【暗躍の射手】だからこそ、出来る事がある

■シリーズシナリオ


担当:MOB

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月21日〜07月28日

リプレイ公開日:2005年07月28日

●オープニング

「これは‥! 私が一足遅かったという事ですか‥」
 彼の目の前には、獣に食い荒らされたのだろう‥無残な遺体がいくつか転がっていた。普通の人間なら思わず目を背けてしまうような光景だが、彼は転がっている遺体の傍へと近づき、何か手がかりが掴めないかと調べ始める。一見、優男に見えもする彼だが、こういった光景に気後れするような人物ではないのだ。
「死因は矢によるもので間違いなさそうですが‥」
 一つの遺体を調べ終えると、次の遺体へと向かう。
「‥? この遺体?」
 何かに気づいたのか、慌てて他の全ての遺体を確認して回る。
「見事なものですね。殆ど同じ箇所が射抜かれている‥相当の腕がある者に違いない‥」
 最後に遺体の数を確認して回ると、数は情報と一致していた。
「マズイな‥こちらの取れる手段が減らされていく。とにかく、サキア兄さんと一度合流するか‥」

「シュウ・イックス‥やはり聞き覚えの無い響きだな」
「それが何か?」
 男が二人、対峙していた。偶然を装って接触したが、まあ‥相手には偶然出会ったわけでは無い事は勘付かれているだろう。だからこそ彼は、相手の名前をいきなり呼んだのだ。相手も相手でそれに動じる様子は無い。
「最近、数個の盗賊団が潰された」
「良い事じゃないか。奴等の数が減って、一体誰が困るって言うんだ?」
「ただ、その数個の盗賊団は、とある人物と接触のあった盗賊団でな。去年の暮れ、ドラゴンの襲来から始まった一連の事件、その黒幕の手下と思われる人物とだ」
「そんな事、良く知ってるね。君は、どこかの諜報部員か何かかい?」
「更にもう一つ共通事項がある」
 傍から聞いていれば、とても偶然出会った者同士が交わす言葉では無い。少しとぼけて無関係のふりをする相手に対して、男はどんどんと言葉を投げていく。期待しているのは相手の返答ではなく、自分の言葉に対する相手の反応を観察しているのだ。
「盗賊団が潰れたその時、近くに君が滞在していた」
「‥? ただの偶然だろう?」
「まあ、一度二度ならば偶然という事もありえるな」
 心の中で舌打ちをする男。今目前に居る者が、ただの一般人であれば引っ張っていく事も出来るが、相手はとある貴族に客人として扱われている身。明確な証拠でも無い限り、連れていけばこちらから相手に隙を曝け出す事になる。それを知っているからこそ、目前の者はある意味強気の態度でいられるのだ。
「引き止めて悪かったな。では、私はこれで失礼するよ」
 姿を自身の目で確認出来たし、得られた情報もあった。これ以上得るものが無いと判断した男は、話を切り上げて弟との合流地点へと馬を向けたのだった。


「三度目。一度二度ならば偶然という事もありえるが、これで間違いないな」
 オルファから盗賊団が潰されていた事を聞くと、サキアはそう言い放った。
「しかし、どうする兄さん。これ以上は私達では調べられない」
「確かに、海戦騎士団所属の身ではな。エイリーク伯が突っつかれる口実を作るだけだ」
 立場が己の行動を制限する事もある。
「そうなると、彼等に任せる方が‥?」
「条件を呑んでくれる者が居ればいいがな。下手を打った奴は、最悪見捨てる必要がある」
 これから数日後、一つの依頼書が冒険者ギルドに張り出される事になる。


 依頼主は不明。報酬は最終目的が達成されれば大きく出るらしいが、それまでは一人1Gと少ない。
 依頼を受けた者は、ドレスタットの指定の場所まで行き、そこで依頼内容の詳しい説明を受ける‥と、書かれていて、注意事項には、少々厄介な調査を行ってもらう事になるので、最悪のケースに陥った場合、依頼主側と依頼参加者の関係を知られない為に、依頼主側が依頼参加者を見捨てる可能性もある事を了承の上で参加するように‥と、書かれている。
(「自分の道は、自分で切り拓く‥!」)
 そしてその依頼書の前には、数ヶ月前とは雰囲気の変わった一人の青年が佇んでいた。

●今回の参加者

 ea1708 フィア・フラット(30歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7906 ボルト・レイヴン(54歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●対面
「あら、またご一緒になりましたね」
 そう言って、にこやかに微笑むのは荒巻 美影(ea1747)。だが、その視線の先に居るユアン・エトワードは、なんだか微妙な愛想笑いを返している。そんな様子に、他の冒険者達は不思議そうな顔をしてしまう。この二人、以前に何かあったのだろうか?
「いや、何も無いですから」
 そんな雰囲気を感じ取ったのか、ユアンの先制攻撃。だが‥
「まだ誰も質問してないのに‥。そんな事言うと、余計に怪しく思われますよユアンさん」
 イコン・シュターライゼン(ea7891)の言う事も尤もである。
「そうですわ。あんな事があったのに、何も無い、だなんて‥」
「ユアンさんは、もう少し誠実な人だと思っていたのに‥」
 そう言いつつ胸元を押さえる美影。その行動に、他の冒険者より少しだけ事情を知っている深螺 藤咲(ea8218)も援護射撃。
「えええええ。二人とも、そんな、誤解を招くような言い方しなくても」
 美影も藤咲も冗談でやっているのか、わざとらしく溜息までついたり大げさな素振りをしたので、他の冒険者達もなんとなく事情は察せれた。そして察した上であっても、女性陣からは冷たい目線が送られたり。

「さぁて、場合によっては見捨てるとかいう依頼主に、早速会いに行くとしますかぁ」
「報酬額も、最終的に成功するまで‥つまり今回は1Gっていう安さよ?」
 依頼主不明で報酬1G、場合によっては見捨てる‥こんな依頼を受けるあたし達も物好きよね、と言い合うエルザ・ヴァリアント(ea8189)とフォーリィ・クライト(eb0754)の二人。
「しかし、ギルドに依頼として張り出されているという事は‥」
「まあ、ある程度は心配しなくても良いという事なのでしょうけれど」
 確かにこの依頼は確かに胡散臭いが、ギルドによって正式な依頼として壁に張り出されている。ボルト・レイヴン(ea7906)やフィア・フラット(ea1708)が言うように、ある程度の信頼性は保障されているのだ。

 冒険者達は少し警戒しながら指定された場所へと向かうと、そこには一人の男性が待っていた。
「待ってましたよ。‥思っていたよりも人数が集まってくれたようで何よりです」
「オルファさん‥だったんですか?」
 いつものように、海戦騎士団の身だという事が分からないよう、冒険者風の格好をしているオルファ・スロイト。そんな彼の正体に気づいた美影に、そっと自分の口元に手を当てて静かにするように促すオルファ。
「でも、これで説明が楽になりますね。私の事は後で美影さんに聞いてもらうとして、早速、貴方達に調べてもらう人物について説明しましょうか」


●シュウ・イックスと貴族
「名前はシュウ・イックス、姿は黄土色のマントを纏っている事が多く、大きな弓を携えている」
「大きな弓‥ね。大きい分遠くまで届くんでしょうけど、情報通りだとすると‥」
「的が少々遠くても、十分命中させる事が出来る。それだけの腕を持っているというわけですか」
 まずは相手の腕前についての情報を整理する冒険者達。ウォルター・ヘイワード(ea3260)が最後に纏めたように、どうやら相手は遠方の目標に対しても、そう命中率を落とす事無く射る事が出来る。
「つまり目も良いってわけね。しかも、結構コソコソ動くのも得意なようだし‥探るとなると厄介だわ」
 フォーリィが渋い顔をする。しかも既にオルファの兄のサキアが、シュウに接触していて、色々とカマをかけてみたらしい。それによって疑いは確かなものになったのだが、ここから相手を調べるとなると、ただでさえやりにくい相手であるのに警戒されている。
「ホント、1Gなんかじゃやってられない依頼だわ」
「ああ、報酬なら通常の依頼と同額をお渡ししますよ。1Gと依頼書に書いてもらったのは、下手な欲を出さない人に集まってもらいたかったんです」
 エルザの冗談混じりの発言に、苦笑しながら返すオルファ。
「貴族と関わりがある‥。その貴族とはやはり‥?」
 冒険者達も、もう段々と事情を飲み込めてきている。ドレスタット一帯をこれ以上乱れさせない為にも、場合によっては見捨てる‥それは脅しでも冗談でもないのだ。オルファに質問を投げかけるフィアも、少し躊躇いが見える。
「それは‥。まあ、皆さんが察しているもので間違いないと思います。但し、貴族自体とロキとの関係性は全く不明です」
 途中から、一段を声を潜めて答えるオルファ。
「それって‥?」
「つまり、シュウとロキは関係がありそうですが、シュウを客人として迎えている貴族自体は分からない‥そういうわけですか?」
 イコンの言葉に小さく頷くオルファ。
「本当‥厄介な相手を調べる事になるのですわね」


●調査開始
 それぞれの思惑の下に、調査を開始する冒険者達。
「では、数ヶ月前にここで矢を購入した人物は、こういった特徴で間違い無いですね?」
 ウォルターは今、情報の裏を完全に取る為にとある街へと来ていた。以前にシュウによって壊滅させられた盗賊団が居た‥その付近にある街だ。
(「矢は消耗品、盗賊団一つを潰すとなると相当量を消費するはず。いくら腕に自身のある者でも、身を守る武器も持たずに移動は出来ないはず。‥という事は、その補充は必ずどこかで行わなければならなくなる」)
 ウォルターの読みは当たっていた。残念ながら現在シュウが滞在している地方では、あまり成果が挙げらなかったが、代わりに今居る場所に来るまでシュウが寄ったと思われる街で成果を挙げた。
「これで、彼等が調べた情報の裏が取れたと思っていいですね」
 馬に乗り、黄土色のマントと大きな弓を携えた男。シュウは確かにこの街で矢を補充したのだ。

「ユアンさん、何か悪いね。こんな事手伝ってもらっちゃって」
「いえ、僕も冒険者ギルドの資料をあたるというのは考えていましたから」
「なんだ、そうなんだ? じゃ早速、閲覧許可貰う為に頑張ってくれたオルファさんの為にも、張り切って調べるとしますか!」
 フォーリィとユアンは冒険者ギルドの資料室に居た。フォーリィが言ったように、資料の閲覧許可はオルファが何とかシールケルに話をつけてくれた。まあ、「全く、いきなり来て資料を見させろとは‥。上が上なら、部下も部下だ!」とか、そんな言葉がすこーし聞こえたり聞こえなかったりしたが。
 さて、彼等が資料を引っ掻き回しだして数時間後、フォーリィがシュウの名を資料の中に発見する。
「ユアンさんこれ見て!」
「これは‥!?」
「弓の使い手、名前、それに今シュウって人は大体30前ぐらいの年齢なんでしょ? この報告書が書かれたのが7年前、ここに書かれてるシュウって人の外見は20歳ぐらいって感じだし」
「ん‥あれ‥‥? ちょっと待って下さい。この書かれ方だとシュウって人は‥」
 冒険者ではない。
 そう、言うなれば裏稼業ギルドとでも言うべきだろうか? 表があれば裏がある。何らかの理由で真っ当な仕事に就けなくなった者、リスクと引き換えに多額の報酬を求める者、単にこちらの空気が肌に合う者、その中の一人としてシュウ・イックスは存在していたようだ。
「ま、なんにしても、これで新たな手がかり入手って事かな。じゃあ、あたしは早速皆に知らせに行くわ」
 一刻も早くこの情報を仲間に知らせようと、駆け出していくフォーリィ。
「ちょっ‥フォーリィさん待って下さい。僕も一緒に行き‥」
 がっし。
「‥おい、資料を片付けもせずにどこへ行くつもりだ?」
「行き‥行き‥‥ません」
 かたかたかた。
 慌ててフォーリィを追いかけようとするユアンを止めた、怖い顔した眼帯の人が一人居たりして。

 時間と場所を大きく移り、林道にて数人の冒険者がシュウと対面していた。
「父親を‥?」
「はい。私の父は弓の達人であったと‥母から聞いています。もしかしたら、同じ弓を扱う者同士‥それも力量の高い者同士、何かの形でお知り合いなのではないかと‥」
 シュウと面して話しているのは藤咲、その隣にはエルザが同行していた。
「その者の特徴は?」
「え、ええと‥弓の達人以外には、私と同じ金の髪をしている事ぐらいしか‥」
 本当は陰から相手を観察しているつもりだったが、発見された場合の保険として藤咲の父親探しを用意していたのだ。少し強引だったが、フィアや美影が軽い調査であってもシュウの風評を聞けた為、この地方ではシュウという人物は有名になりつつあるので、噂を聞きつけたとすればそれほど不自然では無い。
「それだけでは辛いな。それに、貴方の父親となると、私よりも少々上の世代の射手になる‥。申し訳無いが、分からないな」
 シュウがその場を立ち去った後、エルザが藤咲に声をかける。
「上手く取り繕ってくれたけど、最初の対応を忘れちゃいないわ。ね?」
 冒険者達の姿を見つけた時、自分の思惑通りに来たと思ったのだろう。
「誰に言われてつけてきた? ‥ですものね」
「自分は尾行されて当然の人間です。って、白状したようなものだわ」
 思いがけぬ相手の失態。これと、他の冒険者が手に入れた情報と合わせて、シュウ・イックスの疑いは確固たるものへとなっていく。
 しかし、未だに証拠が無い。シュウとロキを繋げる、もしくは、シュウを招いている貴族とロキを繋げる、そういった物がない限り、疑う事は出来てもシュウをこれ以上追い詰めていく事が出来ない。


●そして全ては動き出す
「ロキ‥ロキ‥。そういえば、ロキの名前がメモされたスクロールを、この前どこかで‥」
 依頼の最終日。一旦全員が合流し、今までに調べ上げた事をそれぞれが報告していく。やはりシュウという人物は疑うべき存在ではあるが、どうにも証拠が発見出来ない。そんな中、イコンが気になるスクロールがあった事を思い出した。
「確か、ロキの名前の下に、もう一人名前が書かれていましたね」
「スクロールと言えば、前に捕えられたローブの男はどうなったんでしょうか‥?」
 オルファからの返答では、彼は協力的な姿勢であったので牢に繋がれてはいるが、まだ生存しているらしい。次に依頼を出す時には、ローブの男と話をする為の許可をもらっておいてくれるそうだ。
「た、ただいま戻りました」
「ユアンさん遅いよー」
「本当ですわ。時間を守らないような人には、見えませんでしたのに」
「今までどこに行ってたの?」
 資料の片付けをしてたりしたんですよ、ユアン君は。

 そんな頃、どこかの森の中に一人佇む黄土色のマントを纏った男。
「ようやく足取りが掴めた。なるほど、ここに居たか‥。さて、どう使ってやるとするか‥」
 彼が視界に捉えている景色には、不自然な燃え痕が残っていた。彼は、何を探し、そして見つけたのだろうか。