続々・月竜奇談――ジャパン・箱根
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月28日〜02月04日
リプレイ公開日:2005年02月03日
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●オープニング
●ジャパンの事情
極東の島国、ジャパン。
表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。
箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。
「今回の依頼は、小田原の藩主さまから来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「先日、箱根山に古墳が発見されたのは知っているかしら? その古墳は精霊から情報を得た古墳で、『神剣ヒヒイロカネ』のありかを示す場所の、手がかりが得られたのよね。それは青銅の剣に彫り込まれた古代文字で、精霊碑文に似ているけど、変形した古代魔法文字だったそうよ」
ヒヒイロカネと言えば、『日に比する金』の意を持つ、一種の魔法金属である。オリハルコンと同質のものではないかと言われ、金のように柔軟で白金よりも硬いとされる金属だ。日本史の外典『竹内文書』にその存在が書かれているが、現物を目にした者は皆無である。発見できれば、それがどんななまくらだったとしても『歴史的発見』に違いあるまい。
「その文章によると、ヒヒイロカネがあるのはとりあえずジャパンに間違いないらしいわ。で、問題はその場所。短く『『朱雀』の守る地の洞にあり』ということらしいんだけど、多分火山のことを言っているんじゃないかと思うわけ。
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「依頼内容は、神剣を探し出すこと。あるいはその手掛かりを。単純だけど、難しいわよ。よろしくね」
●リプレイ本文
続々・月竜奇談――ジャパン・箱根
●朱雀の門
朱雀は、風水では南方の守護を意味し、火を司る聖獣と言われている。京都、平安京にはそのものずばり『朱雀門』という門があり、京都の正門として機能している。話しによると何やら呪術的な意味合いがあり、都に入る鬼を退けているという話しだ。
おおかみはつるかてのつるぎ
ひいづるくににありてかきかけん
たまゆらまてみてきほうとう
すざくのもんのほらにあり
いしのまもりしこれをふうず
『神剣ヒヒイロカネ』を探る手掛かりは、古墳に封じられし宝刀に刻まれた碑文を解読した、この言葉だけである。
解釈はいくらでもできるが、正鵠を射るとなるとちょっと難しい。例えば初頭の『おおかみ』は、『神皇(おかみ)』をあらわす言葉ともとれるし、また『大神(おおかみ)』や『狼(おおかみ)』とも取れる。暗号解読には左脳的なロジックの積み重ねと右脳的閃きが要求されるわけだが、この言葉の羅列がまさにそうだろう。
ぷすぷすぷすぷす。
今にもオーバーヒートしそうな表情で箱根界隈の地図を見ているのは、ぱっつんぱっつんの身体を皮鎧に包んだエルフファイター、レティエル・レティーシャ(ea2452)である。
ぼん!(4倍角)
あ、爆発した。
「もうだめ‥‥これ以上は知恵熱で倒れそう‥‥」
冷たい水の入った皮袋を頭に当てながら、レティエルは言った。
「手堅いところは『すざくのもんのほらにあり』だろうな。『朱雀の門』は火山って意味もある。南の火山と言えば、富士山か? しかし富士山の方向は西だよな」
鷹見仁(ea0204)が、色々と頭をこねくり回しながら言っている。
「『いしのまもりしこれをふうず』は、封印の石や石でできた守護者の存在を意味するのでしょう」
能面のように没個性化した顔の忍者、死先無為(ea5428)が、いつもと表情を変えずに言った。この忍者は、日に日にその個性をそぎ落としていっているような気がする。
「箱根山は温泉地だから、火山層があるはずだよ。古墳から南の火山と言えば、ズバリ箱根山だと思うよ」
シフールのミラルス・ナイトクロス(ea6751)が、ウィザードらしく知識を披露した。
芦ノ湖は、紀元前一〇〇〇年ごろ、箱根山が噴火したときに出来た湖である。温泉の存在が示すとおり、箱根の地下には活発な火山帯があるのだ。
「地図と照らし合わせても、符合するわよね」
冒険者ギルドから借りた箱根の地図を見て、シフールバードのアップル・パイ(ea7676)が言った。
「前回作った、『禁足地マップ』とも符合するぞ」
尊大な態度のマッド・ドクター、トマス・ウェスト(ea8714)が、けひゃけひゃと笑いながら言った。
山岳信仰の厚い箱根界隈の住民にとって、箱根山や駒ケ岳は、参拝すべき霊場である。ただその中にも禁足地はいくつかあって、そこに人が入る事は住民に嫌がられるし祟りがあるとも言われている。
「残りの碑文が分からないんだよなぁ‥‥」
おおかみはつるかてのつるぎ
ひいづるくににありてかきかけん
たまゆらまてみてきほうとう
仁が、碑文の前半を見ながら言う。『つるぎ』『けん』ないし『ほうとう』は『ヒヒイロカネの剣』だと思われるが、『たまゆら』『ひいづるくに』が何を示唆するのかが分からない。『ひいづるくに』はジャパンのことかもしれないが。
「行ってみるしかないか」
仁が言った。アップルがギルドの番頭の京子に、三味線と荷物を預けていた。
●箱根山探索
箱根山は、伊豆半島の付け根に位置する火山群の総称である。最高峰の神山(かみやま)、金時山(きんときやま)、駒ヶ岳、二子山、鞍掛山(くらかけやま)などの火山群から成り、箱根火山ともよばれる。古くから日光とともに関東の山岳神仰の霊場で、東海と関東をわける山であり、現在は東国有数の観光地となっている。
「さすがに山を三つも登るとホネですね〜」
シフールのバード、ヴィヴィアン・アークエット(ea7742)が、気楽そうに言った。
山登りは、シフールにとってはあまり苦ではない。なぜなら、空を飛べるからだ。高度を上げる苦労はあろうが、精霊力を借りている彼女らにとっては、道が山だろうが川だろうがあまり関係ないのである。
むしろ苦労しているのは、仁を始めとする二足歩行人類であった。根暗なハーフエルフのデュランダル・アウローラ(ea8820)などは、胴丸鎧などで防備をガチガチに固めているので、一歩一歩の歩みが苦行のような状態になっている。
ちなみに、由加紀(ea3535)は、《大ガマの術》で出したガマの背に乗り、一人楽をしていた。カエル大好き少女は、恍惚とした表情でガマに乗っていた。
「もどってきましたよ〜〜〜☆」
シフールのバード、ベェリー・ルルー(ea3610)が、羽根を羽ばたかせて帰ってきた。
「この先に、狼の群れが居ましたぁ〜〜」
シフールには空を飛べると言う能力がある。小さいから見つけられにくいし、何より偵察行動には向いていた。斥候としては最適任である。ちなみにこのパーティーには、合計で四名のシフールが居る。パーティーは余計な戦闘や手間を一切取ること無しに、目的の場所の探索を行っていた。
なお、神山と金時山、駒ケ岳はもう攻略済み。次は双子山の禁足地である。
「この辺だと思うんだがな‥‥」
鷹見仁が、地図を見ながら言う。火山と言っても竪穴状の火口があってマグマが噴き出しているというわけではないので、必然その禁則地は『ガスなどで物理的に行けない場所』に限られてくる。
――神剣のヒントは残すのに、肝心な場所がしっかり記されていない‥‥昔の人は神剣を見つけて欲しかったのか欲しくなかったのか判りませんねぇ‥‥うぅ、面倒臭い‥‥でも惹かれる‥‥。
死先無為が、皆の斜め上前方の辺りを見ながら、愚にもつかないことを考えている。
――うふふふ、ご主人様ったら、照屋さんなんですから。
ミラルス・ナイトクロスは、何やら夢の世界に逝っているようだった。
一行は双子山のふもとにベースキャンプを張り、探索を開始した。二足歩行の人たちは観察を、シフールたちは空を飛んで広域探索を行う。空ならば、毒ガスもまず来ないので心配は無い。探索としては、かなりの高効率で行われていると言っていいだろう。
そして、双子山山麓で『ソレ』は見つかった。見つけたのは、ベェリー・ルルーだった。
「見つけましたです〜! 九頭竜の碑紋がある岩蓋がありました〜!」
そこは双子山の、南斜面の中腹だった。
●剣を探して
ガコン! と、鈍い音をたてて、九頭竜の意匠が彫られた石碑は、口を開いた。
そこは石戸古墳などを思わせる、岩壁の通路になっていた。有毒ガスが無いかどうか、松明に火を灯して少しだけ進み、確認する。火は燃えており、酸素はあるようだ。
ただ硫黄臭がきつく、ここが火山であることを嫌でも認識させてくれた。
「罠は‥‥ありませんね‥‥。でも、壁に文字が彫ってあります。古代文字のようですが、読めませんね‥‥」
無為が言った。
「通路、狭い。ガマ、出せない‥‥」
心の底から悲しそうに、由加紀がつぶやいた。
「あれ、何?」
レティエル・レティーシャが、、松明で照らされた通路の奥を指差す。ちなみにゲルマン語である。ミラルスがそれを訳して、周囲の者達に言った。
「埴輪‥‥ですね」
無為が、表情を濁らせた。彼は埴輪が大嫌いなのだ。
「でも可愛いよ。私より小さい」
アップル・パイが言う。
そこには、埴輪があった。数は、小さいのがたくさんとしか言いようが無い。がらんどうの目に丸い口。右手と左手は上下に向けられていて、頭には角飾りのようなものがあった。そして顔には、呪符のようなものが貼られていた。
そのさらに奥には、獣の姿をした石像が鎮座していた。おそらくゴーレム系と思われるコンストラクトだ。
「試してみましょう」
無為はそう言うと、松明を奥へと放った。
「「「ぽ」」」
松明の周囲の埴輪が、いきなり音を発した。奥の無い眼窩から、光を発する。
「「「ぽ――!!!」」」
どばどばどば。
血にたかるこうもりのように、松明に向かって一〇余りの埴輪が殺到する。
「ぽっ(3)」
「ぽっ(2)」
「ぽっ(1)」
どが――――――――――――――ん!!!!(4倍角)
そして、爆発した。爆風が通路を突きぬけ、冒険者たちを吹き飛ばした。空を飛んでいたシフールたちは、バレル効果で入り口の外まで吹っ飛んでいた。
「うにゅ〜〜〜〜〜〜」
ヴィヴィアン・アークエットが、目を回している。
「自爆しやがった‥‥」
デュランダル・アウローラが言った。さすがに、頬を冷や汗が伝っていた。
彼はナイトだから、剣で物事を解決するのには向いている。しかしこういう死兵に対しては、持つ手段が極端に少なかった。
「おそらく……魔法で出来た罠なんでしょうね……」
冒険者達はあれやこれやと悩んだが、結局持ち合わせの手段では進行不可能と判断せざるを得なかった。
「手段を用意して、再来するしか無いだろうな」
トマス・ウェストが言う。本丸を前にして非常に不本意ではあったが、冒険者一堂は一端体勢を整えることにした。碑文の古代文字を写し取ると、冒険者達は入り口をもう一度封じて、山を降りた。
埴輪に何かありげな石像。
剣までの道のりは、近いようでまだ遠かった。
【つづく】