続々々・月竜奇談――ジャパン・箱根
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月13日〜02月20日
リプレイ公開日:2005年02月22日
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●オープニング
●当世ジャパン冒険者模様
ジ・アースの世界は、結構物騒である。
比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。
「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は箱根の君主、大久保忠義さま。依頼内容は、前回発見された遺跡の罠やなんやかやを突破して、おそらくあるであろう『神剣ヒヒイロカネ』を手に入れること。碑文があったんだけど、どうやらこれ、罠の解除方法が書かれているみたいなのよね。ただし、謎解きよ」
そう言うと京子は、紙に書いた二つの謎かけを冒険者たちに見せた。
「一つ目はこう。
14、91、62、53、64、96、48、11、『?』
この『?』の部分に入る数字を、壁面のボタンで押せばいいみたい。もう一つは、これ。
樫→飢餓→色→土間→椰子→模試→筒→蘭→佐賀→『?』
この『?』の部分に入る言葉を狛犬の石像に向かって言えばいいみたいよ。いずれも、なんらかの法則性があるみたい」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「答えを言うチャンスは、一回こっきりの一発勝負。謎かけが解けなかったら力押ししか無いけど、古代の遺物が相手では、苦戦は必至だと思うわ。うまくやりなさいな。それと、ヒヒイロカネは献上品だから、ちゃんと持って帰ってきてね。以上、よろし?」
●リプレイ本文
続々々・月竜奇談――ジャパン・箱根
●暴力の定義
謎解きは、ある種の人間には快感を伴うものである。
難しい謎を解いたときの快感は、なかなか得がたいものだ。全てのピースが全部収まるところに収まり、一つの絵を描き上げたとき、それはひとつの芸術品となる。それが自分で作り上げたものならば、なおさらであろう。
身近な所では、ジグソーパズルを完成させた時に得られる快感。それに似ている。
ただ、誰もがそういうのに興味を持ち快感を得られるかというと、そうでもない。肉体派を標榜する面々は特にそうだ。彼らは、持てる物理的な『力』の解放により快感を得る。頭脳労働などは、門外漢である。
ただ、世の中それだけでは済まない場合がある。今回の迷宮――神剣ヒヒイロカネが存在するという迷宮――ではそうだ。力押しも不可能では無いが、それにはかなりの犠牲が伴う。もちろん、冒険者と呼ばれる彼らも例外ではない。
このところ力――つまり『暴力』で解決出来る事件が多かったせいか、目的の本丸を前にし、冒険者の集まりは決して良くなかった。謎解きはさっぱり、という冒険者が、かなり居たためである。
暴力というのは、ある意味『わがままを通す』ということである。力押しでわがままを通してきた冒険者たちにとって、今回の壁は厚かった。この『暴力でわがままを通す』というのは、逆を言えば通らなかった場合のリスクが高い。最悪の場合、命に関わる。それは、冒険者たちにとって本意ではない。しりごみもしようというものである。
●迷宮の謎
迷宮の謎は二つだった。一つは数字パズル。
14、91、62、53、64、96、48、11、『?』
この『?』の部分に入る数字を、壁面のボタンで押すというものだ。これで第1の罠、自爆する無数の埴輪の通路を抜けられるという。
もう一つは、次の文字列。
樫→飢餓→色→土間→椰子→模試→筒→蘭→佐賀→『?』
この『?』に当てはまる単語を言えば良いそうだ。これで迷宮の守護者、奥にある狛犬の起動を停止できるそうだ。
稼動状態の埴輪や狛犬を入手できれば、それだけで結構な金にもなる。少なくとも調査の手を入れることが出来るようになれば、これらの遺物を残した古代文明の謎にも、いくばくかは迫れるはずだ。
「えーん、わかんないですよー」
いきなりさじを投げたのは、シフールのバード、ヴィヴィアン・アークエット(ea7742)である。シフール続のご多分に漏れず、頭脳労働は苦手らしい。
「まあ、簡単じゃないわよねぇ」
今回新参の、御堂鼎(ea2454)が言った。
「まず一つ目。並んでる数字を、新たに区切り直してみると、
1、4、9、16、25、36、49、64、81、1『?』
ってな具合に、自然数を二乗したのが並んでるねぇ。81の次は10の二乗で100。『?』には『00』さ」
おお〜〜。
冒険者からどよめきが起こった。
「次は樫→飢餓→色→土間→椰子→模試→筒→蘭→佐賀→『?』。並んでる単語をひらがなにして頭と尻に、あいうえお順にくっつけてやると別の単語になるって訳だね。で、『?』には頭と尻に「こ」がつく単語を考えればいいんだから、『?』には『台』といれれば、こだいこ(小太鼓)と通じるさね」
「すごいっ、すごいです鼎さん! グレイト! ビューティホー! エクセレンツ!!」
謎解きを披露した鼎に向かって、ヴィヴィアンが言う。周囲を飛び回り、すごい盛り上がりようであった。
「これでなんとかなりそうですね」
没個性忍者、死先無為(ea5428)が言う。
一同は期待を胸に、箱根山へと向かった。
●双子山山岳洞再び
ズガーン!!
双子山には、先ほどから何やら爆発音のようなものが響いていた。
――あちゃー。
と冒険者が思う。おそらく例の九頭竜山岳洞を、誰かが盗掘しているのである。
「支援者の情報によると、盗賊たちに動きがあるそうだ」
陰鬱な口調でそう言ったのは、ハーフエルフのナイト、デュランダル・アウローラ(ea8820)である。今日も黒い空気を振りまきっぱなしだ。
「報告書を見た盗賊がいくつか、ヒヒイロカネをねらっているらしい。まあ、頭のいいヤツなら横取りを狙うだろうな」
「まあ、やることは少ないなりに、きちっと仕事はやらせてもらうよ」
久世慎之介(ea3365)が言う。がちゃりと刀を叩き、一応の意思表示は見せている。
九頭竜山岳洞に着くころには、爆音は収まっていた。入り口の石戸は暴かれ、ぐずぐずのぐだぐだになった、人間だった物体がその辺に飛散している。おそらく、自爆埴輪の餌食になったのであろう。
「さっそく行くピョン!」
明かりを用意しながら、ラヴィ・クレセント(ea6656)が言う。ちなみに彼女の奇妙なジャパン語の語尾は、エジプト訛り(本人談)だそうである。
いや、バニーガールもどきのジプシーはどうかと思うが。
内部は、ややすすけていて硫黄臭が漂っていた。自爆埴輪は健在で、整然と通路に並んでいる。地面や壁に爆発の跡があるが、これは先の『人間だった物体』がやらかした痕跡だろう。
「さっそく答えを入力するべ」
イワーノ・ホルメル(ea8903)が言う。
碑文の下には、古代文字で0〜9の数字が並んだキーがある。後ろで無為がなにやら悶絶しているが、かまわずキーを押す。
0。
0。
ガコン!
キーを押し終わると同時に、埴輪が一斉に動いた。回れ右して、空洞の開いた壁の中へ消えてゆく。どうやら、無事に解除出来たらしい。
埴輪の姿は、10も数える間に無くなった。
「さて‥‥行くか」
黒い空気を漂わせながら、デュランダルが言った。
●狛犬
通路の奥は、石室になっていた。幅、奥行き共に20メートルぐらい。わりと広い。
きしっ。
ほんのわずかな物音だったが、その音は石室によく響いた。冒険者たちが部屋に入ると、石像――狛犬が動き始めたのだ。
「すばらしい‥‥」
イワーノが、感嘆したように言う。
「早く答えを言わないと!」
ヴィヴィアンは、結構あせっていた。
「答えは、『台』だよ!」
鼎が、声を上げた。同時に、狛犬の動きも止まる。
それで、どうやらこの場は終了のようだった。一同が、ふうとため息を漏らす。
「しかしすごいっぺ。こんな完全な形でゴーレムを観察できることは、まずないっぺよ」
狛犬の表面に彫られた魔法文字を調べながら、イワーノが言う。
「本命だぴょん!」
ラヴィが言う。
狛犬の後ろに、石棺があった。
「まさか死食鬼なんか出ないだろうね」
鼎が言う。
「用心はしとこう」
慎之介が、刀に手をかけながら言った。
●神剣ヒヒイロカネ?
石棺は、あっけなく開いた。まあ、力自慢の冒険者が何人も居るのだ。当然かもしれない。
中身は、死体が一つ。それと、剣が一本。
剣を見て、一同は色めきたった。
互いに目を見交わし会い、最終的にデュランダルに視線が行った。今回の探索で、もっとも剣を欲していたのは彼だからだ。
デュランダルが、剣に手を伸ばし、触れた。
何も起こらない。
魔法か何かの罠、あるいは呪いなどは、とりあえず無いようだ。
デュランダルが剣を手に取り、抜く。
しゃん、と、涼しげな音が響いた。
「これは‥‥美しい‥‥」
思わず、デュランダルが声を上げた。
その剣は、確かに魔法の剣だった。淡い燐光を帯びており、刀身の色は青とも紫とも見える。こしらえは古代華国風だが、刀身の作りは西洋風で、まだ文明が分化していない時代に作られたように思えた。
「ゴーレムたちは動かねぇようだな」
剣を手にした瞬間何かが起こるかもと思っていたイワーノが、構えを解いた。
「これも運び出せませんかね」
狛犬を指差しながら、無為が言う。
「入り口よりデカいもんは動かせないんじゃないかい?」
鼎が、酒をやりながら言った。確かに、どうやって入れたのだろうか。
●探索の終了
月精龍に始まった探索行の話は、これで終わる。
冒険者一同は剣を手にし、無事にギルドへ持ち帰った。帰りに横取りを狙う盗賊とのいざこざがあったが、これも難なく処理し、冒険者は無事に任務を完遂した。
その際、デュランダルが剣を使用したが、その威力は瞠目に値するものであった。
剣は今、小田原藩藩主大久保忠義の元にあると言う。
冒険者たちはささやかな報酬と名誉を手に、探索を終了した。
【おわり】