放火魔を追え 3――ジャパン・江戸

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月14日〜02月21日

リプレイ公開日:2005年02月24日

●オープニング

●当世ジャパン冒険者模様
 ジ・アースの世界は、結構物騒である。
 比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
 それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
 そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
 それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
 冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
 基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。

「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
 と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は江戸の役所。依頼内容は、先日まで起きていた放火事件の黒幕を探り、そいつを捕縛すること。放火の下手人は、捕まる事は捕まったんだけど殺されちゃってね。表向き、捜査の糸は途切れた形になっているわ。でもそういう事態ではないことは、冒険者ならみんな知ってる。当然、『次』があるはずよ」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「詳しくは、前回の報告書を読んでちょうだい。役所が表向き捜査を完了していることを念頭に置いておいてね。犯人の特定と捕縛、そして、あるならば次の放火の阻止。チームワークで勝負してね。以上、よろし?」

●今回の参加者

 ea0501 神楽 命(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3358 大鳳 士元(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6356 海上 飛沫(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6357 郷地 馬子(21歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6358 凪風 風小生(21歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

甲斐 さくや(ea2482

●リプレイ本文

放火魔を追え 3――ジャパン・江戸

●捜査線上に浮かぶもの
 事件の捜査は、パズルに似ている。
 必ず一枚の完成された絵があり、捜査によってその抜けているピースを埋めるのだ。事件と言うものは終始一貫して動機があるものであり、その目的のために手段を行使するという事に対して対処する。絵柄が見えれば、次のピースがどのような形なのかも分かってくる。つまり、犯罪を未然に防ぐわけだ。

「今、捜査線上に浮かんでいるのは、高利貸しの『近江屋』、地回りの『鹿子木組』、そして盗賊改方の『前田真弘』だ」
 小坂部太吾(ea6354)が、周囲の冒険者たちを見て言った。
「黒幕については、海上飛沫(ea6356)の調べで江戸の材木問屋『垣根屋』、箱根の下層君主『前原家』、そして江戸の下層君主『江別家』の名前が挙がっている。だが、まだ捜査線上に浮かぶものは無い」
 太吾が言う。
「垣根屋は、今のところシロっぽいよ」
 凪風風小生(ea6358)が言った。
「手近なところで忍んでみたけど、これといったものは見つからなかった。人の出入りもおおむねまとも。何より、今回の放火魔事件が収束すると同時に、材木の『売り』に走っている。垣根屋は外していいんじゃないかな」
 風小生が言った。
「買いに走っているのはいないかしら?」
 と、これは瓜生勇(eb0406)である。
「江別家が買っています。かなり安く仕入れているようです」
 飛沫がそれに答えた。これは有力な情報である。
「死体を調べた」
 大鳳士元(ea3358)が、声を上げた。
「放火魔の名前はハンク。『外交的配慮』ってやつで素性は明かされていないが、イギリスのウィザードらしい。この人物へ繋がるツテを調べてみたら、『桑原』っていう役人に繋がった。その桑原某は、近江屋から金を借りている。これは南天桃(ea6195)からの情報だ」
「ちょっとしたツテがあってねぇー
 はにかみながら、桃が言った。支援者に頼ったらしい。
「それ、当たりアルね」
 羽鈴(ea8531)が、なにやら正体不明の体操をしながら言う。武術の、鍛錬だそうである。
「伊東登志樹(ea4301)は、用心棒として鹿子木組入り込んでいる。昨晩第一報があったが、放火魔を殺した小林字稔治(こばやし・じねんじ)は、鹿子木の用心棒だそうだ。おそらくは、口封じのために現場に居たのだろうな」
 太吾が言った。出来すぎな構図であった。
「小林某に関しては、あたしのほうから突付いてみたよ。あの浪人、結構なタヌキみたいだね。いわゆるワルってやつかな?」
 神楽命(ea0501)が言った。人を殺してしれっと名前を言える人間は、マトモな部類に分類できないだろう。
「鹿子木の見張りの準備は出来てるべさ」
 郷地馬子(ea6357)が言った。
「では、行動開始といこう」
 大悟が言う。
 それぞれが、江戸の街に散っていった。

●夜に潜む
「新入り、出入りだ」
 伊東登志樹は、夜半に起こされた。ここは鹿子木組の、賭場の2階である。ジャイアントや人間で構成された浪人者十数名。今は登志樹も、その中の一人だ。
「冒険者を殺(や)る。人数は10名ほど。今夜は徹底的にやるぞ。びびって逃げるなよ」
 リーダー格らしい、細面の浪人が言った。
 浪人達は、連れ立って鹿子木の賭場を出て行った。
「‥‥?」
 ――あの浪人の姿が無い。
 登志樹が思う。
 小林字稔治の姿が、どこかに消えていた。

    *

「局長、動いたべ」
 郷地馬子の言葉に、小坂部太吾は目を覚ました。
「人数はひのふの‥‥12人か」
 偏ってはいるが、戦闘集団としては侮れない十数名である。
「火付けが起きたら突っ込むぞ」
 大悟が馬子に言う。馬子はそれに、「あい」と短く答えた。

    *

 こちらはエサ一行。
「寒いですね」
 海上飛沫が、白い息を吐きながら言う。
「今日は雪かもしれないね」
 神楽命が、拍子木を叩きながら言った。その後ろを、いつになく陰鬱な表情で、大鳳士元がついてくる。彼は今日、いつになくマジだ。
 南天桃も羽鈴も、今日は厚着で夜回りである。いや、夜回りにしては、皆殺気立っている。
 迎え入れているのだ。
 何を? 敵である。
 今は伊東登志樹が、その中に入っているはずである。もちろん偽装であり、目的は黒幕の暴露であるが、とりあえずは放置していいだろう。
「近江屋が板塀だったのは誤算だったなぁ‥‥」
 瓜生勇が思う。魔法《ウォールホール》で近江屋へ忍び込もうとしたのだが、土塀などという高級な代物は無く、あっさり板塀に侵入を阻まれてしまったのだ。成功すれば、証文とか何か、証拠品を押収出来ただろう。
 この場に凪風風小生はいない。江別家に忍んでいるはずである。
 はたして。
 夜回りをしている六人を、怪しい浪人集団が取り囲んできた。
「‥‥俺をやる気か? やってみろよ」
 ぐびりと酒をやりながら、士元が言う。
 じゃきっ!
 浪人が、一斉に刀を抜く。
 戦いが、始まった。

●血に染まる賭場
 西側に、火の手が上がった。
 同時に、大悟と馬子は、鹿子木の賭場に突っ込んだ。
「なっ!」
 大悟が声を上げる。
「みんな死んでるっぺよ」
 賭場は、血で染まっていた。やくざものや鹿子木の親分らしい物体が、累々と横たわっている。ほぼ一方的な殺戮。生半可な実力ではない。
 この腕前に思い当たるのは、一人しか居ない。小林字稔治。しかし、『誰が』動かしたのか?
 調べを進めて大悟は、先手を打たれたことに歯噛みすることになる。

    *

 命や士元らは奮闘した。数に倍する相手に、手数で対処する。しかし双方共に譲らず、戦闘は冒険者側がジリ貧になっていた。魔法が飛び交い剣技が錯綜する。戦いは、どんどん大味なものになってゆく。
 しかし別働隊が居たのか、風上の方から火の手が上がった。冒険者達は、はやる心を押さえつけるのに手一杯だった。
「やーんぴ」
 ずんばらりん。
「手前っ! 何しやがる!」
 登志樹が、予定通り用心棒たちを裏切った。背後の有利を活かして、後ろからずばずばと浪人達を切り伏せる。挟み撃ちというのは、いつの時代でも有利な戦法である。
 それから浪人達を撃退するのに、5、6分はかかった。勢いに乗る冒険者達は、倍の敵を撃退したのだ。
「逃がさないアル!」
 鈴が、走りこんで背中から一発お見舞いした。一人がもんどりうって倒れる。
 冒険者たちは、3人ほどの浪人を逃がした。しかしその方向へ行くと、合計で三つの死体が六つの物体になって斃れていた。
「なんでぇこいつらは」
 いつか見たデジャヴ。そこに居たのは、小林字稔治であった。
「あー! 小林!」
「呼び捨てかよ」
 桃の言葉に、字稔治が苦笑する。
「いきなり斬りかかってきたんで、ついやっちまった。こいつら何者だ?」
「「「「?」」」」
 冒険者達は、奇妙な違和感を覚えた。
 しかしそれが何かは、分からなかった。

●事件解決
 事件は終息した。一応。
 火は飛沫の《ウォーターボム》で消され、大事にはならなかった。
 後日、前田真弘が自害切腹したことが判明した。鹿子木組は壊滅。下手人は挙がっていない。
 近江屋は、盗賊に入られ殺害されたという。これも下手人は挙がっていなかった。
 次々と消される証人。そして証拠。目下限りなく『黒い』江別家も木材を放出し始め、事件はうやむやのうちに終了した。
 江戸の大火は、防いだと言っていいだろう。しかし、親玉までは至ることが出来なかった。相手が先手を打って、証拠や証人の始末を行ったとしか思えない。
 小林字稔治は、おそらく一枚噛んでいるだろう。しかし、証拠は無い。それどころか、下手人を退治して金一封を貰うほどの評価を受けていた。どこかに、仕官することも不可能では無いだろう。
「してやられたか‥‥」
 士元が、苦い表情で酒を飲む。他の冒険者も、似たような気分だった。試合に勝って勝負に負けた、そんな感じだ。
「そう気にしないアルね」
 鈴が言う。
「そうですよぉ〜、次にがんばればいいんですぅ〜」
 桃が言う。へこたれないというのは、いいことである。
 とりあえず、事件は未然に防いだ。この江戸を脅かすものは、とりあえずいなくなったと見ていい。
 ワルは、きっとまたどこかで何かをするだろう。その時こそ、叩き伏せてやればいいのだ。
 機会は、必ずある。

【おわり】