放火魔を追え!! 1――ジャパン・江戸

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月03日〜01月10日

リプレイ公開日:2005年01月15日

●オープニング

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

「今回の依頼は、江戸の役所から来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「ここ最近、小さな火事がぽこぽこ起きているのは知ってるわよね。どうもそれ、放火らしいのよ。で、番方や町火消しが夜回りしているんだけど、相手はその警備網をすり抜けるように火付けを行っているのよね。で、これは尋常なことではないと、役所があたしたちのところに話を持ってきたワケ。つまり内部にこちらの警備状況を漏らしているヤツがいるってことなのよ」
 京子が言う。
「そうなってくると、話はただのボヤ騒ぎじゃ収まらなくなるわ。役人たちの情報を縫って火事騒ぎを起こすということは、何か別の目的があるってこと。例えば、材木問屋が材木の値を釣り上げるためにわざと放火するとかね」
 この時代、庶民の家屋は板屋根がほとんどで、瓦屋根とは違い火の子が舞うと、それはもうすごい勢いで延焼してゆく。木材問屋はそのたびに建材が売れるので大もうけできるのだが、平穏な時は不良在庫を抱えてアップアップという状況になることもしばしばである。
 そして仕手相場に手を出し、木材などを買っている武家などでは、この状況は膨大な損を生むことになる。木材の先物取引をしている者達にとっては、火事は起きたほうが良いのだ。
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「今回の依頼内容は、この火付け野郎を捕まえて背後関係を洗うこと。放火を阻止することはもちろんだけど、黒幕が居るなら必ず突き止めて確たる証拠を得てちょうだい」

●今回の参加者

 ea0501 神楽 命(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3358 大鳳 士元(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea5858 音羽 朧(40歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6356 海上 飛沫(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6357 郷地 馬子(21歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6358 凪風 風小生(21歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8650 本多 風露(32歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

放火魔を追え!! 1――ジャパン・江戸

●神聖暦999年ジャパン火災事情
 江戸の町にとって、火災は深刻な問題である。
 外国人がジャパンに来てまず驚くのは、ジャパンの家屋が木と土と紙で出来ていることだ。風土や文化いろいろあるが、これほど火災に弱い家屋に住んでいる民族は、そうそう無い。
 だから、ジャパンでは火災=災害という雰囲気がある。火災の発生に対する罰則も厳しく、火元の家屋の主は、時に死罪を申し渡されることもある。また赤猫――つまり放火は、充分死に当たる罪だ。
 火事が起きて得するのは誰かというと、それはもちろん建材を扱う材木問屋である。平時はそこそこの値段の材木が、大火があると価格が急騰する。非常時ほど価格が上がるので、材木問屋は火事が起きたほうが都合が良いのである。
 もちろん現代の先物取引に当たる、仕手相場で材木を買っている者にとってもそうだ。在庫がだぶつけば、損をする。特に君主たちが、藩の金をつぎ込んでいる場合は、深刻な問題になる。
 良心と金を計りにかけて、金に傾いてしまう者もいないわけではない。武士はプライドで食っている商売であり、体面を潰すぐらいなら、火を放ったほうが良いと思う者も出るだろう。
 冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと烏丸京子は、そのあたりに目をつけているようだ。今までのボヤはそのための実験で、本命がそろそろ来る。つまり、『証拠無き放火』である。

●内通者を追う
 ――こういうことする人は、だいたいやること一緒なんだよね。
 と心の中で思い、歓楽街を歩き回っているのは女浪人の神楽命(ea0501)だ。ぴちぴち(死語)の18歳で、ある意味嫁き遅れでああるが、人生で一番花開いてる時期である。
 彼女は江戸の花町や酒場などを丹念に歩き回り、情報を集めていた。内通者が役所に居るのならば、必ず金を受け取っているはず。そしてそういう不埒者は、あぶく銭を掴んだらすぐに手放してしまうはず、と睨んでのことである。
 ただちょっと、選抜対象が多すぎる。役所勤めなので女性は基本的に外し、外国人も除外する。そしてあとに残ったジャパン人の男の中から冒険者を外し(冒険者は時々豪快に財宝を引き当てるため)、『役人』に絞り込む。
 だが、『急に金回りの良くなった役人』をこの大江戸八百八町から探すとなると、さすがにホネだ。
 しかし、命はやりとげた。放火犯の外堀に相当する『内通者』らしい人物に、目星をつけたのである。
 対象は3名。一人目は桂の甚八(じんぱち)という名の目明し、つまりいわゆる十手者だ。放火事件が起き始める少し前から女通いが多くなり、たいそう豪勢に金を使っているそうである。
 二人目は前田真弘(まえだ・まさひろ)という盗賊改方。現代で言うところの強行犯係りの刑事である。こちらは以前、町人から借りた借金できゅうきゅうだったところ、その借金を全て返済し、新宿界隈に出没しているという話しだ。
 最後の三人目は――これは噂にすぎず何の確証も無いが、神庭祷ノ真(かんば・とうのしん)という難しい名前の侍である。役は、町方の与力。いわゆる同心というやつで、普段から袖の下などをもらって街の裏の治安を守っている人物である。かなりの老齢で女っ気は無いが、何かを買いあさっているらしい。その何かについては掴めなかったが。

    *

 同じころ、維新組風の志士を名乗る凪風風小生(ea6358)もまた、命と同じような結論に達していた。基本は女と金。役所の厨などで下女(おさん)の噂話を集めて、怪しい人物を絞り込んでいったのである。
「人間って面倒だよね。お金なきゃ生きていけないんだもの」
 聞きようによってはかなり毒のある台詞を、風小生はつぶやいた。パラである彼には、あまり金銭のトラブルというものに縁が無い。
「さーって、次次ぃ」
 あくまでお気楽に、彼は情報を集め続けた。

    *

 本多風露(ea8650)は、役所で役人の面通しを申し出て、思いっきり蹴られていた。
 役所でおおっぴらに「内通者がいるから探させろ」と言っても、彼らには彼らの体面がある。役所は今回の不始末を表に出したくないので、表向きは当然口が固い。冒険者ギルドに依頼を発したことだって、通常はありえない。
 そのあたりの機微というものを、彼女は持って事に当たるべきだったと言えよう。実際の話し、様々な手管を用意していた彼女は、最初の一歩でつまづいたためにかなりの罰符を背負っての調査開始となった。結果は奮わず、結局命や風小生以上の情報を集めることができなかったのである。
 普段物腰たおやかな彼女としては、痛恨の失敗であった。

    *

 海上飛沫(ea6356)は、同じグループ『維新組』の一人として探索を行っていた。目標は仕手相場である。最近材木で、不自然に儲けている者がいないかという情報の探索であった。
 しかし材木相場は、妖狐襲来以来このところ平穏なため、むしろ下がっている。儲けている者の話しはあまり聞かない。逆に損をしている者の話しはよく聞く。仕手相場は浮き沈みがあるが、材木はハイリスク・ハイリターンな商品なので、損をするとかなりデカい。
「そういう輩(やから)が事件を起こしているということですね」
 そう認識を改めた飛沫は、その情報収集目標を逆方向に定めた。つまり『材木で損をしている人』を探したのである。
 仕手相場に手を出しているのは、主に商家と武家である。貧乏な町人に、そんなことに手を出すお金は無い。だからわりと、そういう噂は聞きこみやすかった。
 材木でかなりの負債を抱えているのは、江戸の材木問屋『垣根屋』、箱根の下層君主『前原家』、そして江戸の下層君主『江別家』あたりであると名前が挙がった。これについては、別の切り口で調べを進めなければなるまい。

    *

 『維新組地の志士』を名乗るジャイアントの女志士、郷地馬子(ea6357)は、状況の変化に窮していた。
 陽動行為である派手な聞き込みを江戸市中で行い、相手の出方を待ったのだ。実際、それは図に当たり、彼女は数人の暴漢に襲われるという好機まで得た。
 だがしかし、そこまでであった。暴漢達を倒し相手の素性を聞きこんだ彼女は、そこで予定外の事態に遭遇する。つまりその暴漢は町のごろつきで、誰かに金を握らされて彼女襲っただけなのである。
 その『誰か』については、分からない。彼女はあまり聡明なほうではなく、そして人生経験も豊富とは言いがたかった。芋づる式に犯人へ手をかけようとして、いきなりスカされたのである。
「どうしたらいいんだべか‥‥」
 やや呆然とした感で、彼女は言った。強さの証明にはなったが、事態は混迷するばかりであった。

●放火魔を追う
 夜半――。

 ――どーも腑に落ちねぇ。内通者がいるとはいえ、江戸の有名どころの火消したちが見つけられん放火犯とはなぁ‥‥。もしや、その火消しの中に放火犯が?‥‥俺の考えすぎか‥‥。
 どうにも疑問点が絞れず、延々と思考のどうどう巡りを起こしているのは、黒僧兵の大鳳士元(ea3358)である。彼は、火消しや役人たちの夜回りとは別に、街中を巡回している。つまり警戒の『穴』を探っているのだ。
 もちろん今までのボヤ現場から統計を取り、次の放火場所については江戸の下町のどこか、つまり南東地区と目星をつけている。今夜は西からの風。火を放てば、貧民街は全滅である。
 ――燃え草は、このところのボヤ騒ぎで火消したちが徹底的に排除している。火をつけるには、燃え草を用意しなきゃならなねぇ‥‥藁束に鯨油、火打石ってところか。
 般若湯の入った徳利を傾けながら、士元が思う。
 ぽっ。
 しかし士元の予想に反して、彼の背後から紅い光が灯った。背後を振り返り、彼は驚愕した。
 二丁ほど向こうの家から、火が上がっていたのだ。先刻彼が通った場所だった。

    *

「南無三!!」
 同じような予想を立てていて、ハマった者がいる。忍者の音羽朧(ea5858)である。
 ――内通者が居るということは、その警戒網の穴を突けば良い。おのずとそこに、放火魔が現れる。
 彼の予想は正しかったし、間違ってもいた。ほんの、目を離した隙と言っても良い刹那の時間に、火が出たのだ。《疾走の術》を用いて現場に急行するが、火はすでに立ち上がるほどになり、生半可な水や魔法では消すことが出来なくなっていた。
 ――燃え草も無いのに、なぜこのような放火が出来るのだ!?
 経験の無い出火に、朧はただ疑問符を浮かべるのみであった。

    *

「ええ〜? どうして火が出るんですか〜?」
 やや間延びした口調で、尻上がりの疑問形を発したのは、女志士の南天桃(ea6195)である。彼女もまた夜回りのルートなどを(その話し口調に似合わず)微細に調べ、放火魔が出る場所をほぼ正確に割り出していたのだ。距離的には数百メートルずれているのだが、都市規模で考えれば、その程度の誤差はミクロン、いや、オングストローム単位と考えていい。
「桃サン、これおかしいネ! 燃え草が無いアルよ!」
 同道していた女武道家の、羽鈴(ea8531)が言う。
 彼女らが集めた今までのボヤ情報と今回の出火は、一つだけ相違点がある。それは『燃え草が無い』ことだった。今まではなんらかの燃えるものが燃えて火元になっていたのだが、今回は明らかに板壁が直に燃えている。
 そうそう火がつくとは思えない状況だ。藁束などもなく、出火原因どころか放火方法も特定できない。一種不自然な出火と考えていい。
「ええ〜。どうしてぇ〜?」
 桃はただ、うろたえるばかりであった。

    *

「やられた!!」
 そう言って歯噛みしたのは、維新組火の志士を名乗る小坂部太吾(ea6354)である。彼もまた、『大江戸放火マップ(命名:南天桃)』を頼りに、次の出火場所を張っていたのだ。抜け駆けを狙っていたので他の者との連携もあまり取れておらず、完全に出遅れた形になっている。
「えぇいいまいましい! いったいどこのどいつじゃっ!」
 バンッ!
 太吾は板壁を叩いた。

●結果
「おやおや、ずいぶんシケた顔をしているじゃないか」
 冒険者ギルドの女番頭、烏丸京子が、いかにも不景気な顔をしている冒険者の面々を見て言った。
 結果的には、火事の超早期発見によりボヤ以上の被害を出さずに済んだ。『大火を食い止めた』という意味では、依頼は成功である。
 だが、犯人は捕まっていない。それはつまり、『次』があるということである。
 今回の調査で、さまざまな情報が得られた。それはまだ点と点の段階であり、線として結びつくにはこれ以上の深い調査が必要だろう。
 ――次の放火が起こる前に、事態を収拾しないと。
 冒険者達は、心の中でそう思った。

【つづく】