小さな靴屋さん1〜幸せを呼ぶ靴

■シリーズシナリオ


担当:宮崎螢

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月05日〜02月10日

リプレイ公開日:2005年02月10日

●オープニング

 トントントン、キュッ、ギュッ。
 音が楽しそうにリズムを取る。嬉しそうに指先が踊る。
 それを見つめる子供達の目も、また、楽しそうだ。
(「面白そうだな、僕にも‥‥できないかな。やって‥‥みたいな」)

「幸せの靴?」
 どこかで聞いたことのあるような言葉を口にした冒険者に、違う違う。と係員は手を降った。
「幸せの靴、じゃなくて、幸せを呼ぶ靴。知らないのか? 最近評判なんだぜ」
 彼はそう言って嬉しそうに足元を見せる。
 上質の皮で作られた丁寧な細工。物は良さそうだし、いいデザインではあるが‥‥普通の物とそう大差があるようには思えない。
「これのどこが普通と違うんだ?」
 冒険者の問い良くぞ聞いてくれました、と言わんばかりに彼は破願する。
「街の小さな靴屋で売ってる品なんだけどな。この靴は一日に一足しか作らないんだ。上質な皮で縫い目も細かいし履き易い。そして人の手で作られたものじゃないってのがポイントだな」
「人の手で作られたのじゃない? どういうことだ?」
「なんでも、見えない妖精が作っているとかそんな噂だぜ、この店の主人、今、身体を壊して臥せってるんだ。誰も作れるものはいない筈なのに一日一足必ず売りに出される。履いているといいことがあるって噂も手伝って今、大人気なんだ」
「‥‥やはり、そのように噂が一人歩きしているのですね‥‥」
「「えっ゛?」」
 雑談を楽しんでいた係員は慌ててカウンターに走った。そこには物静かな老婦人が一人丁寧にお辞儀をしている。
「失礼しました。何ですか? 御用は‥‥」
 依頼書を広げた係員の足元を見て、老婦人は微笑むとさらに丁寧にお辞儀した。
「うちの店の靴をご愛用くださいましてありがとうございます」
 係員は目を丸くした。彼の足元の靴はさっき話した自慢の靴、ということは‥‥
「うちの店? ってことはひょっとして貴方は今評判のこの靴の‥‥」
「はい、店の主ロベールの妻、ルシアと申します」
「‥‥、で何の御用ですか?」
 ほんの少し気まずい顔をしながらも、係員は仕事の顔をする。
「その靴の作り手を捜して欲しいのです」
「えっ?」
 声を上げたのは聞き耳を立てていた冒険者だった。さっきの噂話は話半分で聞いていた。どうせ店の購買意欲を高める作戦だろうと。
「お店の方も、この靴の作り手をご存じないのですか?」
 質問を引き継ぐようにかけた係員の言葉に老婦人ははい、と頷く。
「先ほどもお話にありましたとおり、うちの店主である主人は先の秋から病で臥せっております。命にさほど別状は無いようなのですが‥‥身体を動かすことはまだままなりません」
「大変ですね。でも、それならあの靴は?」
「それを調べて頂きたいのです。今、あの靴は主人の手では無い者によって作られておりますから」
 彼女の説明はこうだった。
 店主が病に臥せってから、通りに面した仕事場はいつも締め切られていた。
 道具と作りかけの靴の皮が置いてあり、埃にまみれていた筈の仕事場がある日、突然綺麗になって作りかけの靴が完成されていた。
 それ以降、靴の皮を仕事場において夜休むと朝には一足靴が完成している。
 その靴をお得意様が買って、気に入ってくれたこと。
 偶然からか、その靴を履いていたらいいことがあったという噂が立ち、いつの間にか幸せを呼ぶ靴、などと言われるようになった。
「気になりながらも、私、主人の看病の為にお金が必要で‥‥その靴の作り手に甘えておりました。事実主人も驚く見事な腕なのです。ですが、噂がどんどん高まっていくに従って靴の値段も人々の様子も異常なまでで‥‥」
 なるほど、と係員は依頼書を書いた。
「その正体を突き止めたいとおっしゃるのですね」
「はい」
 老婦人はまた丁寧に頷いた。
「正直、何度か夜の工房を見張ろうとは思いましたの。ですが、歳のせいか、いつも眠ってしまうのです。その為今も誰が靴を作っているのか解りませんの」
「ほお、眠ってしまう‥‥」
「はい、戸締りはちゃんとしておりますのよ。いくつか高い所に小さな明り取りの窓は開いておりますがとても人が入れる高さと、大きさではありませんし‥‥」
「で、見つけたらどうしますか? 捕まえて連れてきますか?」
 はい、とは老婦人は言わなかった。今度はゆっくりと首を横に降る。
「いいえ、その方のお気持ちに沿って下さい。お姿を見せて下さらないということは何か理由がおありなのでしょうから」
 そう言うと彼女は二つの皮袋を出した。
「一つは皆さんへの依頼料です。もう一つはその方を見つけたらお渡し下さい。そして心から感謝していると伝えて欲しいのです」
 てに持つとどちらもズシリと重い。特に渡して欲しいと頼まれた方はかなりの額の気がする。
「いいんですか? これをそっくり渡して」
「夫婦二人で慎ましく暮らすには十分な額は手元にございます。これは噂によって高まった額。靴の作り手の方のものですわ」
 誠実な笑みは好感が持てる。

「俺も、この靴の作り手と会えるなら会って見たいしな。頼んだぜ」

●今回の参加者

 ea1554 月読 玲(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1908 ルビー・バルボア(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2148 ミリア・リネス(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea4658 黄 牙虎(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea4822 ユーディクス・ディエクエス(27歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0102 アリア・プラート(25歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0262 ユノ・ジーン(35歳・♂・バード・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●靴屋さん
 ♪トントントン、キュッ、ギュッ
 楽しいリズムが流れ出す
 素敵な靴を作る音

 トントントン、キュッ、ギュッ
 夜が明けると出来ている
 誰かが作った素敵な靴

 トントントン、キュッ、ギュッ
 謎の靴屋は誰でしょう
 それは誰にも分からない♪

 街道で竪琴を鳴らすバードの歌声は子供達の元気な歌声と相まって明るく、店の中にまで響いて来た。
「賑やかでよろしいですこと‥‥。二人暮しも長いと寂しいものですわ」
 そう言って店の主人の妻、ルシアが差し出した椅子と菓子に冒険者達は小さく頭を下げた。
「ありがとうございます。ちょっと話を伺ってもよろしいか?」
 ルビー・バルボア(ea1908)の言葉にもちろん、とルシアは笑う。
 その瞳の先にはベッドで横になっている夫ロベールの枕元、小さな手で一生懸命に絵を書くレン・ウィンドフェザー(ea4509)がいる。
『じじとばばのえをかくの♪』
『ほお、嬢ちゃんは絵が上手じゃのお』
 なかなか特徴を掴んだ絵を描くレンの頭をロベールの皺だらけの手がくしゃくしゃ、っと撫でる。
 昔イギリスで修行したこともあるという彼と、イギリス語でしか話せないレンはそれなりに意志の疎通も出来ている様だ。
「で、何を聞きたいのかしら?」
「工房に魔法の気配とか、ありませんでした?」
 そう言ったのはミリア・リネス(ea2148)だった。だが、ルシアの返事は。
「さあ? 魔法には詳しくありませんから‥‥」
 工房は自由に見ていいと言われたので、何か手掛かりはないかと探してみることにした。
「ところで、靴の作り方など、少し教えてもらえないかな?」
 工房の道具を興味深そうに見つめるルビーはルシアに質問する。私はそれほど詳しくは無いですよ。と言い置いて彼女は道具の説明をしてくれた。
「‥‥なるほど、なめした皮をこういう風に切って‥‥」
「牛革や羊の皮を使うことが多いわね。木靴はうちでは作っていないけど‥‥」
 細い革紐を繋げた様なサンダル。足を包む様なブーツ。種類も様々で夢中になりそうだ、とルビーはもっと聞きたい気分を適度に抑えた。
「色々な靴を作ってくださるおかげで、お得意様も増えてきているの。よろしくお願いしますわね」
 ルシアの丁寧なお辞儀に少し慌てながらもルビーとミリアは、
「はい、必ず」
 と約束したのだった。

●絵手紙
 店の外ではフィニィ・フォルテン(ea9114)の楽しい歌が終わり、何時の間にやら。
 チョンキリチョンキリベンベンべべベン♪
 賑やかな三味線の音が聞こえてくる。
「あたしは、アリア・プラート(eb0102) しがない三味線バードだぜ♪」
 軽快なリズムが夕暮れの赤く染まりかけた街路に響いていく。
 なかなか好評のようである。手拍子も聞こえてくる。
「お〜い、そろそろ行くぞ〜」
 仲間達の呼び声に彼女はバチを持ったままの片手を振ると、
「本日は、これにて終わり‥‥残念!」
 最後に思いきり強く音を弾いた。
 拍手と笑顔。正体がバレていなかったからかもしれないが、二人のバードは歌を聞いてもらう幸せを、感じていた。

「靴は‥‥本当に色々な種類が作られているそうね。あたしも欲しくなっちゃうくらいセンスいいわよ」
 言葉だけ聞いていたら女性が言っているのだと思うかもしれないが、情報収集で得た話を皆に伝えているユノ・ジーン(eb0262)はれっきとした性別、男である。
『ほんとのカマさんだったら、めっさつ、まっさつなの』
 キラリン。
 レンの瞳が光るが、違うわよ! と彼は否定した。何処が違うか聞きたい所だがとりあえずレンは
『‥‥ざんねんなの‥‥』
 と引き下がる。ちなみにそれをちゃんと通訳したルビーも大したものだ。
「なんか、面白がってる感じよね。こだわりとかっていうよりもやりたいからやってる、ってかんじ?」
「‥‥なら、素直に出てきてくれるといいな。で、今日の見張りは?」
「黄さんが行きましたよ。お料理でおびき出す。って」
「手伝わなくっていいのか?」
「あ、じゃあ、私が行きますよ」
 立ち上がった月読玲(ea1554)の向こうでレンとユーディクス・ディエクエス(ea4822)が楽しそうに絵手紙を書いている。小さな木の板に漆喰を塗って、生乾きのそれに色を乗せる。
 そのなんだかほのぼのとした感じが妙に楽しくて、微笑みながら宿の扉を後ろ手に閉めた。

●子供達
 昼間、買い物をしてきた黄牙虎(ea4658)は家の厨房を借りて料理の真っ最中だった。シフールサイズではなかなか料理もし難いが、なんとか出来そうだ。
 作るは華仙風海鮮スープノルマン仕立て。土鍋や火鉢は借りられなかったので出来たスープを工房に運ぶつもりだ。
 いや‥‥つもりだった‥‥。
 スープの皿を置きに来た時、感じた気配に彼女は動きを止める。部屋を飛び回る小さな影‥‥。
(「あれが‥‥小さな靴屋‥‥」)
 そう思ったのが彼女の最後の記憶。やがて‥‥。
 スープを啜る音と、トントントン、リズムのいい木槌の音。それが工房に響いて行くのを夢の中で彼女は聞いていた。

 明け方、玲は目元を擦って瞬きをした。
「? あれは‥‥」
 工房の明かり取りの窓から、小さな影が空を飛んで行くのが見える。薄靄の中、忍者のジャンプ力でもとても届かない遠く、遠くを。
「牙虎さん!」
 工房の扉を開けて飛び込んだ彼女は仲間の名を呼んだ。
「むにゃ‥‥」
 寝惚けた声が返事に返る。玲はその方向、テーブルの上を見て目を瞬かせた。そこには小さな子供用の靴と、布の端切れを肩にかけられて寝息を立てる仲間のシフールの姿があった。

「‥‥えっと、良かったら朝食にどうぞ。一晩煮込んだから、出汁が具に染みて美味しいよ‥‥たぶん」
 恥ずかしそうに頭を掻きながら牙虎は依頼人にスープの皿を差し出した。
 ありがとう。と言って受取るルシアの側にいる冒険者達も苦笑顔だ。
「もう少し、人数をちゃんと分ければ良かったかな?」
 彼女が仲間にちゃんと頼んでおけば、なんとかなったかもしれないと、今なら思う。だが、収穫は0ではなかった。二人は自分が見たものと、考えを告げる。
「情報は増えましたよ。小さな靴屋さんは空を飛んで行きました」
「シフールサイズの皿のスープを素直に飲んで行った事を考えると、やっぱり同族かもしれないわね」
「あ〜、やっぱり水は無視されちゃってる。これじゃあ魔法で、っていうのは無理かも‥‥」
 コップを揺らすミリアの横を通ってレンが老人のベッドに寄る。
『‥‥じじとばばには、かぞくはいないの? レンはねぇ、イギリスにかーさまと、ここパリにとーさまがいるの♪ とーさまはほんとのとーさまじゃないけど、レンはいまのとーさましかしらないから、とーさまはとーさまなの♪』
 無邪気な質問にロベールは小さな笑顔と、少しの寂しさを頬に浮かべてレンの頭を撫でた。
「家族か‥‥おったら良かったのだがな。お前さんのような子供が‥‥な」
「私達は子供に恵まれませんでしたの。弟子もおりませんし」
 望んでも得られなかった自分の思いを受け継ぐもの。その言葉に表せない想いが二人の間から伝わってくる様だ。
「‥‥よっし! じゃあ、今晩こそ見つけるわよ!」
 力こぶしで寂しいムードを追い払いユノは声を上げた。
「OK、じゃあ、皆で手分けをして‥‥」
 ルビーの手招きに頭を寄せた彼らは、何度も何度も頷きあった。
 若い輝きを見つめ笑顔を浮かべる老夫婦の暖かい思いを感じながら。

●小さな靴屋さん
 窓に月の光が射仕込む、星の冴えた夜。空を飛んでくる小さな影があった。慣れた様子で周囲を伺うと明かり取りの窓に登り、すっと下に着地する。
「今日は、誰もいねえな。よし! 始めるか‥‥ん?」
 影はきょろきょろと何かを探すような仕草をしている。いつもならいつも革の置いてある机の上に、革が無い。その場所には一枚の板。月明かりに光る綺麗な絵とメッセージ。暖かな色使いと『ありがとう』の綴りが読めた。
「なんだ? これ‥‥手紙? ‥‥拙い! バレてるんだ!」
 直ぐに逃げるかと思いきや‥‥影は板を掴もうとしている。その時、パッと部屋に明かりが灯った。
「靴作ンなら堂々とやれっつーの。ロベールの爺ぃも誉めてんだからよ」
 かけられた声に影は止まらなかった。丁度抱え込んだ板を持って飛んで行く。
『待ってください、靴屋さんからの伝言を聞いてください!』
 テレパシーの声が聞こえたのか、そうでないのかは解らない。
 だが、いつもより重い荷物を持ち、いつもより慌ててよろよろ窓から外に出た影はいつものようにスムーズには飛べなかった。
「うわっ!!」
 足を滑らせたのだろうか、真っ直ぐに下に向かって落ちて行く‥‥!
「危ない!」
 大きな手、小さな手、細い手、太い手、いくつもの手が伸ばされ、差し出され‥‥そして捕まえた。
「ふう、良かった」
「間に合ったな」
「やっぱり、想像通りね。可愛いこと♪」
 彼らの手の中には小さなシフールの少年が、気を失っていた。両手にしっかりと絵手紙を握り締めたまま‥‥。

「絶対、絶対誰にも言わないでくれよ!」
 目を覚ました少年はカトルと名乗ってまず、最初に冒険者達に念を押した。
 取り巻く10人の冒険者を前に逃げる気は無いのだろう。ユーディクスの肩の上で素直に全部話すからと告げて、だ。
「あのさ、おいら親無しの旅芸人なんだよ。今はパリにいて一座の皆と歌を歌ったりしてるんだけど‥‥ホントは苦手なんだ。そういうこと‥‥」
 そんな時、偶然あの店でロベールの靴作りの技を見たのだという。
 トントントン、キュッ、ギュ。
 リズムに乗って指を動かして魔法のように靴を作っていく。その様子にカトルはすっかり目と心を奪われた。
「それでさあ、一座の仕事の無い時にはあそこに覗きに行ってたんだ。じいさまもばあさまも目も耳もあんまり良くないらしくて上から見てても気付かないんだよ」
 そうしているうちに、自分も靴を作ってみたくなって、それで工房が開いた夜、こっそり忍び込んでは靴を作っていたのだという。
「じいさまの代りとかじゃ無いよ。ただ、おいらが作ってみたかったんだ」
 照れ隠しかもしれないが、シフールはそう言うと俯いた。冒険者達の顔を上目遣いで見る。
「あの‥‥さ、やっぱりダメ?」
 一座の者に知れたら怒られるかもしれない。そして何より、いつかはこの街を離れなければならない。だから、言えなかったのだろう。冒険者達は息をついた。それぞれの思いを込めた優しい吐息だ。そして‥‥
「ほら!」
 シャリン。
「うわっ!」
 返事代わりに自分の前に落ちた皮袋にカトルは絶句した。これは‥‥何? と目で言う少年にフィニィはニッコリと笑う。
「靴屋さんは貴方にとても感謝しています、これはお礼の気持ちだそうです」
「お礼? 僕に‥‥」
「その手紙を、見てくださったのなら解るでしょう? お二人は、貴方にとても感謝をしていますよ」
「だから、昼間どうどうと出て来い、っつーてんの。まあ、事情があるなら仕方ねえけどな」
「よかったね♪」
 レンの、冒険者の、気持ちが伝わったのだろう。少年も嬉しそうに頷いた。
「うん、ありがとう」

 皮袋と、そして絵手紙を大事そうに抱いて少年は自分の居場所へと戻って行った。
 その背中を見送りながら彼らは思い出す。
「‥‥どうして、その手紙持ってきたのですか?」
 控えめに聞いた手紙の作者の一人に彼は寂しげに笑ってこう言ったっけ。
「おいら、自分宛の手紙なんて貰ったの始めてだもん。しかも、お礼の手紙、なんてさ」
 親を失っている、と彼は言っていた。一座の仲間はいるかもしれないが‥‥やはり‥‥
「いい子よねえ〜」
 目元を擦るユノの言葉に頷く者、沈黙する者。
(「妖精だったらいいなあ、なんて思ってたけど、それより良かったかもしれないな」)
 若い騎士の気持ちは爽やかだった。
『手紙喜んでくれて良かったの。また会えるといいの♪』
 眠たげな目を擦りながらレンはルビーの服の裾を掴む。そうだな、と彼は頷いた。
「とりあえず、約束は守りましょう。暫くは私達だけの内緒、です」
 口元に小さく指を当てた玲の言葉に全員が同意しつつ、飛び去って行くシフールの少年の小さな背中をいつまでも見送っていた。

●幸せの靴
 夫妻は冒険者達の成功報告を心から喜んでくれた。
 そして、それからも毎晩、小さな靴屋の来訪を楽しみにしているという。
 彼らの前にその姿を現す事は無かったが‥‥。

 今回の依頼に一つ、予想外だったであろうことがある。
 バード達の作った歌が靴の人気をさらに高めた事だ。
 『幻の靴』『幸せを呼ぶ靴』
 その日から、名前は一人歩きし始めた。