【暗躍の射手】未来を定めるのは君の足取り
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■シリーズシナリオ
担当:MOB
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月11日〜08月20日
リプレイ公開日:2005年08月18日
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●オープニング
「これは‥ラテン語ですね。上の段に書かれているのは、確かにロキ・ウートガルズ‥名前以外は何も書かれていないのが残念ですが」
オルファ・スロイトは一人、冒険者ギルドの内部で資料の閲覧を行っていた。
本来ならば、ここに他の冒険者達を連れてきたかったのだが、ギルド預かりの資料を一般の冒険者が閲覧するのはあまり好ましくない事、そして情報だけが手に入れば良い事もあってオルファ一人で作業を行う事にしたのだ。
「連絡する‥? いや、連絡先‥? こ、この下段に書かれている名前は‥!?」
まさか、シュウ・イックスだとでもいうのだろうか?
「って、いくらなんでも、そんな都合良くはいきませんよね」
えええ。
「しかし、この名前。捨て置くわけにはいかない名前ですね‥」
とある依頼の際に、ギルドへと持ち帰られた一つのスクロール。それには少しのメモ書きが残されていた。
そこに書かれていた名前は、ロキ・ウートガルズともう一人。その名前はアッド、苗字は書かれていない。そして、このアッドという名前だが、オルファはこの名前を良く知っていた。この名前は偽名で、残念ながらこの偽名を使っている者の本名は不明だが、この名前を口にした者が居るのだ。
「ローブの男との面会許可。面白い形で更に役に立ってくれそうですね‥」
そう、このアッドという名前を口にしたのは、少し前にドラゴン襲撃事件と関わりがあるとされ、捕縛された男なのだ。
そんな頃、前回の依頼で同行した他の冒険者からの話を纏め、一人思考に陥っている者が居た。
「どうにも‥彼を客人として招いている貴族は、怪しい点は見られないようですね‥」
貴族関係の噂を聞いた者達は、特に成果を挙げなかった。だが、逆を言えばそれはシュウを客人として招いている貴族には、疑うべき箇所が無いという事だ。今までに聞けた噂話からも、どちらかといえばエイリーク伯に対して嫌悪を抱いているような感じもない。
「ああ、いけない。そろそろ仕事に行かないと‥」
日も落ちかけた街並みを急ぐユアン・エトワード。彼の副業は、酒場の店員なのだ。
時と場所は移り、某所、某時間。
「塒を決めかねているのか? ええぃ、使うにはまだ少し時間がかかりそうだな」
その男は既に、数箇所の周辺に多少の燃え痕がある大きな穴倉を探っていた。
●リプレイ本文
●釈放するか、否か
「最初に確認しておきますけど、男の釈放についてはこちらに権限がないはずですよね?」
冒険者ギルドに預けられていたスクロールと、それを見せられたローブの男から自身の釈放と引き換えに情報提供を持ちかけられたと、オルファ・スロイトから聞かされたフィア・フラット(ea1708)は、気になった事を確認する。
「ええ、権限自体はありません。ですが、もうあの男から聞き出せるのはこの一件ぐらいのものでしょう」
オルファの話によると、ローブの男は捕えられてからは協力的で、こちらの要求の応えて自分が知っている情報を良く話してくれていたらしい。
「保身が第一‥ですか」
「結構小賢しい手を使う人物でしたし、協力的に見せかけておいてこの一件だけは切り札として隠し持っていたという事でしょうか」
ボルト・レイヴン(ea7906)と荒巻 美影(ea1747)がその話に感想を漏らす。
「情報提供と引き換えに保釈を求めてきたのは、こちら側がその情報に重きを置いているとみて足元を見られているか、それとも男の保釈が気にならなくなるほど重要な情報なのかのどちらかなのかもしれませんね‥」
「ええ、少々こちらも迂闊だったようです。最近は殆ど取り調べも行わなかった所で、急に新しくスクロールの件を出してしまいましたからね」
「ローブの男にしてみれば、しめた‥っていう事になるわね」
エルザ・ヴァリアント(ea8189)はそのまま言葉を続ける。
「それで、結局釈放するのかしないのかを決めないといけないわね。それとも情報の内容次第?」
その問いかけに応えたのは深螺 藤咲(ea8218)。
「釈放すれば、口封じの為のかつての仲間が来そうな気がしますけど」
「いや、既に捕まって情報は洗い浚い吐かされていると思っているのでは?」
「それだと、わざわざ口封じに来る理由は無いわね」
しかし、他の冒険者の意見も尤もで、ローブの男を敢えて釈放し、相手を誘き寄せるという方法は使えなさそうだ。
「では、私は教会のこのアッドという名前について聞きに行ってみます」
少しの時間が流れ、ともかく基本的には釈放を認める方向で進める事にした冒険者達。但し、ドラゴン関係の事件が落ち着くまでは釈放をしないという事にしたので、その間にまた対応を決めてしまう事も出来るだろう。
そうしてローブの男との面会の向かう前、ウォルター・ヘイワード(ea3260)はこのアッドという名前について教会に尋ねてみるつもりのようだ。
「教会でしたら、ラテン語に詳しい方も居るでしょうね。では、そちらはお願いします」
「偽名という事ですが、適当に選んだ名前でも無いと思いますからね」
●反応を窺うにもコツがある
少しだけ準備をしてくるといったユアン・エトワードを待った後、冒険者達はローブの男との面会に臨んだ。
「こ、ここでもまだマシな部類の牢なのですか?」
「ええ、古い牢の方なんて、ホントに勘弁してくれっていう臭いがしますよ」
牢、というものは何処でもこんなものなのだろうか。案内するオルファの方は少しは慣れている感じだったが、美影を始めとして冒険者一行は、他の場所とは一線を画すその雰囲気と、嫌でも分かる臭いに面を喰らっていた。
「で、釈放を要求したわけだけど、釈放されたとしてその後どうするつもり?」
それまでの経緯を分かっているからか、相手の反応を試すつもりなのか、エルザはローブの男の真意を探ろうと問いをかける。
「まあ、捕まるような真似はもうしない‥とだけ言っておこうか」
協力的‥と言われていただけあって、ローブの男は思ったよりも綺麗な姿をしていた。まあ、衣服に隠されている部分も何も無いとは思えないが、パッと見て囚人とは思えないような姿形だ。
「こちらとしては釈放を認めるつもりですわ。但し、貴方の持っている情報次第ですが」
「情報は、そのスクロールに書かれているアッドという人物についてだな」
「‥ふむ」
ここまでは事前に聞いていた通りだ。こちらの焦りを勘づかれたのか、ローブの男は強気の態度で答えを返してくる。美影や藤咲も、思わず渋い表情を作ってしまう。
「それだけじゃ判断しかねるわね。アッドっていう男について何を知っているのか、少しだけ教えてくれない?」
「それは‥釈放の約束が先だな」
これでは埒があかない。相手の反応を窺っていたフィアやエルザも、相手のボロを見つけられない。
「そうですか‥分かりました。構いません、釈放を約束しましょう」
「ユアンさん!?」
急な発言に、振り返り声の主の名を呼ぶ冒険者達。
「オルファさん、それでお願いします。さあ、アッドという男についての話を聞かせて下さい」
ユアンの瞳には自信が溢れていた。このローブの男は、間違いなくアッドという男について知っていて、しかもそれは、自分達が追っているシュウ・イックスという同一人物の可能性が高い‥そう確信しているようだ。
時間が前後するが、この面会の後、何故ローブの男が言うアッドという男がシュウ・イックスと同一人物だと思ったのか、ユアンはこう語った。
「ローブの男は、捕えられる直前、何者かに矢で射られかけたそうです。それに、エルザさんがアッドという人物について聞き出そうとした時、彼は僕の方を‥いえ、正確には僕が携えた弓の所で一瞬視線が止まったのを見たんですよ」
無意識の反応。それをさせるには、こういった手を用意するというのも必要なのだろう。
●弓とシュウ・イックス
「それでは、アッドという名前には特に意味は‥?」
「はい。申し訳ありませんが‥」
一方その頃、教会に向かったウォルターだが、期待していた答えを得られる事は適わなかった。
(「名前に特に意味は無い‥。ならば何故、この名前を名乗ったのでしょうか‥?」)
アッドという名前。それはウォルターの考えていたように、何らかの意図があるのかも知れない。但し、それはどうやらラテン語に意味があるのではなく、もっと別の方向に意味があったのだろう。
場所は再び、ローブの男との面会の場に戻る。
「弓に模様‥?」
「ああ、特徴的な柄が彫られている。形見の品らしくてな、同じ模様の入った弓は二つと無いはずだ」
「模様‥? それはどんな感じの模様なのかしら?」
話をメモする為にオルファが用意していた羊皮紙を渡し、ローブの男が描き上げるのを待つフィア。
「こ、この模様は‥!? 私、見た事あります!」
そして、その描き上げられた模様を見た藤咲は、羊皮紙を奪い取るようにしてその模様を確認し、声を上げる。その様子を見ていたエルザは、満足そうに少し微笑む。
「どこで‥というのは、この場合聞くまでも無いわよね」
前回、藤咲はシュウの所に向かっている。その際、弓の達人が自分の父だとして、同じ弓を扱う者同士、知っているのはではないかと少し話をしていた。勿論、弓の模様を見たのはその時だ。
「この模様‥よく見ると文字が埋め込まれていますね。サインのようなものでしょうか?」
「あ、本当ですね。気づきにくいですけど、確かに」
弓の中央部分に描かれている、不思議な模様。その模様の中に、ゲルマン語でアッドという文字が埋め込まれているように見える。
「ローブの男、この情報‥」
「これで十分だろう。さあ、早くここから出してくれないか」
ローブの男の口からは、アッドという人物の本名は聞く事は適わなかったが、これでアッドという人物はシュウ・イックスという人物とイコールで結ぶ事が出来るだろう。問題は、それをどうやって証明するかだ。囚人の言葉一つだけでは、証拠として弱い。
何か、何かもう一つでも良いから欲しかった。
●炎の竜
「邪魔は‥来なかったか」
ようやく見つけた目的の存在を視界に納めながら、シュウは満足そうに笑みをこぼした。
目的の存在、それは‥ボォルケイドドラゴン。非常に凶暴なドラゴンで、出会えば戦闘になる事はほぼ間違い無い。だが、その事を当然知っているであろうシュウという男は、ボォルケイドドラゴンの元へと近づいていく。
彼の目的は何なのか。それはまだ分からないが、彼の行動に抑止が働かなかった事で、悪い方向に事が進んでしまうのは避けられないのだろう。山岳に響いた竜の咆哮は、一体何を意味するのか‥。