温泉の雪女――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月10日〜02月17日

リプレイ公開日:2005年02月20日

●オープニング

●当世ジャパン冒険者模様
 ジ・アースの世界は、結構物騒である。
 比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
 それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
 そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
 それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
 冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
 基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。

「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
 と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は、箱根塔之澤のお役人。最近湯屋がまるごと凍らされるって事件が2件ほど続いてね。それで、雪女の仕業じゃないかって話しなのよ。雪女って言えば、それは冷たい美女だて話。ただ伝承で聞くように、情け深い性癖を持っているとも言われるわ。問題は、塔之澤になぜ現れたか?」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「依頼内容は雪女の駆逐じゃなくて、問題を解決すること。あまり事は荒立てないで。力ずくは最終手段と思ってちょうだい。以上、よろし?」

●今回の参加者

 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2366 時雨 桜華(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2391 孫 陸(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8257 久留間 兵庫(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8802 パウル・ウォグリウス(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

温泉の雪女――ジャパン・箱根

●雪女という存在
 モンスターとして定義した場合の雪女は、極めて強力な冷気系の化け物である。その破壊力は、湯屋一軒まるごとを凍結せしめるほど。抱きしめられたら、寒いでは済まないだろう。
 だが一方で雪女は、とくに東国の伝承において、必ずしも残虐な羅刹というわけではない。人に憧れ人に恋し、子を成し夫婦となって人間と暮らす。それは決して夢物語でななく、現実にある事なのだ。
 ただなぜか、雪女たちは自分の正体が露見すると、人の元を去ってゆく。
 理由は分からないではない。人間による異界の者に対する畏怖と差別が、彼女らの存在を危うくするのだ。人間より残虐な生物は居ない、ということでもあろう。
 それで、今回の話である。
 『雪女が現れた』という話で依頼が来ている以上、雪女が目撃された、ということになる。
「Nice to meet you。はじめまして、緋牡丹のお京。俺はティーゲル・スロウ。これでも神聖騎士だ。よろしく頼む、美人。さて、俺はまだこの国の伝承などを知らないのだが、雪女とはどんなやつなんだ?」
 ティーゲル・スロウ(ea3108)が、ギルドの番頭である緋牡丹お京こと烏丸京子に問いかけた。
「そうねぇ」
 お京が、キセルをくゆらせる。
「昔話じゃ人間と所帯を持ったりする、わりと人間に近い化生かな。美人って話だけど、実物を見たこと無いんでなんとも言えないわね。冷気系の魔法を好んで使い、何もかも凍らせてしまう冷たい化け物。だけど、人間に必ずしも悪意を持っているというわけではなく、むしろ人間の事を気遣ってくれているようにも見えるわ」
 京子が言った。
「つまり交渉の余地はあるわけか」
 ティーゲルが言う。
「「ただいま」」
 そのとき、クリス・ウェルロッド(ea5708)と山下剣清(ea6764)が、宿屋に帰ってきた。
「ジャパンの素敵なレディたちから、面白い情報を聞くことが出来ました」
 クリスが、目をキラキラさせながら言う。何を隠そう、この二人は情報収集にかこつけてナンパしてきたのである。
 剣清が、口を開いた。
「件の雪女は、外見は17、8の女性で、髪は長かったそうだ。透き通るような素肌をしていたそうだが、顔は誰も覚えていない。で、ここからが問題なんだが、雪女は温泉に入ろうとしたらしい。で、足を湯船に浸けた瞬間、湯船がまるごと凍ったそうだ」
 剣清が言う。
「まさか雪女が温泉に入ろうとしたとでも言うのか? ありえないだろう」
 と、言ったのは物部義護(ea1966)である。色々と経済面から湯屋の力関係などを調べていたのだが、こちらはわりと空振りで、今回の事件で妙な得をしたヤツとかには行き当たっていない。作為的なものがあれば、主に金に動きが現れるはずである。
「雪女の仕業とは限らないんじゃないかな」
 そう言ったのは、時雨桜華(ea2366)であった。続けて桜華が言う。
「湯屋に聞き込みをしてきたが、湯屋の主人は今回の事件を目撃していない。話は氷漬けの湯船に取り残された客から出ている。湯船を凍らせるなら、精霊魔法の……アイスなんとかってやつでも出来るんじゃないかな」
 おそらく《アイスブリザード》のことであろう。
「湯屋はほんとうにガチガチに凍っていた」
 孫陸(ea2391)が、口を開いた。
「アレは広範囲の冷気系魔法だと思うな。だとすると志士かウィザードあたりの仕業だと思うんだが‥‥」
「そこまで断定は出来ないだろう」
 凪里麟太朗(ea2406)が言う。
「現場を調べてみたが、湯屋は湯船を中心に凍っている。つまり剣清君の調べたことと符合するんだ。雪女はつまり、温泉に入ろうとした。これは間違いない」
「雪女についちゃあ、その辺で当たっているのかもしれないな」
 声がして、久留間兵庫(ea8257)が、引き戸を開けて入ってきた。
「被害者――霜焼けにされたほうに会ってきたんだが、件の女性は、湯船に入るのをずいぶんためらっていたそうだ。髪の長い透き通るような肌の女性。おっかなびっくりと言った態で、足を浸けて湯屋を凍らせた後はそそくさと逃げていったらしい」
 おっと、いきなり重要そうな情報が入ってきた。
「雪女は温泉に入りたいのか?」
 義護が問う。しかし確たる返答は無い。
「おそくなりもうした」
 そこに、江戸に残って調べものをしていた島津影虎(ea3210)が合流した。茶を一杯すすり、おもむろに話し始める。
「雪女については、東国の文献にいくつか伝承が残っていました。雪女は人と夫婦となり、子を成す化生。つまり人間と生活していたわけですな。もちろん風呂にだって入ったでしょう。問題は、雪女はその生活の中で、雪女と発覚する場合が皆無だということです。この意味がおわかりでしょうか?」
 一同が、影虎の言葉に疑問符を浮かべる。
「つまり――」
 影虎が口を開いた。
「つまり、雪女は風呂に入れるのです。もちろん温泉も大丈夫でしょう。ですから今回の雪女事件は、雪女の仕業とは限らないと思うのです」
 影虎が言った。
「いや、影虎君」
 麟太朗が口を開く。
「こっちの調べでは、ほぼ雪女の存在が確定しているんだ。だから伝承がこうだから、っていうのは当てはまらないかもしれないよ」
 麟太朗が言う。しかし麟太朗の言葉も、確証があってのことではない。
 うーむ。
 一同は考え込んでしまった。

●出会い
 結論の出ないまま、一同は湯屋での情報収集を続けていた。次にねらわれるのはどこの湯屋か。湯屋自体は、塔之澤に20ほどある。全部を見張ることはできないが、それでもやらずにおくわけには行くまい。
 当たりを引いたのは、陸であった。
 ――うわ‥‥。
 思わず、陸が言葉を失う。
 淡い冷気をまとった絶世の美女。直感的に思う。これが雪女なのだと。
 ただし、陸は女湯に入れない。話をするなら、湯屋に入る前にしなければならない。
「ちょっといいか」
 陸が、女に声をかけた。女は緊張した面持ちで陸を見ている。
「キミは雪女なのではないか?」
「!」
 女はいきなりきびすを返すと、その場を逃げ出そうとした。その袖を、陸が掴む。
「別にキミを害そうというわけではない。話を聞かせてくれ。なぜ湯屋を凍らせたりしたんだ?」

●結局こういうことですか
 冒険者一行とお京の前に、白い美女がいる。今回湯屋を凍らせた雪女である。
「実は‥‥私、そろそろお嫁にいかなければなりません」
 雪女は、そう言って語り始めた。
 雪女は人間と共に暮らす。だから人間の前でボロの出ないよう色々修行するわけである。
 が、このおりょうという名の雪女は落ちこぼれで、いまだに風呂ひとつ入れないらしい。湯屋を凍らせた訳は、こういうことである。
 ならば人里離れた場所でもいいだろう、と思うかもしれないが、温泉の源泉でこのようなことをすると温泉街に湯がこなくなることもありえる。そうなったら塔之澤は全滅だ。
「おねがいします。私を一人前の雪女にしてください!!」
 おりょうが、かなり真剣な顔で言った。
「どーしたもんかねー」
 お京が、きせるをくゆらせながら言った。

【つづく】