箱根温泉防衛隊 6――ジャパン・箱根

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月12日〜11月19日

リプレイ公開日:2005年11月17日

●オープニング

●坂城源八郎の悪あがき
 箱根温泉防衛隊。
 その名は箱根界隈で急速に高まりつつある。
 先の大捕り物において勲功を挙げた防衛隊は、君主大久保忠義より直々に恩賞を賜ることになった。
 だがそこで、一つ問題が出た。大久保が『誰に恩賞を渡せば良いのか?』と問うてきたからである。
 坂城源八郎はもちろん自分にと言ったが、大久保はそれに考える顔をした。大久保忠義は、若いながら賢主で知られる。巷に流れる噂を、知らぬはずが無い。
『坂城は女を盾に存命を図った』
 それは坂城にとって、致命的な噂であった。
 事実である事を、防衛隊の一部のメンバー(主に冒険者)は知っている。しかし侍である坂城の面目を潰すとなると、坂城家と一戦交えることになるであろう。
 そこに、珍しくも日ノ本一之助が身を出してきた。身銭を切って、冒険者を雇うという行動を見せたのである。
 日ノ本は本来、権力とか恩賞などに興味を見せる人物ではない。武士の本懐である、『君主に忠誠を尽くす』ということに忠実な人物であることを、防衛隊の面々は知っている。
 そして日ノ本にとっては、それが民草の幸福に直結しているのだ。
「依頼の目的は、塔之澤の近くにある春日村を占拠した野盗たちを追い払うことです」
 日ノ本は言った。
「春日村は、深い渓谷で半円状に地より切り取られた秘境になります。後背は深い森林で侵入は困難です。温泉地で療養所として機能していましたが、そこにごろつきが居座ったようです。侵入路は、空を飛ぶ以外は橋が一つのみ。城攻めに匹敵する攻略戦になるでしょう」
 そこで、日ノ本は話を区切った。
「実はこの依頼、箱根温泉防衛隊との競争になります。本来ならば侍同士でこのような内ゲバをしている場合ではないのですが、坂城源八郎は防衛隊の隊長の座をめぐって私との決戦を希望してきました。私が頼るのは皆さんです。勲功より名誉より、民草を思っていただける皆さんに託そうと思います」
 そして、日ノ本は深く頭を下げた。
「私は都合上、同伴できません。よろしくお願いします」

【ミッション6:春日村攻略戦】
 塔之澤の近くにある春日村に、野盗が入り込みました。野盗は村を占拠しやりたいほうだい。人質も取られているので、高度な戦略を組む必要があります。
 現在分かっている情報は次の通り。
・家屋は十六棟。
・うち一棟に旅行者12名が隔離されている。
・住民の人数は52名。
・野盗の数は不明。
 日ノ本の掲げる最優先事項は人命優先。なおこの依頼は、坂城源八郎率いる箱根温泉防衛隊との競争になります。

●今回の参加者

 ea2476 南天 流香(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2480 グラス・ライン(13歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea2722 琴宮 茜(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5930 レダ・シリウス(20歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea9028 マハラ・フィー(26歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb1600 アレクサンドル・リュース(32歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

箱根温泉防衛隊 6――ジャパン・箱根

●同じ手は食わじ
 こう言ってはなんだが、坂城源八郎は治世者としてはかなり無能な部類に入る。それは人徳や性癖などを含めた人格部分において、致命的に徳が無いということだ。
 彼にあるのは、権力や金に対する鋭敏な嗅覚である。つまり組織で甘い汁を吸うことに長けている。ただそれだけだ。
 才能は無いよりあったほうがいいが、小田原藩藩主大久保忠義が求める『能臣』とは、坂城は少々どころかかなり毛色が違う。彼が忠実なのは権力と金に対してであって、臣民の生活を向上させることではないのだ。
 だから坂城は今回の件に当たり、その鋭敏な嗅覚で自身に対する危険信号を察知し、それを排斥するためにある行動を取った。

●南天桃(ea6195)、困る。
「うーん、困りましたー、ですよ〜」
 私は坂城さんの行動に、思わず疑問符を顔に浮かべてしまいました。
 私は南天桃。ジャパンの女志士ですよ〜。
 困ったというのは、坂城さんの行動です。坂城さんは防衛隊の侍さんたちをみんなお役ご免にしてしまって、なんだか得体の知れない浪人者を金で雇い入れてしまったんですよ〜。もちろん役を降ろされた侍さんたちもそれには憤慨していて、私が抑えなければならないぐらい怒っていました〜。
 察するに、坂城さんが何か悪巧みしていると思われるんですよね〜。でもそれが具体的に何なのかは、さすがにわかりません〜。側にも寄せ付けてもらえませんし、思惑はすっかり外れてしまいました〜。
 そんなことでは、めげませんけどね〜。とりあえず防衛隊の冒険者面々と合流して、戦力として働くことにしましょ〜。

●南天流香(ea2476)、忍ぶ。
 曇天の空を、わたくしはレダさんと茜さんと共に滑空していたわ。
 わたくしは南天流香。ジャパンの女志士よ。
 今回のわたくしの役目は、偵察と潜入調査になるわ。精霊魔法《リトルフライ》はそれほど効果時間があるわけではないので、素で飛べるレダさんやフライングブルームを持っている茜さんのような機動力は無いけど、運動性はピカイチ。だから低空から侵入――そして潜伏調査、そして事態が進捗した場合は陽動と《ヘブンリィライトニング》を使用した遠隔攻撃が主体になるわね。
 女武士という身分上、村人にまぎれてもどうしても目立つので、わたくしは姿を隠して偵察ということになるわ。だけど隠密系の技能を持っていないので、あまり踏み込んだ調査は出来なかったのよね。
 ひとまず調査は他の方にお願いして、私は目立たない建物の屋根の上に潜んで時を待ったわ。

●琴宮茜(ea2722)、探る。
 フライングブルームを手頃な納屋にしまうと、私は刀を持たずに村の中に入ってゆきました。
 私は琴宮茜。ジャパンの志士です。
 野盗の具体的な情報を得るために空から潜入したのですが、なかなかきつい調査になりました。なんといっても相手は飢えた男ども。貞操の危機の一つや二つ感じないわけではありません。
 野盗は村人と旅人を2ヶ所の宿場に監禁しているらしく、そこにだけ見張りが立てられていました。野盗の数は10名程度。腕の方は、物腰から察するに際立った傑物は居ないと思われます。これならば、橋さえ確保すれば強行しても問題ないでしょう。
 気になるのは、人質となっている旅人の中に武家の方が一人いらっしゃること。病を患っているようで、ひどい咳をしています。湯治客と見ていいでしょう。
 放っておくと、切腹でもしかねません。

●レダ・シリウス(ea5930)、伝える。
 私の連絡で、防衛体は組織戦を開始した。
 私の名はレダ・シリウス。エジプトのジプシーで、シフールじゃ。
 私の役どころは、調査と連絡。空を飛んで、まあいろいろするわけじゃ。
 本当はマハラも調査に加わるはずだったんじゃが、あいにくマハラは空を飛べん。侵入できない以上は、守備に回って貰うしかないのう。
 潜入して調べたことをつぶさに報告して、あとは上空偵察などで指示をするのが私の役目じゃ。曇天にした都合上、《サンレーザー》、は使えんからな。
 で、さっそくじゃが茜の《ミストフィールド》で橋の方の視界を遮断して行動開始。アレクサンドル、マミ、マハラ、グラスの順で橋を渡ってくる。そして後方では、流香の放った落雷によってかく乱開始。口上を述べているようじゃが、多分誰も聞いてはおらんじゃろう。
 マミとアレクサンドルがばっさばっさと野盗達を斬り潰してゆき、制圧はほどなく終了。前準備で監禁場所の宿屋も確保しておいたから、危険は最小限で済んだ。まあ、上々じゃ。ここまではな。

●マハラ・フィー(ea9028)、当惑する。
「意外とあっけなかったわね」
 わたくしはそう言って、戦果を確認するために村を一周したわ。
 わたくしはマハラ・フィー。インドゥーラのレンジャーで、ハーフエルフよ。
 箱根温泉防衛隊の名は聞いていたけど、予想以上に凄腕だったっていうのがわたくしの印象かしら。生き残りの悪党どもも縛り上げられて、早くも仕事は残っていないみたいな状態だったわ。機能する冒険者のパーティーって、こんなに強いんだ。
 その後は、宿場で歓待を受けて翌日罪人の護送ということに。もっとも、わたくしが仕事をすることになったのはその護送中なんだけどね。
 帰路を先導して、わたくしは道の周辺に満ちる異様な気配に気付いたわ。冒険者なら慣れ親しんでいる気配――殺気というやつ。
 わたくしが周囲に警戒を促すと、前後を挟むように刀を抜いた浪人者たちが出てきたのよね。そしてその後方に、偉そうな雰囲気満々の大鎧の武士が出てきたわ。
 ――坂城源八郎!
 誰かが言ったわ。

●マミ・キスリング(ea7468)、怒る。
「お前たちはやりすぎた。箱根温泉防衛隊は任務に失敗し全滅。下手人の首は俺が引き取らせてもらうぞ」
 生臭い言葉を吐きながらそう言ったのは、箱根温泉防衛隊隊長――いや、元隊長といったほうがいいかもしれない――坂城源八郎その人でした。
「姿を現したということは、私たちを皆殺しにするおつもりということですね」
 私の言葉に、坂城がにまりと嗤う。
 私はマミ・キスリング。フランク王国出身の、人間のナイトです。
 理不尽もここまでくると見事なものです。坂城の小悪党ぶりには、はっきり言ってもう辟易しました。
 ですが、坂城はともかく浪人者は力量が計れません。《ブラインドアタック》などを使う手合いは、見た目の力量が当てにならない場合があるからです。
 浪人者の人数は16名。単純計算では一人頭二人を倒せばいいのですが、こちらの戦力は流香さん、茜さん、桃さん、マハラさん、アレクサンドルさん、そして私の6人と考えるべきです。浪人の中には、弓を構えている者もいます。レダさんも逃げおおせられるかどうか難しいです。
 さて‥‥どうしましょうか‥‥。

●アレクサンドル・リュース(eb1600)、戦う。
 ――まあ、相手からボロを出してくれたんなら遠慮はいらねぇよな。
 肩に担ぐように剣を構えて、俺は浪人どもを見据えた。
 俺はアレクサンドル・リュース。ハーフエルフのファイター。ビザンチン帝国生まれだ。
 まあ、面倒ならぶった斬ろうと思っていたから、坂城なにがしの行動は俺の思う壺だった。問題は、この取り巻きの浪人ども。腕はどうだか知らないが、食い詰めているらしく目に光が無い。金のためならなんでもやるって手合いばかりだ。
 こういう、捨て身のやつほど恐いものはない。坂城なにがし、金で人を買う才能はあるようだ。
「マミとマハラは後ろを頼む。俺は前を切り開く。レダと茜は飛んで逃げろ。後は援護だ」
「殺(や)れ!」
 俺と坂城の言葉が交錯した瞬間、おそらく防衛隊最大の戦いが始まった。

●グラス・ライン(ea2480)、癒す。
「神よ!」
 うちは祈りの声をあげて、負傷したアレクサンドルはんの傷を癒した。
 うちはグラス・ライン。エルフの僧侶で、インドゥーラ生まれや。
 隊の命運は、うちの回復魔法にかかっておった。多勢に無勢。戦闘能力は、口惜しいが相手のが上や。
「あのガキを狙え!」
 坂城の声が聞こえたとたん、矢が2本飛んできた。1本は外れたけどもう一本はうちの腹に刺さった。
 ――!
 声を無くし、思わずひざをつく。周囲の風景がぐるぐる回りだし、血の気がざざーっと引いてゆくのがわかってくる。
 わっ。
 その瞬間、坂城のいるほうから何か騒ぎが起きてきた。

●万事解決す
 1分ほど戦って、戦いの趨勢は完全に坂城側に傾いていた。が、そのさらに背後を何者かが襲撃していた。
「箱根防衛隊見参!」
 それは、坂城に解雇された侍たちだった。発足当初のおぼつかない太刀筋ではなく、三人一組で一人の敵を確実に潰してゆく。非力な侍たちに日ノ本が叩き込んだ、集団戦闘法であった。
「坂城源八郎!」
 日ノ本が、刀を構えて進撃してきた。敵の攻撃を受け、いなし、回避する。攻撃を全て他の侍に任せ、自分は危地で敵の攻撃を受けしのぐ。本気で彼が防御に回れば、オーグラの攻撃にだってある程度耐えられるのだ。
「貴様の今までの不正、悪事、全て明らかになったぞ! もはや貴様を守るものは何も無い! 潔く降伏しろ!」
 裂帛(れっぱく)の気勢を挙げて、日ノ本たちが進撃してくる。坂城に雇われていた浪人者の戦列は壊乱し、ほどなく逃げ散った。
「遅くなって、すまなかった。留守を狙って、坂城の悪事を暴いていたんだ」
 日ノ本が、冒険者に言う。その足元には、首を掻いて自決した、坂城のむくろが横たわっている。
「俺たちを餌にしたのかよ。人が悪いぜ」
 アレクサンドルが言う。それに日ノ本は、悪びれる様子もなく「すまん」とだけ言った。
「これで終わりなん?」
 ポーションで賦活したレダが言う。
「一応、一通りは片付きましたね。箱根温泉防衛隊は、一度解散します。その上で冒険者と合力する組織や機構を整え、それから再立ち上げということになるでしょう」
 日ノ本が、そこで初めて笑顔を見せた。
「皆さんには、まだまだ役に立っていただきますよ。悪はどこにでもいますから」
 日ノ本の、会心の笑顔だった。

【おわり】