暴れん坊藩主#2−1――ジャパン・箱根
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月09日〜12月16日
リプレイ公開日:2004年12月21日
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●オープニング
■サブタイトル
『季節外れの幽霊屋敷! 箱根宿怨霊寺騒動!! 1』
●ジャパンの事情
極東の島国、ジャパン。
表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。
箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。
「今回の依頼は、大野進之助(おおの・しんのすけ)っていうお侍さんから来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、箱根宿からちょっと離れた場所にある『庵國寺』っていうお寺の調査。なんでも、今時に幽霊が出るらしいのよね。もう冬なのにね」
京子が苦笑した。
「庵國寺は廃寺で、今は住む者も居ないただのあばら家よ。ただ近くには通りがあって人通りもあるから、何かが出られると困るわけ。進さんはそこを通りかかって、実際に幽霊を見たそうよ。ただその幽霊、足が付いていたみたい。つまり偽者ね」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「幽霊さんたちが何を考えているかわからないけど、まあ、ロクなことじゃないと思うわ。あんたたちは、その屋敷を調査し、事実関係を洗うこと。依頼人の大野様は‥‥まあ、貧乏旗本の四男坊で冷や飯食いだけど、払いはいいわよ。懇意にしておくといいんじゃないかしら。このギルドの宿屋に居るから、報告は細かくしてあげてね。じゃ、よろしく」
京子が、言った。
●リプレイ本文
暴れん坊藩主#2−1――ジャパン・箱根
『季節外れの幽霊屋敷! 箱根宿怨霊寺騒動!! 1』
●幽霊屋敷
古今東西、幽霊屋敷という『物体』の話しのネタは尽きない。怨霊、家鳴り、その他様々な幽霊が屋敷にとり憑き、さまざまな悪さをする。ある意味定番である。
しかし『冬の』というと話しは変わってくる。冬の怪談は季節外れで、風情も何もあったものではない。単にお寒いだけだ。
しかし、今回箱根に現れた『幽霊(?)』は、冬の廃寺に出るという。出てしまった以上、事件は解決せねばなるまい。
そんなわけで、今回貧乏旗本の四男坊、冒険者諸賢には『暇人の進さん』と言われる大野進之助が、身銭を切って冒険者を雇い入れた。依頼内容は、廃寺の調査。誰がなんのためにこんなことをしているのかを、突き止めることである。
いや実際の話、かなり悪い想像が出来た。押し込みの準備が進められているとか、悪党がつなぎのための盗人宿がわりに使っているとか、それはもう語るだけで誌面を使い果たしてしまうぐらいである。世の中善良な人は多いが、悪党はもっと多い。試しに石を投げてみるといい。かつんと当たったら大抵悪党だ。
そんなわけで、警戒しながらの調査は開始された。
今回出張った冒険者たちは、次の者たち。
ジャパン出身。人間のくノ一、久遠院雪夜(ea0563)。
無邪気で天真爛漫。ちょっとエキセントリックなところがまた可愛い、プロポーション抜群の女忍者。料理を作って人に振舞うのが好きだが、まだその腕はそんなに上がっていないようである。現在は酒場の店員を行っている。
ジャパン出身。人間の浪人、鬼頭烈(ea1001)。
すでに江戸では、実力者で知られたデブオタ‥‥もとい剣士である。箱根では『刀折りの烈』と呼ばれる。一見ただのデブに見られがちだが、実は脳ある鷹、というやつであった。現在は教師を営んでおり、人望も集めているようである。
ジャパン出身。人間の浪人、三宝重桐伏(ea1891)。
酒好きで寝起きが悪くて刹那主義者。これで快楽主義者が入ればもう人間としては完璧に廃人であるが、憎まれっ子なんとやらで、今日も元気に世にはばかっている。一見チンピラ風なのでちょっとアレである。
ジャパン出身。人間の浪人、焔雷紅梓朗(ea3571)。
一見蛇のような印象の、細身の外見をした渡世人。酒好きで細かい事は気にしないが、来るものや去るものまで気にしないのはどうか。日本刀と小柄の二刀流で舞う剣の舞は強力。ある意味要注意人物である。
ジャパン出身。人間の浪人、白銀剣次郎(ea3667)。
年齢54歳はすでに人生の達人の領域に入っているが、まだまだ気は若い戦闘じーさん。明朗快活で嫌味の無い性格をしており、義理人情に厚いとくればよい人物と言えるが、バトルマニアなのがうーむというところ。
ジャパン出身。ジャイアントの女志士、鷹波穂狼(ea4141)。
一言で言うと『海が好き』な女志士。しかしジャイアントながら目端も利き、魔法も使いこなす知性派でもある。気風の良い姉御肌の人物で、浪花節に弱い人情家。今回は幽霊退治と聞いて、かなりの張り切りようである。
ジャパン出身。人間の女浪人、馬籠瑰琿(ea4352)。
若作りで気も若い、実はおばさん浪人。酒好きというわけではないが、その呑みっぷりは尋常ではなく、一種の『武器』として活用している。ちなみに公式記録は、どぶろく五升。鋼の肝臓を持っている。
ジャパン出身。人間の女志士、荒神紗之(ea4660)。
こっちは真性の酒好き。以前誰かに言われた『破戒志士』というあだなが気に入ったらしく、これからそう名乗ろうかと半分本気に考えているこまったちゃん。男をからかうのが趣味というのも困りもの。
ジャパン出身。人間の侍、大宗院謙(ea5980)。
美人の嫁さんもらって子供もいるくせにナンパ癖がなおらない、気分屋な侍。女の子に声をかけるたびに嫁さんに耳を引っ張られるのだが、それでもめげないのはある意味筋金入りである。おそらく『出来ちゃった婚』なのだろう。
ジャパン出身。人間の女志士、大宗院真莉(ea5979)。
で、その嫁さん。上品で物腰柔らかく、たおやかで華々しい女性であるが、夫のナンパ癖については容赦が無く、時にはにっこり笑って暴力的にもなる。だがそれ以外は、楚々とした日本女性である。絶対に怒らせてはいけないタイプだ。
という10名。大捕り物になれば誰も休むことが出来ない、ある意味ぎりぎりの人数であろう。
●基本は情報収集から
とりあえず人数は揃った。早速行動開始である。まずは情報収集ということになるだろう。
一同は四方に散り、周辺の調査と噂話や目撃談の収拾から開始した。もちろん『目撃者』の進さんからの情報収集も忘れない。
「まずは俺から」
と、酒場の席で手を挙げたのは、鬼頭烈であった。
「とりあえず人の出入りから調べてみたんだが‥‥あの寺は10年ほど前に和尚さんが死んで、継ぐ者がいなくてそのまま廃寺になったそうだ。だから基本的に人の出入りは無い。一人だけ、寺の掃除を無償でやっていたおっさんが居たけど、幽霊騒ぎがあって以来入っていないそうだ。つまりまったく人の出入りは無いという事になるな」
次いで、三宝重桐伏が口を開いた。
「それについちゃあ、ちょっとした情報を握ってきたぜ。その寺男のおっさん、ここんところ握り飯や沢庵を大量に買っては、どこかに出かけているんだそうだ。三日に一度は、買ってゆくらしいぜ。行き先は多分寺だと思う。幽霊は沢庵食うのかね?」
けひゃひゃ、と、楽しそうに桐伏が笑った。後を受けたのは、白銀剣次郎である。
「件の寺は、仏教の宗道宗のものらしい。無縁仏も扱っていたから、まあ、何か出るというのは分からないではない。それとこれは未確認情報だが、どさ周りの芸人が一組、箱根から急に姿を消したらしい。それが寺のそばで見かけられたという噂だ」
「順当な所で行けば、そいつらは盗賊か何かだねぇ」
と言ったのは、鷹波穂狼である。
「寺の側に大店か何かあるかなーって思ったんだけど、調べてみると街道筋だから箱根自体が大店の集まりなんだよね。だから箱根の郊外にアジトを構えてどこかを襲うつもりなら、ばっちりの立地条件ではあるんだ」
「やっぱり盗賊?」
馬籠瑰琿が、今日は甘酒をすすりながら言う。
「さあてね。盗賊なら話は早いんだけど、『裏』の世界じゃ何も動きが無いみたいだね。ちょっと賭博場に行ってカマかけてみたけど、みんな頓狂な顔していたよ」
荒神紗之が、こちらは酒盃を傾けながら言った。
ちなみにあっちでは、大宗院謙と大宗院真莉の夫婦が、謙の『お京を口説く攻撃』をめぐって夫婦(どつき)漫才をやっている。なお謙は今回、お京と雪夜と穂狼と瑰琿と紗之を順に口説いていた。そのたびに肘鉄が入り耳を引っ張られ、謙は結構ぼろぼろだった。
「ところで進さんは?」
穂狼が、お京に問う。
「さっき火消しの親分が来て、連れて行っちゃったわよ」
暇人のくせに忙しい男である。まあ、聞くべき話はすでに聞いているので、問題は無いが。
進さんの話によると幽霊は女で、空を飛び人魂もいくつか出ていたそうだ。ただ人魂は鯨油の匂いがして、幽霊も井戸から出てきたっきり、「うらめしやぁ〜」としか言わないそうである。そして進さんがちょっと前に出ると、あわてたように引っ込んだそうだ。その時井戸から水音がして、悲鳴のようなものが聞こえたそうである。
ぁゃιぃ。
あやしい。
あやしすぎる。
ちょっと無いくらいの怪しさだ。いかがわしいと言って差し支えない。
「やる気あんのかね、その幽霊はよ」
酒盃を傾けながらそう言ったのは、焔雷紅梓朗である。キセルの煙を肴に酒を飲む。現代風に言えば、死ぬときは胃ガンか肺ガンというところだ。
実のところ、かなり間抜けな話しばかり出てくる。真剣な盗賊ならそんな馬鹿な真似はしない。徹底的に忍ぶか、徹底的に人避けをするかのどちらかである。中途半端に耳目を集めているところに、詰めの甘さを感じる。
「ま、忍び込んで正体を探ってくるわよ」
久遠院雪夜が言った。彼女は忍者なのだ。
●というわけで寺
寺への侵入は、夜半に行われた。裏木戸をくぐり、剣次郎の後詰を得て雪夜が忍び込む。他の者はめいめい、表と裏に立って突入の準備をしていた。相手が盗賊ならば、一網打尽にしてしまおうというのである。
雪夜は建物に入ってすぐ、天井裏に潜んだ。蜘蛛の巣をはらい物音を立てずに、内部へと進んでゆく。
やがて、厨(くりや)のところから声が聞こえてきた。何やら魚を焼くようなにおいもする。
雪夜は、じっと耳をそばだてた。
「‥‥しっかし河合のお殿様も諦めが悪いねぇ」
皺枯れた男の声だった。口調は町言葉。それに続いて、おきゃんな女の声がする。
「でもどうしようか。おかなちゃんは死んだことになっているけど、いつまでもここに隠れているわけにもいかないし‥‥」
続いて若い男が言う。
「だけどよ、隠れるしかないだろう? おかなに熱を上げている河合様が諦めるまで、ここに居るしかないじゃないか」
そこに、扉が開く音がして若い男が駆け込んできた。
「表に誰か居るぞ! キセルの火が見えた!」
「お侍さんかい?」
「わかんねぇ。でも何人か居るようだ」
「よし! 彦兵衛、おみつ、寅吉も! いつものヤツの用意だ! 脅かして追っ払うぞ!」
「あいよ! 彦兵衛、この前みたいに井戸に落とさないでよ!」
「がってん!」
「そういや油、買ってきたか」
「もちのろんでさぁ。これが無きゃ人魂が作れねぇでしょ」
あー。
雪夜が疲れたように肩をすくめた。
読者諸賢はすでに状況が把握できたと思うが、改めて説明するとつまり、河合とかいうお殿様が町娘を見初めてしまい、困った娘は狂言自殺を行ったのだがお殿様は諦めてくれず、やむなく廃寺に逃げ込んだということらしい。
この4人の男女は、おそらく姿を消した旅芸人であろう。衣装箱から幽霊の衣装を取り出すと、おみつと呼ばれた娘はかつら――リングの貞子みたいな――をかぶり、そして腰に縄を巻きつけた。縄は井戸の方へ伸びていて、滑車につながっているというわけである。人魂は鯨油をしみこませた綿を黒く塗った釣竿で釣って火をつけたものだ。
余談だが、彼らが見つけたキセルの火は紅梓朗のものであった。無用心である。
一方こちらは突入班の面々。
「中で動きがあったよ」
《ブレスセンサー》で内部の様子を探っていた紗之が、酒盃を傾けながら言った。先ほど一人若いのが中に入ってゆくのを確認して、それから何やら動き始めたのである。
雪夜の呼吸はすでに探知している。別に彼女が追いかけられているというわけではない。しばらく様子を見たところ、呼吸たちは物影と井戸の中に入り込んだ。
何かこう、あからさまである。てゆーか、非常にチープな仕掛けであった。あまりの手際の悪さに、紗之が報告を滞らせたほどだ。
「じゃ、いっちょ行ってみるかねぇ」
紅梓朗が、肩に剣を担いで言う。他の者も、得物を手に、敷地内に踏み入った。
どろどろどろどろ〜〜〜。
何やらお約束な物音がして、井戸から白い服に乱れ髪の女が、「うらめしや」のポーズをしながら出てくる。人魂も出てきた。
「うらめしやぁ〜〜〜」
お約束な声で、幽霊が言った。
が、呼吸探査でこの幽霊が「息をしている」ことを知っている冒険者たちは動じない。
「う、うらめしやぁ〜〜〜」
さらにおどろおどろしい声で、幽霊が言った。ここまでくると、思わず苦笑がもれてしまう。
「そんなことする必要は無いよ!」
突然。
《疾走の術》で助走をつけ跳躍してきた雪夜が、幽霊と冒険者たちの間に立った。どこかで「わっ」という声がして、幽霊が急に下へ落ちる。「きゃああああああああ」どぼーんという声と音がして、その場は大騒ぎになった。
●話しが大きくなりました
かくかくしかじか。
今、冒険者たちは旅芸人の一座から、事情を聞いている。おおむね雪夜が聞いたことの反芻になるから割愛するが、件のおかなは、寺の二重底になっている床下の空間に身を潜めているらしい。ちなみに謙が見目を検分したが、すぐに口説きにかかって大騒ぎになった。ともあれ美女の範疇に入り、性格も優しく嫁さんにはもってこいである。
「お殿様とは、お殿様が落馬して怪我を負ったときに知り合ったのです」
おかなが言う。
河合のお殿様――河合秀文というのだそうだが、この人物、惚れっぽい事でちょっと知られている。それが遠駆けの時に落馬し、足の骨を折ったそうだ。その時おかなの家に運ばれ、手厚い看病を受けたそうである。河合はその時に、おかなを見初めたらしい。
だがおかなには、将来を誓い合った人が居る。しかしお殿様のお召しを無下に断るわけにもいかない。
そこで狂言自殺という話しを持ちかけたのが、旅芸人の長、六蔵である。六蔵はおかなに同情し、一芝居打ったのだ。
本当はそれで終わると思っていた。だが死体が上がらないために、河合はいまだに諦めてないというのである。
――やれやれ。
全員がそう思ったのもやぶさかではない。
とりあえず依頼は果たした。幽霊騒ぎは、今夜を以って終わるだろう。
だが進之助はきっと、この話にも首を突っ込むに違いない。
事件は、まだ始まったばかりである。
【つづく】