暴れん坊藩主#2−4――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月26日〜02月02日

リプレイ公開日:2005年01月27日

●オープニング

■サブタイトル
『季節外れの幽霊屋敷! 箱根宿怨霊寺騒動!! 4』

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時纃痩ニである。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

 箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
 その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
 藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干25歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。

「今回の依頼は、大野進之助(おおの・しんのすけ)っていうお侍さんから来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、木賀の『鬼鱶(おにふか)の五郎』とその手下、いわゆる『地回り』たちのたくらみを阻止すること。前回の調査で、この地回りは完全に箱根の冒険者ギルドを敵に回したわ。彼には『五井屋』っていう大湯屋が肩入れしているみたい。調査した冒険者が『アカネコデローオヤブル』なる企てをしていると聞き込んだそうよ」
 京子が、真面目な顔で言う。
「五井屋は湯屋の商人であると同時に、木賀の『女』の総元締めでもあるわ。もちろん裏の商売だけどね。で、鬼鱶を介してけっこうな腕の凶状持ちを集めているみたいだわ。つまり冒険者対策ということ。前回は互角以上の浪人者が五人ほど、今回は何人居るか分からないわ。力押しは、けっこう大変かもね」
 京子がそこで、茶をすすった。
「余談だけど、今回の幽霊騒動の原因だった河合様は、また新しい恋を見つけてヘロヘロになっているみたい。あ、河合様は箱根七湯のひとつ、木賀の君主さまよ。石高は1千。ま、詳しくは報告書読んでちょうだい」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「今回の依頼は、鬼鱶の企みを阻止すると同時に、五井屋が関わっている確証を得ること。ちょっと面倒ね。進さんはこのギルドの宿屋に居るから、報告は細かくしてあげてちょうだい。じゃ、よろしく」
 京子が、言った。

●今回の参加者

 ea0563 久遠院 雪夜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1001 鬼頭 烈(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3223 御蔵 沖継(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3571 焔雷 紅梓朗(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea4352 馬籠 瑰琿(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9093 リィ・フェイラン(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

荒神 紗之(ea4660

●リプレイ本文

暴れん坊藩主#2−4――ジャパン・箱根

■サブタイトル
『季節外れの幽霊屋敷! 箱根宿怨霊寺騒動!! 4』

●アカネコデローオヤブル
「前回リィが聞き込んできた『アカネコデローオヤブル』は、『赤猫で牢を破る』のことだと思う」
 いぶし銀の不良老人、白銀剣次郎(ea3667)が、重々しく言った。
 『赤猫』と言えば、放火を意味する隠語である。『牢破り』は、そのままの意味どおり脱獄のことだ。
 この時代のジャパンでは家屋にせよ施設にせよ、おおむねその建物は木造建築であり、火には極端に弱くちょっとした火の不始末は即大火につながった。もちろん牢屋もその例外ではなく、過密に人が詰め込まれたその場所では、火が出れば煙や一酸化炭素中毒で即大量死につながる。
 だから火が出たとき、『お解き放ち』という判断が出されることがある。つまり罪人を一時、牢屋から市街に逃がすのである。
 自主的に戻って来た者は、減刑される。逃げた者には追っ手がかかり、捕まれば重罪が待っている。
 ただ逃げた者が出た際、牢役人もお咎めを受けるのが慣わしだ。軽微なもので謹慎、悪くすれば切腹ということになる。
 もっともこの『お解き放ち』で戻ってくる罪人の率は九割九分ぐらいで、まず大量に罪人が逃げて回るということはほとんど無かった。
「つまり、放火で誰か罪人を逃がすということか?」
 “刃折りの烈”こと鬼頭烈(ea1001)が、首の周りの肉をぶるぶると震わせて言った。
「『赤猫』と言えば放火の事だ。伊達に歳は取っておらんよ」
 剣次郎が言う。
「木賀の山賊とかと関わりがあるのかな?」
 鷹波穂狼(ea4141)が言った。先ごろ木賀には、山賊が出没したことがあった。それは冒険者によって倒され、現在は牢屋に居る。
「その線は薄いな。どちらかというと、不祥事による河合様の失脚が目的であろう」
「わたくしもそう思います」
 剣次郎の言葉に同意を表明したのは、大宗院真莉(ea5979)であった。彼女は彼女なりに調査を行い、ある程度の成果を挙げていた。
「牢破りがあった場合、木賀君主河合秀文さまは間違いなく失脚ということになるでしょう。その場合、五井屋は直接得はしませんが、その背後に居るもの――つまり別の封建君主が得をすることになるはずです」
「権力闘争か、やだねぇ‥‥」
 とカッコつけた台詞を言ったのは、大宗院謙(ea5980)である。平素ならば格好がついただろうが、今は体中包帯だらけのすごいダメージをこうむった格好だ。木賀の花町に情報収集に出かけていって、真莉にこっぴどくやられたのである。愛情表現にしては、かなり瀕死の状態であった。
 それでも、しっかりと情報収集している辺りは評価できるだろう。瓢箪から駒であるが、五井屋が木賀周囲の三家、日立、室矢、青梅のうち、室矢家とつながっているらしい噂を聞きつけたのだ。
 これが確たるものになると、裏で糸を引いているのは室矢家ということになる。目的は、もちろん木賀千石である。太平の今、大きな戦が無ければ、大名のスキャンダル以外で配置換えなど起こりえない。逆を言えば、嵌めてしまえばこっちのものである。室矢家は木賀という財所を得、五井屋は木賀君主の後ろ盾を得、鬼鱶の五郎は裏のかすりを取る。良く出来た悪の構造である。
『オニフカが事を起こすぞ』
 天井裏から、声が響いてきた。忍びレンジャーのリィ・フェイラン(ea9093)であった。
『御蔵と馬籠に動員がかけられた。今夜、木賀の大木戸門の近くの民家に火をかけるらしい。もちろんこちらの動きは想定されている。腕の立つ剣客が八名。こいつらは逃げた罪人を斬り殺す役目も担っているようだ。つまり『解き放ち』から、行方不明者を出すつもりのようだ。全部火事のせいにしてしまうつもりらしい』
 事態は、風雲急を告げる展開である。時差が無い事が強みだが、準備の時間も少ない。
 とるものもとりあえず、冒険者達は宿を発った。

●火付けの夜
 空っ風が吹いている。
 御蔵沖継(ea3223)と馬籠瑰琿(ea4352)は、主に浪人者をかき集めた武装集団と一緒に木賀の街を歩いていた。
 ――面倒なことになったねぇ‥‥。
 瑰琿たちは、この行軍の目的を知らされていない。控えの冒険者諸賢はリィの隠密行動によって情報を得ていたが、瑰琿も沖継も鬼鱶から詳しい事を知らされなかったのだ。もちろん周囲の浪人者も知らない。任務は唯一つ、『見敵必殺』。それ以上の情報は、用心棒たちには不要であった。
 ――最悪、同士討ちってこともあり得るかな?
 やけにのんびりと、瑰琿は愚にもつかないことを考えていた。状況の推移についてゆけなかった沖継だけが、真剣な表情で同道していた。

    *

「ようし、ここらでいいだろう」
 目つきの悪い男が言った。鬼鱶こと五郎である。
 鬼鱶の五郎は、険悪という文字をそのまま人間の顔に造顔したような、『いかにも悪人です』といった顔をしていた。幼少のころから悪党で鳴らした、根っからのワル。環境の犠牲者とも言えるが、同情の余地は無い。踏みとどまれるチャンスはいくらでもあったのに、そうしなかったからだ。酒におぼれ女におぼれ、暴力に快楽を見出すころには、いっぱしの博徒になっていた。
 鬼鱶の手下は、巻き藁を何束も持っていた。そして鯨油をかけ、火打石で火をつける。炎はあっというまに立ち上がり――。
「《アイスブリザード》!!」
 吹雪が、その炎を消した。真莉の精霊魔法である。
「鬼鱶の五郎! 木賀を燃やそうとはいい度胸じゃねぇか」
 妻の側に立って、謙が言う。台詞だけ聞けばかなりかっこいいのだが、瀕死の重傷のていたらくでは格好がつかない。
「現場は押さえたからね。もう逃げられないよ」
 穂狼が言った。
「手前ぇらか‥‥ちょうどいい、畳んでやる! 先生、お願いします」
「ごはぁっ!」
 鬼鱶がそういった瞬間、その『先生』から奇声が上がった。
「ひとつ、人の世の生き血をすすり‥‥」
 般若面をかぶった瑰琿が、浪人を一人殴り倒していた。後ろからの不意打ちである。ひとたまりもない。
「てっ、てめぇ!」
 ざっと、三人ほどが瑰琿を囲む。そして一斉に切りかかった。瑰琿は両手の小柄でその攻撃を受け止め、そしてかわしていた。
「ふたつ、不埒な悪行三昧‥‥」
 ひゅっ、どかっ!
 鬼頭烈の強烈な一撃が、浪人者を横合いから殴り伏せる。《スマッシュ》である。
「みっつ、醜い鬼を‥‥」
「『ダブルスマーッシュ!!』」
 穂狼が最近修得した技を繰り出した。《スマッシュ》であった。食らった浪人者は致命の一撃をなんとか受けたが、身体を後ろに50センチも持って行かれた。
「退治てくれよう、○太郎‥‥」
「でやあっ!」
 飛び掛ってきた浪人者の攻撃を、今度は剣次郎が受けた。《真剣白刃どり》である。しかしそこにスキが出来、背後から斬られる。
「むっ!」
 進退窮まった剣次郎を助けたのは、以外にもリィであった。比較的離れた場所からの《シューティングポイントアタック》で、剣次郎の背後にいる浪人の腕を射抜いたのだ。
「《アイスチャクラ》!」
 手に生まれた氷輪を投げているのは、沖継である。ただ射撃技能が無いので、今ひとつ当たっていない。
「貴様が“刃折りの烈”か」
 烈に向かって、言ってきた男が居る。むさくるしい、いかにもな浪人者で、日本刀を持っていた。
「試してみるか?」
 烈が言う。びん、と、空気が張り詰める気配がする。
「でやあっ!」
 烈が仕掛けた。それを男が受ける。
 バキイイイイイイイイイン!
 剣が折れた――烈の剣が。
 相手は《バーストアタック》《カウンターアタック》で、最初から烈の剣を狙ってきたのだ。
「くっ!」
 烈が、無手のままとびずさる。
「ワシがやろう」
 その間に割り込んできたのは、剣次郎である。
「今度はオヤジか」
 びゅん。
 何かが、剣次郎の前を通り過ぎた。そして血がしぶく。
 すっぱりやられたのは、剣次郎の右腕である。《ブラインドアタック》であった。剣次郎は知覚出来なかった。
「まずいぞ、予想以上の手練れだ」
 剣次郎が言う。自分と同じか、それ以上の手合いとやるのは、今回が初めてである。浪人は、対人間戦闘においては達人だ。
 ひゅん! ぱしっ!
「なっ!」
 リィが驚愕していた。彼女が放ったロングボウの矢を、男は掴み取っていたのだ。《ミサイルパーリング》であった。
「名前を聞いておこう」
 烈が言う。
「茨城三十郎(いばらぎ・さんじゅうろう)だ。あの世で吹聴していろ」
 ずりっと、三十郎が間合いを詰めてくる。
「そこまでしとけや、茨城のダンナ」
 そこに、声がかけられた。にやけ顔が、木の上から一同を見下ろしている。
「貴様はいつぞやの!」
 烈が言う。
 それは、忍び装束の男だった。剣次郎や烈は、この男が子供の人質を取ってあくどい事に加担していたのを知っている。
「猿三(さるぞう)、俺の邪魔をするのか?」
「いいや。ただお役人衆が集まってきている。もうすぐ大捕り物になるぜぇ」
 その言葉に、三十郎は渋い顔をした。
「次だ。次にお前たちの首を取る。それまで生きていろ」
 三十郎はそう言うと、きびすを返して逃げていった。
「来たよ! みんな!」
 久遠院雪夜(ea0563)が、河合秀文以下の役人衆を率いてやってきたのは、その後だった。
 鬼鱶の五郎とその手下は、付け火の現行犯で、あっけなく捕まった。

●事件は一応終わりです
「‥‥以上の功をもって、このものたちに報奨金を下す」
 冒険者一同は、木賀の領所で論功行賞を受けていた。付け火を防ぎ、鬼鱶の五郎を捕まえた功でである。
 捜査の手は五井屋にまで及んだが、五井屋は姿を消し、しばらくして川に浮いているのを発見された。
 口封じというのが、もっぱらの噂である。
 雪夜は結局お殿様を期限付きで袖にし、秀文はまたも振られてしまった。
 茨城三十郎と猿三、それと数名の浪人者については、行方がわからない。
 ともあれ、事件は解決である。とりあえずだが。
「次は‥‥勝つ!」
 烈が、異様に闘志を燃え滾らせていた。

【おわり】