【今は道と呼ばれたる】朽ちた先人達の塒

■シリーズシナリオ


担当:MOB

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 80 C

参加人数:11人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月22日〜05月07日

リプレイ公開日:2005年05月01日

●オープニング

「今回で一旦終わりのようだな。次回は‥まだ予定が立っていないらしいが」
 これで3度目となるエラルド・オクト氏からの依頼を壁に貼り付け、ギルド員はそう漏らした。
 通算すればもっと多くの回数の依頼が出されているのだが、今回の事に限ればこれが3回目の依頼になる。今回で遺跡に関する調査は終わるはずなので、エラルド氏からの依頼は一旦打ち切られる事になるだろう。
 次回は別に動いている探索隊が遺跡調査を完了してから、という事になっているのだが、この遺跡は前々から出資者の貴族達から調査を希望されていただけあって、中々大掛かりな物となっているようで、調査完了まではもう少し時間がかかりそうだった。
 これに加えて、ドラゴン騒動の件に関して、興味を持った者も出てきているらしく(中には既にドラゴンの鱗を購入した者も居るらしい)、次の探索隊の動きに関しては、まだまだ未定なようだ。

 少し時間を遡り、前回の遺跡調査を振り返る。
「こっちに何かありますえー!」
 大声で叫ぶシフール。どうやら空からしか見えないような位置にある、小部屋を発見したようだ。周囲が崩れてしまっている為に、地上からではかなり見つけにくい位置にあったのだ。一度位置を教えてもらえれば、他の冒険者達もその存在を容易に見つけれた。
 その他、どちらの門番と戦うかという質問に対し、どちらでも良いという答えは随分正隊員に気に入られたらしく、今回の調査において結構危険そうな箇所もある程度任されている。更にだ、道中にて邪魔になりそうな枝や蔦を片っ端から切り落としたり等してきた為、遺跡までの道は比較的楽に進めそうだ。

「おー、ようやくかー」
 流派はコナンだろうかと思われる肉体を赤い服で包み、大きなウォーアックスを背負ったその女性の額には、モンスターか何かとの戦闘で負ったのだろう傷痕が残っていた。ここまでは一ヶ月前と同じなのだが、1つ大きな違いがある。バサバサだった髪が、少しだけツヤを帯びているのだ。
「ちょっと雰囲気が変わったな」
 依頼参加を受理しつつ、ギルド員は思わずそう言ってしまっていた。
「まあ‥な。なんか、結構気ぃ使ってる奴も多いんでな。折角教えてもらったんだし、ちっとはやってみたんだよ」
 容姿について言及されたにも関わらず、照れる様子も見せずに平然と返すグラケルミィ・ワーズ。色恋沙汰には興味が無いのか‥? とも思えたが、今日まで毎日手入れをしていなければ、あのバサバサだった髪がこうにはならないだろう。
「確か遺跡ん中に、まだまだスカルウォーリアーが残ってやがるんだよなー」
 ‥結局は、遺跡などの未探査区域に対する興味が優先なのかもしれないが。
 所持技能の関係上、ストーンゴーレム戦では余り活躍出来なかったジャイアント二人が、ここぞとばかりに頑張ってくれたが、今度は敵ではなく遺跡の形状に邪魔をされた。その結果、まだ遺跡内部には脅威が残ったままだったのだ。
(「でも、なんで自分の昔話なんてしちまったんだろーな?」)
 一時の気の迷いか‥いや、そうとは思えない。話しても、受け止めてもらえると思ったから話したはずなのだし、事実受け止めてもらえた時には嬉しく、随分と楽になったような気がした。もしあのまま、誰にも止められる事が無かったら‥。
「いや、まさかなぁ‥」
 自分に芽生えた奇妙な感覚の正体が分からず、頭を捻りながらギルドを後にするグラケルミィだった。

●今回の参加者

 ea1803 ハルヒ・トコシエ(27歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea2031 キウイ・クレープ(30歳・♀・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea3990 雅上烈 椎(39歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

レイル・セレイン(ea9938

●リプレイ本文

●重戦士・スカルウォーリアー?
「そういえば前回来た時は、詰所はさらっと確認しただけだったな」
「特に遺跡として重要な物は無いでしょうからね」
 はやる気持ちを抑えながらも、つい先頭に立って詰所前まで来てしまったアーディル・エグザントゥス(ea6360)。そう、エレーナ・コーネフ(ea4847)が言うように、特に重要な物が無いと思われる詰所は、前回の調査時にも殆ど調べられていない。
「それじゃ早速、遺跡の本格調査の開始といくか」
 はりきるアーディルとは裏腹に、前回空より探索箇所を発見するという手柄を立てたはずのルイーゼ・コゥ(ea7929)は何故だか沈んでいた。
(「ううう‥正隊員の皆はんに助けてもろたんはええんやけど‥」)
「うむ! やはりルイーゼ殿も、預けてきた馬達の事が心配なようだな」
 その理由は、力強く頷きながらうんうん唸り、彼女を慰めるように声をかけている石動 悠一郎(ea8417)の姿が説明してくれるだろう。‥誤解している気がしないでもないが。
 ドンキーだろうがホースだろうが、この探索隊が進む道は基本的に悪い‥というより道無き道を歩くので、ドレスタットに預けておくしかないのだ。結局、ルイーゼの荷物は正隊員達が持ってくれた。

「む‥、これは‥。少し厄介な相手だな」
 詰所の入り口で、中に居たスカルウォーリアー達を確認すると同時に、雅上烈 椎(ea3990)が自戒を込めて他の冒険者に注意を促した。
「うわ、なんだか良い装備してるなー」
 レオン・バーナード(ea8029)がハンドアックスを握り締め、遺跡に被害を出さない為に様子を見ながら的確に打撃を与えていく。だが、その相手のスカルウォーリアーは、これまた随分と鎧や盾で身を固めていて、普通に殴っていても効いているように思えない。
「ハッ! レオンよ、ストーンゴーレムぶっ壊したような奴が、なーにこじんまり纏まってやがる。あいつらが纏っている鎧なんざ、ちょっとドツいてやれば今にも壊れそうじゃねぇか」
 グラケルミィ・ワーズはそう言うが、この場合の『ちょっと』は流派コナンの『ちょっと』である。
「そういう事ですわ。私達の実力ならば、これぐらいの相手に手間取ってあげる事はないでしょう」
「‥眼前の者を抑制せしめよ。これで、よく狙う余裕もできたでしょう。後はお願いします」
 そしてシエル・サーロット(ea6632)が、いつものようにグラケルミィにオーラパワーを付与して送り出し、送り出されたグラケルミィは心地よい音共に鎧ごと骨を砕いた。そしてエレーナが、アグラベイションで相手の動きを鈍らせる。
「これは‥。エレーナ、助かる」
(「まだ使い慣れていない事が出てしまっていたか‥」)
 相手の動きが鈍った事に対して一番恩恵を受けたのは椎。スカルウォーリアーの持っている盾は、なかなか厄介なものである。普通こういった装備をモンスターはしていないので、時に盲点になる。
「よっし、じゃあおいらもグラキさんを見習って‥!」
 一撃目で盾を、続けて放つ二撃目を容赦なく相手の鎖骨に撃ち込み、そのまま勢いが止まるまでハンドアックスを振り下ろす。オーラパワーの補助を受けたそれは、ただの一撃で相手を瀕死に追いやった。


●鼠の群れより数は劣るが
 冒険者達の一部が詰所で戦闘を行っていた頃、外壁近くでもまた戦闘が行われていた。
「ちっ、昼飯の匂いにでもつられて来やがったのか!?」
「そうかもね。‥にしても、こういう時にはこういう相手が来るものなのね!」
 獣達を目の前にして、少しだけ厄介そうに、残りは気持ちは愉しそうに、キウイ・クレープ(ea2031)とフォーリィ・クライト(eb0754)は言い合う。
「むうう‥。これは3人残って正解だったようだな」
 その2人の後ろで、油断なく構えているのはローシュ・フラーム(ea3446)。ローシュの更に後ろには学者達が居た。
 その3人が対峙しているのは、数匹のウルフの群れ。キウイの発言通りに、昼食の準備の匂いに惹かれてきたのだろうか。
「まったく、足の速いコたちよね!」
 やはり弱く見えたのだろう、彼等を迂回して学者の下へと駆けてゆくウルフ。そのウルフにフォーリィはソニックブームを撃ち込むと、正に飛び掛らんとしていた相手は、突然の衝撃に混乱しながら一旦下がる。
「このままでマズいな。相手は完全に学者に狙いを定めておるぞ」
 間に割って入り込み、ライトシールドで相手の牙を受けた一瞬の後に、ハンマーによる強烈な反撃をウルフの腹に撃ち込んだローシュ。素晴らしい動きだが、相手の数に手が追いつかなくなり始めていた。
「ようし、ここはお姉さんに、まっかせなさい!  討ち漏らした奴は頼むよ!」
「き、キウイさん!? 無茶は‥!」
「待て! これは案外良い行動かもしれんぞ」
 そう言いながら、ウルフの群れの真ん中に突っ込むキウイ。そのおかげで相手は、囲む形になったキウイに狙いを変えたようだった。
「こ、こうなるの計算してやったのかな‥?」
「それは分からぬが‥。とりあえず今は、あやつを援護してやらねばな」
 狙われなくなった事で落ち着いたのか、学者達の中で魔法を使える者からの援護も始まった。

 そうしてウルフ相手にキウイが大立ち回りをしていた頃、ルイーゼは自分が見つけた離れの小部屋の上空をゆっくりと飛び、そして今にも崩れそうな遺跡の中心に降り立った。
「‥埋まったら、物すごぉ立派なお墓になってまうなあ」
「そ、そんな事冗談でも言うなよな。っと、じゃあ早速始めるとするか」
 ルイーゼの隣にはもう一人シフールが居た、もちろん探索隊の正隊員だ。前回の調査に彼は同行していなかったが、この小部屋の話を受けて同行する事になったのだ。
「えらい張り切ってはるなぁ」
(「そ、そりゃ張り切るさ‥!」)
 ドンキーに乗せれなかったルイーゼの荷物は、正隊員の荷物の空きに詰めてもらった。そのお礼にルイーゼは、頬にキスして回ったのだが‥それには、今ルイーゼの目の前に居るシフールも含まれているわけで。
「ほんまに、シフールでそんだけ力持‥!?!?」
「あ、これはあれだな。ほら、罠とかに使えるヤツさ」
 ルイーゼの前に出されたのは、強烈な匂いを放つ保存食‥。それも結構な量で、おそらく冒険者達の皆に分けてもまだ余る程。
(「な、なんでそんなん抱えて平気なんや〜!」)
 余りの匂いと光景に、顔を青くしながら鼻を押さえるルイーゼだった。


●仲間が居れば怖くない
「我、武の理を持て打を撃ち放つ‥飛打!」
 パキャン‥!
「来た来た‥!」
「取り回しのし易い武器に換えて正解だったな!」
 コキョ、ペキョ、カカーン!
 小気味良い音と共にスカルウォーリアー達は、まず悠一郎にソニックブームを撃ち込まれ、次にようやく接近したと思ったら、椎やレオンにグラケルミィ‥といった面々にのされていった。
(「刀一本だけで戦えるようになりたいものだ‥。」)
 だが、そんな快調さとは裏腹に、椎は少しだけ顔を曇らせていた。
「な、なんだか予想外に楽になりましたねぇ」
 ライトの魔法によって自らが作り出した光球を抱え、味方の成果にちょっと戸惑ったようにハルヒ・トコシエ(ea1803)が呟いた。
「狭い場所‥という事で警戒してましたけど、この場合は‥」
「それが味方をしてくれているな。戦闘方法さえ間違わなければ、狭さは逆に相手に囲まれずに済む事になる」
 続けて、シエルとアーディルが。正直、アンデットに対してシエルのオーラパワーの効果は大きい。

「‥あれ? ちょっと待て。あれがあれで、ここがこうだから、出口はこっちの‥北に向えばいいんだよな?」
「違うぞアーディル殿。そちらは西だから、北となると‥こちらの通路の突き当たりを左だ」
 あまりにも順調に進んでいった地下の調査は、思いがけない所で足を止める事になった。
 数々の部屋を回り、スカルウォーリアーを打ち倒して、かなり朽ちてはいるが妙に気になった武具(後日に魔法の武具である事が判明した)や、その他今回の探索の成果となるものを抱えた冒険者達は、地下の奥深くからの帰り道で動きを止めた。
 もうハルヒは魔法‥‥ライトを使用出来る回数が少ない事を感じていた。このままだと少し勿体無いが、ランタンに油を注す事になるだろうか? アーディルと悠一郎、一体どちらが正しいのだろうか?
「お、お二人とも、どちらも間違ってますわ‥」
「ええと、行きに来た道筋を考えると‥」
「こっちの通路だよ。ほら、おいらが傷つけちゃった痕があそこに残ってるだろ?」
 確かにレオンの言うように、彼が指した先には小さな亀裂の入った壁があった。
「お二人だけで行動されるのは、危険なようですわね‥」
「そういえば、今までもどことなくそんな気配がしていたような‥」
 ぼそぼそぼそ。


●退かなきゃやられると思いました
「さーて、皆さんお待ちかねのハルヒの理美容教室ー!」
 最後のテントを張り終えたローシュがその場に加わっての開催。今回は何故か最終日でなく、ドレスタットまで数日の位置で開催なのである。先生、その理由は?
「ふっふっふ‥。この前の時に、良い泥のある場所を見つけました。それはこの先にあるのですが、それで顔パックすれば誰もが羨むツルツルのお肌に! お化粧のノリも一段と!」
「ハルヒ殿、そこでどうして拙者の方を見るのだ‥」
 ハルヒに視線を送られ、たじろいで困る悠一郎だった。
「わしの髭の手入れの仕方? ふむ‥そうだな‥」
 幸い、現在ハルヒはローシュの髭の方に興味を持っているらしく、悠一郎への視線は早々に外れたし、いつもなら簀巻きになっているはずのルイーゼも、今回は自由の身だ。
「よいか、髭のスタイルにも流行りがあって、例えばわしの若い頃はだな‥」
 そして、ローシュのドワーフの髭に関する話が始まった。

「皆さん、学者の皆さんから現時点で分かった事を聞いてきましたよ」
「どうやら残っていた文字には、監視とか偵察という意味があって、その対象というのが‥獣みたいな人、なんだとさ」
 遺跡調査結果の速報を携えて、エレーナとアーディルがその場に戻って来た。
「獣みたいな人?」
「そのまま、獣人の事か?」
 どうやらこの砦は、獣人達に対して建築された物らしい。過去の人々が、獣人達とどのような関係にあったのか‥。少なくとも、ここに住んでいた過去の人々は争う関係にあったようだ。これなら、ドレスタット帰還数日後に教えられた鑑定結果、朽ちた武具に魔法の品が多く含まれていた事と辻褄が合う。

 ギヌロ、そんな効果音。
「し、失礼しました!?」
 テントを覗き見しようとしたフォーリィは、今回こそはと意気込むシエルの迫力に気圧された。いや、だってあんなに力の篭った瞳に睨まれたら、誰だって後退を選ぶと思う。それが今から少し前の話。
「なんだ、もう寝ちまったのか?」
 グラケルミィがテントに入り、先に入っていった者の姿を確認すると、シエルは既に眠りに落ちていた。
 ふと、グラケルミィの手がシエルの髪に伸びる。反対の手は自分の髪に伸び、お互いの髪の感触を確かめていた。視線の先は髪から顔へと移る、心地よさそうな寝顔だ。自分の寝顔も想像してみるが‥とてもこんな表情にはなっていないだろう。
「ん‥‥」
 気づいた時には、シエルの唇に自分を残していた。理由は良く分からないが、今回の依頼が終われば探索隊の活動は一区切りを迎える。しばらくは会えない事が、グラケルミィに行動を起こさせたのだろう。