暴れん坊藩主#1−2――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月30日〜11月06日

リプレイ公開日:2004年11月01日

●オープニング

●今回の参加者

 ea0563 久遠院 雪夜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1001 鬼頭 烈(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1286 月 朔耶(17歳・♂・ファイター・エルフ・華仙教大国)
 ea2673 十三代目 九十九屋(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea4352 馬籠 瑰琿(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5344 永倉 平九郎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

暴れん坊藩主#1−2――ジャパン・箱根

■サブタイトル
『包丁がつないだ親子の絆! 箱根湯本御料理人騒動! 2』

●武家の役職というもの
 武士と浪人には、決定的な違いが一つだけある。
 それは、主君を持つか否かということだ。どんなに腕が立ち、どんなに重要な役目を持っていても、主君を持たない者は浪人である。
 例えば、後の世に『首切り浅』という二つ名で有名になる山田浅右衛門一族。彼らは『お試し役』という刀剣の切れ味を試す重要な役を得ているが、葵の御紋に仕えているわけではないので、浪人である。何度かその役を得んとして浅右衛門に挑んだ者も居たが、腕及ばず敗退した。
 しかし、山田家は望んで主君を持たなかったわけではない。誰も『首切り浅』――つまり山田家のもう一つの顔、罪人の首を切る刑吏である不浄職の山田家を、雇いたがらなかったのである。
 斬首は、公務である。つまり死刑の執行であるからだ。死刑を執行するのは、もちろん公儀でなくてはならない。だが、山田家を召し抱えようという武家が無い。つまり、武士ではあっても侍にはなれない。そこに、山田家の悲しさがある。
 しかし、侍には侍の悲しさがある。つまり、主君はあっても『無役』の者たちだ。
 無役というのは、その呼び名の通り『役(仕事)が無い』者たちのことである。
 武家の役の数は決まっている。それを上回る武士がいれば、当然人が余る。そういった人間は碌(ろく)を生まず、ただ武士という家に寄生虫のようにへばりついているだけ。リストラされたサラリーマンのようなものだ。仕事がしたくても、仕事そのものが無いのである。これは、働き盛りの人間にとっては辛い。
 時には、男子の居ない家に婿入りし、役を得る機会もあるかもしれない。しかしそういうのは本当に希少な例で、無役の者は無役のまま終わるのが普通なのだ。特にこの20年大きな戦争もなく、手柄を立てる機会の減った太平の世では、新しい役を得るのは生半可ではない。ましてや冒険者という職能が横行し、御用聞きのように物事を解決している昨今では、家にへばりついている意義もまた薄れてきている。実のところ、武士余りの武家社会の現状を維持しているのは、冒険者ギルドの存在と言っても差し支えあるまい。
 だが、武士は役を得るのに躍起になる。武士の本道は、主君を得て侍、ないし志士として生きることだからだ。そうでなければ、貴士農工商の根底が覆る。
 そして今回の事件は、その『役』にまつわる話のようだった。役の名は小田原藩の『御膳番』。貴重職である。

 今回、この『御膳番』に関わる長岡家の調査を請け負ったのは、次の冒険者たち。

 ジャパン出身。人間のくノ一、久遠院雪夜(ea0563)。
 無邪気で天真爛漫。感情に走りやすいのはちょっと問題アリだが、それでも充分優秀な部類に入る忍びである。料理を振舞うのが大好きだが、まだその腕は上がっていない。今回は下女(おさん)として長岡家に潜入。情報を集める。
 ジャパン出身。人間の浪人、鬼頭烈(ea1001)。
 前回襲撃を受けたという、冒険者本人。一見するとただのデブオタのようだが、実は結構な達人であることを証明して見せた。示現流の一太刀で、相手の剣を折ってのけたのである。まともに食らえば再起不能になっているところだ。今回は、長岡家周辺の情報収集を行った。
 華仙教大国出身。エルフのファイター、月朔耶(ea1286)。
 外見年齢13歳の、少年ファイター。しかしその生まれは凡庸なものではないらしく、両親家族はモンスターに殺され、現在親族はまったく居ないらしい。縁者に、武術の師匠とその孫が居るのがまだ幸いか。今回は、嘉吉親子の関係修復に奔走していた。
 ジャパン出身。人間の忍者、十三代目九十九屋(ea2673)。
 一言で言って、悪どく目的のために手段を選ばない人物である。だが商売人の顔でその本性を、すっかり隠してしまっているやり手の忍者でもある。今回も前回同様、商人のふりをしての潜入捜査。その成果に期待が持たれる。
 ジャパン出身。人間の忍者、島津影虎(ea3210)。
 ハゲで六尺(約180センチメートル)もの長身の、ある意味光り輝くほど目立つ容貌の忍者。説教好きでうんちく好き。さらに年寄りのように古臭い慣習や迷信に対して信心深く、なにかとゲンを担ぎがちという、わりとはっきりしたメンタリティを持っている。今回は屋敷の床下に潜んでの情報収集を行った。
 ジャパン出身。人間の浪人、白銀剣次郎(ea3667)。
 人情話に弱く、情に厚い老人剣士。明朗快活で嫌味も無く、まさに人生の達人ぶりを発揮しているようである。前回はセクハラじじいとか言われていたが、それもまたご愛嬌。今回は長岡家の家臣の中で、酒に弱く口の軽い者を探して接触を試みた。さすがにヨイショがうまい54歳。
 ジャパン出身。ジャイアントの女志士、鷹波穂狼(ea4141)。
 男のような出で立ちであながち嘘とも言い切れないのだが、中身は立派な女性である。ただちょっと最近は、気風の良さが失せてたかりのような行動が目立つようになってきた。世間に毒される前に我に返って欲しいところではある。今回は嘉吉親子の関係修復の為に動いた。
 ジャパン出身。人間の女浪人、馬籠瑰琿(ea4352)。
 酒好きで酒好き。何かと酒で勝負したがる36歳のおばさん。でも気は若く見かけも若い。虫が苦手というから、カマドウマとかゴキカブリとかが出ると面白いことになるかも。今回は事情を聞きだすため酒で嘉吉に挑むが、断られてしまった。料理人は酒は飲んでも飲まれないのだ。
 ジャパン出身。人間の女侍、神楽聖歌(ea5062)。
 いかにもお嬢様然として、その実かなりのお嬢様らしい女学者侍。両親は早く嫁に行ってほしいようだが、本人にその気と自覚が無いのは問題であろう。19と言えば、もう充分嫁ぎ遅れである。今回は嘉吉の警護と周辺情報の収集を担当。
 ジャパン出身。人間の忍者、永倉平九郎(ea5344)。
 高い所が好きで好きで好きでたまらない、いわゆるナントカな忍者。今回は長岡家屋敷天井裏への侵入を強硬に主張。危険と期待で、胸をいっぱいに膨らませての参戦と相成った。はっきり言って一番やばいポジションなのだが、本人は理解しているのだろうか‥‥。

 以上、10名。おむね前回からの引継ぎメンバーだが、少しだけ新顔がある。役割もおおむね決まった。長岡家の図面もあるし、とりあえずは行動すべし、であろう。

●嘉吉――その生涯を賭けたもの
 相野屋の嘉兵衛こと嘉吉。名刀『鐡休』の包丁を持つ料理人で、その腕は確かと言われている。
「でも実際に食べてみないとわからないよな」
 と言い出したのは、鷹波穂狼である。
「進さん。あんた、嘉兵衛に興味あんだろ? じゃなきゃ高い金払って冒険者なんか雇わねーよな。興味あるなら自分で確かめるのが一番だ。一緒に食べにいこうぜ!」
 そう言って穂狼は、雇い主の大野進之助と、嘉吉の息子である傘次郎を連れて相野屋ののれんをくぐった。
「こんにゃくを3人前切ってくれ。それと、銚子を二本つけてくんな」
 相野屋に行き、穂狼がいきなりそう言う。傘次郎に話を聞いたところ、父親である嘉吉はこんにゃく作りの名人であるという話だった。
 ややあって、注文通りのものが来た。こんにゃくを一丁、刺身のように薄切りにしたものである。しょうが醤油でいただくらしい。
 ――なんでぇ、ただのこんにゃくじゃねぇか。
 穂狼が思う。しかし箸に取った瞬間、その目の色が変わった。
 それは一見、なんの変哲も無いこんにゃくの薄切りに見える。しかし、その切り口は見事だった。顔が映りそうなほどすっぱりと切られていて、切り幅も揃っている。自分も漁師であるから、魚のさばき方ぐらいは知っている。その腕の目端ぐらいは、利くつもりでいた。
 その目が、こんにゃくの切り口を見て『本物である』と告げていた。料理人の腕もさることながら、『鐡休』の包丁ということもあるのだろう。
「父ちゃんの味だ‥‥」
 傘次郎が、かみ締めるように言っていた。
 穂狼には、言葉が無かった。

●御膳番――倉持健祐
 白銀剣次郎と馬籠瑰琿は、連れ立って情報収集に出ていた(瑰琿は嘉吉にかわされてしぶしぶだったが)。剣次郎が目星をつけた長岡家の家臣にさりげなく近寄り、瑰琿が酔わせて喋らせる。二人の息はぴったりと合っていて、この一週間で都合三人の侍を酔い潰した。
「つまり、『鐡休』の包丁を探しているのは、御膳番の料理人、長岡家家臣、倉持健祐(くらもち・けんゆう)という男らしいな」
 剣次郎が言う。その後を、瑰琿がついだ。
「まあ、どこの藩でも多かれ少なかれある話だけどさ、この倉持という男、相当な高慢ちきで、家臣団からは嫌われているみたいだね。で、何か大事があったのか、ここんところ眉間にしわを寄せっぱなしだったそうだよ」
「それについては、心当たりがあるよ」
 そう言って宿屋に入ってきたのは、永倉平九郎であった。脇を久遠院雪夜と島津影虎に支えられている。どうやら怪我を負っているらしい。
「どうしました!」
 十三代目九十九屋が、三人に駆け寄る。
「天井裏に潜んでいたけど、一発やられたんだ。不覚を取ったよ」
 平九郎が言った。
 三人の話を総合すると、次のようになる。
 進さん提供の絵図面を元に、雪夜と影虎、そして平九郎は、長岡家の屋敷に忍び込んだ。
 諸志万端整い、雪夜は下女として。そして影虎は床下へ、平九郎は天井裏へ潜んだ。幸い番犬もおらず、九十九屋が商人の振りをして中の人間の目を引いてくれたので、三人は無事に割り当ての場所に忍び入った。
 忍び込んでから、三日が過ぎた。さしたる収穫もなく焦れていた三人の元に、目的の情報の一端が入ってきた。
「嘉吉さんの人相書きが、長岡家の手に渡ったんだよ」
 長岡家は『鐡休』を探していたが、その持ち主までは分かっていなかった。それに関する情報が、どこからか一気に二つ入ってきたのだ。ひとつは嘉兵衛の人相書き。もうひとつは、冒険者ギルドに居る傘次郎が『鐡休』を持っているという情報である。どこから漏れたのだろうか。
「長岡家は、さっそく相野屋に行く算段をしていまいした。刀に物を言わせてでも手に入れるつもりのようです。それというのも、長岡家が小田原藩の御膳番から外されるという情報があるからです。それを恐れた長岡義次は、倉持という料理人に最高の包丁を与えようとして――」
「そこで、感づかれたんだよ」
 影虎の言葉を、平九郎が遮った。急に天井板を突き抜けて槍が飛び出し、平九郎のわき腹を貫いたのだ。平九郎は苦鳴を飲み込み身じろぎもせず、槍を抜かれるときに、衣布を刃に当てて血をぬぐう事までやってのけた。
 そこに雪夜が酒を持って入り、気を逸らせた隙に平九郎たちは脱出したのである。
 だっ。
 瑰琿が、駆け出した。外に向かって。それを、剣次郎が追う。
「嘉吉さんがあぶない」
 ただそれだけを言い残して。
 夜は、いまだ暗い。

●相野屋騒動
 ひりつくような緊張感が、周囲に漂っていた。
 穂狼と進之助、そして傘次郎と嘉吉は、武士と思しき人物に取り囲まれていた。その数七名。
「『鐡休』を渡してもらおう」
 武士の一人が言った。
「なんだい。いい大人がよってたかって、包丁一本のために何やってやがんだい」
 穂狼が、啖呵を切る。
 ずらっ。
 七人の侍が、一斉に刀を抜いた。それに応じるように、穂狼と進之助も刀を抜く。
 ――ほぉ。
 穂狼が感心する。
 進之助の構えは、新陰流のものだった。隙が無く、それなりの達人の部類に入ると思われた。
「いやああああっ!」
 どかっ。
 鈍い音が響くと、斬りかかってきた武士が身体をくの字に折り曲げた。進之助が胴を薙いだのだ。音から察するに、峰打ちにしたのだろう。それでも、あばらの一本ぐらいはいっているかもしれない。
「やるじゃないか」
 穂狼が言い、両手の刀を構えて突き出した。<ダブルアタック>である。両撃をさばき切れず、武士は負傷した。
「おのれっ!」
 ずばっ!
 声を上げた侍が、いきなり切れた。文字通りに。
「毎度〜、月よりの使者、月朔耶だ! 冥土の土産に持ってゆけ!」
 月朔耶が、闇の中から白いその姿を現した。あらかじめ嘉吉を張っていたのだ。
 ブン!
 朔耶の剣圧が飛ぶ。<ソニックブーム>である。
「はあっ!」
 べきぃん!
 後ろから、鬼頭烈が包囲を突き抜けた。手土産代りに、武士の一人の剣を折る。<スマッシュ><バーストアタック>である。
「貴方たちの目的はなんですか」
 さらにその後方から、鈴を転がしたような女性の声が上がった。和装に身を包み剣を帯びたのは、神楽聖歌である。
「くっ。引けっ!」
 不利を見て取った武士たちは、逃げにかかった。
「傘次郎!」
 嘉吉の声が上がった。何事かと振り返ると、傘次郎が黒装束の人間の男に、捕らえられていた。いつの間に現れたのか。くない手裏剣を首に当てられ、失神しているようである。
「『鐡休』と交換だ。次の満月の夜、『陸道橋』に来い」
 男はそう言うと、闇の中に消えた。
 剣次郎たちが駆けつけたのは、その時だった。

【つづく】

―――――――――――――――――――――――――【次回予告】――――――――――――――――――――――――
 さてさて、小田原藩を騒がせる御膳番騒動。それはついに、誘拐事件へと発展しました! 『鐡休』包丁一組と親子の縁。切るのは包丁、切れないのが親子の情か!?
 風雲急を告げる第3回完結編オープニングは、11月8日ごろ公開予定! お楽しみに!