暴れん坊藩主#2−2――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月29日〜01月05日

リプレイ公開日:2005年01月05日

●オープニング

■サブタイトル
『季節外れの幽霊屋敷! 箱根宿怨霊寺騒動!! 2』

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

 箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
 その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
 藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。

「今回の依頼は、大野進之助(おおの・しんのすけ)っていうお侍さんから来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、おせんさんってべっぴんさんの問題を解決すること。ていうか、小田原の君主様の一人が、御政道を忘れて女の子にのぼせ上がっているのよね」
 やれやれと、京子が苦笑した。
「そのべっぴんさんは『庵國寺』っていう廃寺にかくまわれているわ。将来を誓い合った恋人がいて、無理やりなお召しに難渋しているところを、五平さんっていう旅役者さんが力になってあげたんだって。ただちょっと、うまくいかなかったみたい。ま、詳しくは報告書読んでちょうだい」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「依頼人の進さんも、今回の事には責任を感じてるようでねぇ‥‥藪をつついて蛇を出しちゃったもんだから。まあ、丸く治まるように、うまくたちまわってくれると助かるわ。進さんはこのギルドの宿屋に居るから、報告は細かくしてあげてね。じゃ、よろしく」
 京子が、言った。

●今回の参加者

 ea0563 久遠院 雪夜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1001 鬼頭 烈(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3571 焔雷 紅梓朗(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8693 鬼堂 剛堅(46歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

暴れん坊藩主#2−2――ジャパン・箱根

■サブタイトル
『季節外れの幽霊屋敷! 箱根宿怨霊寺騒動!! 2』

●すいません、名前間違えました〜手代より
 時々あることですが、筆記人の依頼書に誤植が混じっていることがあります。
 今回がまさにそれで、「おかな」という女性のめんどうをかたずける依頼を「おせん」と書いてしまいました。
 というわけ、以後「おせん」は「おかな」と読み替えて記させていただきます。まっこと、申し訳ありません。
 では、本文をどうぞ。

●一夫一婦
 神聖暦999年において、一夫一婦という制度は、わりと歴史が浅い。
 月道による文化の流入と様々な要因で、現在の『一夫一婦』制度は、慣例として「まあ、なんとなくそんな雰囲気なので」というレベルで浸透しているだけだ。ジャパンでは具体的に、一夫が多婦を囲って維持することも可能である。金の問題とか色々と条件がつくが。
 それで、君主についてはどうだろう? 箱根を擁する小田原藩11万5千石が藩主、大久保忠義はまだ嫁を取っておらず、跡継ぎもいない。特に側室を抱えているという話しも聞かないので、跡取りを作るということについては、どう考えているかはわからない。
 ただこの例を挙げるまでもなく、封建君主にとって嫁取りは重要な『政策』であり、『外交』でもあるわけだ。本妻のほかに、必要なら数名の側室を娶り、跡取りを作る。もちろん娶った女性の『家』とは縁戚を結ぶことになるので、一種の『コネクション』を形成するわけである。
 ただ本妻と側室には目に見えない深い溝があるのが普通で、家庭内の派閥争いなど、諍いの種になるとも言える。アラビア式に『全員均等』というわけには、ジャパンはいかないのだ。
 それで、今回の場合である。
「それで、その河合秀文って人のひととなりについて情報無い? 進さん」
 と言って、腕を組んだのは久遠院雪夜(ea0563)であった。白い忍び装束がぱっつんぱっつんの肢体を覆い隠しており、ちょっとオのつくアレな人たちには目の毒である。
 『進さん』というのは、今回の依頼の依頼人である。貧乏旗本の四男坊。冒険者の間では『暇人の進さん』というあだ名が定着しつつある今日この頃、皆様いかがおすごしでしょうか、ってな感じの人である。
「河合秀文は木賀を任されている君主で、石高は1千。それなりの賢主で、特に問題は起こしていないと聞く。ただ――」
「ただ、なんですか?」
 蒸かした饅頭のように太った武士、鬼頭烈(ea1001)が問うた。だが外見にだまされてはいけない。箱根では、『刃折りの烈』で知られる剣客である。
「ああ、ただあそこの御家老が『殿様はなぜか婚姻できなくて困る』と漏らしていたことがある――と、聞いたことがある。今までいくつか婚姻を結ぶ機会があったのに、どういうわけかすべて途中で破談になってしまうらしい」
 進さんが言った。
「ひゃひゃひゃ。実はスゲェ醜男だったりしてな」
 酒盃を傾けながら言ったのは、浪人、焔雷紅梓朗(ea3571)であった。本人が自覚しているかどうかはわからないが、かなりのへんくつで傾(かぶ)き者である。その辺に転がっている『常識』とは無縁の人物で、密にアブナイ人間でもあった。
「一度会った事があるが、それほど容姿に不自由しているとは思えなかったな」
 進さんが訂正した。
「拙者の調べたところでも、そんなに悪い噂は聞かなかった。というより、君主にしてはめずらしくまともな部類に入ると思う。例の奇癖を除けば、だが」
 白銀剣次郎(ea3667)が、色々と聞き及んできたことを清書しながらつぶやいた。この老年用心棒、わりと目端が利き打てば響くパーソナリティを持っている。行動派なのである。
「俺が調べたとこでも、そんな感じだったぜ。惚れっぽい以外は、かなりまとも。裏で何か姑息なことやってるようには、思えないな。実際、おかなさんが惚れた男に何かちょっかい出すとかしてねぇし。なんかこう、正々堂々惚れてますっていう感じだったねぇ」
 鷹波穂狼(ea4141)が、太い腕を組みながら言った。河合秀文、年齢25歳。いいかげん世継ぎの話など出てくる年齢ではあるが、それについてはどうにも良い縁談が無いらしい。まあ、持って生まれた星というのもあるだろうが、それにしても不憫ではある。
 なお、今回の一件に関して報告書の閲覧を一時中止するという依頼を穂狼は行ったが、却下されてしまった。冒険者ギルドは冒険の便宜を図っても、自由な気風を失わせないことを重んずる。たとえ君主の圧力でも、つっぱねていただろう。
「さっさと祝言をあげてしまえばよろしいのではないでしょうか?」
 そう言ったのは、人生の達人大宗院真莉(ea5979)である。
「結局、公に認知されることが重要であり、そしてそれが広まってしまえば諦めると思います。そこで無理強いしてきたら‥‥」
「私たちの出番でしょう」
 真莉の言葉を、その夫である大宗院謙(ea5980)が受けた。いつになく真面目である。普段は「死んでしまえコノヤロー」なナンパ師だが、今回はかなりマジ入っていた。お京のつてで小田原藩藩主大久保正義に謁見賜り、事の次第を御注進を申し上げたのだ。御簾の向こうで顔は見えなかったが、大久保は「委細承知した。河合には一言申しておこう」という確約まで得られたのである。
「おかなの相手の松一という若者じゃが‥‥覚悟の程は確認しておるぞ。剣を向けたら鍬を構えおった。戦うのは無理じゃろうが、気概だけは買っていいじゃろう」
 鬼堂剛堅(ea8693)が言う。やや乱暴ながら、的を得た行動である。相手――松一に覚悟が無ければ、河合の殿様にかっさらわれて終わり、ということもありえるからだ。
「河合のお殿様は、理の通じぬ方とは聞いておりませぬ」
 火乃瀬紅葉(ea8917)が、妖しい雰囲気をたたえて言った。
「木賀では賢主として、きちんとご政道を執り行っております。ただこのところ、そのご政道もほころんでおられるようで、先日木賀に山賊が発生した折りには、対応をずいぶんと鈍らせておりました」
 そこで、ピンと来た者が居た。大宗院謙だ。
「主君が女に走ると、ご政道が乱れる。その時に、木賀に山賊がやってきた。やけに都合のいい話しだな」
 謙が言う。政治はしっかりしていたほうが良い。しかしその逆の方が都合の良い人種も居る。いわゆる悪党である。
「嫌な雰囲気だねぇ‥‥」
 ぐびりと、紅梓朗が酒盃を傾けた。

●祝言をあげろ!
「おかなさん、綺麗ですよ」
 真莉が言った。
 白無垢に身を包んだおかなは、たしかに惚れ惚れするほど綺麗だった。松一もそれなりに立派ではあるが、まあ、祝言の男は飾り物みたいなものである。
 場所は箱根湯本、冒険者ギルドである。総合的に考えて、ここが一番安全な場所と思われたからだ。立会人は冒険者一同。ある意味、剛毅な祝言だ。
 祝言は滞りなく進められ、固めの盃が飲み干された。
 わ――っ!
 やんややんやの喝采である。だが、その中で動きを見せる冒険者たちがいた。
 のそりと動いたのは、鬼頭烈だった。それにつられて、約10名ほどの冒険者が姿を消す。
 何も無く、終わるはずが無いのだ。

    *

 空っ風が、箱根の街に吹いている。その風に吹かれるように、十数名の男たちが走っていた。
 目指しているのは、箱根湯本、表街道の冒険者ギルド。なにや剣呑な気配で手に手に得物を持ち、いかにも『殴りこみです』と言った感じである。
 見かけは、やくざものと用心棒の集団。それ以上でも、それ以下でもない。
 その前に、ゆらり、という表現が似合うかどうかは疑問だが、一人の人影が現れた。
「どこへ行く?」
 男が、誰何の声をあげる。箱根のデブオタ‥‥もとい、鬼頭烈であった。
「なんでえ、お前は」
 やくざものが、いかにもというドスの効いた声で言う。
「こいつ知ってるぞ。確か『刃折りの烈』とかいう浪人者だ」
 やくざの、誰かが言った。
 ここで少々、説明せねばなるまい。
 なぜ烈がこの集団の前に立てたのかというと、雪夜の偵察があったからである。そもそも冒険者ギルドに殴りこみというのは命知らずな行為だが、それぐらいの準備はしてあるのだろう。
「引け。さもなくば斬る」
 烈が言った。
「るせぇっ!!」
 匕首を抜いて、やくざものの一人が烈に切りつけた。
 ガイン!
 烈が、刀でそれを受けた。危なげの無い、余裕のある仕草だった。
「やれやれ、ひとの恋路をジャマする奴ぁ、馬に蹴られてなんとやら、ってな」
 けひゃけひゃと笑いながら、懐に手を入れた格好で紅梓朗が後ろから出てくる。腰にぶら下げているひょうたんを、くいと口元で傾け、中身を飲み干した。もちろん中身は般若湯である。
「野郎!」
 別のやくざが、匕首を向けてきた。紅梓朗はそれを受けると、返す刀で匕首を狙い刀を振った。ギンという音がして、やくざの匕首が吹っ飛ばされる。紅梓朗の《ポイントアタック》である。
「はっ!」
 白銀剣次郎が、屋根から飛び降りてきて彼らの集団に不意打ちを仕掛けた。四方に手足を出し、痛撃を与える。場は、一気に混乱した。
「《アイスコフィン》!」
 鷹波穂狼が、後方から精霊魔法をかけている。あまり精神的に鍛えられているとは思えないやくざものに、魔法は良く効いた。
 大宗院謙と真莉の夫婦は、コンビネーション良く戦っていた。互いにフェイントをかけあい、相手を翻弄してゆく。息の合ったコンビである。夫婦仲も、それだけ良いということだろう。
 鬼堂剛堅は両手十手で、相手の攻撃をうまく受け流し、そして《カウンターアタック》を決めていった。たいていの者は一発食らっただけで戦意を失った。
「《マグナブロー》!」
 火乃瀬紅葉が、今回出番が少なかったゾ、と文句を言うように派手な魔法を連発している。この魔法、乱戦で使うのは危険だが、ツボにはまれば2、3人は楽に戦闘不能にできる。炎に照らされた顔は純真無垢な少女のそれのようであり、いっそすごみがあった。
 ほどなく狼藉(予定)者は駆逐され、逃げられる者は逃げていった。
 ところが。
「ギルドに馬が来てるよ! なにかお偉いさんが来ているみたい!」
 屋根の上から、雪夜が言った。一同は顔を見合わせ、ギルドへ向かった。

●河合秀文、散る
「どうか、どうか幸せになってくれい! ワシはいつでも、おヌシたちを見ていよう!」
 男の涙声とはやや聞き苦しいものがあるが、その人物は男泣きに泣いていた。精悍な顔立ちも、涙でぐしゃぐしゃになっている。ここまで思われれば、相手も本望だろうという泣き方だった。
 河合秀文、その人である。
 狼藉(予定)者を退けた冒険者たちが戻ると、そこには河合秀文そのひとが居た。供の者も少なく無用心極まりないが、祝い物に鯛の尾頭付きと漆塗りの柄樽に入った祝い酒を持ってきていた。
 そして一人で異様に盛り上がって、帰っていった。きっぱりとした、潔いと言える態度だった。
「進さん、何があったの?」
 雪夜が、その場に居合わせた進之助に問う。
「いやなに、河合の殿様が祝いにやってきたというだけの話しだ」
 進さんは、本当に簡潔にしか答えてくれなかった。
 ただ、今回のことで一つ分かったことがある。それは、『河合秀文以外にこの婚礼を邪魔したい人物が居た』ということだ。先のごろつきたちは、それに属するものたちだろう。
「何か裏がありそうだな‥‥」
 進之助が、考える顔になる。
 どうやら、事件はまだ続きそうであった。

【つづく】

――――――――――――――――――――――――――――【次回予告】――――――――――――――――――――――――――――
 さてさて、小田原藩11万5千石で巻き起こった幽霊騒動。それはお殿様の婚儀騒動にまで発展しました。一応事件は終息したものの、まだまだ何やら裏があるようす。風雲急を告げる第3回オープニングは、1月6日ごろ公開予定! お楽しみに!