【暗躍の射手】さあ、貴方達の答えを‥

■シリーズシナリオ


担当:MOB

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月27日〜10月06日

リプレイ公開日:2005年10月04日

●オープニング

「分かった、そういう事情であれば赴かないわけにもいくまい。だが、今すぐにというわけにはな‥」
 ヴォルケイドドラゴンの問題がある。シュウ・イックスは、オルファ・スロイトからの出頭要請をその理由で一時的に退けた。他の騎士に見られていないからであろうか、シュウの表情からは、まるでこうなる事が分かっていたかのような笑みが零れていた。
(「こいつ‥!」)
 だが、オルファの手元にある材料は、囚人からの証言一つ。状況証拠は色々あるが、強制的に相手を連れて行く事は出来ない。そんな事をすれば、シュウを置いている貴族にも面子がある‥問題が起きる原因になるだけだ。
「分かりました。ですが、こちらとしても、ドラゴン関係の事件をこれ以上長引かせるわけにはいきません。シュウ氏には早めにお話を聞かせて頂きたいので、ヴォルケイドドラゴン退治には少し協力致します」
 それだけを言うと、オルファはその場を引き下がったのだった。

 ヴォルケイドドラゴンの次に現れる位置、それは位置的に北の村で間違いないだろう。これまでにヴォルケイドドラゴンの移動経歴からして、それ以外の位置に現れるとは到底思えない。残った西と北、どちらかといえば北の村の方が規模が大きい事もその理由だ。
「この事は、向こうにも伝えてあります。シュウと騎士達は北の村に来るでしょう」
 依頼の説明を行うオルファ、確か‥騎士達はその全てを合わせればヴォルケイドドラゴンとも互角に戦える程の戦闘力を有していたはずだ。ここに自分達が加われば、間違いなくヴォルケイドドラゴンを倒す事は出来るだろう。
「ですが、つい先日‥北の村付近にオーガ族が移ってきたらしく、その姿が何度も目撃されているようです」
 悪い事は重なる、とはよく言ったものだ。
「村への被害無しには無理‥なのかもしれません。シュウが頃合を見て逃げる可能性もある、誰かが見張っていないと‥」
 冒険者達だけでは、ドラゴンとオーガ達から村の全てを守りきるのは無理だと、この状況ではそう判断せざるを得ないのかもしれない。手の届く範囲は、限られているのだから‥。

「オルファさん!」
 青年は自分に苛立っていた。生まれ変わると決めたのに、今までの自分とは変わったはずなのに、とある理由から先の依頼を欠席する事になってしまっていた。その依頼において、戦力が足りないばかりに、他の冒険者が身を挺してヴォルケイドドラゴンから村を守る事になったという事。
「確かに無理と思うのが普通なんだろうけど、それでも僕は‥!」

●今回の参加者

 ea1708 フィア・フラット(30歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8474 五木 奏元(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ルルティア・ヘリアンサス(ea4257

●リプレイ本文

●スロイト兄弟の協力者
「そろそろ終わりにしたいわね‥‥このゴタゴタも、シュウ・イックスのことも」
 今は北の村へと向かう途中。ヴォルケイドドラゴンの他に、最近村の近くに移ってきたのであろうゴブリン達に対して、どう行動するのかの相談を詰めながら、冒険者達は歩を進めていた。‥とは言っても、レオパルド・ブリツィ(ea7890)、深螺 藤咲(ea8218)、五木 奏元(ea8474)、グレイ・ドレイク(eb0884)は、馬に乗って先行して村へと向かっているのでこの場には居ない。
「いよいよドラゴンとも対決‥‥これでこの依頼も終わりですわね」
「ドラゴンさえ退治できればドレスタットに来る、って言ったんだから、此処で逃がさなきゃ話を聞く事が出来るはずよね」
「逃がしませんよ。必ず、この依頼に参加した皆さんでシュウを押さえましょう」
「でも、素直に情報を提供してくれるとも思えないですが‥」
 そんなわけで、今この場に居るのは、エルザ・ヴァリアント(ea8189)、荒巻 美影(ea1747)、フォーリィ・クライト(eb0754)、ユアン・エトワード、フィア・フラット(ea1708)、それに‥
「ドラゴン襲来の被害は大きかったですが、冒険者の皆さんの働きもあって深刻なものとはなりませんでした。それに、事件自体も次第に解決へと向かっている。順調のように感じますが、ロキがこのまま黙って追い詰められるとも思えません」
 海戦騎士団員、オルファ・スロイトだ。
「そう‥ですわね」
「ここからは急いで追い詰めないと、ロキが厄介は手に出てくるかもしれませんね」
 思えば、ロキ・ウートガルズはアイセル湖にある遺跡よりドラゴン達の宝を持ち去り、その事を利用してドレスタットへとドラゴンを導いた。しかし、その宝は今、どういうわけか不完全な形としてエイリークとロキ、お互いの下に存在しているらしい。
「その為にも、ここで必ずシュウ・イックスは押さえないと‥」
 ドラゴン達の宝にどんな力が秘められているのかは、依然として不明なままだが、それがロキの手に渡る事は何としても避けなければならないし、ただ守るだけよりも、攻めて守る‥それがエイリークらしい手段だろう。
「シュウ、そして次はロキ‥ですか」
 ドレスタットを統治する者、そしてそれに仕える者として海戦騎士団は行動している。
「そうだ。今回、海戦騎士団もやはり騎士団としての立場から動き辛い事が良く分かりました」
 急に思いついたように言葉を発するオルファ。続けられる言葉は更に冒険者達を驚かせる‥海戦騎士団は、今回の経験から、少し騎士団の増員を考えているらしい。冒険者でありながら騎士団員、ある種グレーな領域に立ってもらう事で、動き易い部隊を作るのが目的なそうだ。
「でも、それって‥」
「結構コキ使われそうな部隊になりそうね」
 フォーリィとエルザがそんな事を言う。フィアや美影、それにユアンもそれには同意らしく頷く。まあ、それは間違っていないのだろう。オルファも苦笑を浮かべながらも同意していた。


●北の村で
 その日の村は、いつもとはかなり違う空気が漂っていた。
 ドラゴンがおそらく来るという事で、この地の領主に仕えている騎士達が来るわ、それに協力する形で冒険者達も来るわ、村人達はこれから起こる事態を考えると何も手につかなくなっていたのだ。
「皆、まず落ち着いてくれ」
「騎士の人達はドラゴンに対して十分な用意をしてきていますから‥」
 奏元や藤咲の声も、届いているのかいないのか。彼等の前に、騎士達も村人へ説明していたが、その時も今と同じような状態だった。村への被害次第では、彼等は生きる術を奪われてしまうのだ。
「必ず俺達が村を守り抜いてみせます」
 グレイのその言葉、これまでに何度も村人達へ投げかけられた言葉だったが、何度も言われる内に村人達も少しずつ落ち着いては来ているようだ。後は、この村人達が一時的に避難してきている村長の家付近に、ドラゴンもゴブリンも近づけなければ良いだろう。

「どうですか?」
 一方、レオパルドは騎士達の所に来ていた。少しわざとらしいぐらいに、シュウと接触を試みるがそれを不審に思う者は居ない。何しろ、シュウには海戦騎士団員から直々に出頭要請が来ていたのだ。騎士達もそこまで疑いをかけられている人物に、あまり好意的な事をしようとはしない。
「まだドラゴンは付近に来ていないようだな」
 騎士達は、ローテーションを組んで偵察を行っていた。
「ところで、相手のブレスはどうやって対処するつもりなのですか?」
 シュウと一通り会話した後、レオパルドは騎士達の隊長らしき人物にそんな事を聞いた。レオパルドの友人が、先の依頼でドラゴンのブレスによって大いに苦戦させられたからだろう。
「そこに水が汲んで来てある。その中に、古くなったマントを漬け込んであるのさ」
 火には水。まあ、ありきたりと言えばありきたりな手段だが、それ故に単純ながら効果的な手段なのかもしれない。
「あとは、ブレスは範囲に居る全員が受けるから脅威なんだ。散って戦い始めれば、こちらの被害は抑えれるさ」
 そんなやり取りしている間、シュウはただ黙って村を眺めていた。
(「アッドの名の事については、完全に口を閉ざされてしまいましたね‥」)
 弓に彫られた模様も含め、シュウはアッドの名について一切を語らなかった。それが自分とアッドという人物との間に、深い繋がりがある事を示す事になっているのだが、その真相は未だに謎のままだ。


●ドラゴンとゴブリン
「来たな、ゴブリンども!」
 もう一度村の家畜を見回っていたグレイが、一番最初にゴブリン達と接触した。彼がメタルクラブを叩きつけると、その一撃でゴブリンは地に倒れこむ。いや、むしろ潰されると表現した方が正しいか。
 肘撃ち、裏拳、正拳。
「とりゃあああっ!」
 そんなグレイに負けず劣らず、ゴブリンを叩きのめしていく美影。彼女は敵中に孤立しないように気をつけながら戦っていたが‥
「‥!」
 振り向きざまの回し蹴り、ゴブリン達の攻撃は彼女にカスる気配さえ見えない。これでは、相手の只中に一人で飛び込んで尚、大した怪我も負わずに全滅させそうな感じだ。これが能力の相性というものなのだろう。
「最初っから全部来たわね!? ‥ったくもう、うじゃうじゃと!」
 エルザが大急ぎでファイヤーボムを撃ち込んでいく。村に入り込まれたら、ファイヤーボムを撃つわけにはいかなくなるからだ。広範囲を攻撃出来るという事は逆に、広範囲を攻撃してしまうという事でもある。
「‥っ! 不発!?」
 3度目の詠唱の時、エルザのかざした手からは何も放たれなかった。ここぞとばかりに走りこんでくるゴブリンだったが、横からまさしく横槍を入れられ、絶命する。火を扱う者を守るのは、やはり火を扱う者のようだ。
「エルザさん、今の内に次の詠唱を!」
 砂煙を上げながら着地し、ゴブリンから得物を抜く藤咲の背後では炎が上がっていた。事前に彼女が仕掛けたファイヤートラップだ。罠の存在を知ったゴブリン達は嫌でも一瞬足が止まる。
「折角のチャンスだったのに‥残念だったわね」
 再び火球に巻き込まれたゴブリン達は、ほうほうの体で逃げ出し始める。

「これが、ドラゴンか‥!」
 空になった瓶を投げ捨て、奏元が相手を見据える。彼と、他の仲間と、騎士達の前に立ちはだかっている巨体は、自分達の3〜4倍はある。
「くっ‥!」
 ユアンは思わず一旦退き下がる。初撃、熱風のブレスの威力は凄まじかった。全身を防具で固め、その上盾で身を守っていた奏元でさえ、かなりのダメージを受けてしまったのだから。この熱風のブレスをやり過ごす事が出来なければ、ヴォルケイドドラゴンへ挑む資格は無い。
「けど、ブレスを吐けるのは一回だけのはず‥!」
 レオパルドが得物の小太刀を構える。そう、逆に言えば、このブレスさえ凌げば、後は特に能力を持たないモンスターだと思っても構わない。
「やっぱ、ただのソニックブームじゃ効かないようね」
 但し、その攻撃力も防御力も、並みのモンスターとは明らかに一線を画しているが。
「僕は、まだ‥!」
「ユアンさん、今は大人しく治療を受けて下さい!」
 怪我の手当ても受けずに前に出ようとするユアンをオルファが嗜め、その間にフィアがユアンの近くまで行き、リカバーの詠唱を開始する。そして更にこの時、ヴォルケドドラゴンが咆哮を上げた。
「グゥオオオオ!!」
「‥お見事ってやつだな」
「味方だと頼りになりますね」
 ヴォルケイドドラゴンの片目に深々と突き刺さった一本の矢、冒険者達や騎士達の中に弓矢を扱う者は居ない。
「それじゃ、下手に暴れられない内に、一気に叩かせてもらおうかしら!」
 大きく振りかぶった後に放たれた真空の刃は、強固な鱗を切り裂くのに十分な力を宿していた。
「我が剣の真髄、受けてみよ!」
 奏元が振り回すラージクレイモアは、このような相手と戦うための武器と言っても過言ではないだろう。流石のヴォルケドドラゴンも多勢に無勢、冒険者や騎士達にある程度の損害を与えはしたが、程なくして地に倒れ伏す事になる。


●シュウとアッド
「君達のような冒険者ばかりであれば、私もこうはならなかった‥かもしれないな」
 シュウは冒険者達の様子を窺っていたが、それは‥逃げる為ではなくて、冒険者達がどんな考えを持っているのか、どんな行動を取るのかを観察していただけだった。
「私の復讐自体はもう終わっている。ここから逃げるかどうかは、君達次第のつもりだったのだよ」
 今、シュウは逃げようとはしていない。諦めたのではなく、最初からそのつもりだったらしい。

「復讐したい相手って、まさか壊滅した野盗達の中に居たとはね‥」
 フォーリィが感慨深げに呟く。シュウが復讐したかった相手とは、アッドが死亡する原因となった依頼で同行した冒険者‥それも、数ヶ月来同じ依頼を受け続けてきた3人の元冒険者だった。
 貴族の言い掛かりに似た仕打ちの対象になったのはアッド一人だけであったが、それはアッドが他の仲間を庇ったから。しかし、庇われた側も冒険者として傷を負った状態になり、周囲の目もあって依頼を受け辛くなっていき、やがて野盗に身を堕としたのだという。
 シュウには許せなかったのだ、救われた側がそのように堕落していった事が。
「それで、アッドに仕打ちを行った貴族は、既に最初のドラゴン襲来時に十分被害を受けていた‥とはね」
 エルザやフィアは頭押さえていた。結局、自分達は殆ど事の真相を知らぬまま、結末まで来てしまっていたのだ。
「少し、受け身過ぎたのかもしれませんね」
 何かを調べる‥というのは、思っている以上に難しい事なのかもしれない。しかもそれが、相手が隠し通そうとしている事ならば尚更だ。多少のリスクは覚悟の上で行動する事も時には必要、失敗を取り返せる『次のチャンス』が存在していたのだから。
「しかし、やってはいけない事というのはあります。まして、無関係な物にまで累を及ぼし命の危険に晒すなど‥」
「捕まえて‥欲しかったんじゃないですか?」
「え‥?」
 野盗に身を堕とした冒険者に復讐をしたいのなら、なぜ今回のようなドラゴン‥ましてロキに協力にしていたのか。フィアはそれが分からないといった顔をしていたが、ユアンの言葉はそこへ一石を投じた。勝手な理屈ではあるが、シュウはシュウなりに何かを考えて行動していたのだろう。

「あ、そうです、奏元さん。ヴォルケイドドラゴンにトドメを刺したのは奏元さんなんですから、スモールスレイヤー‥とか、名乗ってみてもいいんじゃないでしょうか?」
「そうは言ってもな、かなりの人数での協力撃破だったしな。たまたま俺の攻撃がトドメになっただけだからなぁ‥」
 藤咲の提案を、悩みながらもやはり名乗らない事を選択する奏元。肩書きよりも実際の強さを追い求める、奏元らしい選択だろうか。
「ともかく、村への被害も殆どないですし‥」
「ドラゴンもゴブリンも撃退、シュウの身柄も確保出来た。これ以上無い成功じゃないですか?」
 フィアとレオパルドの言う通り、冒険者達は十二分に依頼をこなした。オルファも、皆さんの協力は忘れないと言っていた。シュウからのロキの情報が気になるが、今は依頼を終えた体を休める為、冒険者達は自分達が守った村で宿を取ったのだった。