞬間的に熱量を解放するようなものがほとんどですが、人型ゴーレムではそれを内部で循環制御しなければならない。それは《ファイヤーボム》を型にはめるようなものです。破壊されたゴーレムが爆発しないのは幸いですが、今後強力なゴーレムを生産できるようになると、破損時に精霊爆発してしまうゴーレムが現れるかもしれませんね」
――将来はゴーレムの民間転用をご希望だとか?
「当初から考えていたことです。私は貴族ではないので、あくまで地べたを這う人間の立場で物を見ています。もっとも進みすぎて、爆発するような農耕機械はご勘弁ですが。でもチキュウのジドウシャというものは、数多くの家庭に普及しているのに事故を起こすとたまに爆発するそうですね。そういうことでは、爆発する可能性のある農耕機械もアリなのでしょうか?」
●布津香哉(eb8378)の場合
――お名前をお願いします。
「布津香哉だ。チキュウ人。よろしく」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「こんな、おファンタジーな世界だから最初はどうかと思ったが、意外と巨大ロボットがマッチしているんで驚いた。リアルなナイトガ○○ムみたいなのが本当に出てくるからな。俺としては、自分の欲望に忠実であること意外の注文は無いよ。まだ満足にチャリオットも作れないが、どうやらチャリオットと人型ゴーレムの素養は別の話みたいだし、意外と面白いことが出来るかもしれない」
――『天界人』としての責務をどう考えますか?
「別に。俺には関係ないかなー。そもそも『選ばれた』って気がしないし。それに俺の母国は戦争放棄しているから、この60年戦争を経験していないんだよね。だから俺と同じ言葉を話す奴らは、大筋でどっこいどっこいじゃないのかなー。『面白いからやっている』だけで、人が死んでいるとか、そういう実感持ってるヤツぁ少ないと思うよ」
――これから作るモノが『人殺しの道具』であることについて、考えたことはありますか?
「いや‥‥まあ、武道大会には10回以上参戦したし、殺って殺られてお互い様、だろ? でも『殺さず奪わず』だってアリじゃないのか? 剣や道具に罪があるわけでなし」
――カオスニアンとその被害者に、その言葉が通じるといいですね。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
●クラリベル・ミューゼル(ec2341)の場合
――お名前をお願いします。
「クラリベル・ミューゼルです。メイ出身の、エルフのウィザードです」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「特にないわ。粛々と技術を学ぶだけよ」
――ドラグーンの制作をご希望だとか?
「あたしのポリシーとも言えるけど、ゴーレム兵器がどんなに進化しても、それは結局『道具』の範疇にしか収まらないと思うわ。衣服を着替えるように武器を変えるだけ。剣も、騎士なら儀礼用のものと実戦用のものを使い分けるでしょ? あたしが求めているのは『そういう感覚』の、もっとお気軽なものよ。ディスポーザブルなゴーレム兵器があったっていいと思うわ。より多くの兵士がなんの制限もなしに使えること。それが理想じゃない? だからあたしがこだわるのは、『その中でも特別』を必ず用意しておくこと。お金持ちがオーダーメイドの洋服を着るように、身体を合わせるんじゃなくて『身体に合わせた兵器』を作るのよ。だから、極論を言えば今あるモナルコス級みたいな『どうでもいいゴーレム』の開発なんか後回しにして、この講義が終わったら即ドラグーンの開発に携わらされて欲しいわ」
――モナルコスは不要とお考えですか?
「過渡期の産物ね。ドラグーンが出来れば淘汰されるものよ。鎧騎士しか使えない特別なものにしては、不格好でいい出来とはいえないわ。あんな金食い虫は使い潰して、その予算を新開発に向けるべきよ」
――メイの国でドラグーン開発の予定が無いとしても?
「そうしたらウィルに渡って、向こうで開発をするわ。国王様がそんなヘタな判断をするとは思えないけど、あたしはドラグーン以外に興味は無いの」
●ポロン・ノーティラス(ec2395)の場合
――お名前をお願いします。
「ポロン・ノーティラス。メイの国出身、ウィザードだよ」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「正直辟易している。実践的といったってゴーレム器物を解体してその構造を知るだけだし、動作はさせてもらえても作動はさせてもらえない。ボクみたいな天才には不要な課程だよ。ボクはゴーレムの修繕をするんじゃなくて、ゴーレムを開発したいんだ。実現可能なものなら、空挺降下出来るカッコイイゴーレム器物や、農民が楽を出来るゴーレム道具を開発したい。それに、ボクの目標はもっと上にあるし、それはみんなのような凡人には理解できないものだ。正直、メイの国がゴーレム技術を一部の魔法使いにだけしか公開していないのも気に入らない。ボクみたいな天才が、こんな面倒な講義を受けていること自体屈辱だ。メイの国はとっととボクに工房設備を開放して開発をさせるべきだ」
――人を殺したことはありますか?
「あるわけ無い! どうしてボクみたいな天才が、そんな泥臭いことをしなきゃならないのさ」
――では、あなたは人の殺し方を『理解しようともせず』に、人殺しの道具を作ろうとしているのですか?
「関係ないだろ! 剣を打つ鍛冶屋が剣の達人でなきゃいけないわけじゃないじゃないか!!」
――戦争の本質を理解していないと、必要な時に必要な能力を発揮するゴーレムを作ることは難しいと思いますが、そのあたりはどうお考えですか?
「ぼ、ボクは天才だからそんな心配はいらないんだ! ボクが本気になれば、カルロさんだって簡単に超えられる!!」
――そして、あなたの作った超強力なゴーレムに、誰かが乗るのですね?
「そ‥‥そうだよ。もちろんじゃないか」
――ところで戦争で死者が出ないということはありえませんが、あなたのゴーレムに乗って戦死した遺族に、あなたはなんとお話する予定ですか?
「ぐ‥‥‥‥‥‥」
●マリア・タクーヌス(ec2412)の場合
――お名前をお願いします。
「マリア・タクーヌス――エルフの主婦だ」
――今回の受講についての雑感をどうぞ。
「実践的というより、我等の認識に対する『確認』と見たが、いかがか? 実験ネズミにされるのは不本意だが、我等の存在そのものが実験だからやむを得ないとして、相手がキレるほど追い込むような面談はどうかと思うぞ。それに、私も家庭を持つ身。子供の駄々につきあうつもりは無いが、子供を追い詰めるのは非常なストレスになる。天狗の鼻をへし折るのはいいが、後のことを考えるといささかうまい手とは言い難いな」
――それは失礼。ところで貴女のゴーレム設計思想は、やはり家庭人の自分が出たものと解釈してよろしいでしょうか?
「間違って自分の子供が乗るような事態になっても、生存率を高めておけばある程度安心できるからな。そしてその可能性はそんなに低くは無いと思っている。誰もが漠然と、『これからはゴーレムの時代』だと感じている。今残っている『剣士』『騎士』が引退すれば、残るのは『鎧騎士』と『兵士』だ。そしていずれ、兵士にもゴーレムが使えるようになるだろう。私の子供も無論エルフだから、成人になる頃にはそういう時代になっている可能性が高い。その時に遺恨は残したくないな」
●総括
講義自体は、非常に簡素なものだった。レベルとしては、自動車をビス一本まで解体し、エンジンやその他の仕組みと構造を知るようなものだ。個々のパーツが意味を持って認識され、脳内で組み上げられるようになれば、その応用で別の車を設計できる(驚いたことに、初歩のゴーレム器物には、ただ形をまねただけでその機能を発揮するものもあるのだ)。
問題は、今回見られた『カルロの厳しい面』である。カルロはその舌鉾で、参加者のほとんどが半泣きになるような、『突き崩し』にかかってきたのだ(実際、部屋に駆け戻って泣きを入れた者も居たらしい)。
カルロの意図は、だいたいの参加者には『頭では』理解できるものだ。つまり『命を預かるという身分の真摯さ』を、そのまま生の感情でぶつけられたのである。
遙か高見を見る前に、自分の足下を見ろ。そして隣人の顔を見、その家族の姿を見ろ。
『将来自分が成したいこと』には、確実に自分の『欲』がでる。しかしその欲望に任せて事をし損じるようなことがあれば、誰かが死ぬ。
技術者は、常に『今』を確認しなければならないのだ。
真の天才は、努力を怠らない。自分の才能におぼれない。当人の資質が決めるのは全体の1パーセントであり、結果は99パーセント努力の積み重ねが生み出すものである。
――それを、切に理解願いたいと思う。
最後に、今回上がった質問に対する返答を入れて、報告書を結ぼう。
Q:精霊魔法とゴーレム魔法の具体的な関連性と違いとは、呪文を介在しないで状態を変化させたりする器物を作れる、と云う違いかのぅ?
A:極論すれば『生命』と『器物』の違いです。魔法使いは生命として様々な多様性を持ち、なおかつ成長・発展させることができますが、ゴーレム器機は『完成された単機能物体』です。一つの能力を発揮する能力を持ち、それ以外の能力を持ちませんし成長も発展もしません。無論呪文を使用するので、製作には『変化』がありますが、完成したものは『訓練された鎧騎士が使用できる物体』に固定されます。これは魔法で作られる水晶剣などと同じです。ただ付与魔法の常として、その効果時間が『作動している間』というだけです。
Q:素朴な疑問だがこちらには人が乗るゴーレムが主体なのは何故なのだろうか?
A:さあ、そこまでは。ただメイの国が人型主体なのは、潤沢な資金があったためチャリオットやグライダーに予算や人材を回すより先に、『カオス勢力と戦うための能力を持った』人型ゴーレムを優先する必要があったからです。
Q:銅とか銀とかでゴーレムができるが合金でもゴーレムは可能なのか。
A:可能らしいですね。まだ実用化されていませんが。
【つづく】