【名もなき楽団】楽団員募集!

■シリーズシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 14 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月23日〜09月30日

リプレイ公開日:2005年10月02日

●オープニング

 あんまり若くないプロヴァン領主ジェラール・ギルエは、ここしばらくずっと悩んでいた。
「困った‥‥ああ困りました」
 樽のような体で執務室をのそのそと歩き回りながら、近頃とみに毛髪のたよりなくなった頭をぐしゃぐしゃかき回す。ふと何気なく手を見ると、ちょっと尋常ではない本数の抜け毛が指の間にからまっていてぎょっとした。
「これはいけません」
 いや髪の毛のことではなく、それももちろん切実な悩みではあるのだが、いまジェラールの頭を悩ませているのは(そしておそらく抜け毛の原因になっているのは)もう少し別の事柄である。
「せっかく腕のいい楽士を集めたというのに、一週間で軒並み使い物にならなくなるなんて!」
 ジェラールの名誉のために言いそえておくと、別にへそで笛を吹けとか、猛獣が聞きほれるくらいの名演奏をしろとか、そういう無理難題を押し付けた覚えはない。彼は芸術にはうといので、普通に弾いてくれればそれで充分である。
 一人は練習のしすぎで指を痛め、別の一人は急に結婚が決まり違う土地へ移り住むことになった。貴族のジェラールでさえ肩代わりをちょっとためらうような額の借金をして、楽器を質草にしてしまった者もいる。それでもまだ何人か残っていると安心していたら、楽士仲間皆で食べに出かけたあやしげなゲテモノ料理に大当たりして、すくなくとも一ヶ月は使い物にならないという。
「旦那さまがそんなに音楽がお好きだなんて、ぼく、知りませんでした」
 お茶を運んできた下働きの男の子が目をまるくしている。
「そりゃ楽士のひとたちは大変だと思うけど、でも一ヶ月や二ヶ月お抱えの楽士がいないからって、別に死にやしないでしょ?」
「だがもうすぐ我が家には、アドルファ殿が来る!」
 一代で立派な財産を築いたその商人は、世間の評判が正しければもう七十近いはずだが、今もなお商売の手を広げるべく精力的に動き回っているという。
 そのアドルファ老人が新しい商売の場所として、プロヴァンに目をつけているという噂を聞いたのはつい最近。ならばと思い切って、慇懃にならないぎりぎりまで礼を尽くした招待の手紙を送ったのはさらに最近だ。アドルファが新しい商売を始めるとなれば、きっと評判になる。そうすればプロヴァンにはさらに人が増え、ますます土地が栄えるに違いない――。
「そのアドルファさまと、やめちゃった楽士さんたちと、どう関係があるんですか?」
「ある確かな情報筋によれば」
 よくぞ聞いてくれたとばかりに、ジェラールは神妙にうなずいた。
「彼は歌舞音曲に非常に造詣が深いとか。ならば滞在いただく間、なにか曲のひとつもお聞かせして」
「ご老体のご機嫌をとろうってわけだったんですね」
 少年のあまりにも率直過ぎる意見に領主は顔をしかめたが、ここで機嫌を損ねてはいけないと思いなおした。平常心を保たなくては、また髪が抜けてしまう。
「じゃあ旦那さま、冒険者ギルドに依頼を出してみてはいかがです?」
「冒険者?」
 なぜそこでその職業が出てくるのだ。母のアンヌは隠居して以来、雑用兼話し相手としてたびたび冒険者を雇っているらしいが、彼自身は一度、領地を荒らすゴブリン退治の際に、騎士団の手伝いとして雇い入れたことがあるだけだった。
「しかし別に、騎士団の手に負えないような魔物は出ていないが」
「そうじゃなくて‥‥冒険者って一口に言っても、いろんな人がいるんですよ」
「?」
「歌が歌える人や、楽器の弾ける人だってきっといると思うんです」
 そういえば、あの時もいたような‥‥とジェラールは思い出した。
「普通の楽士に弾いてもらうよりも、冒険者のにわか楽団のほうが珍しくて喜んでもらえるかもしれませんよ」

●今回の参加者

 ea1585 リル・リル(17歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea1849 リューヌ・プランタン(36歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea5506 シュヴァーン・ツァーン(25歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea7210 姚 天羅(33歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 その日、プロヴァンの街の門をくぐった冒険者の一団がいる。人間がふたり、シフールがふたり、あとの四人は全員エルフ。それぞれタイプは違えど、どこか華やかな雰囲気を匂わせた集団だった。街道から市街地へ続く門を守る門番の若者が、彼女たちに身元を尋ねている間、終始にこにこしていたほどである。
「こんなにバードばかり集まるのって、珍しいですよねえ」
 賑やかな街道を往きながら、ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)が感心するのも無理からぬこと、今回の依頼を引き受けた冒険者は、半数以上がバードだった。本当にねえ、とガブリエル・プリメーラ(ea1671)が明るく笑った。
「『楽団員が欲しい』なんて、ギルドの依頼じゃ珍しいもの。楽士としてはやっぱり、興味を惹かれるじゃない?」
 バードは月魔法の使い手であると同時に、月の精霊への音楽の捧げ手でもある。そのため、普段から楽士や吟遊詩人を生業としている者が多い。神聖騎士であり、この中では少数派にあたるリューヌ・プランタン(ea1849)は軽く首をすくめた。
「本職の方が多くて、ちょっと緊張しますね」
「ふふ、大丈夫よ。まったくの素人ってわけでもないんでしょ?」
「ええ、まあ。これでも『ショコラガールズ』の演奏担当ですから」
 よく分からないが、私設の楽団のようなことをやっているのだろう。
「あ、あれあれ! 門番さんが言ってた建物、あれだよねっ」
 うきうきした様子で先を飛んでいたリル・リル(ea1585)が、前方を指差してはしゃいだ声を上げる。
 活気に満ちた露店や出店の立ち並ぶ大通りを抜け、教会の前の緩やかな坂道にさしかかったところで、目指す建物が見えてきた。今まで目にしてきた家々に比べて、壁に蔦の這う領主館はずいぶん年季が入っているようだ。のんびりぽくぽくと歩く驢馬を引きながら、ラテリカ・ラートベル(ea1641)がぽかんと口を開けた。
「はわー。立派な建物ですねえ」
 大きい建造物ならパリにもたくさんあるが、古そうなだけあって長い年月を耐え抜いた独特の風格がある。プロヴァンは街としては比較的新しいと聞いているが、おそらくあの領主館を中心に広がってきたのだろう。
 日差しに目を細めながら、姚天羅(ea7210)がまだ遠い建物を眺める。
「確か腕前の確認も兼ねて、まず領主どのの前で演奏するのだったな」
「舞台に立てる機会を作ってくださったのは、音楽の道を歩む身として有難いことです。粗相のないようにしたいですね」
 天羅の言葉に頷きながら、シュヴァーン・ツァーン(ea5506)が愛用の竪琴を撫でながら笑んでみせた。そういえば‥‥と、ラテリカがわずかに首をかしげる。
「シェアトさんは、領主さんに一度お会いしてたですね?」
 この中でプロヴァン領主ギルエ男爵と直接面識があるのは、シェアト・レフロージュ(ea3869)だけだ。話をふられた当のシェアトは、はあ‥‥と曖昧に返事を濁した。
「プロヴァンの領主様ということは、あの奥様の息子さんなのですよね」
 つい親しく考えてしまうですけど、ご無礼をしないよう気をつけないとです。ぐっと拳を握り意気込んだラテリカに、事情をよく知らない他の冒険者たちは一斉にシェアトのほうを向いた。どんな相手なのだと、目が問うている。
「そうですね。とりあえず」
 咳払いして、シェアトは首をめぐらせ仲間たちを見た。エルフ、シフール、エルフ、エルフ、シフール‥‥人間。
「リューヌさん、ええと‥‥気をつけて」
「は?」

●楽団員到着
 到着して門番に用件を告げると、すぐに中へと通された。
 手入れのいい庭を通り抜け、玄関から客間へ案内される。壁には大きな肖像画がかかっていた。貴族の男性と、子供を抱いた貴婦人が並んでいる絵だ。
「お綺麗な方ですね。どなたなんですか?」
「先代領主ご夫妻でございます」
 リューヌの問いに、飲み物を運んできた使用人が答え、ミルが目を丸くする。
「ということは、奥様のお若い頃なんですねえ」
 絵の中の女性は柔和な表情で冒険者たちを見下ろしている。先代領主のいかめしい表情とは対照的だが、美男美女であることは確かだった。手持ち無沙汰なまま肖像を眺めていると、重たげな足音が聞こえてきた。
「ああ、来ましたか。ようこそプロヴァンへ。私が領主のジェラールです」
 愛想のいい顔で笑う恰幅のいい男に、ガブリエルがすかさず立ち上がり輝くような笑顔を全開にする。
「私達のように、音楽に魅せられた者にとっては嬉しい依頼ですもの。精一杯務めさせてもらいますわ」
「ええ、ええ。その調子でお願いします。やあ、それにしても」
 汗を拭き拭きせかせか歩くさまは、貴族というより商売人のようだ。なんでまたこんなに息を切らしてるのかしらとガブリエルは内心訝ったが、もちろん表面上笑顔は絶やさない。笑顔なのはラテリカやミル、リルも同じだが、根っから素直な彼女たちは多分心から『お会いできて嬉しいです!』と思っているのだろう。
「お美しい方ばかりで嬉しい限りです。東洋のご婦人までおられるとは、本番が楽しみだ」
 この場で東洋出身の者はひとりしかおらず、まさかそれは俺のことかと天羅が目をむいた。
「プロヴァンには華国やジャパンの品も時折入って参りますよ。よろしければ折を見て是非一度、お国の歌舞音曲についてお聞かせ願いたいものですな。もちろん他の文化についても」
「あの、領主様」
 あわててシェアトが止める。ジェラールは人間なので、同種族であるリューヌのことには気をつけていたのだが、領主殿はどうやら目新しさという点で天羅に目を惹かれたらしい。これはシェアトもいささか予想外だった。なぜなら。
 天羅は眉を顰め目を細めて、あからさまに機嫌を損ねた表情でジェラールを見返す。
「‥‥俺は男だ。見てわからんのか」

 下働きの少年を呼んで、例の部屋に案内してあげなさいと指図した領主の顔は引きつっていたような気がする。天羅はむっとした顔のまま、シュヴァーンやシェアトは曖昧な表情を浮かべ、ガブリエルは肩を震わせて笑いをこらえていた。
 少年のあとをふわふわと飛びながら、部屋を立ち去っていったジェラールを思い出してリルが不思議そうな表情を浮かべる。
「なんかさっさと行っちゃったね。怒っちゃったのかな?」
「旦那様は今、寝室にご婦人を待たせておいでなんです」
 まだ年端もいかぬ少年からいきなりそんな言葉を聞いて、何人かがぎょっとした。まだ外は真っ昼間だ。
「そ、そうですか。失礼ですが、ご領主はご結婚は?」
「してますけど、僕がこのお屋敷に奉公に上がった頃には、奥方様はもう別宅に移ってらっしゃいました。あんまり仲がよくないみたいで‥‥でも旦那様ってわりともてるんですよね。よく誤解されるんですけど、別にお金の力で女性に無茶を働いてるわけじゃないんです。不思議でしょ? あの見た目で」
 確かに体は樽のようだし頭は薄いし、下働きの子供にまでこんな口を聞かれているのだから、領主としては随分頼りない。およそその方面の魅力に欠けているように見える。先ほどの肖像画とはまるで似ていない。
「それが逆にボセイホンノウをくすぐるっていうか、放っておけないって思わせるのかな。また皆さん結構美人が多いんですよ。大人の女の人ってわかんないですよね‥‥あ、ここです」
 少年が大きな扉の前で立ち止まった。教育的配慮でラテリカの耳をふさいでいた天羅が、やっと手を離す。
 通された一室は、元々いた楽士たちが使っていたものだったのらしい。先ほどの客間とくらべると質素だが、その分広い。奥には整然と寝台が並んでいる。ミルとリルのために、あとでシフール用の寝床も用意しますね、とのことだった。
 そして彼女たちの目を引いたのは、部屋にいくつか並んだ楽器である。これも前にいた楽士たちのものなのだろう。中にはノルマンではあまり見慣れない楽器もあって、好奇心旺盛なリルなどは早速いじってみたりしている。
 ラテリカが見つけたのは、銀色の鈴を連ねたものだ。軽く振ってみると、しゃらしゃらと音が鳴る。金属製の持ち手には精緻な細工が施されていて、たぶん簡単には買えないものなのだろう。
「この部屋にある楽器は、ここにいる間は自由に使っていただいて結構ですから」
「わ、嬉しいですー。じゃ、これ、大事に使わせていただくです!」
「ねえねえ、あのさ、二胡って楽器あるかなあ」
 リルが尋ねると、少年はちょっと首を傾げた。
「二胡、ですか」
「東洋の弦楽器なの。使うかどうかはまだわからないんだけど、一度弾いてみたくて」
 そうですねえ、と考え込む少年。
「今ここにはないですけど、さっき旦那さまがおっしゃってた通り、プロヴァンには時々東方からの品が入ってきますからね。もしかしたら手に入るかもしれません。あとで旦那様にお話してみますね」
 もう少ししたらお食事をお持ちしますから‥‥と言って少年が立ち去っていくと、冒険者たちはさっそく打ち合わせを始めた。領主は一度確認のために演奏を聞きたいと言っているし、大きな舞台に立つのだから、演目は前もって決めておいたほうがいい。
「せっかくですから、お客人にプロヴァンのいいところを知っていただけるような‥‥そういう演奏会にしたいですよね」
「うーん。いい所、ねえ」
 リューヌの言葉はもっともだが、ガブリエルは生憎プロヴァンについてはあまり知らない。どうも先ほどの領主の顔が頭をちらついて眉間を寄せていると、何度かこの土地を訪れているミルが口を開いた。
「ここはですね、ワインの名産地なんだそうですよ〜」
 先代の領主様がとっても頑張って、プロヴァンワインを有名にしたんだそうです‥‥その言葉にシュヴァーンが軽く眉を上げる。そういえばもう葡萄の収穫の時期だ。加えて言うなら、パリの収穫祭もそろそろだろう。
「詳しい日程はまだ聞いておりませぬが‥‥お客人はおそらく、秋の間だけご滞在なさるのでしょうね。ご老体ということですし、冬になると旅は難しいでしょうから」
「じゃあ、『秋』をテーマにしてみる? せっかくだから、あたしとミルフィちゃんが、シェリーキャンの格好でもして」
「いいですね」
 まだ真新しいリュートを撫でながら、シェアトが微笑する。
「でも、折角の大きな舞台ですもの。一曲だけじゃお客さんにも申し訳ないと思いません?」
「そっか、そうだね。じゃあ、他の曲は‥‥」
「季節をテーマにするっていうのは、素敵だと思います。それ、もう少し詰めてみましょう」

●名もなき楽団、名前を得る
 弦をはじくと、軽やかな音が紡ぎ出される。
 シェアトとガブリエル、ふたりのリュートが奏でる音は最初はゆっくりだったが、互いの旋律を追いかけ合うようにしながら徐々に軽快にテンポを上げていく。風のように。充分な勢いに乗った風にあわせて、天羅が、たん! と一度だけ強く足を踏み鳴らした。それに呼応してラテリカの鈴が振られ、涼やかな音を聞かせる。
 ここが『夏』だ。
 弦の主旋律がテンポをゆるめたところで、シュヴァーンの横笛の音色がゆっくりと入ってくる。その間にラテリカが急いで楽器を持ち替え、竪琴を構えた。飛び出したのは、弾むような愛らしい音色。
 ここの主題は『秋』。収穫のよろこびを伝える秋だ。シフール用の竪琴を奏でるミルと一緒に、踊るように空中を飛び回りながら、リルは楽しげに尺八を吹き鳴らしている。重々しい曲の多い本来の尺八を知っているジャパン人が見たら、きっと目を瞠って、それから多分楽しげに笑うだろう。こういう曲も弾けるのか、と。
 ジェラールの一歩後ろで演奏を眺めていた下働きの少年が、こっそり音楽にあわせて体を揺らし始めた。
 ラテリカとミルがいたずらっぽく視線をかわした。
 練習のときと違う即興の演奏が始まったのを察して、隣り合ったシェアトとガブリエルがくすりと笑む。そうこなくては。そう言ったわけではないけれど、楽器はときに言葉よりも雄弁だ。リュートの音色が愉しげに悠々と、互いに語り合う竪琴の音を追う。さらにテンポが速まって、リルは真っ赤になりながら尺八に息を吹き込んでいる。それがおかしくて、見物していた使用人たちが笑った。
 秋が終われば当然、『冬』が来る。
 弦パートが指を休めるいとまに、リューヌが小さな鐘を打ち鳴らす。冷たくにぶい音が響く中、ギィン! と甲高い剣戟がさらに大きく響いた。若干目元に化粧を施した天羅が、いつのまにか前に出ている。
 シュヴァーンの竪琴が奏でるのはゆるやかな、安らぎを感じさせる音楽だ。それに合わせて、両手に剣を持った天羅が舞う。一度、二度、三度と打ち鳴らされる刃の音色は、他のどの楽器よりも重く深く力強く。厳しい音はさらに複雑なリズムを刻む。
 合間に踏み鳴らされる足音は鼓動にも、また不規則に吹きすさぶ厳しい吹雪の音にも似ている。その音色を、落ち着いたシュヴァーンの演奏が支えている。剣舞の鳴らす音が徐々に小さくなり、踊り手の動きがゆるやかになるまで、じっとジェラールは動かずに彼らに見入っていた。
 冬の終わりとともに、リューヌのオカリナの素朴な音が『春』を知らせる。
 シェアト、ガブリエル、ミル、ラテリカ、シュヴァーンの弦楽器が、一転して旋律を紡ぎ始めた。緩やかなペースなのは同じだが、先ほどよりも陽気な、目覚めを促すメロディだ。
 観客たちは手拍子を始めながら、彼女たちの演奏を見守っている。

「笛、もっと増やしたほうがいいんじゃないかなあ。息が続かないよう」
「弦が多いですものね。大筋はこれでいいと思いますから、次までにもう少し考えてみましょう」
「や、失礼」
 打ち合わせている冒険者たちに、ジェラールが割り込んだ。
「素晴らしかった! これはますます本番が楽しみですよ。これなら客人にも喜んでいただけること間違いなしだ」
「ありがとうございます」
 リューヌの手を握る領主は少々熱心すぎる気はしたが、まあそのぐらいは見逃そう。演奏で汗びっしょりになった顔を拭いながら、ミルが領主のすぐ傍に飛んでくる。
「あの、領主さま〜。せっかくこうやって楽団が集まったのですから、楽団名があったほうがいいと思うんですけど」
 ふむ、とジェラールは、ちょうど目線のあたりを飛んでいるミルを見返した。
「確かに、客人に紹介するときにも、名前があるほうがすわりがいいですな。何かいい案が?」
「もう決まってるんです」
 ね? と振り返ると、冒険者たちは頷いた。
「ミル・プレズィール。『千のよろこび』!」