【第三次カオス戦争】エイジス砦攻防戦:前
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月02日〜11月05日
リプレイ公開日:2007年12月07日
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●オープニング
●壮大なフェイク
「カオスニアン勢力が西進した」という情報は、メイディア王宮にあわただしく伝わった。すでに各地で戦端が開かれ、個々にはかなりの規模の戦闘が行われている。なぜ「あわただしく」なのかというと、敵の攻勢はラケダイモンに行くと「大勢派」は思っていたからだ。ラケダイモンを陥落させれば、バの国から戦力を呼び込むことが出来る。そうなれば、過去のカオス戦争の再来である。強壮な大国と二正面作戦を展開せざるを得ないメイの国は、苦戦必至であった。
ゆえに宮廷の多くの者はラケダイモンの戦力強化を提唱し、そして実行された。賢王であるステライド王も、それに否を唱えなかった。
それが『アトランティス人の限界』であることは、天界人たちには自明だった。バの国+カオス勢力の連合軍はかつて、メイの国を滅亡させかけたのである。それはすでに、民族的なトラウマと言ってもいい。
しかし、冒険者たちだけが知っていた。敵の首長――もっと言うなら今回の『戦争』をコーディネイトした人物である天下太平左右衛門長上兼嗣――つまり日ノ本一之助の目的が、勝利では無いことを。
『戦争に勝つため』なら、バの国を巻き込んだほうが都合がいい。これは100パーセントの確信を持って言える。戦争はなんだかんだで『数』だからだ。
だが戦争結果に収斂するものが勝利ではない場合、その原則はは当てはまらない。つまり本戦争は、今までのアトランティスが経験したことのない『未知の戦争』をしているのである。
そしてまったく妥協も猶予も無いことに、そのイニシアチブは戦争を仕掛けた側に存在する。目的の設定を先にしたほうが、選択の幅が広いのだ。攻勢か守勢かというだけでも、攻勢側には『攻撃するorしない』という選択肢が発生する。しかし守勢側に『守らない』という選択肢は通常無い。理由は簡単だ。抵抗しなければ生活基盤が無くなるからだ。あとは『逃げる』ぐらいしか選択肢が無いが、守勢というのは通常拠点を持っている。ましてや城塞都市といった『市民』が存在するなら、逃亡は不可能である。
ゆえに、攻撃イニシアチブを取るというのは非常に重要な行為なのだが、あいにくカオス勢力はその卓抜した機動力で移動中の捕捉を困難にさせている。ゆえに後手後手に回る場合が多く、そしてその状況を打破するには『後の先を取る』以外に無い。
つまり敵が襲撃のために集結したところを、全力でたたくしか無いのである。
●エイジス砦の異常
エイジス砦はメイの国で2番目に新しい砦で、そして現在は廃棄されていた。カオス勢力の侵攻がオルボート城塞によって牽制されることで、小規模のカオスニアンが拠点として使用することは可能でもその役目は失われたはずだった。
役目を失った以上は、重要視されることも無い。結果エイジス砦に「かまける」ための兵力は、もっと重要な拠点に振り分けられた。金も人も無限では無いからだ。
しかしそれは常識論であり、あくまで原則論でしかないことをステライド領の重鎮は認識することになった。
現在メイの国じゅう――そうメイの国『じゅう』である。彼らカオス勢力はメイの国で文字通り縦横無尽に動き回り、八面六臂の活躍をしている。敵対勢力をほめるのはどうかと思うが、通常の兵站戦略では説明のつかない事象であった。
そして、実にシンプルな論理的帰結に達したのである。誰かが、カオス勢力を支援している、と。
むろんメイの国内部に『そういうの』が居るとは思いたくは無い。しかしメイの国内部を自由に動き回れるのはメイの国に基盤を持つ者である――と、王宮の重鎮は考えていた。
「でも違ったのよね」
と、冒険者ギルドの烏丸京子が言った。
「新兵器が新しい戦争を現出させた――それはみんなの知っているコトだと思うけど、天下太平なにがしは相変わらず先を行くのが大好きみたい」
京子の話を要約すると、次のようになる。
遺棄されたエイジス砦は、防衛拠点としての機能は持ちあせていない。双方が徹底的に利用してそれなりに破壊したからだ。
が、その過程で冒険者たちは『ゴーレムを労働力として利用し城塞機能を(一時的にでも)回復させる』という作戦を行った。そして天下太平以下略はそれを10倍ぐらいの規模で行ったらしい。
結果、防塁としての城塞機能は文字通りあっという間に回復し、そしてこれまた冒険者がやった作戦だが、城塞内部にフロートシップを待機させて第2陣兼兵力移送基地として機能させているという。
敵兵力の『数』は少ない。あってもせいぜいカオスニアンが100〜200人程度。ただし、ゴーレムの数はバグナ級ストーンゴーレムだけでも10騎は居る。また未確認だが、かなり大型のゴーレムも偵察兵によって目撃されているらしい。
そしてこれが意味することは、つまりバの国が非公式非公然ながら支援しているということだ。
「バの国が支援しているのは、昔のカオス戦争と同じ補給部分。輸送方法はおそらくフロートシップ。つまりエイジス砦の機能を停止させれば、自動的に各方面の兵站はとぎれ補給も止まるわ。他にほとんど敵ゴーレムが出ないと思ったら、少数の兵力でガッチガチに守勢を固めるためにゴーレムを使用しているワケ。アレね、チキュウとかいう世界の『スポーツ』というヤツで、1点先取して後は守りに入るような、地味だけど嫌な手だわ」
そして京子は、「あの人らしいけど」と付け加えた。
「兵站つぶしっていう地味な仕事だけど、派手な戦いになるわよ。少なくともバグナが10騎近くかそれ以上。そして任務の重要度は特Aクラス。エイジス砦を潰せば、メイのカオス勢力は早晩息切れするわ。そして最大懸案事項は、多分ココには天下太平なにがしが居るってことよ。真っ正直にやり合ったら何をされるか分からないし、かといってあいつを出し抜くのは至難の業。知力・体力・時の運全部身方につけて、それでも実力に物を言わせるような気持ちでいかないと、返り討ちに遭うわよ」
寡兵で敵を倒す能力については、日ノ本一之助は何度も高い能力を『実証』している。『安定感のある奇策』は彼の得意分野だ。
「知力でも武力でもいいから、何かでヤツを上回ること。国も支援してくれるから、最大限利用なさい」
京子が言った。
■貸与兵力
・コンゴー級フロートシップ×1
・エルタワ級輸送艦×1
・5型艦×2
・ヴァルキュリア級シルバーゴーレム×1
・オルトロス級カッパーゴーレム×2
・モナルコス級ストーンゴーレム×10(うち5騎はNPC鎧騎士が支援搭乗予定)
・鎧騎士5名(戦闘技術はせいぜい専門)
・兵士100名
・そのほかについては申請による
●リプレイ本文
●始まりはいつも突然
──メイディア→エイジス砦
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコ
コンゴー級フロートシップは、ゆっくりと目的地であるエイジス砦に向かう。
今回の作戦では、本来はかなりの数のゴーレム機器のバックアップを受け入れる事が出来たらしいが、実際に稼動しているのはコンゴー級フロートシップのみ。
「ここまでは問題はないでゴザル。ですが、敵戦力が本気でやってきた場合の対処については、どうするでゴザルか?」
そう提案しているのは服部肝臓(eb1388)。
目的地であるエイジス砦に付いてからの作戦について、今一度推考している所である。
具体的には、ゴーレム部隊で敵戦力を計り、その間に服部が砦内部に潜入。
内部情況を調べて後、全員で撤退という方法である。
が、逃げる場合の状況を全く考慮していない。
この手の強行偵察については、攻めよりも逃げを重要視する必要が有るにもかかわらず、それらしい具体案は出てこない。
「ゴーレムチームとしては、最低限の戦力による強行偵察がベストと考えている。そのため、敵戦力の片鱗が見えてきたら、その時点で撤収する予定でいるのだが」
伊藤登志樹(eb4077)がそう告げる。
その方向性には、他の鎧騎士も賛同しているらしい。
「サイレントグライダーが調達できれば問題は無かったのだが、ないものを言ってもな。伊藤の作戦で問題はないと思う」
そう告げるのはシュバルツ・バルト(eb4155)。
「ああ、俺も問題ない。与えられた任務を遂行するだけだ」
スレイン・イルーザ(eb7880)がそう告げると、横で座っていたシュバルツが今一度肯く。
「歩兵部隊としても問題はありません。ゴーレム部隊と連携を取り、深追いはせずに行きたいと考えています」
トレント・アースガルト(ec0568)も数多くの兵士を預かる身として、皆の作戦が妥当であると判断、そう皆に告げる。
そういうことで、作戦に付いての最終的な打ち合わせは決定した。
とにもかくにも、相手はあの『知将・日之本一之助』。考え過ぎというのは存在しない。
様々な局面を計算し、常にベターな選択肢を選ぶ必要がある。
また、この場合選択するのは『ベスト』であってはならない。
『ベスト』を計算し、それにたいしての対処をするのも、また日之本であるから。
やがて、フロートシップは目的地である『エイジス砦』に近づいていく。
ゆっくりと高度を下げ、そして地表ギリギリでゴーレム部隊を投下する。
引き続き、歩兵部隊もラダーを伝って地上に降りると、いよいよ作戦開始となった。
そのままフロートシップはここで待機、皆が無事に戻ってくるまでひっそりとその身を隠している必要があった。
間もなく、撤退用の高速輸送型フロートシップも到着する。
それが到着した時点で、作戦は開始された。
●乾坤一擲
──エイジス砦付近
「敵カオスニアンを確認‥‥」
茂みに隠れているトレントが、後方で待機している兵士達にそう告げる。
その言葉に、コクリと肯くと、音を立てずにゆっくりと戦闘態勢を取る兵士一同。
そして‥‥。
──ドシュッ
偵察兵らしいカオスニアンの背後を取り、オーラパワーを付与した槍で敵を背部から貫く。
慎重に、そして他のカオスニアンに悟られぬように。
「ウ‥‥ガ‥‥ガァ‥‥」
カオスニアンも何かを告げているらしいが、口から吹き出している真紅の泡で言葉にならない。
貫いた槍をそのままえぐるように動かしてとどめをさすと、そのまま死体を大地にうち棄て、槍を抜く。
「敵残存兵力の確認を。各兵3人1組で偵察任務開始‥‥半刻後にここに集合、報告を待つ‥‥」
そのトレントの言葉に肯くと、兵士達は散開して偵察に向かった。
──半刻後
偵察に向かった兵士が全員帰還。
そして受けた報告は以下の通りである。
・以前とは違い、エイジス砦の四方に『ゴーレム専用扉』が存在する。
そこからゴーレムは出撃すると考えられる。
・砦自体の強度も補われている。外壁がさらに強化され、ゴーレムによる『破壊鎚』での攻撃も受止められると推測される。
・砦上部には新たに監視搭らしきものまで設置、そこから地上を動くものを確認できるのであろう。
・物見台とは別に、『精霊砲』らしきものを設置している搭が存在する。そこから『空戦』を仕掛けてくるゴーレムシップを打てるらしい。
「という事です。この先、我々歩兵は随伴兵として飛び出してくるカオスニアンやバの兵士を討つ方向でいきます」
得られた情報を、風信機で各機体に連絡をするトレント。
そしてここからが、作戦の本格開始である。
トレント達は兎に角、敵の戦力の片鱗を見たら退散する。
それまでの随伴ということになっている。
──ドシィィィィィィィン
カオスニアン達を引き付けるような激しい踏み込み音。
重厚な装備に身を包んだ『モナルコス』が3機。
ゆっくりと砦に向かって歩きはじめている。
「こちらモナルコス1・伊藤。作戦を開始する」
「モナルコス2・シュバルツ了解」
「モナルコス3・スレイン了解」
そう風信機を使って返信を返すと、そのまま近くに集ってきたカオスニアンにたいして手にした長槍を薙ぐ。
その動きに、カオスニアンは持ち味を生かした機敏な動きで躱わしつつ、砦に向かって逃げていく。
やはりゴーレムが相手の場合は、カオスニアンでも対処できないのであろうか。
「このまま敵の出方を見る‥‥」
「了解。それにしても、敵の動きが早いわね。追撃に動くでも無く、かといって、余計な戦いは行なおうとはしない。もっとも、ゴーレムが相手だからかもしれないわね」
「いずれにしても、こっちとしては都合が良い」
伊藤にたいして、それぞれが意見を告げる。
やがて、前方から巨大な足音が三つ響いてくるのを確認すると、ゴーレム部隊もゆっくりと進撃を開始した。
──一方・砦にて
カオスニアン達の報告を受けて、砦内部は慌ただしくなっている。
正面の門に向かって、内部で駐留していたゴーレム達が移動開始、いつでも出撃できるように鎧騎士たちまでスタンバイしている。
そして横の小さな入り口からは次々と装備を固めたカオスニアン達が走り出している。
軽装鎧を身に纏っている所から、レンジャータイプの動きをする部隊なのだろう。
(兎に角、内部の動き、装備、配置を知ることが重要でゴザルからのう‥‥)
服部は入り口が開いた隙に、素早く砦内部に潜入。
ゴーレムの装備などが納めてある箱の影に回り込むと、さらに人影をうまく利用して砦内部に突入した。
そのまま人気の無い方向を目指して移動しつつ、あらかじめ『宮廷図書館』で入手した地図と内部を照らしあわせつつ、先に進む。
──そして
かなり時間が経過してた。
地上エリアの調査はほぼ終了し、内部には複数の『巨大恐獣』が飼われているエリアまで確認できた。
そこでは3体の大型肉食恐獣が飼い馴らされていて、いつでも出撃できる準備をしているらしい。
ゴーレム保管庫については、さすがに監視の目が多い為に潜入は出来なかったものの、周辺で耳を傾けているだけで、ここには大体5機のゴーレムがある事が確認できた。
そしてここの地下区間には、一般兵が近づけない『何か』があるらしい事も。
(地上エリアの戦いは、かなり引っ張っているでゴザル。ここは撤退するか、それとも‥‥)
服部は戦う必要は無い。
最悪、自身の身を護る戦い以外は、潜入調査する忍者には無用。
ならば、あと少し‥‥。
そう考えて、さらに未知の世界である地下区画へと向かった。
──地下区画
(‥‥随分と変えられているでゴザルな。ここは確か小部屋が密集してあった筈でゴザルが‥‥)
その区画には、なにもない。
本来は廊下にズラリと並んでいた扉が全て撤去され、扉があった場所は塗り固められている。
正面からの通路の部分にはゴーレムサイズの木製の扉が一枚。
そして、その扉に記されている一種異様な文字配列。
(‥‥嫌な感じでゴザルが‥‥)
──ガキィィィィン
柱の影で観察していた服部に向かって、何かが飛んでいく。
それを瞬時に引き抜いた『手裏剣』で弾きかえすと、その飛んできた方向に対して身構える。
「‥‥ほほう。バの間者でゴザルか‥‥」
口許を覆面で被いつつ、服部は戦闘スタイルに切替える。
「曲者が‥‥そこから先には向かわせぬぞ」
そう告げている存在は、瞬時に印を組み韻を紡ぐと、服部に向かって掌を突き出す!!
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
突然掌から炎が吹き出し、服部を襲う。
「その技は火遁!!」
衣服の一部を焼かれ、素早く廊下に転がって炎を消す服部。
そして素早く体勢を整えると、アゾットを引き抜き、逆手に構える。
足を大きく開き、そして腰を落として重心を安定させる。
アゾットの手は後方にそして左手は前に突き出し印を構える。
「‥‥拙者は生きて帰らなくてはならぬ‥‥ここの情報は、奪わせていただいたでゴザル!!」
そのまま瞬時に間合を詰めて、バの間者に向かって逆手にしていたアゾットを薙ぐ。
──ガギィィィィィン
バの間者も捨てたものではない。
同じように、逆手にしていたアゾットで弾くと、再び左手で印を組む。
「同じ手は通用しないでござるっ!!」
素早く手裏剣を飛ばして印を阻害すると、服部はアゾットで斬りかかった!!
──ガギインガギィン
間合を放すと印を組まれる。
ならば、長至近距離からの連撃で、相手に隙を与えない。
そう考えた服部の連撃を、敵の間者は受止めるのが精一杯。
「‥‥折角でゴザル‥‥名を聞いておこう」
「ふっ‥‥我等間者、主君にあだ成す者に告げる名は持たぬ‥‥」
口許辺りの覆面が揺れる。
「その心意気、良しでゴザルが‥‥」
──スルッ‥‥
打ち合ったアゾットがスルリと抜けて、敵間者の喉元に突き刺さった。
そう、服部が手首を変えたのである。
そのまま何も告げず、なにも語らずに絶命する間者。
「ふう‥‥なにはともあれ、ここは予想外の場所でござるな‥‥」
目の前には、先程の巨大な扉。
そこに記されている文字は今だ何か判らないが、かなり危険なものであろうと服部は感じた。
文字を見ているだけで、背筋に鳥肌が立つ。
まるで、心の臓を握られているような感触であろう。
──コツコツコツコツ
と、奥のほうからこっちに歩いてくる無数の足音を確認する服部。
(ここが目的でござるか‥‥)
そう考えて、手裏剣を柱の影に突き刺し、上に飛ぶ。
そのまま天井近くに潜んで様子を伺っている服部。
「いいですか、敵はメイのモナルコスです。わざわざ貴殿が出撃する必要はないのでは?」
そう話しているのは恐らくはこの砦の責任者かなにかなのであろう。
前をカツカツと歩いている、銀髪の少女に、身振り手振りを交えて告げているが、少女は聞く耳を持っていないかのように、無視をして扉の前にやってくる。
「私は、本国よりこの『パワーズ』を授かった。このメイ遠征の目的の一つに、パワーズの機動実験があることを忘れたのか?」
少女は表情一つ変えずに、そう責任者に告げる。
「判っています。けれど、まだパワーズは眠っています。あれを無理に起こして、本国の工房がひとつ廃墟となったという噂は聞いていると思いますが‥‥」
汗を吹きつつ告げる責任者。
「だから私が作られた。パワーズと私は一つ。私がパワーズと一つとなれば問題はない‥‥」
そう告げて、少女は扉の前に立つ。
「ディ、ディアマンテ殿‥‥それだけは‥‥」
そう告げる責任者の意志を無視しつつ、扉がゆっくりと開かれていく。
(‥‥死‥‥)
その刹那、服部は逃げた。
体の中を、意識の奥底に至るまで、死が迫ってきたのである。
あと一瞬、その場から逃げるのが遅かったら、自分は死んでいた‥‥
そう考えつつも、服部はすでにこの場からの撤退を余儀なくした。
最後に見た、扉の向うの『黄金鎧のゴーレム』。
それを報告する為に。
●眠りから覚める悪夢
──ガギィィィィン
激しい打ち合いが続く砦外。
モナルコスと敵ゴーレム『バグナ』の戦いが、続いていた。
ただ黙々と格闘戦を続けるスレインと敵。
その側では、シュバルツも敵バグナを一機撃破した後、次の目標と戦っていた。
引き際を逃すと、この戦いは敗北する。
敵の戦闘データは十分に確認した。
「あとは、いつここから撤退するか‥‥」
そのタイミングをじっとシュバルツは考えていた。
同じ様に、伊藤もまた戦っている。
こっちは時間をかけて、敵の動きを見ている。
正門からゴーレムが飛び出してきて、その直後に閉ざされた。
飛び出してきたカオスニアン達は、トレントの指揮する兵士達と激しい戦いを繰り広げられている。
それらの周囲状況一つ一つ確認し、そろそろ引き際かと考えた矢先のこと。
──ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイン
突然、砦より『鏑矢』が放たれた。
それは服部の退去合図ではなく、あきらかに敵の放ったものであろう。
その音を聞いた瞬間、カオスニアン達は手にしている武器を棄ててまで、森の奥に走り出す。
バガン達ですら、打ち合いを止めて、森に後ずさりを開始していた。
「一体なにが始まる‥‥」
そう考えた刹那、シュバルツの視界に、服部の狼煙が見えた。
「あの色は‥‥強行撤去!! 伊藤、急いでここを離れる。なにかヤバイものが動き出す!!」
そのシュバルツの言葉に、スレインのモナルコスも肯く。
その刻。
悪夢は起こった‥‥。
──ドゴォォォォォォッ
突然内部より破壊された扉。
その向こうで、黄金に輝く鎧を纏ったゴーレムが一機、その場に立ち止まっている。
「バの新型‥‥全機撤収!!」
伊藤がそう指示を飛ばす。
素早く全機が森の奥に向かって走り出す。
──バギ‥‥ゴギッ‥‥
その後方で、なにかが砕けていく音が聞こえる。
距離をおいて、一行が振り返ったとき、それは見えた。
敵黄金のゴーレムが、味方のバグナの制御胞を破壊している。
そこから生きたまま引きずり出された鎧騎士が、黄金のゴーレムの背後から伸びている触手に巻き付かれた。
そして、その触手の先にある巨大な顎によってかみ砕かれ、呑み込まれていくのを見たとき、伊藤は吐き気を感じた。
「あ、あれは危険だ‥‥生きた人間を食らうゴーレム‥‥あんなの報告にない‥‥」
そう叫んで、急いで合流地点に向かう。
あれと戦うには、『モナルコス』では無駄だ。
一撃の元に制御胞は破壊され、あの触手に喰われる‥‥。
──シュンッ!!
「あれを見たでゴザルか‥‥」
いつのまにか服部が合流し、3人にそう問い掛けている。
「ああ、あれは一体なんだ?」
スレインがそう問い掛けたとき、服部は一言、こう呟いた。
「詳しくは後程。あれは封印されていたゴーレム、名を『パワーズ』と申すでござるよ‥‥」
そのまま合流地域にたどり着くと、待機していたフロートシップに乗り込み、急ぎその場を脱出した‥‥。
●報告
──メイディア、ゴーレム工房
無事に帰還したコンゴー級フロートシップ。
次の作戦の為に急ぎ整備を行う必要が有ったので、フロートシップとゴーレムは指定の『停船場』に着陸。
そこから技師たちによってゴーレムは降ろされ、全身を覆う鎧がまず外される。
その時点で、『鎧鍛冶師』によってゴーレムの鎧及び装備などは打ち直される。
素体となったゴーレムは、そのまま工房に運ばれ、綿密な検査を行う‥‥。
モナルコスのメンテナンスを兼ねて、一行はゴーレム工房にやってくる。
そこで、今回の作戦に協力してくれる責任者の一人『アルト・ハイルマン』に告げた。
彼も又ゴーレムニストであり、様々な独自研究をしているものである。
「ハイルマン技師長、ちょっと教えて欲しい事があるのだが」
休憩室でフロートシップの図面を睨みつけているハイルマン技師長に、伊藤がそう話し掛ける。
その後ろでは、あの衝撃のシーンを見ていた鎧騎士達と兵士、服部の姿もある。
「ああ、なんでしょうか?」
「人を食べるゴーレムについて教えて欲しいのですけれど‥‥」
そう問い掛けるシュバルツに、ハイルマン技師長は腕をくんでしばし熟考。
「うーーーーん。元来、ゴーレムは生命体ではないですから、『捕食』、すなわち何かを食べて力を得るという行為は発生しない。そんなことしなくても、人が乗ればゴーレムは起動する‥‥人の存在がゴーレムの力となる」
その説明を聞いていて、ふと、スレインが問い掛ける。
「逆に考えれば、意志を持っているゴーレムが存在して、自らを動かす為に『人の持つ生命というエネルギー』を得る為にというのはありなのか?」
「いや、それはないでゴザル。拙者、あの『パワーズ』というゴーレムの搭乗員を見ていたのでござるよ。ということは、あのゴーレムが単体で動くというのは‥‥」
そう告げて、再び話は振り出しにもどる。
「いや、ちょっと待ってくれ。服部の聞いた話では、確かにこう話していたんだよな? 『私が作られた。パワーズと私は一つ。私がパワーズと一つとなれば問題はない』って」
伊藤が服部から聞いていた報告を思い出す。
「その通りでゴザル」
「その女は人間か?」
そう問い掛ける伊藤。
「拙者の見た限りでは、人間でゴザルが。ただ、どうもこう‥‥そういえば何か欠けているような感じはあったでゴザルよ」
その服部の言葉に、トレントも頭を捻る。
「さっきの話し方だと、どう考えてもその女性はゴーレムの為に作られたということだよな。けれど、どう見ても人間。ということは、バの国は、『ゴーレムの為に』搭乗する人間を作るのか?」
トレントの言うことも納得。
確かに、服部の報告だけではまだ何かが足りない。
「ハイルマン技師長、俺達の会話から、なにかヒントは見つかったか?」
伊藤がそう問い掛けると、ハイルマンは腕をくんで考えるが。
「まだどうも、あっちの国のゴーレム技術というしかありませんね。せめてサンプルだけでも持ってきて頂けると、細かく研究できるのですが‥‥」
そう告げると、さらに伊藤がハイルマン技師長に話をふる。
「可能であれば、次の出撃でサンプルは奪取します。ところで技師長、このようなものを作る事は出来ますか?」
そう告げて、伊藤がなにかの図面を見せる。
それはゴーレム専用の『パラグライダー』。
元々天界人である伊藤は、平面で作戦を行うゴーレムに、さらに立体的な作戦も可能にする為、天界の技術を持ってきたのである。
幸いな事に、伊藤のこの作戦は、以前彼がウィルに居たときにも発案していた。
その時は失敗に終っていたのだが、あれからさらに詳細を考える時間があったらしい。
「可能であれば。ですが、それは実現が難しいです‥‥」
そのハイルマン技師長の言葉に、伊藤が肯く。
「ゴーレム用のパラグライダーでの空挺降下は、今後の作戦に有利な展開を持っていく事が出来ます。もしそれが駄目でも、頑強な長いロープを用意してフロートシップからリペリング降下をする事で、砦上空からのゴーレムを降下させての攻略も可能になるかと」
そう告げられると、ハイルマン技師長が頭を捻る。
「いずれの提案についても、『ゴーレムの自重』を支え耐えうる素材の開発が課題と成りますね‥‥」
そう告げると、ハイルマン技師長は作業の為にその場をあとにする。
そして一行も、今後の為の作戦を考えることにしたのである。
フルメンテナンスで、再出撃までに稼げる時間は7日間。
その間に、なんとしても対策と次の手を考える必要があった。
(代筆:一乃瀬守)
──Fin