温泉の雪女 3――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月19日〜04月26日

リプレイ公開日:2005年04月29日

●オープニング

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

 箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
 神聖暦980年ごろ、源徳家康によって東海道が整備されると、湯本から須雲川沿いに元箱根へいたる道が開かれ、湯坂道にかわる本道となった。最近になって小田原から8里、三島から8里の芦ノ湖岸に箱根宿が開設され、元箱根にあった箱根関が宿の東に移転。道筋には杉並木と石畳がととのえられた。箱根神社への参詣も活況をとりもどし、元箱根は門前町として発展した。
 一方、芦之湯と早川沿いの湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀は箱根七湯の名で知られるようになり、湯治場として賑わっている。とくに湯本は、唯一東海道沿いにあるため繁栄し、一夜泊まりの客は小田原宿や箱根宿をしのぐほどである。
 その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の支配地の、西端というわけだ。
 藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。

「今回の依頼は、おりょうさんていう雪女からよ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、駒ヶ岳の古墳にもぐって、そこから『緋涙石(ひるいせき)』っていう石を持ってくること。古墳は昔の豪族のもので、一応ハニワとかが居るみたい。ちなみに情報を提供してくれたのは、おりょうさんの里の人たち。つまり雪女ね」
 なんだかものすごいことを、けろりと京子は言ってのけた。もはや梅の季節に雪女。ミスマッチもここまでくると、いっそ潔い。
「ただちょっと困ったことに、この遺跡には炎龍が1匹住み着いているみたい。ハニワなんか目じゃない強敵よ」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「依頼内容は、『緋涙石』を持ち帰ること。手に入れた宝物は分配してかまわないそうよ。女の輿入れがかかっているんだから、気合入れてちょうだい。以上、よろし?」

●今回の参加者

 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2391 孫 陸(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8257 久留間 兵庫(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8896 鈴 苺華(24歳・♀・志士・シフール・華仙教大国)
 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

御神楽 紅水(ea0009

●リプレイ本文

温泉の雪女 3――ジャパン・箱根

●魔法の器物
 魔法の器物というものは、意外とありそうで無い。
 名のある物はたいてい所有者が決まっているし、無名のものは砂丘のなかから針を探すように発見が大変だ。
 後に、『世界四大文明』と呼ばれる文明が興る以前の古代には、かなりの魔法の器物が作られていたようである。神聖暦1000年の現在では製作不可能な魔法の器物が、そういう遺跡からはごろごろ出てくることがある。
 現在の道具――武具や神器といった器物の原型は、それら古代の器物から受け継がれたという説もある。いずれにせよ、そのような貴重な遺跡を発見できれば、おそらく一生食うに困らないだけの巨万の富を得ることが出来るだろう。もっとも、強力な魔法の器物にはそれにふさわしい強力な呪いがかけられていることもあるので、取り扱いは慎重にしなければならない。

 さて、今回の『緋涙石』である。
 別名『雪女の涙』と呼ばれる石で、水晶のように透明でありながら、内部に紅い炎が燃えているという貴石だ。その価値は、同じサイズの金剛石をもはるかに上回り、そしてそれを装備した者は、火によるダメージをこうむらなくなるという。
雪女が産したという話ではあるが、その製法は不明。案外、本当に雪女の涙なのかもしれない。
「こんなところか。お京さんも、こういう本があるなら、早く言えばいいのに」
 久留間兵庫(ea8257)が、お京の持つ本を読みながら、ぼやくように言った。
 それに対しお京は、「人間、楽しちゃだめなのよ」などと、したり顔で言ったものである。まあ、お京はただの遊女とかではないので、そのあたりの人生に対する機微は心得ているのだろう。
 実際の話、お京の情報網を以ってしても、緋涙石のありかを特定するのにかなりの時間を要した。お京の能力を考えれば、それがいかに大変なことだったか、読者諸賢にもご想像いただけるのではないか。
 いずれにせよ、事前情報はこれしかない。一同は装備を整え、駒ケ岳へと向かった。

●盗掘された祠
「これは、今までに無い状況だな‥‥」
 物部義護(ea1966)が、うーむとうなり声を上げた。
「これはおそらく、拳法によるものだろう」
 孫陸(ea2391)が、『それ』の手触りを確かめながら言う。
 件の遺跡の前、山深い森の中に、一同は居た。苔むした岩、それがその遺跡の入り口であった。
 あった、と過去形なのは、すでに封印が解かれていたからである。入り口を塞いでいた岩は砕かれ、その暗渠の中に通路が続いている。
「足跡は六つ。多分二、三日前だと思う。入って‥‥出てるよ。人数に欠員は無いみたい」
 草薙北斗(ea5414)が、忍びの者らしく、周囲の状況を確かめて言った。
「先客か‥‥」
 ティーゲル・スロウ(ea3108)がつぶやく。こういうブッキングはなかなか起こらないものだが、起きてしまうとかなり嫌な感じだ。
「拙者が前に出るでござる。一同、ついてまいられよ」
 阿阪慎之介(ea3318)が、《オーラシールド》を発動させて言った。
 遺跡の入り口は、ジャイアントが一人通るのがやっとである。二人は並べないが、上には少し余裕がありそうだ。
 そこで。
「僕、偵察してくるよ!!」
 ピンクの和服のシフール、鈴苺華(ea8896)が羽根を羽ばたかせた。そして、誰かが制止する前に奥へと進んでゆく。
 奥への通路は、夜光石のような石のおかげでほのかに明るく、通路自体の通行にはなんら障害らしいものは無かった。ただ床に、砕けた陶器のようなものが散乱している。
 ――埴輪かな?
 苺華が、記憶の隅っこの横丁にそれて三丁ほど行った場所(つまりもう忘れてしまったに等しい場所)を探って、冒険者仲間からレクチャーを受けた埴輪について思い出す。埴輪は陶器製なので、おそらくこの残骸はそうなのだろう。
 ――だとすると――。
 通路を抜け玄室へ。そこにも激しい戦闘の跡があり、陶器のかけらが散らばっていた。その奥にはさらに通路が続いている。
 ――あーん、もう緋涙石取られちゃったかな〜。
 おりょうの寂しげな顔が脳裏をよぎって、苺華は嫌な気分になった。
 玄室を抜け、さらに通路を進む。やがて通路には硫黄臭が立ちこめ、熱気が渦を巻き始めた。
 ぐはあああああああああああ――――。
 炎の吐息が、通路に充満する。
 ――ラッキィ☆
 苺華が、思わず快哉をあげそうになった。
 通路の奥の玄室に、炎の塊が見える。それは周囲に熱気を振りまいて、石畳や石壁を焼いて変色させていた。しかし、玄室の奥にある石棺には、その気配が無い。つまり、何らかの要因で熱気を遮断しているのである。
 石棺を暴くことが出来れば、あるいは苺華の手で任務完了ということに出来たかもしれない。しかし石棺は、シフールの体力では少々どころかかなり荷が重そうだ。
 目的を果たした苺華は、とりあえずご機嫌で入り口へ戻っていった。

●炎龍との戦い
「つまり炎龍はまだ健在で、遺跡は盗掘を受けていない、ということなのか?」
 野乃宮霞月(ea6388)が、支離滅裂になりがちな苺華の説明を、三分半かけて翻訳した。華国語の分かる羽鈴(ea8531)はもっと早く理解したのだが、鈴のジャパン語は怪しく逆に説明に困ってしまった。
 それが混乱に拍車をかけたことには違いないのだが、とにかく前へ進め、というニュアンスだけは伝わった。
「《ウォールホール》!」
 瓜生勇(eb0406)が、いざというときの逃げ場を、通路に作ってゆく。石壁にぽこぽこと穴を空け、火の息とかが来たときに非難できる場所を作った。
「始めよう」
 義護が言う。
 前衛には、義護、陸、ティーゲル、慎之介、兵庫、鈴、勇が立った。玄室の中に突っ込んで炎龍の火炎域に入り、打撃を与える。陸の《オーラパワー》や勇の《クリスタルソード》を駆使して、なんとかダメージが与えられる相手だ。
 炎龍も負けてはいない。《ファイヤーボム》やブレス(息)、あるいはその爪牙で前衛の体力を削ってゆく。もったいない話だが、戦闘はヒーリングポーションやリカバーポーションのオンパレードという豪華なものになった。霞月の《リカバー》だけでは追いつかないのだ。
「《微塵隠れ》!!」
 ズドーン!!
 最後にとどめを刺したのは、北斗の《微塵隠れ》だった。炎龍はただの炎の塊になり、そして消滅した。

●緋涙石
「きれいなもんだねぇ‥‥」
 めずらしく、お京が器物に目を奪われている。
 一行は怪我の治療のあと、石棺をあばき、その副葬品と問題のアイテム、緋涙石を手に入れていた。先に入った冒険者には悪いが、骨折り損してもらうしかないだろう。いずれにせよ。こういうのは早いもの勝ちである。
「それで、おりょうさんは人間らしく生活できるの?」
 勇が言った。
「さてねぇ、それは試すしかないんじゃないかしら」
「なら、早く試すネ!」
 勇んで声を上げたのは、鈴である。彼女は湯屋を経営している。そこで試すのが早い。
 そして、確認作業が行われることになった。もちろん、男子は浴室から叩き出された。
 まあ、みんな黒こげアフロ寸前という状況なので、嫌でも風呂に入らなければならなかったのだが。
 結果、おりょうは風呂に入ることができた。さすがは魔法のアイテムである。
「皆さん、ありがとうございます」
 おりょうが、皆に礼を言う。
「おりょうさん、幸せになるネ!」
「祝言には呼んでくれ。祝いものを持ってゆこう」
「大いなる父の名において、祝福する。おりょうさん。お京さんもご苦労だったな」
「幸せになるんだよ!」
 万雷の拍手を受けて、おりょうは山へと帰っていった。相手はこれから見つけるという。まあ、一番大きな問題は取り除かれた。ほどなく、幸せをつかむことになるだろう。
 一同は感慨深く、今回の依頼を完了した。

【おわり】