【暗躍の射手】搦め手と一石二鳥

■シリーズシナリオ


担当:MOB

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月02日〜09月11日

リプレイ公開日:2005年09月08日

●オープニング

 それは、久しぶりにオルファ・スロイトの下に、兄のサキア・スロイトが訪れた時の事。
「まずい事になった‥」
「まずい事って‥。一体、どうしたんです兄さん‥?」
 神妙な面持ちで、サキアがオルファに話を始める。
「例の、シュウ・イックスを客人として迎えている貴族の所にな、縁談が持ち上がっている」
「縁談‥?」
「ああ、完全に政略的なものだが。前々から噂もあったが、現実味の無い話だったのでただの噂だと思っていた」
 現実味無い話。それを示す為には、少し当事者の貴族達の説明をしなければならない。
 シュウ・イックスを客人として迎えている貴族は、立場としてはエイリーク辺境伯に好意的な位置に居る。そして、その一族に対して縁談を持ち掛けているのは、エイリーク辺境伯を良く思っていない部類の貴族だ。
 特に縁もあるわけではなく、その姿勢の違いから仲も良いとは言えない。ただ単に、領地が隣同士であるというだけ‥多少の交流がある程度だ。これでは縁談の話は、ただの噂話に過ぎない。
「でも、噂があったという事は、多少の行動はあったという事ですよね?」
「まあな。しかし、その度の話は流れ続けてきた‥つい最近までな」
「‥‥‥」
 オルファは押し黙り、サキアの次の言葉を待つ。
「領内の村が一つ焼かれた。野盗やオーガ達の仕業かとも思ったが、違うな」
 焼かれた村には、秋になれば豊かな恵みが収穫出来る村で、牛や鶏も相当数が居た。それらが丸ごと焼き尽くされているのである、野盗やオーガ達の仕業だというのなら、盗み奪われている物があるはずだ。
「ヴォルケイドドラゴンの仕業だ。殆どのドラゴンは一旦後退してくれたと思っていたが、あの凶暴な竜は未だ人々の住まう地の近くに留まっていたらしい」
「‥厄介な相手ですね」
「今回は、同時にあいつを追ってもらわなくてはならないからな」
 あいつ‥とは、言うまでもなくシュウ・イックスの事。彼の現在の立場からして、囚人の証言一つでは捕える事は出来ないが、話を聞く為に同行を要求するには十分だ。残りの材料は彼を連れてくる間になんとかするしかない。
「去年の際にも領内の村はドラゴンの被害に遭っている、領主の財政は今回の件で完全に悪化しただろうな」
「そこへ、援助の申し出と共に再度の縁談話‥ですか」
「言ってしまえば、反エイリーク派の勢力を拡大するつもりなのだろう」
 もし、この話が纏まってしまえば、海戦騎士団は今よりも尚動きが取り辛くなる。まさかとは思うが、海の向こうの国で起きたような事態がこのドレスタットでも起きる可能性も徐々に、無いとは言えなくなってくる。
「サキア兄さん、今回は私も行きます。シュウに同行を求める理由もちゃんと存在しますからね」
「ああ、頼む。私は他の所へ行かなければならなくなったからな」
 サキアが抱えている仕事は、この一件だけではないようだ。
「ところでサキア兄さん、地理的に‥次にヴォルケイドドラゴンが現れるのは、この三つの村のどれかだと思いますけど、どの村だと思います?」
「‥東」
「東、ですか?」
「ああ、勘だがな。その地図を見せられた時、ぱっと思いついたのが東だ」
「‥参考にします。こういう時のサキア兄さんの勘は頼れますからね」
 オルファとサキアの前には、3つの村の大体の位置と、焼かれた村の位置と、僅かな地形の描かれた簡素に過ぎる地図が広がっていた。果たして、次にヴォルケイドドラゴンの現れる位置は‥?

 ――とある場所、とある男。
「さあ、冒険者達よ。この光景の前に何を選ぶ‥」
 焼け落ちた村を眺めながら、男は一人呟いた。彼が時々使う偽名、それは知る者は限られているが、とある罪人の名前である。依頼を放棄し、依頼主の関係者を危険な目に遭わせたとして、裁かれた者の名前だ。

●今回の参加者

 ea1708 フィア・フラット(30歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6832 ルナ・ローレライ(27歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

安来 葉月(ea1672)/ レオパルド・ブリツィ(ea7890)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ クィディ・リトル(eb1159

●リプレイ本文

●見えるという事は、見えてしまうという事
「竜は何を想い、そして何故滅びを招くのか‥」
 ルナ・ローレライ(ea6832)が静かに口を開く。その傍らには荒巻 美影(ea1747)、彼女達二人は、この依頼の直前にヴォルケイドドラゴンに襲われたと思われる村を訪れていた。
「では、ルナさんお願いします」
 目的は襲撃時の村の状況を調べる為。過去の出来事を知る、いや見る‥普通に考えれば不可能な事だが、それを可能にする魔法は存在する。
「刻を見守る月よ。見守りし、刻の流れを今我に示せ‥‥パースト」
 魔法の詠唱を終えると同時、普段は伏せられている瞳を開き、過去を見つめるルナ。村が焼け落ちたと考えられている日は、今日から数えて丁度一週間前。ルナのパーストの魔法の効果が及ぶギリギリの期間だ。
「分かりました。どうやらドラゴンは西から来て村を焼き、そのまま東へと進んでいったようです‥」
 この村は、オルファ・スロイトからの依頼の説明にあった他の三つの村から、南へと向かった場所にある。
「という事は、つまり‥次にドラゴンが現れる位置は、東の村になるのでしょうか?」
 ルナのパーストで得られた情報を元にすれば、地理的に考えると美影の言葉通りに、ドラゴンが次に現れるのは東の村という可能性は高い。他に、ドラゴンに目的があれば話は変わってくるが‥。
「ドラゴン達の言っている『約束の品』が、まさかこの付近にあるとも思えないですしね‥。ともかく得られた情報を皆さんに伝えに‥‥ルナさん?」
 ここでの行動を追え、他の冒険者達との合流を急ごうとする美影をよそに、ルナは焼け落ちた村跡の一箇所に歩み寄ると中から何かを拾いあげ、軽く灰を払うとそれをゆっくりと抱きしめる。その姿を見ていた美影は、少しだけその村を発つ時間を遅らせる事を決めていた。


●狙い、定めて
 時は冒険者達がドレスタットを出発する前に戻る。
「なるほどね。サキアさんが東だって言った理由‥なんとなく分かるわ」
 イコン・シュターライゼン(ea7891)や深螺 藤咲(ea8218)、それにオルファ・スロイトと共に簡素な地図を眺めていたエルザ・ヴァリアント(ea8189)は、サキア・スロイトと同じように次にヴォルケイドドラゴンが現れる場所を東の村だと予想した。
「西の村には現れないと?」
 そのフィア・フラット(ea1708)の疑問にはこういう答えが返ってきた。
「オルファさんの情報通りなら、東の村が一番税収の見込める村だもの」
 今回のドラゴン襲撃が反エイリーク派による意図的なものだと仮定するなら‥とエルザは補足をつける。凶暴極まりないとされているヴォルケイドドラゴンが、人の指示を受けるとは思えないからだ。
「ドラゴンに関しては皆さんの判断にお任せするしかありません。私は、シュウの方に行かないといけませんので」
「分かりました。大体の方針は決まりましたし、領主の貴族の所に行きましょう」
 残念ながら、囚人の供述に基づく証拠一つと数点の状況証拠だけでは、シュウ・イックスを捕まえる事は出来ない。同行を願う事は可能だし、拒否するならば更に疑いをかける事も可能だが、冒険者達には決め手となるものが何一つ無いのだ。

 そうして他の冒険者達が地図を囲んで議論を重ねていた時、フォーリィ・クライト(eb0754)は一人冒険者ギルドの資料室に居た。もう一度、シュウ・イックスに関する情報を調べ直してみる為だ。
「‥ダメね。やっぱり、冒険者じゃなくて敵側の人間の事なんて、どの報告書にも殆ど書かれてないわ」
 分かるのは、相当な腕の弓使いであるという事だけ。彼女の狙いは外れたのだろうか?
(「‥そうだ。アッドの名前で探してみるのはどうかしらね?」)
 ふと、思いついた考え。シュウの名前で探した時と、得られる情報は変わらないかもしれないが、試してみる価値はあるかもしれない。少し時間が心配だが、馬に乗って飛ばせば仲間に追いつく事も出来るはず。そう思ったフォーリィは早速作業に取り掛かった。


●最強の眷属
 時は再び現在の時間へと進む。
 ドレスタットを発った後、領主の貴族の下をオルファと共に訪れた冒険者達は、そこで西の村へとシュウと騎士数名が向かった事を知る事になった。それぞれの考えはあったが、西の村はオルファに任せて冒険者達は東の村へと向かっていた。
「これがヴォルケイドドラゴン‥!」
「話は聞いていたけど、ホント‥人の手でどうにかなるような相手とは思えないわね」
 ドラゴンとは最強の眷属の事。ヴォルケイドドラゴンは、スモールという格(人が勝手に分けたものだが)に分類されている。正直、スモールなどという響きは不相応ではないかと思う程だ。その巨躯は、フィールドドラゴンの倍以上はあるのだから。
「でも、本当に戦うつもり? 素直に村の人々に避難してもらったほうが‥」
 そのフォーリィの言葉に対して、イコンが強く異を唱える。
「避難してもらって助かったとしても、村が焼かれてしまっては村人に生活する術は無くなります」
 感情排して考えると、村からの税収がなくなるという事は、領主の貴族にとっては、親エイリーク派と反エイリーク派の勢力争いにとっては、村人の命が助かっても助からなくても同じ結果なのだ。
「ま、そうよね‥。見捨てるってのは気が引けるわね、なんとか出来ないものかしら?」
 ここで、冒険者達にとって不幸だったのはドラゴンに関する知識を誰も持っていなかった事だろうか。もし、誰かがオルファに尋ねていれば、もし、今回不参加のユアンがこの場に居れば、ドラゴンがブレスを吐く事の出来る回数が限られている事を知りえただろう。

 二本の槍がヴォルケイドドラゴンを迎え撃つ。
「いくらドラゴンといえど、この槍ならば!」
 オーラパワーとバーニングソードの付与を受けた、聖者の槍を繰り出すイコン。その一撃は確かにヴォルケイドドラゴンを捉え、その肉体に傷をつけたが‥。
「じょ、冗談きついわ‥。こんな相手とどうやって戦えってのよ!」
 冒険者達の繰り出す攻撃の数々を受けるヴォルケイドドラゴンは、殆ど攻撃が効いていない。それは、繰り出される攻撃の鋭さが衰えない事から容易に分かる。
 魔法に対する抵抗というものがあるとしても、エルザの放つファイヤーボムは鱗を焦がすだけに留まり、フォーリィの放つソニックブームに至っては、カスリ傷程度の傷しか残せない。まるで、オモチャか何かで戦わされている気分だ。
「これが、ドラゴン‥!」
 ミドルシールドを構えた体勢のまま、後方へ少し飛ばされる藤咲。防御を固めているおかげか、その盾は未だに彼女への攻撃を防ぎ続けているが、このままではいずれ押し切られる。長時間戦えば、誰だって体力は尽きるのだ。
(「このままでは‥」)
 回復薬が切れ、魔法が打ち止めになってからでは遅い。そうなる頃には皆体力も尽き、逃げ出す事もままならないだろう。フィアやエルザはいち早く撤退する時期を見極めようとしていた。
「遅れました! 状況は‥劣勢のようですわね」
「この状況では、テレパシーを使っても説得は難しいですね」
 南の村へと立ち寄っていた美影とルナが合流すると、待っていたとばかりにエルザは村へと向かう。
「フィアさん、私は村に向かって村人を避難させてくるわ!」
「‥! お願いします!」
 ドラゴンと向き合った一番最初、先頭に立ったイコンと藤咲が炎をブレスの洗礼を浴びた。二人はシールドを構えていたおかげでなんとか耐える事は出来たが、それでもすぐにヒーリングポーションを使用せねばならないほどの大怪我を負ったのだ。

「くっ! 魔法の効果が‥!」
 イコンに手に握られた聖者の槍から魔法の補助効果が失われる。イコンは、既に二本目のヒーリングポーションの瓶を空けていた。
「こちらも‥。この状況では掛けなおすのは、無理‥ですね」
 同じように、藤咲のスピアからも魔法が切れていく。
「これ以上はこちらが消耗していくだけです。ここは‥退きましょう!」
「しかし! それでは村が!」
「最初の時以降、相手はブレスを吐いて来ていません! それは多分、もう吐く事が出来ないから‥。だから、村が焼かれる事は無いはずです!」
 確証は無かった。だが、ここで後退していなければ皆揃って無駄死にをするだけだ。


●狙い、何処に
 フィアの言葉が正しかったのか、その後村を襲ったヴォルケイドドラゴンは、八つ当たりのように数軒の家を半壊させたものの、そのまま村を通過するようにして北へと向かっていった。
「良かった‥。あんな事が起きるのは、もう見たくありませんでしたから‥」
 ドラゴンが去って行くと、ルナが心底安心したように言葉を漏らした。
「イコンさん、体の方は大丈夫ですか‥?」
「ええ、なんとか。随分派手に回復薬を使ってしまいましたが‥」
「全く、いくらなんでも今回はハード過ぎだわ」
 なんとか無事に危機を乗り越える事が出来た冒険者達は、揃って胸を撫で下ろしていた。

「それよりフォーリィさん、出発直前のあの話って、本当なんでしょうか‥?」
「ギルドの資料よ。嘘は書かれていないはずだわ」
 藤咲が尋ねているのは、フォーリィが冒険者ギルドの資料室から調べ上げた一つの事実。
「直接的には書かれていなかったけどね、記録を残した人の憤りが良く分かったわ」
 過去に、アッドという冒険者が居た。依頼を放棄し、依頼主の関係者を危険に晒した為に裁かれたらしいが、危険に晒したも何も、依頼主の関係者の自業自得だったのだ。ただ一つ、依頼主とその関係者が貴族だっただけ。
 この事実が、シュウにとってどんな意味を持っているのかは分からない。
「オルファさんの方も、上手く行っていると良いのですが‥」
 様々な予感を抱きつつ、冒険者達はドレスタットへの帰路へと着く事になる。