蟲毒変 2――ジャパン・京都

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 46 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月08日〜06月15日

リプレイ公開日:2005年06月16日

●オープニング

●平安の都
 京都は京都盆地の中央に位置し、南北約5.3キロメートル、東西約4.5キロメートルの長方形。中央部を南流していた鴨川は、河川流路の改修の結果、都の東辺に移動し、西をながれる桂川とともに重要な水上交通路となった。
 北部中央には南北約1.4キロメートル、東西約1.2キロメートルの政庁や官庁をあつめた大内裏があり、その南面中央が朱雀門で、そこから南に、はば85メートルの朱雀大路が都の南端の羅城門までのびている。大内裏の中央東よりに神皇の御所である内裏があり、公事や儀式をおこなう正殿の紫宸(ししん)殿をはじめ、神皇の日常の居所だった清涼殿などの建物がならんでいた。
 京都は、朱雀大路を中心として南北に走る9本の大路、東西にはしる11本の大路によって碁盤の目のように区画されている。中央を南北に走る朱雀大路で左京と右京にわかれたが、西側の右京は桂川の湿地で沼沢が多く、現在ややさびれぎみである。

「はじめまして。烏丸節子(からすま・せつこ)と申します」
 楚々とした仕草で、その女性は冒険者諸賢に対し、丁寧に頭を下げた。
「東者(あずまもの)で至らぬところもありますが、姉の薦めもあり、この京都で冒険者ギルドの番頭を勤めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
 やけにきっちりした仕草で、節子は言った。姉は、聞けば東国でやはり冒険者ギルドの番頭をしているという。名前は烏丸京子。聞いたことがあるかもしれない。
「本日お集まりいただいたのは、ほかでもありません。いささか難儀な事件が起こっております」
 と、まじめな口調で、節子は切り出した。

 話はこうである。
『京都の近隣で蟲毒が行われている』
 陰陽寮からこのような報告が入ったのは先月のことである。
 蟲毒は、ムカデ、蜘蛛、サソリ、ガマガエル、ヤモリなどの小動物を、1つの瓶(かめ)にいれて作られる。その動物の数は、多ければ多いほどよい。それを密封させ放置すると、それぞれが共食いを始める。そして最後に生き残った1匹が、蟲毒となるわけである。
 蟲毒とは、決して邪悪な使い方に限るというわけではない。蟲毒を住まわせておくと家に富みを運んでくれると言われ、定期的に生け贄をささげ続ける限りそれは続くと言われる。
 だが、生け贄を捧げないと蟲毒に食われると言われ、それが邪悪な呪法に利用されるわけだ。
 蟲毒そのものは、剣や火では殺せないと言われている。遠くに捨てても戻ってくるらしく、捨てるには、蟲毒がくれただけの財と同じ価値の財と共に、捨てなければならないらしい。
 この性質を利用し、呪うべき相手のところへ、少しの金品と共に蟲毒を送りつけるわけである。そうすると蟲毒は相手のものとなり、養えぬままに、食われてしまうのだ。つまり、呪いである。
 ちなみに、蟲毒を食べることにより、蟲毒のパワーを手に入れることができると言われている。それは瓶の中の、ヒエラルキーの頂点にたつことになるため、ということらしい。つまり食ったものその者が、蟲毒になるわけだ。
 蟲毒は、陰陽術の一つである。陰陽術の中では、それほどキワモノだった呪法というわけではない。ただ伝える者が少ないだけ。手軽にできて効果覿面(てきめん)。そんなものを気軽に伝えられては、陰陽師自体が困る。
 ただ、京の都のそばでソレをやる、というのは、由々しき事態とも言える。その呪法の目的はわからないが、陰陽寮の管轄内で蟲毒をやることは、京都の陰陽寮に対する挑戦とも取れる。
 そしてその邪悪な呪いの余波は、普段目につかない化け物を呼び寄せることもある。
「前回は、巨大なスズメバチでした。今回は死食鬼(グール)のようです。近隣の村が、何度か襲われています。数は片手ほど。難敵には違いないでしょう。皆さんにはそれを殲滅していただきたいのです」

●今回の参加者

 ea0247 結城 利彦(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0250 玖珂 麗奈(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6356 海上 飛沫(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6357 郷地 馬子(21歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6358 凪風 風小生(21歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea9867 エリアル・ホワイト(22歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

壬生 桜耶(ea0517)/ ゼルス・ウィンディ(ea1661)/ 日田 薙木穂(eb1913

●リプレイ本文

蟲毒変 2――ジャパン・京都

●死食鬼
 グールというアンデッドは、ジャパンでは死食鬼(ししょくき)と呼ばれる。別名、腐肉食らい。脳が腐っている死人憑きとは違い、不死生命体として『生きている』死体で、知能もありそれなりに狡猾だ。充分以上にタフで俊敏で、攻撃力もある。
 しかし本当に恐ろしいのは、『不潔さ』である。
 アンデッド全般に見られるが、彼らは病魔をばら撒く温床になっている。彼らにやられた傷は膿んで腐り、そして敗血症などになって衰弱し死んでしまう。
 西欧で十数万人の死者を出した病気、ペストを流行させたのはネズミやこうもりを使うヴァンパイアという一説もあるし、とにかく不死者は病苦と縁が深い。

 ――蟲毒に不死者か。いやだねぇ‥‥。
 山道を歩きながら、『天下の助平坊主』八幡伊佐治(ea2614)は思った。
 彼と道行きを共にしているのは、志士の結城利彦(ea0247)、海上飛沫(ea6356)郷地馬子(ea6357)、そしてクレリックのエリアル・ホワイト(ea9867)である。
 彼らが目指しているのは、京都の郊外――というにはやや離れている場所にある、木埜(きの)村という村だ。
 別班の小坂部太吾(ea6354)支援者の情報によると、この村にグールが現れるという。陰陽師の《フォーノリッヂ》による予見だそうだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦であるが、無闇に山林の中を探すよりはましであろう。
『今回の件は、怨恨の線が濃い』
 出立前に、伊佐治が言った言葉だ。
『僕の支援者の情報によると、最近陰陽寮と決別し行方不明になった陰陽師が居る。名前は『坂田実篤(さかたの・さねあつ)』。決別というより追放だな。より高度な術を求めて、禁呪に手を出したらしい。今回の『蟲毒』のような』
 人間は、力を求める生物である。それは弱肉強食に属する本能のようなものであり、そして『快楽』なのだ。単純な話、暴力でわがままを無理やり通すというのは気持ちが良い。誰しも、少なからず経験のあることだろう。
 ワン! ワン! ワン! ワン! ワン!
 伊佐治のペットの犬(名前は諭吉)が、吠え出した。犬は臭いに敏感である。死食鬼の腐臭を嗅ぎ取ったのかもしれない。
「出たか?」
 自称『居合い斬り友の会会長』である、結城利彦が構えを取る。本来この班は、木埜村に駐屯して死食鬼を待ち構える予定だった。しかし備え無くとも、一匹二匹の死食鬼なら相手にできる陣容である。何より、アンデッドの天敵である僧侶職が二人居る。
「森の中では視界が取れません。接近戦になると危険です」
 海上飛沫が、状況を冷静に評する。油断無く周囲を見渡し、いつでも戦える体勢になっている。
「《ストーンアーマー》いるだか?」
 郷地馬子が、飛沫に指示を仰いでいる。今回はギャグは無しである。
 諭吉のうなり声はしばらく続いたが、やがて収まった。諭吉レーダー(記録者命名)が使えることが分かるのはその数分後。道に死体が転がっていたためである。死後2〜3日経過している。状況から察するに、死食鬼の仕業のようだ。
「村へ急ごう」
 一行は、村への道を急いだ。

●木埜村防衛線
 小坂部太吾が率いる別班が木埜村に着いたのは、伊佐治たちから遅れること1日半であった。その陣容は志士の玖珂麗奈(ea0250)と凪風風小生(ea6358)、クレリックのアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)と浪人の伊東登志樹(ea4301)というメンバーである。
「状況は」
 太吾が伊佐治に問う。
「悪い」
 伊佐治は簡潔に返した。
「こっちの到着が1日ほど遅かった。死食鬼の一匹がすでにこの村を襲撃して、村人に被害が出ている。今のところ一家3人が死傷。その一匹はこっちで始末したが、馬子さんが負傷した。傷は僕の魔法で治したから大丈夫だと思う」
「あと多くて4匹か」
 太吾が言う。ギルド番頭の烏丸節子の説明が正しければ、という条件付きである。
「鳴子の罠は、すでに村の周囲に張ってある。村人も一箇所に集めて守りやすくした。家畜までは面倒見切れないけど、とりあえずは大丈夫のはずだ」
 利彦が言った。現状ではほぼ100点満点の対応だろう。
「では、我々は予定通り捜索にかかる。合図も予定通りに」
 太吾が言い、席を立った。

 夜。
 前にも書いたが、死食鬼は狡猾なアンデッドである。これは知能があるかどうかということではなく、例えば死体の振りをして獲物を狙うというような、『狩り』のしたたかさを持っているということだ。
 知能があるかについては、実際のところ確認されていない。言葉のようなものは発しないので無いのかもしれないが、それも微妙である。
 ただ、彼らが持つ『したたかさ』についてはもっと対策を講じておくべきだった、と、死体の振りをしていた死食鬼に飛び掛られた太吾は、後にそう思った。被害者かと思って近づいたら、いきなり飛び掛られたのだ。
「むおっ!」
 腕の肉を食いちぎられ、太吾がうめく。アンデッドのくせにやたらと素早い。
 ざんっ、ざざんっ!
 猿のような動きで、死食鬼が数匹、一行に襲い掛かってきた。諭吉レーダーのようなものを持っていない一行は、マトモに囲まれてしまったのだ。
「きゃー! きゃー!」
 玖珂麗奈が騒いでいる。あわてて呪文の詠唱を行うが、高速詠唱ではないのでいかにも遅い。
 そこを、死食鬼は狙った。
 がぶり!
 麗奈は詠唱を中断し回避しようとしたが、地力がほとんど無いので避けようが無かった。まともに肩を食いつかれ、肉をえぐられる。
「てめぇこの野郎!」
 伊東登志樹が、その死食鬼に刀で斬りつける。いっそ美しいとも言える太刀筋が、死食鬼に痛撃を与えた。
「《ライトニングサンダーボルト》!」
 凪風風小生が、高速詠唱から魔法を発動させる。青白い雷光が闇を割り、死食鬼の一匹を燃やした。人間松明になった死食鬼は、悲鳴を上げながら村の方へ逃げてゆく。
「皆さんと合流しましょう!」
 アンジェリーヌ・ピアーズが言う。彼女は、前衛ががんばってくれないと麗奈と同じ目に遭ってしまう。高速詠唱を持っていないと、魔法はどうしても遅れを取るのだ。
 ぴゅ――――――――――――っ!
 小生が、呼子を鳴らした。この音は村にも届いているだろう。

 結局、戦いは村での乱戦となった。
 負傷者が続出したが、とりあえず4匹の死食鬼を倒した。
 一同は死食鬼を荼毘に付し、完全に消滅させた。

●結局
「蟲毒の場所は、まだ分からないんだ」
 結城利彦が、玖珂麗奈の看病をしながら言う。
「情報は集めているのですが‥‥その正体もわからない状態で‥‥」
 歯切れ悪く、アンジェリーヌ・ピアーズが言った。
「まあ、とりあえず仲間内に死人が出なくて良かった」
 八幡伊佐治が、犬をかわいがりながら言う。
「しかし、まだこういうのが続くのか?」
 伊東登志樹が言った。
「続くな」
 腕に醜い傷跡を残した、小坂部太吾が言った。
「目的が奈辺にあるかはわかりませんが、まだ続くでしょう」
 海上飛沫が言う。郷地馬子は、怪我も気にせず酒を飲んでいる。
「おいらの魔法があればいちころさ!」
 凪風風小生が、今回の成果を挙げて言う。確かに今回放った雷撃は、会心の出来であった。
「ともあれ、落ち着いてかかりましょう」
 エリアル・ホワイトが言った。
「まずはサカタノ・サネアツの行方から。そして第3の事件の予防を」
 事件は、まだ終わっていない。それどころか、これは序章でしかないのかもしれないのだ。
 道行には、暗雲が垂れ込めていた。

【つづく】