【今は道と呼ばれたる】新人達へのテスト

■シリーズシナリオ


担当:MOB

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月22日〜03月03日

リプレイ公開日:2005年03月03日

●オープニング

 依頼主の代理人である騎士が、依頼を申請を終えてギルドより去っていく。つまり、この依頼の依頼主は貴族だ‥。果たしてどんな依頼なのかと依頼書を読んでいくと、人員の募集とそのテストがある事が分かるだろう。

 この依頼の依頼主である貴族は、とある貴族の集まりの代表。名は、エラルド・オクトといった。
 とはいっても、その貴族の集まりというのは、遺跡や未開の地における‥未知なる物、希少な物などといった物に心を惹かれた、収集家の側面を持った者達(側面でない者も居るらしいが)の集まりの一つである。そして、彼等の代表と言えば聞こえがいいが、結局の所、冒険者に近い位置に据えられて各種の手続きをさせられているエラルドは、実際にはその集まりの中での権限はかなり低かったりする。

 未知という魅惑に惹きつけられた者達は、やがて各々の欲を満たす為に一つの答えを出した。自分達の代わりに現地に赴く者達を雇い、そしてその成果を自分達の下へ。対価は金。
 そして彼等と同じように未知という魅惑に惹きつけられ、そしてそこへと赴かん事を求める者達が居た。彼等が一番欲していたのは、その為に必要な資金だったのだ。
 そうした経緯から出来上がったのが、今回の依頼主を含んだ貴族の集まりが有する一つの探索隊。そして今回、また新たに隊員を追加募集する事が決まった。定期的に人員を募集し、探索隊の活動に耐えれる人材を捜しているのだ。

(「チャンスだ‥」)
 赤い衣服に身を包んだ女ファイター、バサバサの金髪は伸び放題にも見える。背負ったウォーアックスは大きく、嫌でも目につく‥グラケルミィ・ワーズだ。彼女は目の前に貼られた依頼書を見つめ、僅かに口元を歪めている。
 自分の育ての親が何を求めて未開の地へと赴いていったのか。グラケルミィ自身、いつしか未知という魅惑に惹きつけられているのを自覚している。だから、その半分は理解しているが残りの半分は‥実際にそこへと辿りつかねば、分からないままなのだろう。 

 今は道と呼ばれ、人にそう認識されている。それは確かに、過去に誰かが切り開いたからなのだ。そして最後に、この依頼書が作成されるまでに、通常よりも少し余計に時間がかかった事を追記しておこう。

●今回の参加者

 ea1803 ハルヒ・トコシエ(27歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea2031 キウイ・クレープ(30歳・♀・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3990 雅上烈 椎(39歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●今は道と呼ばれている地を
「準備は出来ているな? ああ、そうだ。今回はダメではないが、隊に入ってもらった後で向かう先は、基本的に馬は連れて行けないと思っていい」
 ドレスタットを出発する前、案内役の冒険者からそう言い渡された冒険者達。行ってみれば馬を連れて行けるかもしれないが、途中でこれ以上は馬を連れて行けなくなるような箇所が、往々にしてあるそうだ。
「馬次郎は置いてきて正解だったか‥」
「まあ、道中に馬を置いていくわけにもいかないですわよね」
 宿に馬を置いてきていた石動 悠一郎(ea8417)やシエル・サーロット(ea6632)は頷き、馬に荷物を積んできていたキウイ・クレープ(ea2031)はちょっと苦い顔をする。案内役の冒険者も、今回は問題無いがそれが探索隊の基本であるので、今の内に言っておこうと思ったのだろう。
「それより悠一郎さん。さっきからそわそわしてるように見えるのだが‥」
「あ、ああ‥依頼中、ドレスタットに残していく馬次郎が心配でな。‥拙者は過保護なのかもしれん」
 少し心配そうな表情を浮かべていたレオン・バーナード(ea8029)からライトシールドを借り受けつつ、悠一郎は照れ気味に言葉を返す。ところでこの二人、一見は同年代に見えたりもする。普段通りなら悠一郎が年上なのは良く分かるのだが。
「ハーフエルフか。過去の経験からして、感情の昂揚以外の狂化条件は分かっているか?」
「え? ええと‥戦闘の時に緊迫感を感じると‥。なんていうか、サディスティックになっちゃうみたいで」
 フォーリィ・クライト(eb0754)がそう答えると、条件が厄介なタイプだな、と案内役の冒険者が漏らす。単純に依頼遂行の能力を考えると、狂化は基本的に自制が効かないという点が一番厄介だ。だが、探索隊の中には、実力を示して周囲の信頼とフォローを得る事によって、他の隊員と同等かそれ以上に活躍しているハーフエルフも居るという。
「それにしても、ハーフエルフに対して何も嫌な顔はしないんですねぇ」
 一応は貴族の集まりが出資者のはずなのだから、毛嫌いされてもおかしくはないのだが‥実力優先なのだろうか。地位の低いエラルド・オクトが代表者に据えられているのは、その辺りも関係しているのかもしれない。


●七と九と証
「う〜ん、なんかこう‥見られてるっていうのは緊張するな」
 ドレスタットを経って少し、先頭を歩くキウイが言うと、周囲からは賛同の声が上がる。
 案内役の冒険者は、分かれ道などで進む方向を示してはくれるが、一行の最後尾に立って歩を進めている。別に道中の行動を全部見るわけじゃないとは言っていたが、それでもやっぱり気になってしまうものだ。
「しかし、キウイはん。一緒に積んでくれて助かりますわァ」
 キウイが引いている馬の積まれた荷物の中の、毛布がもぞもぞと動く。そこから顔を出しているのはルイーゼ・コゥ(ea7929)だ。寒さの厳しい冬の季節は厚着を冒険者達に強要し、体力に劣るシフール達にはツライ季節である。
(「あん時は怖かったなァ‥」)
 ルイーゼが思い返すのは、自分の荷物を他の冒険者に持ってもらうように頼んでいた時の事。グラケルミィに、毛布一枚ぐらい持ってやるよと言われた際に、礼として思わず頬にキスしてしまったのがマズかった。殺気感知なんて得意でも何でもないのに、空気が変わったのを感じれたんだもの。
 結局、ルイーゼも彼女の荷物も全部纏めて、キウイの馬に乗せられる事になったのだった。

「あ、見えてきましたよ〜。あの吊り橋を渡っ‥‥え、あれ?」
 ドレスタットを経って三日目の昼前。この先にある吊り橋を渡れば、目的の遺跡まで少しだと案内役の冒険者は言っていたのだが、ここで異変が起きた。ハルヒ・トコシエ(ea1803)の瞳に映った吊り橋は、落ちてしまっていて渡る事が出来ない。
「これは遠回りをするしかないな。下流の方に行けば渡れる所があったはずだ」
「下流に? そうですねぇ‥、遠回りするしかないですよね」
 シュンとしょげるハルヒを横で、キウイがある事に気づいた。
「ちょっと待って。これ‥刃物で切られた痕なんじゃないのか?」
 一転してその場の空気が変わる。自然に老朽化で橋が損傷したのでなく、人為的に損傷させられたという事だ。
「そういえば、代わりの道を提案するのも早すぎなかったです?」
「一体どういう事なのか、納得のいく説明をしてもらいたいものだな」
 深螺 藤咲(ea8218)や雅上烈 椎(ea3990)に問われると、案内役の冒険者は、やはり気づくかと言って説明を始める。これはテストなのだから、ワザと橋を落としたらしい。ドレスタットから遺跡までは往復七日だが、依頼期間は九日として申し込まれていたこの依頼、こういう仕掛けが組まれていたのだ。
「そういう事だったか。しかし皆、九日分を用意してきているよな?」
 アーディル・エグザントゥス(ea6360)がそう皆に問いかけると、ほぼ全員が頷いて返す。つまり、ほぼ全員の冒険者が九日分の保存食を用意ていたし、余分に持って来ていた冒険者も居たので、何も問題無かったのだ。‥ちょっと残ね、いや、頼もしい事である。

 一つあれば二つ以上あってもおかしくない。そうやって思考を巡らせた冒険者達だったが、道中も野営の時も至極平穏に過ぎていき、目的の遺跡へと到着する。そして、案内役の冒険者が、その様子を満足そうに見ていたのは確かだ。
「どうだ? 罠は残っていそうか?」
「落とし穴におっこってぐっさりとか、岩が転がってきてぺっちゃんこ‥なんてのは避けたいですからねぇ」
 キウイとフォーリィが声を掛けた先では、レオンと藤咲がカリカリと音を立てながらスピアに地面を這わせている。既に調査の終わった遺跡で、罠はほぼ全て解除されているとは思うが‥これはテストなので、再び仕掛けられているという可能性もある。
「うーん、でもやっぱ無いみたいだな。藤咲さん、そっちは?」
「こっちも無さそうですよ」
「クレバスセンサー使うてみたけど、特に反応はありまへんなぁ‥」
 ルイーゼが魔法を使ったが、これにも反応が無かったようだ。
「テスト中に下手な事になって、遺跡が傷つくのはマズいから‥でしょうか?」
 ともかく先へ進むと、明らかに後から置かれたのであろう箱があった。その中を覗いてみると‥
「これは‥石版?」
「なんでこんな物が合格の証なんだ?」
 アーディルが今手に持っている石版は、別に古代魔法語が彫られているわけでもなく、古くても数年前に彫られたような真新しい石版だ。合格の証にしては変な物と言えるが、これには理由があった。
「このサイズの石の塊となると、結構重いな。誰が持つ?」
「誰が持つって、今回は依頼内容が内容だから、皆手荷物はギリギ‥」
 その場に居た全員が同時に気がついた。向かった先から何かを持ち帰ってくる必要も、この隊に参加する場合はあるのだと。荷物を背負ったその時既に、依頼の結果は出ているのかもしれない。


●成果は持ち帰ってこそ
「ここまで来た道は覚えているな、ですか。確かにそれもテストどすなァ」
 案内役の冒険者は、冒険者達が石版を手に入れた事を確認した後でそう言って、さっさと帰路を進んでいってしまった。
「小一時間休憩したら、追いかけて帰って来い‥ね」
「やっぱり何か仕掛けているのかな?」
「そう思えるが‥。やれやれ、また疲れさせてくれる話だ」
 そうして、今度は周囲を警戒しながら来た道を戻る事になった冒険者達。容赦無く冒険者の精神力は削り取られていくが、何も起こらずにドレスタットまでの距離は縮んでいく。そうして、吊り橋が落とされていたために渡った、下流の川の所まで来た。
「ここで一旦合流するみたいだな」
 見れば、向こう岸で案内役の冒険者が待っている。

「ホントはハルピュイアが棲んでいれば文句無しだったんだがな」
 冒険者が川の中ほどまで進んだ時に、唐突にそう言い放った。
「いいか、退けるまでにこっちに逃げて来たら失格だ。その川は、この時間には何羽かのジャイアントクロウが、獲物を探して飛び回っているんだよ」
「何っ!?」
 慌てて空を見上げれば、黒い影が三つ。ジャイアントクロウの名が示す通りに、大きな翼を広げてこちらへと向かって来ている。
「こ、こんなのってアリ!?」
 フォーリィがダガーを構えながら嘆くが、他の冒険者達も似たような感じだ。
(「これじゃあ、こっちが一方的に不利じゃないか‥!」)
 相手の先制攻撃を回避したアーディルも、自分が普段通りには動けていないのを実感する。椎と悠一郎もそれぞれ攻撃を受けたが、二人とも相手の爪を受け止めて無力化していた。だが‥
「くそっ、上手く攻めらんないな!」
「ハルピュイアってのは良く知らないけど、これでも十分厄介じゃないか‥!」
 キウイやレオンが空を見上げる。相手はこちらの攻撃手段の大半が届かない位置にいて、急降下して攻撃しては、また上空へと戻っていく。相手に打撃を与えられず、焦りが募る‥この様子は、案内役の冒険者に見られているのだ。
「こんなんで、モタついているわけにはいかないんだよ!」
 だからグラケルミィは無理に相手に攻撃を仕掛けた。不恰好なカウンターとして振り払われたウォーアックスは、確かにジャイアントクロウを捉えたが、彼女も少なくない怪我を負わされた。
(「血が‥!」)
 頭部から流れた液体が、彼女の視界を奪う。そして、弱った様子を見せた相手は狩りの獲物になる。
「何無茶してるんだ!」
「グラキさん!」
 レオンと椎が急いでグラケルミィの援護に回り、迫り来る二体のジャイアントクロウを遮ると、その間にシエルが駆け寄ってリカバーポーションを握らせ、グラケルミィに飲むように促す。瞳を閉じたままのグラケルミィがそれを飲み干すと、頭部からの出血が治まっていく。
 地へと落ちたジャイアントクロウには、瞳を赤に染めたフォーリィがダガーを深く突きたててトドメをさす。グラケルミィの取った行動は褒められたものではないが、これで相手の数は一体減った。
「飛んでいれば斬撃が届かないと思うな!」
 真空の刃がジャイアントクロウを斬り裂くと、光線と雷がジャイアントクロウを撃ち抜き、その身を地面に這い蹲らせる。ハルヒがサンレーザー、ルイーゼがライトニングサンダーボルトを唱えたのだ。
「ちょっとだけ博打だったかもしれないですけどね」
 魔法の詠唱中は無防備。とはいえ、それを知らぬ獣が狙ってくる可能性は低い。
「これで最後です!」
「‥とどめだ」
 炎を纏った藤咲が、最後に残ったジャイアントクロウを地へと落下させると、それは地に落ちるのを待たずに命を落とす。落ちゆくジャイアントクロウを、椎が鮮やかに斬り裂いたのだ。
 ただ、ファイヤーバードの初歩の効果は時間が短い為に空中で効果が切れて落下し、足場が悪いせいで上手く着地出来ず、藤咲は足を挫いてしまった。


●目撃した人、された人
「今回も、素敵な髪の人が多いですねぇ」
 ドレスタットまでは後一日。これが最後の野営になるのだが、待ってましたとばかりにハルヒは他の冒険者達に髪の手入れをして回る。最初に犠牲(?)になっているのは、毛布から顔だけを出しているルイーゼだ。

「川での戦闘の際、ちょっとグラキさんらしくありませんでしたわよ」
 当日の夜は気まずくて言い損ねていたが、今日が最後の野営になるので、シエルは気になっていた事をグラケルミィに告げた。荒っぽいが、力だけで無理矢理に押すタイプでもないのを、シエルは知っているから。
「こうやって落ち着いてみると良く分かる。やっぱり焦ってるんだよ、アタシは‥」
 思い切ってグラケルミィは、育ての親の事についてシエルに話す事にした。冒険者である事、未開の地へと赴いたまま行方不明になった事、そしていつしか自分も未知という言葉に惹かれている事。
「そう‥でしたのね」
 普段とは違い、弱々しく見えるグラケルミィをシエルは優しく抱きすくめると、グラケルミィも抵抗せず、むしろそれを受け入れる。
(「ふふふ‥。こういうグラキさんも、たまには良いですわね‥」)
 シエルはそうして優しく撫‥あ、テントの入り口が。
 ばっさあ
「前回は逃げられましたけど、こん‥‥‥」
 ‥‥‥。もの凄く、見てはならない物を見てしまった気分に、見られてしまった気分。
「しっ、失礼しましたぁ〜!?」
 テントの入り口を閉じ、慌ててその場を離れるハルヒ。しかもこの後、ご飯の用意が出来たからと言ってキウイが二人を呼びに行こうとするので、それを上手く留める役目がハルヒには用意されていたりして。

 ともあれ依頼は無事に終了し、冒険者達は仮入隊という形で探索隊に所属する事になる。