放火魔を追え!! 2――ジャパン・江戸

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月29日〜02月05日

リプレイ公開日:2005年02月07日

●オープニング

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

「今回の依頼は、江戸の役所から来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「ここ最近、小さな火事がぽこぽこ起きているのは知ってるわよね。どうもそれ、放火らしいのよ。で、番方や町火消しが夜回りしているんだけど、相手はその警備網をすり抜けるように火付けを行っているのよね。で、これは尋常なことではないと、役所があたしたちのところに話を持ってきたワケ。つまり内部にこちらの警備状況を漏らしているヤツがいるってことなのよ」
 京子が言う。
「そうなってくると、話はただのボヤ騒ぎじゃ収まらなくなるわ。役人たちの情報を縫って火事騒ぎを起こすということは、何か別の目的があるってこと。例えば、材木問屋が材木の値を釣り上げるためにわざと放火するとかね」
 この時代、庶民の家屋は板屋根がほとんどで、瓦屋根とは違い火の子が舞うと、それはもうすごい勢いで延焼してゆく。木材問屋はそのたびに建材が売れるので大もうけできるのだが、平穏な時は不良在庫を抱えてアップアップという状況になることもしばしばである。
 そして仕手相場に手を出し、木材などを買っている武家などでは、この状況は膨大な損を生むことになる。木材の先物取引をしている者達にとっては、火事は起きたほうが良いのだ。
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「前回大火は阻止できたけど、放火自体は阻止できなかったわ。今回の依頼内容は、この火付け野郎の手の内を暴き、とっ捕まえて背後関係を洗うこと。放火を阻止することはもちろんだけど、黒幕が居るなら必ず突き止めて確たる証拠を得てちょうだい」

●今回の参加者

 ea0501 神楽 命(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2605 シュテファーニ・ベルンシュタイン(19歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea3358 大鳳 士元(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6356 海上 飛沫(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6357 郷地 馬子(21歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6358 凪風 風小生(21歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

放火魔を追え!! 2――ジャパン・江戸

●裏社会の秩序
 役人は、賄賂をもらうのが仕事である。
 誇張ではない。真実だ。
 平穏が続き官僚が実権を握ると、世間は贈賄と収賄が蔓延して腐る。だがこれれは必要悪のようなもので、裏社会の均衡を保つにはどうしても必要なことだ。
 なぜなら、善なるものは悪なる存在無くして自立しえないからである。つまり、悪も世界の一部なのだ。
 だから、役人は賄賂をもらう。送るほうも、地域に揉め事が起こったときに味方についてもらえるよう金子を送る。特に十手を預かる者たちは、いわゆる『袖の下』をもらうのも仕事の一部と考える風潮があった。清廉潔白であることは、この場合良い方向には向かない。清濁併せ呑む事が出来て一人前。つまり賄賂を上手にもらい、上手に世間を回転させることが、役人に求められる『才能』である。
 こんな事を書くと作者は官僚主義者なのかとか族議員擁護派なのかと問われてしまいそうだが、そういうわけではない。世の中を上手に回転させられる歯車には、色々な種類があるということだ。もっとドギツイ表現もあるが、ここでは控えておこう。

 ともあれ、冒険者たちの事件に対する調査は続いた。しかしまだまだ調査対象が多すぎる。手の数には限りがあり、時間も無限にあるというわけではない。

●金づるを洗え
 ――これが本命だといいのにな。
 と、思いながら調査をしているのは、神楽命(ea0501)であった。彼女は現在、内通者の容疑者の一人、前田真弘という盗賊改め方に絞って調査を行っている。
 前田というこの侍は、先日までかなりの大枚を町人から借りていたそうだ。一〇〇両とも千両とも言われるが、実際の金額は分からない。この時代、高利貸しに一〇両ほど金を借りると、利息だけで一年後には千両になっていることもある。役所から手が入る場合もあるが、そういうことは少なくて悪徳高利貸しが横行しているのが現状だ。
 だから、逆を言えばこの前田という男、他に挙がっていた十手者桂の甚八や、同心神庭祷ノ真に比べると色々違う。

 一つ、借金をしている。
 二つ、金の返済のアテが無い。
 三つ、役人の深いところに居る。

 ということで、本命と言えば本命であった。二つ目については、武士は賭場に出入り出来ないのであぶく銭も得られないという事情もある。また階級も高く、内情を知るには好都合だ。
 そして命が探しているのは、前田が借金をしていたときの証文であった。これを悪意のある第三者に握られると、前田はやはり身動きが取れなくなってしまう。証文の買取は高利貸し間ではままあることであり、大抵えげつないことに使われるのが普通だ。
 調べたところ、前田は近江屋という金貸しから借金をしていた。近江屋に直接問い合わせたところ、証文は返済と同時に燃やしたという。本当かどうかは分からないが、当人がそう言っているのならば信じるしかない。金貸しの良心を信じていいものかどうかは問題だが。
 ちなみに近江屋は、裏で鹿子木(かねき)組という地回りと繋がっている。近江屋は、前田が鹿子木の賭場で焼きかせた金子の、肩代わりをしていたという。
 やや出来すぎな話と言えよう。しかし、証拠は無い。

 ――仕手相場に動きは無いですね‥‥まだ警戒しているのでしょうか‥‥。
 海上飛沫(ea6356)が、材木問屋を虱潰しにして『黒幕』の捜査をしていた。
 このところの火事で、相場はやや高上がりである。負の期待感――つまり放火による大火事で一儲けしようという悪どい風潮が、相場に充満しているのであった。
 だが、まだ具体的な動きは相場に無い。何かひと刺激、一発目の大鐘が必要そうだった。
 ――材木の買い付け主は特定できたけど、直接はつながらない‥‥もう一枚、悪い歯車が噛んでいると考えるべきでしょうね。
 飛沫は、貧民街に事があった場合の材木の買い付け主を特定していた。まあ、公開情報なのでその辺は楽だった。
 問題は、その買い付け主――仮に奉行Aとしておくが、この公儀役人Aが『誰かから買い付けるかは、火事が起きてからでないと分からない』のである。裏金が動いていて談合などが成立していれば、『事件が起きた後に』それが判明する。しかし証拠も無いし、当然火事による被害は避けられない。依頼も遂行出来ないで、まったく意味が無い。
 こういう悪どいやりかたは無くならないが、今回は防がなければならない。ジレンマであった。

「桃ちゃんの方の手回しは大丈夫アルか?」
 羽鈴(ea8531)が『鈴風』という湯屋で、南天桃(ea6195)と話をしていた。
 鈴は同心の神庭祷ノ真が怪しいと睨んでいたが、こっちはどうやらはずれのようだった。彼は人形集めにご執心で、それで金を使っていたのが判明している。人形と言ってもからくり人形から生き人形まで様々で、趣味としては(良いか悪いかはともかく)まともである。金の流れの、裏も取れた。もっとも、不気味な趣味には違いない。
「こっちはぁ〜、お奉行様にぃ〜、会ってきましたぁ〜」
 間延びした口調で、桃が言った。
 桃は火消しと町奉行に会い、今回の放火事件の担当冒険者であることを申し出、協力を求めたのである。具体的には、夜回りや警備に穴を開けてもらい、そこに犯人を誘導することであった。最初は難色をしめしていた奉行たちだが、前回大火事を阻止した実績などを買われ、全面的に協力してもらえることになった。奉行も、内通者の処遇については困っていたのである。

●夜が来る
 夜が来た。
「派手に書いたわりには静かだのう」
「なじょすた? まっことなんにもないだべや」
 小坂部太吾(ea6354)と郷地馬子(ea6357)は、読売に自分たちが犯人の知っていると書かせて、敵の襲撃を待った。堂々としていれば、相手が何かを仕掛けてくるはず。そう読んでのことだ。伏兵に凪風風小生(ea6358)を用意し、夜回りを行う。太吾は時々、《インフラビジョン》で周囲を警戒していた。
「さむいわよね〜、終わったら一杯やりたいわよね〜」
 シフールのバード、シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)は、太吾や馬子、そして黒僧兵の大鳳士元(ea3358)やジャイアントの女僧侶、シャクティ・シッダールタ(ea5989)の夜回りを、上空からチェックしていた。《サウンドワード》などを用いて周囲を警戒し、地の利を生かした上空監視(ハイアングル・オフ)で不埒者を発見しようというのだ。
「‥‥いつ来ても良いんだぜぃ? 結果は同じだろうがな‥‥」
 どぶろくを飲んで体を温めつつ、士元が言う。
「火の用心! 火種一つも火事のもと〜、ですわ」
 シャクティが言った。提灯片手に、防寒着をしっかり着込んでいる。
 余談だがこの時代、女性がインドゥーラで仏門に入るのは、結構覚悟がいる。シャクティはそのあふれる正義感で、冒険者をやっているのだった。
 はたして、動きがあった。人間やジャイアントで構成された10名ばかりの武装した集団が、路地で太吾たちを待ち伏せていた。
「問答無用、《シャドゥボム》!!」
 敵かどうかの確認もせずに、シュテファーニが魔法を放った。
 ずがーん!!
 『影』が物影で爆発し、その物陰にいた数名の武士が吹っ飛んだ。
「来た!」
 喜んだのは太吾である。読みが当たったのだから、嬉しさもひとしおであろう。
 しかし数分後。
「こいつは‥‥手ごわいぞ!」
 士元が、刀を打ち合わせながら言う。
 相手は、浪人者と思われた。食詰め浪人の集団――おそらくは黒幕の手先ということになるだろう。
 だが、腐っても武士。腕の差はあったが、さすがにてこずっていた。
「『蓬莱山崩し』!!」
 シャクティが武士の一人を投げたが、相手はこちらの倍以上いるのである。分は悪い。
「あら〜、なにすっぺ〜!」
 馬子も音を上げ始めた。シュテファーニが魔法の援護を行うが、乱戦になると《シャドゥボム》は使えない。
 ぼっ。
 ――火!
 シュテファーニが思った。街路の向こう、風上のほうから、火の手が上がったのだ。
 ぼっ。
 続けてもう一つ。火が上がる。二ヶ所目である。
 ――やばい!
 一同が思った。手際よく炎を上げるその手管は、おそらく魔法か忍法だ。それが、前回の教訓を活かして(つまりチンピラ程度では冒険者に敵わないと知って)本気で仕掛けてきたのである。火も一箇所ではすぐに消されると知り、今回は数を揃えてきた。しかも浪人達は、冒険者の足止めもしている。つまり、この浪人者は冒険者を釣るエサでもあったのだ。
 戦況膠着し、冒険者が互いに背中合わせになって円陣を組んだときには、三つ目の炎が上がっていた。周囲は浪人者が固めている。
「攻めがきつくて魔法が使えん‥‥」
 太吾が言う。《高速詠唱》の使えない太吾は、魔法の詠唱時に大きなスキが出来る。それは今回の相手に対し、致命になりかねない。例えば《ポイントアタック》で首を斬られれば、致命傷である。彼には炎を消す呪文、《プットアウト》があるのに、使えないのだ。
「頃合だ、引け」
 リーダー格らしい浪人が、あごをしゃくる。浪人達は、散り散りに逃げ出した。
「南無三!」
 太吾たち冒険者が、火災現場に走った。

 その少し前。
「居た‥‥外国人だ」
 凪風風小生は、三度目の出火で放火魔の姿を捉えていた。呪文の詠唱を行い炎を発するまでを、完全に現行犯で見ている。
「《ウインドスラッシュ》!!」
 風小生が魔法を放って、その魔法使いを攻撃した。「ぐあっ!」と叫んで、魔法使いは風小生を見、逃げ出した。
「待て! 放火魔!」
 その進路を、桃と鈴が塞いだ。放火魔はあわてて、路地へと逃げ込み――。
「ぐぁっ!」
 悲鳴を上げた。
 放火魔はよたよたと後ずさり、後ろ向きに倒れた。
 ごろん。
 その拍子に、首がもげて転がった。すさまじい勢いで、首から血が噴く。
「やべぇ、つい斬っっちまった」
 浪人者が、路地から出てきた。二本差しの目つきの鋭い男で、無精ひげの浮いたあごをぼりぼり掻いている。
「あなた、誰アルね!」
 鈴が言う。
「俺は小林字稔治(こばやし・じねんじ)。浪人者だ。地回りの用心棒をしている」
 字稔治は、堂々と答えた。
「どうして殺したんですかぁ〜? この人放火魔なんですよ〜?」
 桃が言った。
「いきなり襲い掛かってきたから、思わず手が出たんだ。放火魔ならなおさらほうっておけないな。殺して正解だったろう」
 何にも動じる事無く、字稔治が言う。
 ぐっ、と。桃は言葉を飲み込んだ。殺してしまっては、背後関係を洗えないからだ。
 士元たちが来たのは、その後だった。

●結果
 火は、士元の《プットアウト》で早期に消火された(魔力を限界まで使用したが)。被害も最少で済み、今回も冒険者は大火を食い止めることに成功した。
 しかし、課題は残された。結局黒幕は分からずじまい。犯人も死亡し、手掛かりは途切れたかに見えた。
「なんだいもう。しゃきっとしなさいな」
 京子が、冒険者たちに向かって言う。
「この話、まだ終わらないよ」
 京子が言った。
「役所から、依頼が来てるわ。捜査の継続。何か動きがあったみたい。もうすぐ正式に依頼を出すから、次こそ頼んだよ」
 京子が、会心の笑みを浮かべながら言った。

【つづく】