蟲毒変 1――ジャパン・京都

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 46 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月27日〜05月04日

リプレイ公開日:2005年05月06日

●オープニング

●平安の都
 京都は京都盆地の中央に位置し、南北約5.3キロメートル、東西約4.5キロメートルの長方形。中央部を南流していた鴨川は、河川流路の改修の結果、都の東辺に移動し、西をながれる桂川とともに重要な水上交通路となった。
 北部中央には南北約1.4キロメートル、東西約1.2キロメートルの政庁や官庁をあつめた大内裏があり、その南面中央が朱雀門で、そこから南に、はば85メートルの朱雀大路が都の南端の羅城門までのびている。大内裏の中央東よりに神皇の御所である内裏があり、公事や儀式をおこなう正殿の紫宸(ししん)殿をはじめ、神皇の日常の居所だった清涼殿などの建物がならんでいた。
 京都は、朱雀大路を中心として南北に走る9本の大路、東西にはしる11本の大路によって碁盤の目のように区画されている。中央を南北に走る朱雀大路で左京と右京にわかれたが、西側の右京は桂川の湿地で沼沢が多く、現在ややさびれぎみである。

「はじめまして。烏丸節子(からすま・せつこ)と申します」
 楚々とした仕草で、その女性は冒険者諸賢に対し、丁寧に頭を下げた。
「東者(あずまもの)で至らぬところもありますが、姉の薦めもあり、この京都で冒険者ギルドの番頭を勤めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
 やけにきっちりした仕草で、節子は言った。姉は、聞けば東国でやはり冒険者ギルドの番頭をしているという。名前は烏丸京子。聞いたことがあるかもしれない。
「本日お集まりいただいたのは、ほかでもありません。いささか難儀な事件が起こっております」
 と、まじめな口調で、節子は切り出した。

 話はこうである。
 京都郊外のとある山、としておこう。そこは木材をよく成す山で、時折熊などが現れる以外は、特に問題の無い山だった。
 ところが、春の訪れと同時にこの山に巨大な虫が出るようになったらしい。代表的で、なおかつ強力でやっかいなのが巨大スズメバチの群れである。毒針を持ち、肉を食らう。巣はかなり巨大なもので、はっきり言って生半可な冒険者には、攻略は不可能であろう。
 が、今までなかったことが起こるというのは、何かの異変があったからである。平安京の大内裏陰陽寮の巫覡たちは、それを邪法『蟲毒(こどく)』によるものではないかと見立てた。

「『蟲毒』というのは、生き物を何十匹も一つの壷に入れて土に埋め、共食いさせて怨念を凝縮し、それが凝(こ)り固まる最後の一匹を呪いの依りわらにして何かを呪うという邪法です。神皇のおわす京都の近郊で、このようなことが行われているのは由々しき事態です。しかし、事を急いてはいけません。まずはその邪法に呼ばれて湧いた怪物の排除を行います。日程的に、呪法の完成までかなりギリギリの感がありますが、あせらず進めて下さい」

●今回の参加者

 ea0238 玖珂 刃(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0243 結城 紗耶香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0247 結城 利彦(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0250 玖珂 麗奈(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

蟲毒変 1――ジャパン・京都

●蟲毒とは
 蟲毒は、ムカデ、蜘蛛、サソリ、ガマガエル、ヤモリなどの小動物を、1つの瓶(かめ)にいれて作られる。その動物の数は、多ければ多いほどよい。それを密封させ放置すると、それぞれが共食いを始める。そして最後に生き残った1匹が、蟲毒となるわけである。
 蟲毒とは、決して邪悪な使い方に限るというわけではない。蟲毒を住まわせておくと家に富みを運んでくれると言われ、定期的に生け贄をささげ続ける限りそれは続くと言われる。
 だが、生け贄を捧げないと蟲毒に食われると言われ、それが邪悪な呪法に利用されるわけだ。
 蟲毒そのものは、剣や火では殺せないと言われている。遠くに捨てても戻ってくるらしく、捨てるには、蟲毒がくれただけの財と同じ価値の財と共に、捨てなければならないらしい。
 この性質を利用し、呪うべき相手のところへ、少しの金品と共に蟲毒を送りつけるわけである。そうすると蟲毒は相手のものとなり、養えぬままに、食われてしまうのだ。つまり、呪いである。
 ちなみに、蟲毒を食べることにより、蟲毒のパワーを手に入れることができると言われている。それは瓶の中の、ヒエラルキーの頂点にたつことになるため、ということらしい。つまり食ったものその者が、蟲毒になるわけだ。
 蟲毒は、陰陽術の一つである。陰陽術の中では、それほどキワモノだった呪法というわけではない。ただ伝える者が少ないだけ。手軽にできて効果覿面(てきめん)。そんなものを気軽に伝えられては、陰陽師自体が困る。
 ただ、京の都のそばでソレをやる、というのは、由々しき事態とも言える。その呪法の目的はわからないが、陰陽寮の管轄内で蟲毒をやることは、京都の陰陽寮に対する挑戦とも取れる。
「それを直に叩かないっ――ていうのには、わけがあるわけか」
 そう言ったのは、自称『居合い斬り友の会会長』玖珂刃(ea0238)である。陰陽寮の面目を考えれば、陰陽寮自体が動いてしかるべき事態だ。
 しかし、陰陽寮は動かない。何らかの政治的判断があったと見て間違い無いだろう。それは、小さなものなら新興の冒険者ギルドに箔をつけるためともとれるし、もっと根深い事情があるのかもしれない。
 ともあれ、事態は深刻である。目的が何であれ、状況の進行は阻止しなければならない。
 通常、蟲毒の入れられた瓶は土の中に埋められる。その邪気の余波で発生した化け物の位置から、場所の特定はある程度可能だ。
 ただしその位置の特定には、最低でも3箇所の場所を特定しなければならない。
 今回の依頼を担当したのは、玖珂刃、結城紗耶香(ea0243)、結城利彦(ea0247)、玖珂麗奈(ea0250)の4名。いずれも身内のようなものなので、作戦はスムーズに決まった。玖珂麗奈が薬草で処方した毒薬を燻して、蜂を煙責めにするのである。
 もっとも現代とは違い、毒草で作られる程度の毒薬の効能はたかが知れている。生物を死に至らしめる毒ガスの出現には、まだ800年以上かかる。
 だからこの煙責めは、それほど効果を挙げるとは言いがたかった。むしろ蜂を怒らせるだけの結果になるような気がした。
「うふふふふふ‥‥」
 それでも、自分の調薬の腕に絶対の自信を持つ麗奈は気にしなかった。危険な毒草を集めては調合し、悦に入っている。あぶない何かのようである。
 さて一方、玖珂刃と結城利彦は、蜂の巣を探しに山へと出掛けた。と言っても、二人は山について素人である。結局二日を無為に過ごし倒し、近在の村の猟師に案内を頼むことになった。
 スズメバチは、木のうろや土の中、湿気の多い場所に巣を作る。スズメバチ出現の話を聞くと猟師は、最近になってスズメバチが出て、近寄れなくなった場所があることを教えてくれた。

●スズメバチの巣
 スズメバチの巣は、巨大な古木の中であった。大スズメバチは身長50センチほどもある。その巣ともなると、その巨大さは初期のものでもかなりのものになる。
「えい」
 麗奈は毒を混ぜ込んでタールのようになった大麻ベースに、火をつけてうろに投げ込んだ。はたして、木のうろからは白い煙が湧き出してきた。
「来ました」
 結城紗耶香が、言って精霊魔法の印を組む。ジリジリと羽根を鳴らして、巨大なスズメバチが、うろから顔を出した。がちがちとあごを鳴らすその姿は、凶悪そのものである。
「はじめようぜ」
 刃が構えを取った。利彦は精霊魔法の呪(しゅ)を唱えて戦闘体制に入る。
 ヴんっ!!
 羽音の不協和音を響かせて飛び立ったのは、10匹弱のスズメバチ。毒煙にやられていくらか弱っているようだが、機械より冷徹なその戦闘能力は衰えていない。それらは敵意を向けてきた刃たちに向かって、襲い掛かってきた。
「ぃやっ!」
 ちん。
 刃の《ブラインドアタック》が、ハチの一匹を半断する。しかし、痛覚が無いかのように、ハチはいっせいに刃に向かって攻撃してきた。高速詠唱の無い結城紗耶香には、彼を援護する手段は無い。
 どどっど!
「ぐっううっ!」
 8匹の攻撃のうち、5匹はかわした。しかし3匹の攻撃――毒針を受けてしまった。激痛に、刃が苦鳴をあげた。
「《ストーム》!」
 紗耶香の魔法が、刃ごとハチを吹き飛ばした。状況を選んでいる余裕は無かった。
「まずい! 敵の方が上手だ!」
 炎の剣を振るいながら、結城利彦が言う。
 ハチは、組織戦では人間に勝るとも劣らない。下手な恐怖心など持たないため、人間より質が良いくらいだ。
 今の場合、2匹が紗耶香や麗奈を狙い、8匹が刃一人にかかっていった。利彦はそれを邪魔するのに精一杯で、刃の援護に向かえない。高速詠唱を持たない紗耶香や麗奈の魔法は、この場合アテに出来ない。高速詠唱の無い範囲魔法はたいてい、乱戦になった味方ごと撃つしか無いからである。
 結果、かれらは戦隊としての機能をフル回転させることが出来ず、消耗戦を強いられた。そしてついに、玖珂刃が斃れてしまったのである。毒針を受けて。
 その後、気力を振り絞った必死の魔法攻撃によって、大スズメバチは殲滅された。巣も破壊され、周辺への被害の心配は無くなった。
 玖珂刃は、事切れていた。脈、なし。呼吸、なし。完全に死んでいる。
「なんてことだ‥‥」
 紗耶香が言うが、もう遅い。
「なんとかなるかもしれん」
 そう言ったのは、案内に来た猟師だった。
「この山にぁ寺があるだ。そこへ運べば‥‥」
 一同の手を借りて、刃の遺体は、その寺に運ばれた。

●蘇生
 一同はその寺の住職に頼んで、玖珂刃の蘇生を願い出た。
「はて、そんな大技、ここ10年ほどやっとらんが‥‥」
 丸い頭を撫でながら、住職は言う。それでも引き受けてくれたのは、徳の人だからであろう。
 その住職でも、成功率は1割か2割弱。失敗したら、笑ってあきらめてもらうしかない。
「では、はじめようか」
 持ち出せるだけの法具や衣装を身にまとい、住職が言った。その中には、呪文の効果を上げるものもあるという話だ。
 読経は2時間余り続いた。これでも短いほうである。和尚はかなり真剣らしく、読経をする顔には汗が伝い落ちていた。
 そして、最後に読経の音律が高まった。
 住職の身体が、淡く光った。

●結局
 玖珂刃の蘇生は成った。結城紗耶香が涙を浮かべて喜んだ事は言うまでも無い。無事――とは言いがたいが、任務は達成である。
 しかし、このような事件はまだ続くだろう。
 蟲毒は今も、着々と成長を続けている。

【おわり】