暴れん坊藩主#2−3――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月12日〜01月19日

リプレイ公開日:2005年01月18日

●オープニング

■サブタイトル
『季節外れの幽霊屋敷! 箱根宿怨霊寺騒動!! 3』

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

 箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
 その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
 藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。

「今回の依頼は、大野進之助(おおの・しんのすけ)っていうお侍さんから来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、『鬼鱶(おにふか)の五郎』とその手下、いわゆる『地回り』たちを探ること。先日冒険者ギルドでおかなさんってべっぴんさんの問題を解決したんだけど、それになぜか、その鬼鱶の手下が絡んできたのよね。まあ、地回りが冒険者に喧嘩売ってくるってのは、そんなに珍しい話じゃないわ。揉め事の解決については、彼らのシマのシキタリとぶつかることがあるもの」
 やれやれと、京子が苦笑した。
「本当なら、こんなことあんたたちに頼んだりしないんだけど、進さんが河合秀文っていう領主さまとの関連を気にしているのよ。河合様は箱根七湯のひとつ、木賀の君主さまよ。石高は1千。ま、詳しくは報告書読んでちょうだい」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「『鬼鱶の五郎』は、箱根の木賀に居るわ。顔を見られている人は用心すること。それと、油断しないで。相手は地元。地理的には不利だから。進さんはこのギルドの宿屋に居るから、報告は細かくしてあげてね。じゃ、よろしく」
 京子が、言った。

●今回の参加者

 ea0563 久遠院 雪夜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1001 鬼頭 烈(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3571 焔雷 紅梓朗(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8693 鬼堂 剛堅(46歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea9093 リィ・フェイラン(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

暴れん坊藩主#2−3――ジャパン・箱根

■サブタイトル
『季節外れの幽霊屋敷! 箱根宿怨霊寺騒動!! 3』

●いわゆる地回りというもの
 皆さんの認識に齟齬があるといけないので説明しておくが、地回り、つまりいわゆるやくざという集団は、決して邪悪な組織ではない。
 現代におけるやくざは、=(イコール)暴力団という認識になっているため、かなり悪いイメージがある。しかし本物のやくざは、地回りの名が示すとおり、近所の御用聞きを行ったり縁日に店を立てたり、時には独居老人の世話をしたりする自治体の潤滑油なのだ。何でも屋という意味では、冒険者に通ずるものがある。
 地回りは地域の揉め事や不始末の仲裁を行ったりもするため、時に十手を預けられることもある。なかにはそれを嵩に悪いことをする地回りも居るが、それは極少数だ。つまるところ自治体の繁栄なくしてありえない組織なのが、地回りでありやくざなのである。
 だから、その活動は本当に地味だ。賭場を開いたりすることもあるが、それはお目こぼしが受けられる程度の小さな物でしかない。悪いことを堂々とやる地回りなど、実は居ないに等しい。

●皆さん調べました
「その例外が、件の『鬼鱶の五郎』というわけだ」
 そう冒険者一同の前で言ったのは、箱根では『刃折りの烈』という名で知られる浪人者、鬼頭烈(ea1001)である。一言で言えばデブオタだが、腕は確かな剣客だ。
「色々聞き込んでみたが、鬼鱶はまずロクなことはしない男だ。酒狂いの女狂い。粗暴で周囲の縄張り(シマ)とも折り合いが悪く、最近では凶状持ちの剣客を集めて何やらたくらんでいるようだ。まあもちろん、俺たちが奴らを叩き伏せたからだろうがな」
 烈が言う。
「拙者は、河合様と破談になった縁者と話をしてきた」
 白銀剣次郎(ea3667)が、酒椀を片手に言う。
「河合のお殿様と破談になったお家というのは五家。どれもそれなりの名家でな、まあ千石持ちの家に嫁ぐには十分な資格アリといった状況であった。だが拙者が聞き及んで来たところ、河合様には何やら黒い噂があるらしい」
「なんでぇ、火元はお殿様かよ」
 けひゃけひゃと笑いながら、焔雷紅梓朗(ea3571)が言う。ちなみに彼は鬼鱶の賭場に出没し、五両ほど儲けて帰ってきた。帰宅途中に暴漢に襲われたのは当然であるが、撃退したのは当人の腕である。
「それが、どうも違うようだ」
 剣次郎が真面目な顔で言う。
「河合秀文の黒い噂というのは、その五家全てで内容が違う。その噂話を総合すると、河合秀文は、温泉の湯元を不当に占有して大枚を稼ぎ、地回りを束ねて作った暴力集団を陰から操り、宿に重税をかけて臣民から搾取し、女を三ケタほど囲って、酒を飲むと裸踊りをするそうだ」
「やるねぇ‥‥」
 素直に感心してみせたのは、鷹波穂狼(ea4141)である。彼女も似たようなことを行い、その端々ぐらいは掴んでいたが、改めて整理してみるとたいした悪党君主ぶりだ。
 だが言うまでもないが、河合にそのような気配は見当たらない。まあ、女でご政道を曇らせるようなことはするが、そこまで積極的に悪党をやっているようには見えないのが実情だ。
 ちなみに穂狼が調べたのは、民百姓の『お目がね叶った女』のほうである。こちらは引き当てたくじが悪かったらしく、ことごとく男付きであったそうだ。良縁に無理に引き剥がすようなことをするのは娘の親や、気を使った河合の家臣の者達で、秀文自身は何もしていないようである。
「木賀千石を狙っている君主は、結構多いようです」
 大宗院真莉(ea5979)が、箱根周囲の地図を開いて言った。
「代表的なところで、木賀周辺の日立家、室矢家、青海家の三家は、領土の割譲で揉めた経緯があり、虎視眈々と木賀千石を狙っていると考えていいでしょう。しかし河合様が君主の間は、それはかなわぬことかと思います。河合様、わりとまともな方のようですから」
「わひゃひのひらへはほほほへは」
「『私の調べたところでは』と言っています」
 大宗院謙(ea5980)が意味不明なことを言い、それを訳したのは真莉であった。顔がボコボコに腫れている(重傷)。二枚目もこうなると形無しである。ちなみに遊女をさんざんナンパして情報収集をしていた時に、妻である真莉に現場を押さえられたのだ。自業自得であった。
 以下、謙の集めた情報を意訳で表記しておこう。
「河合の殿様に世継ぎができなければ、他の家の者が藩主となる。領地没収もありえるから、河合様は早く世継ぎを作らなければならないらしい。それを、鬼鱶は邪魔したがっているそうだ」
「話しが合わんな」
 そう言ったのは鬼堂剛堅(ea8693)である。
「片方では悪辣な噂を流して縁談をぶち壊し、片方ではおかなさんお縁談を壊して河合様の本懐を遂げさせようとする。これはどういう意味じゃろう?」
「ただいま」
 そこに帰ってきたのは、鬼鱶の番所の見張りを行っていた、リィ・フェイラン(ea9093)である。ハーフエルフの女レンジャーで、イギリスの生まれだ。
「鬼鱶のところに商人が来た」
 リィは、前置き無しで言った。
「看板の漢字は読めなかったけど、商人の居場所は確認してきた。イツイヤという商人らしい。鬼鱶とは何か、政治の話しをしていたみたいだ。『アカネコデローオヤブル』って何だ?」

    *

「新入り、酒ばっか飲んでねぇで、見回りに行ってこい」
 荒神紗之(ea4660)が、先輩に当たる用心棒に言われた。
 ――へいへい、わかっていますよーだ。
 酒盃をくいっと傾け、紗之が席を立つ。
 ここは『鬼鱶の五郎』の番所である。紗之はなんとか鬼鱶の元に用心棒として入り込み、そして内部情報を探っていた。
 ――人数は三〇人ほど。腕の立つヤツぁ五人ぐらいかな。もっとも、こっちが『近寄らせてもらえない場所』に何があるかは分からないねぇ‥‥。
 先ほど駕籠が出て行ったが、中に誰が乗っていたかまではわからない。
 五郎は明らかに、誰かの命を受けて動いている。その中間に先ほどの駕籠の中身がおり、そしてその先に黒幕が居るはずだ。
「新入り!」
 どきっと、紗之が心臓を躍らせた。別に何かしているわけではないのだが、急に声をかけられるとさすがにびびる。
「出入りだ新入り。番井屋って宿に居る冒険者を畳んじまうぞ。親分が口を封じたいそうだ」
 ――やれやれ、来ちまったか。
 半ば予想していたこととは言え、お約束の展開に、紗之はため息をついた。

    *

 一方そのころ。
「おぬし! ワシの所に嫁がぬか!?」
 久遠院雪夜(ea0563)が、河合秀文に告白されていた。まあ、ここ数日エサ撒きのつもりで秀文にべったりへばりついていたのだが、秀文が惚れっぽいことをすっかり忘れていたと言える。
「いや、あは、あははははは‥‥」
 のっぴきならない事態に、雪夜の笑顔は引きつっていた。

●乱暴狼藉
「荒神さんからツテが来た。ここを鬼鱶の手下が襲撃するそうだ」
 剣次郎が、短い手紙を見ながら言った。
「相手は何人だい?」
 紅梓朗が、酒椀に口をつけながら言う。
「三〇人ぐらいだそうだ。要注意の手練れが五人ほど」
「けっ、敵じゃぁねぇな」
 紅梓朗がそう言って、酒盃をあおる。
「紗之さんが手練れと言うんだ。それなりの腕はあると考えたほうがいい」
 穂狼が、さっそく武具を確かめながら言った。
「忙しいことですこと」
 真莉が、短刀を手にする。それに、重傷の謙が続く。
 雪夜を除く一同は、敵の『お出迎え』に向かった。

    *

 ――やれやれ、面倒なことになったねぇ。
 冒険者一行を襲うための集団の中に居る冒険者――荒神紗之は、急速に抜ける酒の気配を感じながら夜の箱根を歩いていた。
 ――こっちの凶状持ちは、何両の賞金首だっけか?
 数えれば三桁になりそうな賞金首の面々を後ろから見ながら、紗之が思う。自分と同等かそれ以上の腕を持つ者も居る。仲間が油断していると、ちょっとやばいかもしれない。
「止まれ」
 先頭の浪人者が、声を上げた。
「よく気づいたな」
 剣次郎と烈が、わき道から出てきた。
 ゴガッ!! どさっ!
「けひゃひゃひゃ」
 変な笑い声を発しながら、紅梓朗が後列の狼藉者をぶっ倒した。不意打ちの《ポイントアタック》《スマッシュ》である。頭を狙った一撃は、まともに入った。
 戦いは、それで始まった。

    *

 ちゃんちゃんばらばら。
 深夜の激闘は、役人たちがおっとりがたなでやってくるまで続いた。
 ちなみにノされたのは、ちんぴら二十五名ほど。浪人達は、冒険者と互角以上の戦いをしている。
 冒険者達は、無傷とはいかなかったが、十二分に相手を倒した。
 これで完全に、鬼鱶の五郎は敵に回っただろう。
 とりあえず、事件は新たな展開を見せそうだった。

【つづく】

――――――――――――――――――――――――――――【次回予告】――――――――――――――――――――――――――――
 さてさて、小田原藩11万5千石で巻き起こった幽霊騒動。それはついにやくざと冒険者ギルドの抗争というところまで進展しました。果たして相手の目的は何か? 風雲急を告げる第4回オープニングは、1月20日ごろ公開予定! お楽しみに!