【第三次カオス戦争】オルボート攻防戦:後

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:11人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月26日〜12月31日

リプレイ公開日:2008年01月10日

●オープニング

●壮大なフェイク
 「カオスニアン勢力が西進した」という情報は、メイディア王宮にあわただしく伝わった。すでに各地で戦端が開かれ、個々にはかなりの規模の戦闘が行われている。なぜ「あわただしく」なのかというと、敵の攻勢はラケダイモンに行くと「大勢派」は思っていたからだ。ラケダイモンを陥落させれば、バの国から戦力を呼び込むことが出来る。そうなれば、過去のカオス戦争の再来である。強壮な大国と二正面作戦を展開せざるを得ないメイの国は、苦戦必至であった。
 ゆえに宮廷の多くの者はラケダイモンの戦力強化を提唱し、そして実行された。賢王であるステライド王も、それに否を唱えなかった。
 それが『アトランティス人の限界』であることは、天界人たちには自明だった。バの国+カオス勢力の連合軍はかつて、メイの国を滅亡させかけたのである。それはすでに、民族的なトラウマと言ってもいい。
 しかし、冒険者たちだけが知っていた。敵の首長――もっと言うなら今回の『戦争』をコーディネイトした人物である天下太平左右衛門長上兼嗣――つまり日ノ本一之助の目的が、勝利では無いことを。
 『戦争に勝つため』なら、バの国を巻き込んだほうが都合がいい。これは100パーセントの確信を持って言える。戦争はなんだかんだで『数』だからだ。
 だが戦争結果に収斂するものが勝利ではない場合、その原則はは当てはまらない。つまり本戦争は、今までのアトランティスが経験したことのない『未知の戦争』をしているのである。
 そしてまったく妥協も猶予も無いことに、そのイニシアチブは戦争を仕掛けた側に存在する。目的の設定を先にしたほうが、選択の幅が広いのだ。攻勢か守勢かというだけでも、攻勢側には『攻撃するorしない』という選択肢が発生する。しかし守勢側に『守らない』という選択肢は通常無い。理由は簡単だ。抵抗しなければ生活基盤が無くなるからだ。あとは『逃げる』ぐらいしか選択肢が無いが、守勢というのは通常拠点を持っている。ましてや城塞都市といった『市民』が存在するなら、逃亡は不可能である。
 ゆえに、攻撃イニシアチブを取るというのは非常に重要な行為なのだが、あいにくカオス勢力はその卓抜した機動力で移動中の捕捉を困難にさせている。ゆえに後手後手に回る場合が多く、そしてその状況を打破するには『後の先を取る』以外に無い。
 つまり敵が襲撃のために集結したところを、全力でたたくしか無いのである。



●オルボート城塞攻防戦
 オルボート城塞はその位置から、サミアド砂漠を闊歩するカオス勢力に対す重要な牽制拠点となっていた。良政のためか人口も上昇し、来年の税収は予定よりも見込めそうだった。
 だが、先日のバの襲撃により状況は一転。
 現在のこの城塞の主たる住人は、メイディアより派遣されてきた増援部隊であり、冒険者ギルドの依頼でやってきた物好きな面々である。
 だが、街の住人全てが避難していたわけでは無く、あの事件から数日後には、一組、また一組と城塞に戻ってきて、今までと同じ様に生活している者も少なくない。
  
 そんなある日のこと。

 城塞の中央を通る街道のど真ん中で、一人の惨殺死体が転がっていた。
 首が胴体と切り離され、大地に転がっている。
 胴部は腹部が切り裂かれ、臓腑があちこちに散乱している。
 路上を大量の血が流れ、それがあちこちと点在している事から、犠牲者は生きたまま腸をえぐり出され、激しい激痛と狂気に陥りつつも、必死に生にしがみつこうともがいていたのだろう。
 そしてその死体が、『ディアネー・ベノン子爵』の側近の一人の死体である事が、ディアネー嬢に恐怖を与えていた。
 
 そしてその日から、2日に一体ずつ、被害者の死体が発見された。
 手口は全く同じ、殺されたものの身分もディアネーに近い所で働いていた者ばかりである。
 何か裏がある。
 そんなある日の事。
 城塞外、敵バの宿営地に動きがあったと、物見搭からの伝令があった。
 
 ゴーレムの動き、駐留していたフロートシップの動きが、あきらかに『戦争』という空気を醸し出している。
 現在、この城塞内部に侵入した『奴』と、外から来る軍勢、二つの敵とどう対峙するか‥‥。
 この戦い、負ける事はすなわち‥‥。
 



■貸与ゴーレム
・コンゴー級フロートシップ×1
・5型艦×1
・ヴァルキュリア級シルバーゴーレム×2
・オルトロス級カッパーゴーレム×4
・モナルコス級ストーンゴーレム×5
・そのほか申請による

●今回の参加者

 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2626 オウ・ホー(63歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb4189 ハルナック・キシュディア(23歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4322 グレナム・ファルゲン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7851 アルファ・ベーテフィル(36歳・♂・鎧騎士・パラ・メイの国)
 eb8544 ガイアス・クレセイド(47歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb9277 エリスティア・マウセン(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec0568 トレント・アースガルト(59歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

白金 銀(eb8388

●リプレイ本文

●オルボート攻防戦
──オルボート城塞
 ディアネー・ベノン子爵はじっと窓の外を見つめている。
 広がる光景は今、まさに戦争に突入しようとしているオルボート城塞。
「この城内に潜入者‥‥それも、貴族や警備をねらって‥‥これは脅しなのか?」
 拳をグッと握り締めて、そう吐き棄てるように呟くディアネー。
「まあ熱くなるな。今迂闊に動くと、潜入している奴の思う壷だ」
 そう告げているのはマグナ・アドミラル(ea4868)。
 現在、このオルボート城塞での作戦行動は、ゼディス・クイント・ハウル(ea1504)を中心に動いているようである。
 今も、ディアネーの近くでは絶えず30名の近衛ががっちりと周辺を固めている。
「今の所、特に怪しい人影がない‥‥」
 同じく護衛を務めているイェーガー・ラタイン(ea6382)がそう呟くと、窓の外を見ていたオウ・ホー(eb2626)が静かに肯く。
「敵はそれだけの実力を持っているという事です‥‥それと、今までの被害者、殺され方などの共通点は判りますか?」
 そう近くに居た近衛柾貴に問い掛けるオウ・ホー。
「あ、今用意させますので、こちらでお待ちください‥‥」 
 と、一人の近衛が、二人一組でその場を後にする。
 なにがあっても対処できるように、オウ・ホーがツーマンセル(二人一組)で行動するように指示を飛ばしていたのである。
「とにかく、敵に隙を見せない。そこは徹底させろ!!」
 マグナの声が、近衛全員にも届く。
 そしてより一層、そこの警備は強化される事となった。



●開戦
──オルボート城塞正面
 ゆっくりと移動を開始するカオスの軍勢。
 その後方では、2隻の小型フロートシップ。
 そして地上では、件のカオスゴーレムとガナ・ベガがゆっくりと進軍を開始した。
「全機戦闘開始。フロートシップは前方へ、五型艦は急ぎ戦場中域へ展開、のちゴーレムは全機発進!!」
 コンゴーのブリッジでそう叫ぶゼディス。
 その声は風信機を伝って、各エリアに飛んでいった。
「パンター改出撃する‥‥」
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
 城塞正面の扉が展開し、パンター改が次々と走り出す。
 その後方からは、メイの騎士たちが馬に乗って出撃。
 上空ではグライダーに乗れるメイの鎧騎士たちが、次々と出撃を開始。
 オルボート城塞前には、陸と空に戦力が広がっていった。
 そしてその光景と時同じくして、バの軍勢も地上と空中に展開。
 まず最初に口火を切ったのは地上戦であった!!
──ドドドドドドドドドドドドドド
 騎馬が大地を踏みしめる音、そして鋼の武器の交差する金属音。
 それらが戦場に響き渡り、あちこちで人が切り捨てられ、大地に転がる。
 その屍を馬は踏みつけ、そして乗り越えて別の敵のもとへと駆け抜ける。
 阿鼻叫喚とはまさに、このような光景なのであろう。
「目標‥‥右前方、敵の援軍ですっ!!」
 そう叫びつつ、パンター改をその方向に走らせるエリスティア・マウセン(eb9277)。
 その声に反応し、イリア・アドミナル(ea2564)が瞬時に印を組み韻を紡ぐ。
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィン
 その直後、イリアは次々と魔法を発動、敵の軍勢を撃破しつつあった。
「それ以上はさせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 だが、それ以上メイの好き勝手にさせぬと、パンター改に向かって駈けてくる騎馬もあるが。
──ガギィィィィィィン
 それらパの騎士の攻撃を、同乗していたトレント・アースガルト(ec0568)が、手にした槍でことごとく打ち払う。
「このパンターに近付く者は、それ相応の覚悟を持ってこい!! このトレントがいる限り、このチャリオットは決して沈まぬ!!」
「その通りっ。バの兵士共、命が惜しくなければかかってくるがよい!!」
 トレントの叫びに呼応するように、イリアが威力を最大にまで高めたアイスブリザードを敵の軍勢目掛けて放つ!!
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 イリアの掌から放たれたブリザードは、瞬くあいだに敵の一角を戦闘不能に追込んでいった!!
「次のエリアまで、あと200‥‥」
 素早くチャリオットを駆り、次の敵のいる場所に向かうエリスティアであった。



●カオスとの戦い
──前線・ゴーレム戦闘
 ドゴォォォォォン
 重厚な音が周囲に響く。
 敵バグナ、ガナ・ベガに対して、こちらはモナルコス、オルトロスが迎撃に入った。
 ゴーレム戦は地上での人間の戦いとは少し違う。
 激しいまでの一撃を、何処で受け、何処で回避するか。
 一撃でも受けてしまった場合、それは致命傷に繋がせる事もあるからだ。
「これ以上、城塞には近づけさせませんっ!!」
「死にたくなければ、下がりやがれッ!!」
 アルファ・ベーテフィル(eb7851)とガイアス・クレセイド(eb8544)の搭乗したオルトロスが敵と交戦状態に突入。
──ガギィィィンバギィィィィン
 激しいまでのうちこみが始まった。
 その近くでは、モナルコスとバグナの戦いも激化、共に一進一退の戦いとなっていた。
「いい腕していやがるが‥‥守りに特化しているメイの機体、そうそううち破られる訳にはいかなくてね‥‥」
 ガイアスが、目の前のガナ・ベガの『戦斧』を楯で受止めつつ、手にした槍で牽制する。
──バギッ、バギィィィィッ
 その重厚なガナ・ベガの一撃に、ついにオルトロスの楯が限界を越えて破壊される。
「何ッ‥‥どこにそんな強い一撃がっ!!」
 そう制御胞の中で叫ぶガイアスに、近くで戦っていたアルファ機より通信が入る。
『バーストアタックです‥‥敵のゴーレムは、騎士の持つ技を使ってきます!!』
 そう叫んでいるアルファ機の楯も既に破壊されており、アルファは槍で敵を牽制しつつ、次の一手を考えていた。
「フェイントアタック‥‥駄目です。武器が見られている以上、その技は使えません‥‥」
 そう呟きつつ、アルファ機は一度交代し、体勢を整えて再び攻撃に転じる。
 だが、敵もその動きに合わせて間合を計ってくる為、アルファの思うような戦いに持ち込めない。
──ダッダッダッダッダッ!!
 その均衡を破ったのは、グレナム・ファルゲン(eb4322)とハルナック・キシュディア(eb4189)のヴァルキュリア。
 一気にアルファとガイアスのオルトロスにまで近付くと、気合一閃で敵ガナ・ベガを撃破していく。
 実際、装甲の厚いオルトロスが囮となって、機動力の高いヴァルキュリアが迎撃に出るというメイの作戦は、この時点で成功を納めつつあった。
 だが、ファランクス形態でがっちりと守りに入っているモナルコスについては、まだ搭乗している鎧騎士たちが、そのような陣形に慣れていない為、バグナによって押されつつあるというのも事実。
 すでに2機のモナルコスが大破し、鎧騎士はモナルコスから脱出している。

──ドゴォッドゴォッ
 と、そんな中、パの陣営後方より、件のカオスゴーレムがゆっくりと進軍を開始した。
「やらせませんッ!!」
 その進軍ルートに回りこむパンター改。
 その上では、イリアが素早く印を組み韻を紡ぐ。
 高速詠唱による失敗を防ぎ、確実に発動させる為であろう。
「水よ、かのものを冷気で包みたまえ‥‥フリーズフィールドっ!!」
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 と、空気が冷たくなり、周囲の温度が下がりはじめる。
 そのエリアに、いよいよカオスゴーレムが入り込んだ刹那、イリアの魔法二発目が発動!!
「霧よ‥‥の空間を包み、視界を遮りたまえっ‥‥ミストフィールドっ!!」
──フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ‥‥
 霧が発生し、カオスゴーレムの視界を奪う。
 そして、そのフィールド発生が、集中放火の合図であった。

──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
 コンゴー艦首の精霊砲が、カオスゴーレムの居た空間に向かって発射される。
 そして引き続き、地上の魔法兵団が次々と範囲型魔法をフィールドに向かって発動。
 陸戦部隊は手にしたバリスタや弓を次々と叩き込み、その空間全てを破壊する勢いで攻撃を続ける。
 その間にも、ゴーレム兵団は体勢を整える。
 だが、敵ガナ・ベガとバグナは次々と後方に撤退し、そのエリアにはメイのゴーレムしか残っていない。
「いけたかっ!!」
 コンゴーのブリッジでそう叫ぶゼディス。
 艦首精霊砲は下方に向かっての発射は出来ない。
 そのため、コンゴーは地上すれすれまで降下し、精霊砲を叩き込んでいたのである。
「フィールドがまだとけません‥‥中のゴーレムがどうなったか‥‥」
 そう呟くブリッジ要員。
 だが、恐怖はその空間を飛び越えてやってきた。

──ドバァァァァァァァァァァァァッ
 ミストフィールドの頂点から飛び出すカオスゴーレム。
 その背後には、蝙蝠のような巨大な翼が広がっていた。
「ゴーレムが‥‥飛んだ‥‥」
 慌てて舵を切るコンゴー。
 だが、それは間に合わなかった。
──ドゴグシャァァァァァァァァァァァァァァァッ
 すれ違い様に、コンゴーのブリッジを蹴りつけ、破壊していくカオスゴーレム。
 そのまま制御が利かず、コンゴーが大地に向かってゆっくりと降下、そして艦首から大地に突き刺さると、その自重でコンゴーは崩れていった。
 乗っていたものの殆どがコンゴーと共に潰され、その命を失っていく。
 そんな光景を無視しつつも、カオスゴーレムはヴァルキュリアの前方200mにゆっくりと着地する。
「‥‥これがメイの騎士の戦い方か‥‥」
 そうカオスゴーレムの制御胞から声が聞こえてくる。
「強大なゴーレム相手に、もてる戦力を注ぐ、どこがおかしいっ!!」
 そう叫ぶグレナムに、カオスゴーレムのパイロットは高らかに笑う。
「笑止。大人に向かって実剣を振り上げる子供達か‥‥まあいい、ここは一つ、メイとバの威信を賭けて、ゴーレム同士の一対一と行こうではないか。騎士として受けるかね? 一騎打ちだ!!」
 そう叫ぶカオスゴーレム。
 鎧騎士はあくまでも鎧、すなわちゴーレムを扱う為に特化した騎士。
 それゆえ、騎士道を貴族の嗜みとして学んでいる。
 目の前の巨大なゴーレムの鎧騎士は、グレナム達に対して、騎士としての一騎打ちを所望。
 ゴーレムが戦場に投入されている現在でも、騎士同士の一騎打ちは存在し、それによって戦局が大きく動く事もある。
 それが今、オルボート城塞の運命を左右する結果となるとは、だれもが思っていなかったであろう。
 だが。
「黙れ!! カオスの力を取り込んだゴーレムなど、騎士として認めんっ!! そのような力にたいして、我等は騎士としての道理を貫く義理はない‥‥」
 ダンッとオルトロス制御胞の中で拳を打ち鳴らすガイアス。
「‥‥オーラパワー付与完了‥‥」
 その会話のさ中にも、トレントはパンター改でヴァルキュリアに対して接近し、下げている武具にオーラパワーを次々と付与していった。
「限界時間は6分。それ以上はオーラパワーの付与も切れます‥‥。実際に戦闘になったら、あとはこちらで付与しに来ることはできませんから、なんとしても後方に下がってくるか、それとも、この6分で全てを終らせてください」
 トレントが解放されている制御胞から顔を出しているハルナックにそう告げる。
「了解です。それまでに‥‥」
 そう告げると、ハルナックは制御胞のハッチを閉じる。
「ふぅ。ウィル騎士だった時代。騎士の一騎打ちはよく見ていました。大戦規模のものに適用される事も。でも、ゴーレム戦でというのは、エルム・クリークが得意としていましたねぇ。このメイに、それを受け入れることはあるのでしょうか‥‥」
 グレナム、ハルナック、共にメイの鎧騎士ではない。
 このメイの鎧騎士はガイアスとアルファの二人。
 そのメイの純然たる鎧騎士が、他国からやってきた鎧騎士にメイの『旗機』でもあるヴァルキュリアに乗られているのは、なんとも皮肉なものである。
 それゆえ、カオスゴーレムの告げる『一騎打ち』を容認し、それに対処することもできるのはウィルの鎧騎士。
 まさか、このような事態になるとは、ガイアスとアルファも思っていなかったであろう。
 二人にとっては、カオスはすなわち『目に見える敵』。バの国に与する存在といっても過言ではない。
 そのような『物』にたいして、メイの騎士は騎士道を貫くことができるか。
 頭では理解できていても、感情がそれを許さない。
『ゼディス殿‥‥生きておられるか?』
 そう風信機に向かって叫ぶハルナック。
『ああ‥‥なんとかな‥‥』
 コンゴー墜落時、なんとかグライダーなどで脱出した乗組員達。
『今から私の話を聞いて欲しい。敵カオスゴーレムは、メイとバのみの戦いにおいて、『一騎打ち』を所望している。当然ながら、騎士ならば、国の威信を賭けた戦いならば、それは受けなくてはならない‥‥』
 そのハルナックの思想はウィルの騎士のもの。
 このメイにそれが通じるかどうか、考えてみた。
 だが、ここでそれを行なわなくては、戦いは明らかに泥沼化する。
 今後、バとメイの戦いがどう流れるのか判らない現状、最悪のケースは避けなくてはならない。
 それを全て判断し、ゼディスは静かに決断を下す。
『前線指揮官として、それを受けよう‥‥』
 苦汁の選択と告げるに相応しい。
 もしそれを受け入れず、バの騎士道を無視した戦いを続けるならば、バはメイに対してさらに酷い報復措置を行うだろう。
 最悪のケースは、王都に対してカオスゴーレムの突入も考えられる。
 ならば、ここでメイも騎士道を貫くならば、敵バの国も騎士道を持って接してくると判断する。
『ならば‥‥ガイアス殿、ヴァルキュリアの制御胞、貴方に渡します‥‥』
 そう風信機に向かって叫ぶハルナック。
『な、わ、我が輩が‥‥やるのか‥‥』
 そのハルナックの言葉に、武者震いするガイアス。
『それは‥‥』
 と告げて、ゼティスも言葉を止める。
『それが道理だな。オレやハルナックは、この旗機を預かっているがウィルの鎧騎士、言わば『外様』だ。国の威信のかかった、とくに、オルボート城塞の運命を決める戦いに参加すべきではない‥‥』
 グレナムもそうゼディスに進言する。
(‥‥このメイで、ウィルの鎧騎士よりヴァルキュリアを扱える騎士が殆どいないというのも‥‥なんとも皮肉だな‥‥)
 そう考えつつも、ゼティスはオルボートの運命をガイアスに託した。



●帰還
──オルボート→メイディア
 先に逃げ延びた者たちは、さらにメイディアへと進む。
 そしてオルボートを出たディアネー・ベノン子爵もまた、メイディアに進む。

 オルボート城塞はほぼ無傷のままバの国に明けわたし、前線は更に激しさをます。
 5型艦には残ったヴァルキュリア1機と、残骸となったヴァルキュリア、そして最後まで抵抗を続けたオルトロスが格納されている。
 一行は、苦い敗戦を味わい、メイディアへと戻っていった。

 オルボート城塞‥‥陥落

 そして戦いは、まだ続く。

──Fin

(代筆:一乃瀬守)