暴れん坊藩主#1――ジャパン・箱根
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月18日〜10月25日
リプレイ公開日:2004年10月22日
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●オープニング
■サブタイトル
『包丁がつないだ親子の絆! 箱根湯本御料理人騒動! #1』
●ジャパンの事情
極東の島国、ジャパン。
表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の被支配地の、西端というわけだ。
藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。
「今回の依頼は、大野進之助(おおの・しんのすけ)っていうお侍さんから来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、この包丁の片割れを探すこと」
木綿のさらしに巻かれたそれは、一本のなんの変哲も無い包丁だった。銘は『鐡休』と刻まれている。
「『堺の鐡休(てっきゅう)』と言えば、西国では少しは知られた包丁職人のものね。この東国にはそんなに無いはずよ。で、なんでこの包丁の片割れを探すのかと言うと、依頼人のところに居る子供が親を探して、この箱根まで来たのよ。手がかりは、この包丁と箱根のどこかに居るという噂話だけ。雲をつかむような話だけど、わりと現実的な話だと思うわ」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「父親の名は嘉吉(かきち)。今なんて名乗っているかはわからないわ。依頼人の大野様は‥‥まあ、貧乏旗本の四男坊で冷や飯食いだけど、払いはいいわよ。懇意にしておくといいんじゃないかしら。このギルドの宿屋に居るから、報告は細かくしてあげてね。じゃ、よろしく」
京子が、言った。
●リプレイ本文
暴れん坊藩主#1――ジャパン・箱根
『包丁がつないだ親子の絆! 箱根湯本御料理人騒動! 1』
●封建君主の御膳番
ジャパンでの封建君主は、強大な権力を持ちながら実のところ湯漬け一杯自由に食べられないのが実情である。それというのも食事に毒を混入されている可能性が否定できず、その食事を検分する『毒見役』なる要職が必要とされる状況だからだ。
君主の食べる食事はその毒見役が一度箸をつけたもので、汁は冷めご飯は冷え切り、おかずは脂抜きされたスカスカのものばかりである。もちろん外出しての飲食は厳禁。なんとも不自由な立場であった。この辺の話は、古典落語の『目黒の秋刀魚』あたりを聞くと面白く聞けるだろう。
だから領主の食事を作る料理人――御膳番(ごぜんばん)は、腕もさることながら信頼の面においても充分なものを持っていなければならない。大藩になればなるほどその傾向は強く、ジャパン慣例の世襲制度なども相まって、ガチガチに凝り固まって行き詰まっているのが現状だ。
そこで、小田原藩はどうだろうか? 江戸の西端を任される11万5千石と言えば、まずまずの中堅どころということになるだろう。比較例を挙げれば、後に『忠臣蔵』で有名になる赤穂藩は5万石である。だが藩内に箱根という名所を持つこの小田原藩は、石高の割には経済的に潤っていて、同じ11万5千石の他藩と比べると、実際はかなり良い状況にあると言える。それ分領主の地位は重要であり、もちろんより不自由な思いをしているはずだ。
「とまあ、こちらのご領主である大久保忠義様は、不自由な暮らしをしていて、たいそう困っているそうだ。そこで新しい御膳番を探しているらしい。いや、これはあまり関係ない話だったな。はははは」
そう無闇やたらとさわやかな口調で冒険者たちに言ったのは、依頼人の大野進之助という侍である。まずまず精悍な部類に入る人間の男で、こざっぱりした印象の気さくで明るい侍だった。貧乏旗本の四男坊という立場だそうだが、役にもついておらず日々箱根界隈をほっつき歩いているという。まあ武家の四男と言えば、受け継ぐ財産も無きに等しい身軽な身だ。浪人とは違うというだけの話で、その実はただの暇人であろう。
ここは、箱根の冒険者ギルドの宿屋。件の依頼人『進さん』こと大野進之助の居室である。そこには農民らしい10歳ぐらいの子供がいる。手足は細く、あまり栄養状態も良く無さそうだ。
名前は、傘次郎といった。
今回、この傘次郎の父親、嘉吉探しの依頼を請け負ったのは、次の冒険者たち。
イギリス王国出身。人間のナイト、ルーラス・エルミナス(ea0282)。
命の重さを知り、命の尊さを知る白装束の騎士。剣で自分の道を切り拓き、祖国イギリスに忠孝を尽くしたいと考える『まだ』一介の冒険者。将来が嘱望されるが、今は精進の時である。
ジャパン出身。人間のくノ一、久遠院雪夜(ea0563)。
下手の横好きというが、彼女の料理は決して下手ではない。だが上手くもない。だけど人に振舞うのは大変好きというから、付き合わされるほうは微妙である。エキセントリックな性格は、ちょっと忍者には向かないか? これも微妙だ。
ジャパン出身。人間の浪人、鬼頭烈(ea1001)。
一言で言うとデブオタ(差別用語?)なのだが、見かけにだまされてはいけない。教師を生業とする知識人で、剣の腕も立ついっぱしの武士(もののふ)なのである。面倒見の良い性格で頼まれたことを断れないのは、ちょっと損な性格かも。
華仙教大国出身。エルフのファイター、月朔耶(ea1286)。
白髪紅眼の、アルピノのエルフ。エルフの中ではわりと居るが、やはり人間世界では目立つ容貌だ。年齢は暦で40というから、人間に換算すると13、4歳になる。こちらも料理好きだが腕は無い。
ジャパン出身。人間の忍者、十三代目九十九屋(ea2673)。
自称商人を標榜する青年忍者。ただ目的のために手段を選ばないところや、その勤勉さの裏に潜む心の悪どさは、刃で心を隠す『忍び』としては得がたい才能かもしれない。ただ赤い髪の毛は目立つのでちょっとなんとかすべきであろう。
ジャパン出身。人間の浪人、白銀剣次郎(ea3667)。
老齢ながらの駆け出し冒険者だが、その陸奥流武術はいっぱしのもの。ただ攻撃一辺倒なのは、まだまだ修行の余地あり。戦闘フェチだが明朗快活、わりと健全に歳を取った部類に入るじじいだろう。セクハラ発言が多いのを除けば。
ジャパン出身。ジャイアントの女志士、鷹波穂狼(ea4141)。
海の女といっても海女ではない、男たちに混じって力仕事の漁をする海人(うみんちゅ)。でも本業は志士で魔法も遣う知性派女傑でもある。気風がよく伝法な啖呵を切るあたりなかなかに揉まれた人生を歩んでいるようだ。
ジャパン出身。人間の女浪人、馬籠瑰琿(ea4352)。
三十路はとっくに過ぎたが、まだまだ若々しく凛々しい女浪人。気も若く意気軒昂だが地味な仕事もきっちりこなす職人気質。極めつけに好きというわけではないが、いつもどぶろくを持っている。こちらも伝法な啖呵を切る女傑。
ジャパン出身。人間の女侍、神楽聖歌(ea5062)。
おっとりしていて常にマイペース。しかし江戸では実力者に数えられる立派な冒険者。天然というなかれ、これでもいっぱしの学者である。もっとも、学者になって何に強くなったかと言うと、徹夜であるあたりアレだが。
ジャパン出身。人間の忍者、永倉平九郎(ea5344)。
とりあえず高いところから現れる、ある意味名物忍者。よく目立つが高すぎて降りれないこともしばしば。マヌケであるが、わりとそれで困ったことは無い。断崖絶壁の上で背後に満月というのが、彼の理想のロケーション。飛び降りることは出来ないが。
以上、10名である。人探しに向いているかどうかは、微妙なところだろう。
一同は進之助の宿所を基点に、箱根の捜索を開始した。手がかりは『鐡休』の包丁である。
●人相書き
「うん、よく似ているよ」
嘉吉の人相書きを見て、傘次郎は言った。
冒険者一同は、「まず顔がわからないと話にならない」ということで、絵師を頼んで嘉吉の人相書きを描かせたのである。
進さんのおごりで。
たかったとも言う。
まあ経緯はともあれ、最重要課題である人相書きは出来た。あとは『料理人』『鐡休の包丁』という情報を携えて、箱根界隈を探し回るだけである。
なお、進さんと傘次郎の居る宿屋には、冒険者一行の目印となる編み笠が下げられた。道に不案内な、外国人のための配慮である。
●嘉吉探し
ルーラス・エルミナスと神楽聖歌は、金物の研ぎ師を当たった。もちろん包丁研ぎである。
まあ、このころの研ぎ師は包丁と言わず、刃の付いたものなら刀でも大工道具でも何でも研いだ。箱根は人も多いから研ぎ師も多い。
「結構当たったと思うのですが‥‥噂ばかりですね‥‥」
「探し物ですから、丁寧にやるべきです。頑張りましょう」
ルーラスのぼやきに、聖歌が言う。
有名な包丁である『鐡休』であれば、研ぎ師の間で噂にならないはずが無い。着目点は非常に良いと思うし、実際的(まと)を得た行動だと思われる。
が、現状は噂が広まりすぎて「箱根に『鐡休』を使う料理人が居る」というのが定着してしまっていた。そこの料理屋であるとかここの宿屋であるとか、そのような情報ばかり入ってくる。これはさすがに、全部当たることは出来ない。
実は傘次郎が箱根に来たのも、この噂を追ってであった。つまり、『鐡休』の話が先にあったわけである。これでは見つからないのも当然だ。
久遠院雪夜、白銀剣次郎、鷹波穂狼は、進之助から『必要経費』という名の軍資金を得て、箱根の料亭や酒場などを渡り歩いていた。
いや、しかし飲むわ食うわ。
特にジャイアントの穂狼の飲みっぷりは賞賛に値する。雪夜も負けていないが。
「しかし雪夜、それ以上育ててどうするのかと聞きたい」
「別に育てる為に食べてるわけじゃないもん」
「栄養が全部、胸にいってるではないか」
「僕の胸はラクダのこぶじゃない――っ!」
ほほえましい掛け合いである。セクハラとも言うが。
「ところで女将」
穂狼が、ぎこちない口調で言った。
「『鐡休』という包丁を使う料理人を知らないかい? ちょっと探しているんだけどさ」
それに、料理屋の女将は不思議そうな顔をした。
「おや、また『鐡休』ですか?」
「は?」
穂狼が問い返す。
「いや、昨日もお武家さんがやってきまして。『鐡休の包丁は無いか』と聞きにきましてね」
「「「お武家?」」」
一同が、顔を見合わせる。包丁と武家。あまり関係がありそうに無い。
「何か嫌な予感がするよ、ボク」
雪夜が言った。
――父親に会いたいからって理由でここまで来るとは、凄いもんだ。その気持ち、叶えるしかないな。
鬼頭烈は、箱根宿を歩き回って聞き込みをしていた。人相書きを持って、ほうぼうを歩き回る。そして歩く人に人相書きを見せて、問いかけるのだ。
その彼がふと、人通りの無い場所に歩みだしたとき、その前後を4人の武家らしい人物が塞いだ。何か尋常ではない雰囲気で、刀に手をかけている。
「その人相書きをもらおう」
武家の一人が言った。恫喝するような口調だ。
「いきなりな挨拶だな」
冷ややかに、烈が言う。かなり反感を買いそうな言い方だ。半分はわざとそうした。このような無礼なヤツ相手に、まっとうな挨拶など基本的に必要ない。
ずららっ。
武士が刀を抜いた。かなり短気な部類に入る行動だろう。
「えやああああああっ!」
バキン!
切りかかってきた武士の刀が、折れ飛んだ。烈が刀を受け、<バーストアタック><スマッシュ>で破壊したのである。外見からくみし易しと思っていた武士たちは、かなり肝を潰したようだ。
「この件から手を引け。さもなくば命を落とすぞ!」
武士たちは、捨て台詞を残して去っていった。
「さて‥‥」
永倉平九郎が、建物の屋根から、その様子を見ていた。烈の後を、つけてきたのである。
平九郎はそのまま、屋根伝いに武士達を追い始めた。
その頃。
「まだまだ飲み足りないねぇ」
馬籠瑰琿は、酒場で情報集めがてらに飲んでいた。周囲には男どもが酔いつぶれて死屍累々という態である。
「さて、次の情報収集に行こうか」
その日、瑰琿は5升ほど飲んだらしい。
月朔耶と十三代目九十九屋は、古物や質を扱っている店を探索していた。
「信頼できる人から『箱根の品なら知らぬことは無い』と聞いて御宅をお伺いしたのですが、どうやら店を間違えたようですね」
「何をぅ? なら教えてやらぁ! 『鐡休』は『相野屋』って料理屋の嘉兵衛が持ってるわい!」
『ジャパン人って、単純だなぁ‥‥』
危険な言葉をそらっと言ってしまったのは、朔耶である。華国語なので質屋の主人には分からなかったが。
先の質問をしたのは、九十九屋のほうだ。交渉上手で、うまうまとタダで情報を聞きだしてしまった。まあ、それまでにずいぶんと足を方々に運びまわったのだが。
二人はその情報を手に、集合場所の宿屋に戻った。
●他人の振り
「お、俺には子供など居らん」
「父ちゃん‥‥」
相野屋の嘉兵衛は、進之助と平九郎を除く冒険者一同の待つ宿屋に連れてこられた。そこで感動の対面‥‥にはならなかった。嘉兵衛が頑なに、自分には子供など居ないと主張したのだ。
だが、嘘を言っているのはバレバレだった。あまり嘘の得意な人物ではないようだ。
「嘉兵衛、なぜ箱根に来たのだ?」
進さんが、嘉兵衛に問うた。それに嘉兵衛は、「食を極めるために」と即答した。
武士に武士道があるように、料理人にも道がある。その道を貫くために箱根に来た。嘉兵衛はそう言った。
「『食』に取り憑かれたか‥‥」
嘉兵衛を見つけた、九十九屋が言う。そもそも、『鐡休』という包丁を持っていること事態尋常ではないのだ。名匠は志の在る人間にしか包丁を打たない。刀工と同じである。
そこに、平九郎が帰ってきた。平九郎が、烈に耳打ちする。
「嘉兵衛さん、長岡という武家に心当たりは無いかい?」
烈が言う。平九郎が尾行した武士たちは、箱根宿のある宿屋に入り、そこには長岡義次(ながおか・よしつぐ)という偉そうな武家が居たそうなのだ。
「長岡義次と言えば、小田原藩の御膳番を争う武家の一つだな」
進之助が言う。
なにやら、雲行きが怪しくなってきた。
【つづく】
―――――――――――――――――――――――――【次回予告】――――――――――――――――――――――――
さてさて、小田原藩11万5千石の台所を預かる御膳番。その御料理番になにやらきな臭い気配! 長岡家は何ゆえ冒険者を襲ったのか? 嘉吉と傘次郎との親子関係は? 風雲急を告げる第2回オープニングは、10月25日ごろ公開予定! お楽しみに!