【今は道と呼ばれたる】貴方が示すは‥?
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■シリーズシナリオ
担当:MOB
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 28 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月20日〜03月31日
リプレイ公開日:2005年03月28日
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●オープニング
「前回、エラルド・オクト氏よりの探索隊新人募集の依頼を受けた冒険者へ」
その依頼の見出しはそれだった。
テストに合格し、仮入隊という形になったはいいが、次の指示が来ない。そんなやきもきした冒険者達の心情とは裏腹に、探索隊の活動は言ってしまえばマイペースで、決して予定は早まらない。
これは、冒険者を雇うという形で探索隊は作られているので、出発予定日までに他の依頼を受けたい者の事を考えているのと、こと遺跡の調査となれば専門的な知識を持った人材を別途探さなければならない、そういった理由からだ。加えて言うなら、いくら貴族達とはいえ出せる資金には限りがある。
いわゆるスペシャリストなスキルを持った冒険者も、探索隊に専属という形で居ないわけではないのだが、その者達は現在とある遺跡にかかりきりになっていて、その遺跡の探索は前々から出資者の貴族達の間で早期の探索が望まれていた。なので、こちらに回す事は出来ない。
‥少し話が逸れた、依頼の内容に話を戻そう。
今回の依頼の内容は、比較的小規模な遺跡の調査‥の露払いがメイン。おそらく砦かなにかとして使われていたのであろうその遺跡は、周囲を壁で囲まれていて、入り口が北東と南東の二つしかない。もちろん、遺跡を損傷させるわけにはいかないので、素直にこの入り口から入るわけなのだが‥。
依頼を出す側も、これまでの経験から大体起こりうる事態を予測しているのか、入り口の門番を倒して遺跡内部に入り込み、今回の遺跡の特徴はどうなのか、出来るだけ調べてきて欲しいというのが依頼の内容。「意味は分からなくても、どんな形の文字が使われているのか」等、そういった事を調べて欲しいという事だ。
それによって、探索隊は次にどんな知識を持った人材を集めればいいのかが分かり、また、一度遺跡までの道を往復した冒険者を学者の護衛とする事で、不必要な危険も排除する事が出来る。
「待たせやがって、一ヶ月ぶりぐらいじゃねぇか? ん‥?」
伸び放題のバサバサの髪。赤い衣服に包まれたその肉体は、ウォーアックスを背負った状態でも揺らぐ事は無く。一ヶ月前と違う点を挙げるなら、額に残った傷痕だろうか。
(「なんだ? 今回は探索隊の正隊員数人と一緒なのかよ」)
道案内も兼ねるのだが、まあ‥まだ仮入隊扱いの新人だけに任せる気はないのだ。
(「だが、まだ焦っちゃダメだ‥」)
額に残った傷痕を撫でる。しかし、ただ引っ込んでいるわけにもいかない。思考に陥ったグラケルミィの頭に浮かんだのは、前回の依頼で同行した、同じく仮隊員となった冒険者達の面々。
「あいつらが居たんだったな。なら、やれるかもしれないな‥」
実力を示す。それも、相手が納得する形で。
焦るわけにはいかないが、急げるなら急ぎたい。未知・未踏、そういった言葉に惹かれてしまった者の性か。しかし、それこそが現在までに見つけられた遺跡を発見し、白地図に新たな世界を書き込んできたのだ。
「うーん、少しは何かやってみるかなぁ。‥また、あんな事になるのもゴメンだし」
軽く自分の髪をいじってみる。伸び放題にしているので、一応長さだけは人並み以上にある。とは言っても、手入れすれば綺麗な髪になるとも思っていないので、現在のような状態になっているのだが。
「うーん‥‥」
周囲を見返し、また前回同行した冒険者の髪を思い出す。誰も彼も、それなりに手入れをしているように見える。ひょっとして‥自分のようなタイプって珍しい?。
(「手入れするのかしないのか。どっちが良いか、あいつに聞いてみっかなぁ‥」)
グラケルミィは依頼を受ける手続きをしながら、一人のナイトを頭に思い浮かべていた。
●リプレイ本文
●後は探索隊隊員との面識の度合いとか
「女性だからなんて言うと差別してるみたいで怒られそうだけど、女の人はやっぱり顔大事だし、痕残らずに綺麗に消えるといいな」
約一ヶ月ぶりに‥いや、依頼自体は正しく一ヶ月ぶりなのだが、依頼終了までは同行していたのだから、冒険者達にとっては約20日ぶりになるか。
さて、レオン・バーナード(ea8029)が気にしたように、グラケルミィ・ワーズの額には前回の依頼で負った傷が、痕になって残ってしまっている。それも前回の依頼出発前とは違う点なのだが、もう一つ大きく違う点があった。参加冒険者が前回と違うのだ。
「ふうむ‥。テストを受け、仮入隊となったわけだが‥その者以外でも参加して良いのだろうか」
石動 悠一郎(ea8417)も別に嫌味で言っているわけではないのだが、やはり気になってしまう。
「それについて、説明しておこうか」
正隊員の冒険者が言うには、別に構わないらしい。だったらテストの意味は何だったんだと聞かれそうだが、それについて説明が続けられ、経費として処理してもらえる額が少なくなってしまうらしい。この参加者についての事は、「次までに何か考えておく」と、エラルド氏も言っていたそうだ。
「だってさ、エレーナさん。全然大丈夫なみたいだよ」
「ええ、これで安心して参加させていただけます」
嬉しそうに笑顔で話しかけるフォーリィ・クライト(eb0754)に、エレーナ・コーネフ(ea4847)もまた笑顔で返した。
「そうそう‥馬を連れては行けないんですよね?」
続けて発言したエレーナが確認したように、この探索隊の依頼ではロープを伝って登り降りしたりする事も普通にあるので、ちょっと馬を連れて行くのは難しい。これには他の冒険者も困っているらしく、特に悠一郎なんかは愛馬の馬次郎を残して行くのが、心配で心配で仕方がない。
「もしかして、エラルドさんに頼めば預かってくれちゃったりします?」
思いついたようにハルヒ・トコシエ(ea1803)が言うと、
「預かってもらえるどころか、経費で処理してもらえるぞ?」
と、正隊員が言ってくれた。何でも言ってみるものだ、依頼期間中に探索隊隊員の馬は預かってもらえるらしい。場所はドレスタットの外れにあり、待遇はとっても普通である。貴族であっても削れる所は削る‥というか、余計な出費を出すとエラルド氏は他の貴族から遠まわしに嫌味言われるんである。
●どちらにしようかな
「おら、しっしっ。あんたらじゃあたい達には勝てそうもないのが分かっただろ?」
目の前に居る数匹の野犬に対して、手で払う仕種をするキウイ・クレープ(ea2031)の足元には、既に一匹の野犬が横たわっている。自分達の仲間をにべもなく斬って捨て、威圧的に佇むキウイに、文字通り尻尾を丸めて、野犬達はそそくさと逃げ出していった。
「キウイはんは、すごいなぁ‥」
感心して言葉を漏らすルイーゼ・コゥ(ea7929)は、雅上烈 椎(ea3990)のバックパックから顔を出していた。椎の好意に甘えて、前回の毛布の時と同じような状態になっているのだ。
「見事な手前だな」
「犬っころ相手じゃ、ちょっと物足らねぇけどな」
椎はルイーゼと同じように、殆ど一人で野犬達を追い払ってしまったキウイに感心するが、キウイは不満そうだ。
そんなやりとりがあったのも、既に数日前の話。探索隊は着実に歩を進め、目的の遺跡近くまで進んできていた。
「な、なあ‥もしかして遺跡の南東の入り口に居るのって‥」
遺跡から少し離れた位置にある高台。そこで探索隊は遺跡の様子を確認しながら休憩を取っていたが、その遺跡の様子を見ていたアーディル・エグザントゥス(ea6360)は、ちょっとたじろいでいた。
「あのいっぱいおる黒いのって、やっぱりジャイアントラットなんかなぁ‥?」
「あれは流石に多いな。まともに向かったらまずやられるぞ」
ルイーゼも悠一郎も、同じようにたじろいでいた。確かに一匹一匹はここにいる冒険者にとっては全く脅威ではないが、あの数が相手では‥攻撃を受けるにはとても手数が足りないし、避けるとしても避けるスペースが無い。飛べるシフールなら上空に逃げてしまう事も可能ではあるが。
「もう片方の入り口は、ここからでは見えないのかしら?」
「‥ダメだな。木々の陰になっていて、ここからじゃちょっと見えない」
シエル・サーロット(ea6632)はもう一方の入り口が気になった。いや、気になったのは彼女だけでなく全員だろうか。どちらの入り口を担当する事になっても構わないとはいえ、事前に知っておけば対策を考えておける。
そんな冒険者達の思いを知ってか知らずか、
「だったらお前達には、その北東の方を担当してもらおうか。珍しい相手と戦えるぞ」
と正隊員の一人が言う。「珍しい相手と戦える」なんて言う事は、つまりこの者は北東の門番が何者であるかを知っているのだ。その事に納得がいかなかったアーディルなどは、正隊員を問い詰める。
「知ってて教えなかった‥。どうして、こっちに教えなかったんだ?」
「そう悪く思うなよ。察しの通り試したんだが、骨のありそうな奴等で喜んでるんだからよ」
冒険者達の出した答えは、先に書いたようにどちらと戦う事になっても構わない。その事が嬉しかったのか、正隊員達は珍しい相手という北の門番を、冒険者達に譲るように決めたらしかった。
「強固な一体‥。やはり、ゴーレム系のモンスターかしらね?」
「遺跡の門番と言えば、やっぱりゴーレムだからな」
シエルの予想にレオンらも賛同した。
●体は岩、血は魔法でできている
冒険者達を待ち構えていたのは岩の塊だった。いや、岩の塊に見えたというのが正しく、侵入者に気づいたストーンゴーレムは、ゆっくりとその腕を地上から離す。最も似ている形はエイプだろうか、重心は低く体を屈めたまま。ゴーレムの形状は一つではなく、このような半獣型や完全に獣型の物もまま見られる。
「かっ‥てぇーー! なんなんだよコイツ!」
「先手必勝のつもりだったのに‥」
思わず自分のロングソードを目をやるキウイ。まだ異常は感じられないが、攻撃を続ければ多分折れる。同じく先制攻撃を仕掛けたフォーリィも、相手の頑健さに辟易してしまう。
(「って、危なっ!?」)
ストーンゴーレムはただ頑健なだけではない。丸太よりも一回り以上太い腕がフォーリィの肌を掠めて、大地を盛大に打つ。なかなかに洗練された動きだ、フォーリィも回避はできたがあまり余裕はないように見える。
「こういう相手ならオイラに任せてくれよっ」
レオンはバーストアタックを叩き込むが、それでもストーンゴーレムには有効打になっているようには見えない。
「ほお、なるほど。面白いものだな」
衝撃の加勢を行う悠一郎は、感心したように自分のメイスを見る。メイスによって放たれたソニックブームは、斬るのではなく叩く攻撃として相手に届いたのだ。
「まったく、それが一番のとりえとは分かるが!」
間接か直接の違いだけで、斬撃ではなく打撃を与える椎もまた、相手の頑健さに呆れている。
(「私の腕が理想の域まで辿り着いていれば、わざわざ持ち替える事もないのだがな‥」)
「こ、こんな相手なしやで〜。なあハルヒはん?」
「う、うーん‥これはすっごいレーザーにならないと無理そうですねえ」
今のハルヒが放てるレーザーではストーンゴーレムには殆ど効かない。もっと可哀相なのはルイーゼだ。はっきり言って風の精霊魔法ではストーンゴーレムに対して相性が悪すぎたのだ。
「ちっ、あたしとしたことが‥!」
リカバーポーションを一気に空け、口元を拭いながらキウイがストーンゴーレムを睨みつける。最も接近していた為に狙われたのだが、相手の攻撃は受け流そうと思えば受け流せない事もなかっただろう。しかし、武器の損傷を考えた一瞬の躊躇か、捌ききれなかったのだ。
「集いし不可視の力よ、眼前のものを抑制せしめよ」
「おい、誰か手が空いてたら、一緒に引っ張ってくれ!」
エレーナがアグラベイションを放って相手の動きを鈍らせ、アーディルが相手の足にロープを引っ掛けると、それに椎と戦線に復帰してきたキウイが加勢する。これにはさしものストーンゴーレムも揺らぐが、寸での所で体勢を
「我、武の理を持て打を撃ち放つ‥飛打! そのまま倒れてろ!」
立て直す事は適わなかった。後頭部に衝撃を受け、その場に崩れるストーンゴーレム。
「いい格好じゃない。良い子だからもうちょっとそのままで我慢なさい?」
更に、起き上がろうとするストーンゴーレムの頭部を、瞳を赤く染めたフォーリィが踏みつける。
「グラキさんにレオンさん。それじゃ頼みますわよ」
(「あら? フォーリィさん、なかなかやりますわね‥」)
「任しとけ! アタシの武器はこーゆう時の為にあるもんさ!」
シエルはフォーリィの言動に感心しつつ、グラケルミィとレオンにオーラパワーを付与して送り出す。送り出された方のグラケルミィは、ウォーアックスを大きく振りかぶって地に崩れたままの岩の塊に鉄の塊を激しく叩きつけた。
「ちっ、まーだ動けやがるのか」
その身に大きくウォーアックスを減り込ませながらも、まだストーンゴーレムは活動を続ける。
「悪いなグラキさん、トドメはおいらが刺させてもらうぜ!」
最初に放った攻撃とは違い、今回はノーマルソードで斬るのではなく叩き斬るレオン。彼の宣言通りその一撃がストーンゴーレムへのトドメとなり、今度こそ活動を停止させて、ただの岩の塊へと変貌したのだった。
「だ、大丈夫‥だよな?」
ハッと気づいて自分の武器を見つめるが、問題はなさそうで思わずレオンは胸を撫で下ろす。
その後、冒険者達は正隊員達と合流し、遺跡の概要の調査を始める。
やはり使用目的は砦としていたのだろう、外周の壁は未だ損壊も少なく残っていたが、遺跡内部は他の遺跡と変わらないぐらい朽ちていた。その分、自由に空を飛べるルイーゼの存在はありがたく、思っていたよりも順調に調査は進んでいく。
「ふぃ〜‥‥危ない危ない」
なお、遺跡内にはちょぉーっと性質の悪い骨がいっぱい居たりした。
●大変身?
「さあっ、皆さんお待ちかねのハルヒの理美容体験教室なのですよ〜」
とは言うものの、既にルイーゼなんかは毛布でぐるぐる巻きに固定され(というより、毛布から逃げ出せなかったのだが)、既に体験済み状態になってしまっている。
「あの、ハルヒはん。なんでうちは既に‥」
「だって、お人形さんみたいで可愛いんだもん」
きっぱりとハルヒに言われて、ルイーゼも黙ってしまう。まあ、お互いが冗談を言い合っているのは二人が一番分かっているのだが。海が好きなルイーゼの髪は、どうしても潮風によって他の冒険者より傷んでしまっているので、ハルヒも優先してあげたいのだろう。
「次はフォーリィさんですね〜。そういえば前回気づいたんですけど、フォーリィさんって結構手入れしてますよね?」
順番に同行した冒険者の髪を整えていく途中、思い出したようにハルヒが言う。
「短いほうが冒険者としちゃいいんだろうけど、あたしは大雑把で家事とかフリフリヒラヒラな服装も苦手だから、髪ぐらい伸ばさないと女に見られないし」
照れながら返すフォーリィだったが、「ホント言うと、殆ど義弟に手入れしてもらってるんだけどね」という事は言わずに、苦笑混じりに照れ笑いを浮かべていたり。
「可愛くならなかったら、その時は‥‥わかってますよね?」
一通り回った後、簡単な化粧品まで持ち出して気合を入れなおすハルヒに、あくまで優しい声で囁くシエルが居た。
「任せて下さいよシエルさん、可愛く変身させてみせますから!」
そんなシエルの胸の内を知ってか知らずか、更に張り切った様子でテントの方に向かうハルヒ。完成したらテントから出てきてもらう‥途中経過は見えないようにして、驚かせるつもりのようだ。
「グラキさんの好きにすればいいですわ。今のままでも十分綺麗ですし、それに何より私は外面ではなく内面を好きになったのですから」
とは言ったものの、髪を整えたグラキさんもやっぱり見てみたい。そんな思いが短いはずの時間をいつもより長く感じさせる。そんなもどかしい時間が過ぎた後、やり遂げた表情でハルヒがテントから出てきた。
「お待たせしました。ほら、もうバッチリ美少女ですよ!」
心待ちにしていたシエルの前で、もう一度テントの入り口が開かれる。美少女、というキーワードが一瞬引っかかったが、自分が「可愛くならなかったら」と言ったので、きっとそれに合わせてメイクをしてくれたのだろう。
おずおずとテントの中から出てきた美少女は、服装こそ普段と同じだが、受ける印象は普段とは全然違う。外見に合わせて仕種も変わってしまうの物なのだろうか? 最早、外見も仕種も無垢な少女そのままだ。
「そ、そんなに見ないでくれ‥。ノリで受けてしまったが、そんなに見られると恥ずかしいよ、拙者」
拙者。
「どーですかシエルさん。私の手にかかれば、石動さんなんかここま‥いひゃいいひゃいいひゃい!」
「違いますわ!」
事態を把握したシエルは、ハルヒの頬をこれでもかってぐらいにつねる。ぎゅうぎゅう。
「シ、シエル殿、いきなりどうされたと‥ぐお、おおおおお‥!」
「あなたも! ノリで受けないで下さい、紛らわしい!」
シエルは空いているもう片方の手で、悠一郎の頬もつねる。これでもか、これでもか、これでもかー!。
そんな場面にひょっこりと他のテントから顔を出す冒険者が一人。
「なあハルヒ、そろそろ髪につけてるこれ、取ってもいいか?‥って、何やってんだ?」
「ああっ‥グラキさん。この二人にちょっと騙されてしまったんですのよ‥」
(「「ええー!?」」)
よよよ‥と寄りかかるシエルに、なんだか凄い衝撃を受けたような表情で腫れた頬を押さえる二人。
グラケルミィが事態を把握するのには、ちょっと時間を要したのだった。