【第三次カオス戦争】オルボート攻防戦:前
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月02日〜11月05日
リプレイ公開日:2007年12月07日
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●オープニング
●壮大なフェイク
「カオスニアン勢力が西進した」という情報は、メイディア王宮にあわただしく伝わった。すでに各地で戦端が開かれ、個々にはかなりの規模の戦闘が行われている。なぜ「あわただしく」なのかというと、敵の攻勢はラケダイモンに行くと「大勢派」は思っていたからだ。ラケダイモンを陥落させれば、バの国から戦力を呼び込むことが出来る。そうなれば、過去のカオス戦争の再来である。強壮な大国と二正面作戦を展開せざるを得ないメイの国は、苦戦必至であった。
ゆえに宮廷の多くの者はラケダイモンの戦力強化を提唱し、そして実行された。賢王であるステライド王も、それに否を唱えなかった。
それが『アトランティス人の限界』であることは、天界人たちには自明だった。バの国+カオス勢力の連合軍はかつて、メイの国を滅亡させかけたのである。それはすでに、民族的なトラウマと言ってもいい。
しかし、冒険者たちだけが知っていた。敵の首長――もっと言うなら今回の『戦争』をコーディネイトした人物である天下太平左右衛門長上兼嗣――つまり日ノ本一之助の目的が、勝利では無いことを。
『戦争に勝つため』なら、バの国を巻き込んだほうが都合がいい。これは100パーセントの確信を持って言える。戦争はなんだかんだで『数』だからだ。
だが戦争結果に収斂するものが勝利ではない場合、その原則はは当てはまらない。つまり本戦争は、今までのアトランティスが経験したことのない『未知の戦争』をしているのである。
そしてまったく妥協も猶予も無いことに、そのイニシアチブは戦争を仕掛けた側に存在する。目的の設定を先にしたほうが、選択の幅が広いのだ。攻勢か守勢かというだけでも、攻勢側には『攻撃するorしない』という選択肢が発生する。しかし守勢側に『守らない』という選択肢は通常無い。理由は簡単だ。抵抗しなければ生活基盤が無くなるからだ。あとは『逃げる』ぐらいしか選択肢が無いが、守勢というのは通常拠点を持っている。ましてや城塞都市といった『市民』が存在するなら、逃亡は不可能である。
ゆえに、攻撃イニシアチブを取るというのは非常に重要な行為なのだが、あいにくカオス勢力はその卓抜した機動力で移動中の捕捉を困難にさせている。ゆえに後手後手に回る場合が多く、そしてその状況を打破するには『後の先を取る』以外に無い。
つまり敵が襲撃のために集結したところを、全力でたたくしか無いのである。
●ガス・クド動く
オルボート城塞はその位置から、サミアド砂漠を闊歩するカオス勢力に対す重要な牽制拠点となっていた。良政のためか人口も上昇し、来年の税収は予定よりも見込めそうだった。
ただ、誰もここが最前線であることは忘れていなかった。
ゆえに、とあえて言おう。夜半、城門が不意に破られ敵勢力の侵入を許したことは、誰にとっても異常だった。
敵兵力は500以上。市街に火を放ち略奪をするだけして、敵はほとんど戦闘をすることなく撤退した。いや、撤収と言ったほうがいいだろう。
そしてその後判明したことは、二つの城門が内部から解放されていたことだった。城門もかんぬきも、まったく無傷だったのである。そして、城門を守っていた守衛が全員姿を消していた。
ディアネー・ベノン子爵がすぐに箝口令を敷いたことは、まさに賢明の一語に尽きる。内通者が10人単位で現れた、などという話になったら、場内のモラールが一気に瓦解する。
そしてオルボート城塞を通じ、冒険者ギルドに一通の書簡が届いていた。アプト語で書かれたそれは、挑戦状のようにも見えた。もんだいは、べっとりと血糊がついていることである。
『最強のゴーレムと最強の冒険者を呼べ。さもなくば、また悪夢を見ることになる――虎』
「ベノン子爵が狼狽しなかったことは、ほめてもいいと思うわ」
と、冒険者ギルドの烏丸京子は言った。彼女は『ディアネー嬢の事情』を知っている。
「この書簡、どこにあったと思う?」
初めて見せる表情をして、京子が言った。
「カオスニアンの女の子が一人、城門の前に立てられた杭に磔(はりつけ)になっていてね。で、その女の子の腹が裂いてあって、そこに突っ込まれていたそうよ。ちなみにその子、まだ息があるらしいわ」
読者諸賢は想像できるだろうか。生きたまま腹を裂かれて異物を突っ込まれるという感覚を。病気や手術の時に使うカテーテルなどの比ではない。激痛に正気を手放してもおかしくはない。
「女の子の名はネイ・ネイ――まあ、本名じゃないみたいだけど。で、彼女からも冒険者を名指しで呼び出しが入っているのよ。『話しがあるから、生きているうちに来い』。つまり、ディアネー嬢には聞かせたくないけど、重要な話があるってことね」
いくつか案件は考えられるが、とりあえず想像の域を出ない。
「敵兵力は、おおよそ500〜600ってとこ。恐獣の数は不明。大型恐獣は温存していると見たほうがいいわね。もっとも敵が『アレ』なら、ティラノのほうがマシかもしれないけど」
言外に不吉な匂いを放ちながら、京子は言った。
「ゴーレムとフロートシップはきっちり貸与してくれるそうよ。ただし、人数的な戦力比は3対1以上。本気でかからないと、痛い目じゃ済まないと思うわ」
京子が言った。
■貸与ゴーレム
・コンゴー級フロートシップ×1
・5型艦×1
・ヴァルキュリア級シルバーゴーレム×1
・オルトロス級カッパーゴーレム×2
・モナルコス級ストーンゴーレム×5
・そのほか申請による
●リプレイ本文
●血の代償
──オルボート城塞内・治療院
一体何者が‥‥
あまりにも酷い仕打ち。
生きたまま腹を裂かれ、そこに書簡をぶち込まれる。
かつて、これ程までに残虐非道な行為があっただろうか。
治療院に運びこまれた少女『ネイ・ネイ』の息は荒い。
すでに如何なる薬も受け付けず、いつ死んでもおかしくはない。
天界人の医師がいるとしても、今度は道具が無い。ここまで瀕死の状態だと、緊急手術が必要なことは明白。
けれど、このアトランティスにはそのような技術も道具も、そして薬も存在しない。大量の失血を補填する血液もない。
もう手は尽くされていた。
あとは、このカオスニアンの少女が、竜と精霊に迎えられるかどうかだが。
カオスニアンの少女は、カオスにおちる。
それが自然な習わしであろう。
──ドダダダダダダダダダダッ
突然治療院の扉が開かれ、大勢の冒険者が飛んでくる。
「久しぶりだね。ネイ・ネイちゃん。今度会ったら色々聞きたいことがあったんだけど。今は君の話を聞かせて」
そう優しく話し掛けているのはエイジス・レーヴァティン(ea9907)。
「なんという馬鹿な真似を‥‥なぜ誰にも言わなかった!? なぜ一人で決着をつけようとした!? お前は一人じゃない‥‥それなのになぜだ‥‥!?」
そう吐き棄てるようにネイ・ネイに告げるのはリューグ・ランサー(ea0266)。
「それ以上はいいだろう? ここにいる者たちは、皆同じ気持ちだ」
リューグを宥めるようにそう告げるマグナ・アドミラル(ea4868)。
そしてグレナム・ファルゲン(eb4322)も、今にも殴りかかりそうなリューグの腕を掴んで頭を左右に振る。
「判っている。けれどな、俺は、俺は‥‥」
そう呟いて、それ以上は言葉が繋がらない。
そして入れ代わりに、すっと前に出ると
「なぜ、一人で行ったのです?」
とイェーガー・ラタイン(ea6382)が問い掛ける。
だが、ネイ・ネイは何も答えない。
いつものようなピンと張り詰めた表情を崩すことなく、じっと一同を見ている。
だが、息はかなり荒い。
もう限界なのだろう。
皆の後ろでは、ネイ・ネイとは面識のないベアトリーセ・メーベルト(ec1201)も立っていて、じっと話を聞いている。
「戦ってはいけない‥‥全て食べられる‥‥」
静かに、ネイ・ネイが口を開いた。
その言葉の一つ一つを聞き逃さないよう、全員の意識がネイ・ネイに集る。
「ガス・グドの事だな?」
そう問い掛けるイェーガーに、ネイ・ネイは頭を左右にゆっくりと振る。
「カオス界の力を付与されたゴーレム‥‥試作タイプが全部で三つ‥‥プリンシュパリティ級が二つと、パワーズ級が一つ‥‥」
──ゴフッ!!
口から吹き出す大量の血。
そしてむせ返りつつも、血を拭うことなく話を続ける。
「奴等は‥‥虎は‥‥ュパリ‥‥持ってる‥‥」
もう意識が混濁している。
誰もが、彼女の生を望んだ。
けれど、それは、届かない。
「ネイ・ネイ、ディアネー殿はきっと守る。命を掛けて守る事を約束する。だから安心しろ。」
マグナがそう告げたとき、ネイ・ネイは近くに居たリューグを指差す。
「その剣で‥‥私の首を刎ねてくれ‥‥」
その言葉に、皆が絶句。
「ちょっとまて、冗談じゃない‥‥」
そう叫ぶリューグに、ネイ・ネイが一言。
「あんなやつに殺されたくはない‥‥だから頼む。騎士ならば‥‥」
そう告げられたとき、リューグはスッと剣を引き抜く。
もう助かる事はないその命。
ならば、彼女の魂を、カオスにおちる前に、自らの剣で。
敵の手に殺されるよりも、彼女の信じる『仲間』の手によって散華するのなら。
──ドスッ
静かにネイ・ネイの首が床に転がる。
そしてそれを抱き上げると、リューグは静かに呟いた。
「ここまでになっても生きていた‥‥そのお前の意思は‥‥決して無駄にはしない」
そのまま、ネイ・ネイの亡骸を『人間と同じ様に』弔うと、一人、また一人とその場をあとにする。
これが彼女との別れとなる。
「ディアネーさんの為に尽くしてくれたささやかな御礼です。」
そう告げて、イェーガーがネイ・ネイの墓にオカリナを置く。
「命を掛けて成し遂げた者に、天界人もカオスニアンも無い、わしがネイ・ネイの遺志を引き継ぐ‥‥」
マグナが拳を握り締めたまま、そう呟く。
これから、マグナがすべき事。
それは、ただ一つであった。
●都市の戦い
──表正門
モナルコスを横に止めて周囲に気配を配っているのはルーク・マクレイ(eb3527)。
彼以外にも、その門には2体のモナルコスが駐留している。
「つまり、ここ最近、この町には大勢の人が出入りしていたのですか?」
警備の傍らに情報収集。
正門を通る『この街の商人』に話し掛けて、ここ最近に何かあったのか問い掛けていた。
「ああ。中央区画でのバザーが始まったのでね。あちこちの地方都市や隣村部から大勢の人たちが入ってきているよ。ディアネー様が商業区画の一部を開放し、この街にもより潤いを与えてくれたのですよ」
そう告げて、頭を下げて通り過ぎる商人。
やがて、ネイ・ネイの死を見取ったグレナムがモナルコスで合流。
いよいよ、ガス・クド攻略戦の準備の布陣ができつつある。
「どうでした?」
「駄目だ。ネイ・ネイから敵『虎』についての情報を教えてもらおうと考えたんだが、ネイ・ネイはそれについては全く教えてくれなかった‥‥」
そう告げると、ルークはその場をグレナムに託して、ディアネーの護衛に向かう。
──一裏正門
オルトロス級カッパーゴーレムの横で、二体のモナルコスが門を守護している。
こっちの門にはガイアス・クレセイド(eb8544)が待機している。
上空にはコンゴー級フロートシップが一隻、バリスタを完全装備状態で待機、いつでも出撃できるようにスタンバイしている。
「‥‥あの‥‥また戦が始まるのでしょうか‥‥」
一人の老人が、その場で待機していたガイアスにそう問い掛ける。
「そうしないよう、我々がいるのです。ご安心を」
そう告げて、老人を見送るガイアス。
「だが、今回はかなりの戦いになるだろう‥‥我々をおびき出して、そのあとでここを襲撃しようという腹なのかもしれん‥‥ガス・クドの考えなんて、そんなものなんであろうが‥‥」
それにしても、やはり気になって仕方ない。
だが、今は他の仲間たちの情報が届くのを、じっと待っているしか無かった。
──その頃‥‥
「‥‥」
じっと開いたスクロールを見つめているのはゼディス・クイント・ハウル(ea1504)。
事件のあった正門前にやってくると、ゼディスは『パースト』のスクロールを開いた。
城塞内に侵入された時間帯に何が起きたのか確認しようと考えた。
場所の指定は城門付近。誰が城門を開いたのかと守衛、そしてネイ・ネイに何があったのかを確認できるはずだと思ったのだが。
パーストという魔法は、ある意味特殊な魔法であり、発動時には、見たい過去の『時間』を指定する必要が有る。
ここで、ゼディスはぶつかった。
奴等が侵入した時間帯が判らない。
何時間前‥‥というふうに指定すれば問題はないのだが、その時間がズレていたら終りである。
加えて、このスクロールは1度使用するとそれなりの魔力を消耗するので、数多く発動するというのは難しい。
もし今、敵の襲撃があった場合などを考えても、自身の魔力の半分は残しておきたい。
そして発動しても、見える光景はほんの一瞬。
指定時間がズレていたらまったく役に立たないのである。
「‥‥もっと具体的な‥‥そう、何かを見物していたとかないのか‥‥」
とまあ、そんな感じであった為、ゼディスはスクロールの発動を断念することにした。
「止むをえん。フロートシップに向かうとするか‥‥」
そう呟いて、ゼディスはフロートシップの泊まっている場所に移動した。
●訃報
──オルボート城塞内部
ネイ・ネイの訃報は、すぐさまこの城塞都市の首長であるディアネー・ベノン子爵の耳にも届いた。
今、彼女の元には、その情報を届けにきたリューグと、彼女の護衛にやってきたマグナ、同じくルークの3名が待機し、側近兵士らの持ってくる様々な情報を整理している所であった。
「現在の状況は理解しました。可能な限り、この都市の人々を安全な場所に避難させなくてはなりません。虎が本当にここを襲撃するのであれば、彼等は略奪の限りを尽くすでしょう‥‥」
ディアネーがその場の全員にそう告げる。
虎、すなわちガス・クドならばそうするであろうことは、ディアネー自身が身をもって知っている。
それゆえ、ディアネーは最悪の事態は避けるべきと、フロートシップを使っての避難誘導を考えていたらしい。
「可能な限りのフロートシップを準備。噂の鹵獲フロートシップを使う許可も取るよう」
次々と指示を飛ばすディアネー。
「では、子爵殿もそのフロートシップで‥‥」
リューグのその言葉に、ディアネーは一瞥すると、静かにこう呟く。
「全ての民が安全な場所に避難してからだ。私がこの地の民たちよりも先に逃げてどうする?」
自分よりは、自分を慕ってくれる民や臣下。
それを大切にしてこそ、貴族であるらしい。
貴族とは、そういうものとなんとか納得し、マグナもその避難誘導を手伝うことにした。
限られた時間の中で、極力人々を安全な場所に移送する一行。
時間にしてほんの僅かしかないため、女性子供老人の避難を最優先としていた。
──その頃の調査部隊
ターゲットとなるのは『内通者達』。
この城塞を内部より開くよう手引きした存在。
そいつらがどこにいるのか、イリア・アドミナル(ea2564)とイェーガー、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の3名は兎にも角にも都市内部を縦横無尽に走り回る。
内通者達に気付かれないように、先手を取る為に走る。
だが、敵の潜伏能力はかなり凄い。
幾つかの隠れ家までは突き止める事が出来たのだが、そこにたどり着くと、すでにその場所は引き払ってしまっていた。
さらにやっかいなのは、彼等がこの街の住人ではないということ。
「内通者は、ネイ・ネイさんの変装を見破った‥‥それはすなわち、かなりの実力者ですね」
そう呟いているイリアの目の前には、最近まで使われていたらしいアジトがあった。
「吟遊詩人ギルドにいって、ここ最近になって出入りしていたバードやジプシーを教えてもらってきた。が、おおよそこの辺りを生業としている奴や、サミアド砂漠から流れてきた『遊牧民』としか判っていないな‥‥」
イリアもまた調べられたデータに目を通す。
だが、どこにもそれらしい存在がいない。
もしこの場に忍者やレンジャーがいたとすれば、また状況は違ってきたのかもしれない。
いずれにしても、敵内通者がまったく判らないままに、奴等はやってきた。
●強襲
──翌日・表正門前
警戒態勢のまま一夜が明ける。
「偵察任務、出撃します!!」
──バサバサバサバサッ!!
早朝、策敵部隊としてイェーガーが愛馬ふぅに跨がって上空から周辺偵察に向かう。
その背中には、冒険者ギルドから派遣されてきたシフールのジプシーが同乗している。
「同じく。グレナム出るっ!!」
「ガイアス、行くぜッ!!」
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
下部ノズルから風の精霊力を放出し、グレナムとガイアスの載っていたゴーレムグライダーが垂直上昇を開始する。
「いいですね。万が一でも敵を確認したらすぐに戻ってきてくださいね。二人のゴーレムはいつでも出撃可能な状態に仕上げてありますから!!」
ベアトリーセがそう叫んで二人を見送る。
そしてそのまま自分もゴーレムの元に走っていった。
──そして偵察報告
遠くからやってくるのはカオスニアンとバの軍勢。
その後方からは、恐獣の群れ。
そして上空にはフロートシップが2隻。
それはゆっくりと降下し、大地にバグナ級ストーンゴーレムとガナ・ベガ級アイアンゴーレムを降下させていた。
そしてもう一隻のフロートシップの下には、巨大なコンテナのような箱が吊るしてあった。
「総攻撃か‥‥」
「そのようだな。急ぎこっちは帰還するが、イェーガー、どうする?」
そう上空でホバリングしているグライダーから、横を飛んでいるイェーガーに話し掛けるグレナム。
「どうです? 何か見えますか?」
そう同乗シフールに問い掛けるイェーガー。
「結構奥でフロートシップが待機していますね。移送用2、強行型2、そして目の前の2。一体これはどういうことでしょうかねぇ‥‥」
それだけでも、敵がかなり本気であることは理解できる。
「では、もどりましょう。急いで態勢を整えないと、最悪な事態になってしまいます」
そのイェーガーの言葉に、一行は急ぎ城塞へと戻っていった。
──そして
オルトロスに飛び乗り、グレナムがゴーレムを機動させる。
ゆっくりと横においてあった長槍と大楯を構えると、周囲をじっと見渡す。
「視界良好、反応速度問題なし‥‥」
その横では、ガイアスの載っているオルトロスも同じ装備をし、さらに近くで待機していたモナルコスが彼の機体のバックアップにつく。
「こっちも出撃準備OK」
そして二人の機体のちょっと前方で剣を構えて仁王立ちしているベアトリーセのヴァルキュリアが、敵の戦力をじっと見ていた。
「恐獣が相手なら、魔法支援は任せてください」
パンター?Uに搭乗して、移動魔道砲台として、準備しているイリアがそう味方に告げる。
いずれにしても、敵はあれが総戦力とは思えない。
そしてその場の全員が危惧していることは一つ。
カオスゴーレムの存在。
ネイ・ネイが命を賭して告げた情報。
もしも、ネイ・ネイの話が100%の真実だったとするならば、今、この場の全員は撤退したほうがリスクが低い。
だが、それは奴等にたいして『敗北』を意味する。
なによりも、逃げるという行為が、最悪の場合という仮定の下で組まれた作戦、そしてガス・クドが敵のど真ん中に立っていて、冒険者達のその光景をじっと見ていた。
──そして
「マーチっ!!(前進せよ!!)」
そのガス・クドの叫びと同時に、敵戦力は前進を開始。
それにたいして、こちらはフロートシップからバリスタの一斉砲撃、そして艦首精霊砲による制圧射撃が開始された。
精霊砲はその仰角の関係上、地上に向かって撃つことは出来ない。
けれど、バのフロートシップを相手にするというのなら話は別。
そしてヴァルキュリアを筆頭とするゴーレム隊も、いっきに前進を開始した。
「地上兵員は左右に展開、中央はゴーレムで対応、奴等を一歩も城内にいれるなっ!!」
コンゴー級フロートシップのブリッジで、リューグが風信機を片手に指揮を飛ばす!!
上空から地上を見ている限りでは、この戦い、利は我等にあった。
すぐさま近接戦闘が開始される。
「深遠よりの抱擁、暗く寒い息吹に飲まれろ。アイスブリザード」
イリアがパンター?Uの上で印を組み韻を紡ぐ。
その掌から吹き出したアイスブリザードは、襲いかかってくるラブトルを後方に退ける。
突撃してくるガナ・ベガは、グレナムのモナルコスで牽制し、そしてベアトリーセのヴァルキュリアがとどめを刺す。
それらの連携がうまく繋がり、1時間後には、敵戦力の1/3程度が消えてしまった。
だが、悪夢はそこから始まった。
──ベキボキゴキッ!!
巨大な箱から姿を表わしたのは、全長14mの巨大なゴーレム。
漆黒のボディに巨大な翼。
その背後から伸びている異様な触手、その先には人間の口のようなものがついていた。
「相手がゴーレムなら、戦えるっ」
グレナムの機体が突然走り出し、敵に向かって殴りかかる。
だが、突然目の前の巨大なゴーレムが左手をグレナム機に向かって突き出し、止まれという意志を示した。
「ふざけるな‥‥」
素早く間合を詰めて、手にした長槍で敵の格闘の間合の外から突いていく!!
──バギバギバギバギッ
だが、それは敵ゴーレムに届かない。
巨大ゴーレムの背後から伸びている触手がグレナム機の右腕に絡みつき、一気に腕を締め上げて砕いた!!
「そ、そんなっ!!」
慌てて後方に下がるグレナム。
と、それと入れ違いに、ヴァルキュリアが抜刀して突撃してくる。
「全力で行かせてもらうわっ!!」
そう叫ぶと、剣の軌跡を踏込みで変化させ、敵カオスゴーレムに向かって一撃を叩き込むが。
──ガギィィィィン
その一撃を、いとも簡単に受け止められる。
「そんなっ!!」
そのまま、カオスゴーレムは剣を構え、素早くベアトリーセのヴェルキュリアに向かって叩き込む。
──ギィィィン
すかさず差し出したロングソードを破壊し、そして制御胞のハッチを吹き飛ばす。
その衝撃で、パイロットであるベアトリーセの頬に真紅の血筋が走る。
「あ、そんな‥‥そんな馬鹿な‥‥」
震えつつ、ベアトリーセは後方に下がる。
その動きが、全体の士気を低下させた。
──ドドドドドドドドドドドドドドドドッ
一気に攻めに入るカオスニアンとバの騎士達。
イリアを始めとする仲間たちの防衛も間に合わず、一行は城塞内部に撤退を余儀なくされた。
そして素早く城門を閉じると、一気に守りの戦術に切替える。
「‥‥急ぎゴーレムの補修を‥‥」
そう告げると、ベアトリーセは本陣に戻り、そこで震える体を落ち着かせる為にワインを一口含む。
「あ、あれはなんですか?」
腕を砕かれたグレナム機も補修に入る。
そのグレナムもまた、全身の震えが止まらない。
「判らない‥‥カオスゴーレムだと‥‥」
ようやく落ち着いたベアトリーセが、そう呟く。
「た、大変です!! 城門外の部隊が!!」
イリアが本陣に駆けこみ、いそぎ見張り台に案内する。
そこにはすでにゼディスがいて、眼下に広がっている『惨劇』を目の当たりにしていた。
「ああ、きたか‥‥あれを見ろ」
そう呟いてゼディスが指差した先では。
大勢のカオスニアン達が、カオスゴーレムの触手に囚われ、その先の巨大な口にかみ砕かれ、呑み込まれている。
生きたまま、カオスゴーレムのエネルギーとして喰われるカオスニアン達。
「あれは、我々の知っているゴーレムとは根本的に違う‥‥今の我々の戦力では、勝てそうにないな‥‥」
そう告げて、ゼディスはその場を後にする。
●空戦は
──オルボート城塞外
上空では、コンゴー級フロートシップがバのフロートシップを一隻破壊し、次の目標を求めて移動していた矢先であった。
「艦首精霊砲、あの巨大ゴーレムに向かって精霊砲を叩き込めっ!!」
リューグが伝声管に向かって叫ぶ。
「ヤーサー!!」
そう叫ぶと、艦首精霊砲がカオスゴーレムに向かって炎を吐き出す。
──バジィィィィィィィッ
だが、それはカオスゴーレムの目の前で、『見えない何か』によって弾かれた。
「何だと!! 続けて第二射用意。地精霊砲も角度修整のち、一斉砲撃を開始しろ!!」
その激を受けて、つぎつぎと 精霊砲が発射される。
だが、それらは全て届かなかった‥‥。
それどころか、カオスゴーレムの口の辺りが解放され、内部で漆黒の輝きが見えはじめた。
「なんだと‥‥回避航行っ!! あの一撃を受けるな!!」
そう叫ぶと同時に、操舵手が全速で回避航行を開始した。
運がいいことに、カオスゴーレムのそれは発射されない。
そのまま危険を感じたリューグは、城塞内部にフロートシップを向かわせた。
●結果と予測
──オルボート城塞
城塞より距離2500。
そこに、敵の陣営が設置されている。
後方からはフロートシップがやってきて、様々な資材を搬入している。
敵は本格的に、この城塞都市を落とそうとしているらしい。
それも、できうる限り無傷で。
破壊が目的ならば、あのカオスゴーレムが単騎突入してきたら話は早い。
だが、それをしなかったのは、奴等にとって、この城塞が必要なものであるからだろう。
いずれにしても、今後の展開次第で、メイ本国の運命が左右される。
そして、今のこの状況をディアネー・ベノン子爵はどう判断するのか‥‥。
──Fin
(代筆:一乃瀬守)