●リプレイ本文
そこに彼らの意思はない。
怒りも、憎しみも、悲しみも、何一つ‥‥。
ただ忠実に、与えられた命令に従うだけ。
それだけのために彼らは長き眠りより目覚め、その手に剣を持つ。
再び彼らが眠りにつく、その時まで‥‥。
「問題の森に何かあるのだろうか?」
目的地までの道中の事。
コバルト・ランスフォールド(eb0161)は、今回の依頼について少し思うところがあるらしく、仲間達に意見を求めた。
「どこか、不自然な点でもあるのですか?」
唐突に切り出された質問に、霞遙(ea9462)はコバルトに聞き返す。
「こういう類の魔物は、この世に未練を残して死んだ者のなれの果てである事も多い。森より他に被害報告が無い‥‥となれば、その森に何らかの執着がある可能性が高い」
一方でこんな意見もある。
「骸骨戦士と聞くと、古戦場の跡や遺跡、墓の近くなどが思い浮かぶのです‥‥」
「そうですね。近くにそういった場所があるのではないでしょうか?」
イドラ・エス・ツェペリ(ea8807)とショウゴ・クレナイ(ea8247)は森という場所そのものに疑問を抱いたが‥‥。
「可能性はあるが、それだけで判断するのも難しいな」
コバルトは言った。
確かに骸骨戦士は古戦場や墓地などに出やすい魔物だが、それは単純に、そういった場所に骸骨戦士となりうる死体が多いというだけだ。遺跡とは関係のない山奥や、キャメロットの街中の一軒家など、そこで死んだ者がある日突然に、レイスやズゥンビといった魔物となって現れたという例は多々ある。
「だが、故意に生み出された可能性も捨てきれまい?」
セオフィラス・ディラック(ea7528)は以前、黒の神聖魔法によって生み出されたと思われるズゥンビと遭遇した事があるらしく、今回もそういった何者かが関わった事件ではないかと考えていた。
「これはキャメロットを出る前に聞いた話だが、問題の森は旅人や商人なんかが時々通る場所らしい。付近にこれといって村や町はないが、魔物や山賊なんかが出る事もあって、それらに襲われて死んだ者も少なくはないらしい」
ヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)が自らの得た情報を仲間達に伝えるが、まだ不確定な要素が増えただけとしか言えない。
問題の骸骨戦士が自然発生したものか、それとも何者かが生み出した存在なのかについて、冒険者達はその後も幾度か議論を交わしてはみたものの、残念ながら決定的な意見は出なかった。
「そういや、今回の敵って骨だらけの魔物なんだよな?」
鳳蒼龍(ea3761)は、話を骸骨戦士との戦闘に関わる部分に移した。
「突きを主体にした戦い方じゃ無理か‥‥」
「私の方も少し難しいかもしれませんね‥‥」
ヴルーロウと遙が、自身の手にしたレイピアやスリングを見て悩む。
隙間だらけの体を持つ骸骨戦士に対して、これらの武器の選択は誤りだったかもしれない。
「だが、こっちもこれだけの精鋭が揃ってるんだ。そうそう足元をすくわれる事もないだろ」
ユーネル・ランクレイド(ea3800)が気楽な態度で言う。
いかなる敵であれ、冒険者にとって油断は禁物だが、彼の自信も根拠のないものではないだろう。今回の依頼に参加した冒険者には、アンデットに対して効果的なオーラ魔法や神聖魔法を使える者が多い。これはかなりの強みである。
「ま、どっちにしろ、俺は殴って蹴って潰すだけだしな」
腕が鳴るとばかりに蒼龍は拳を握っていた。
事件のあった森に辿り着くと、冒険者達はそれぞれの得物を取り出し、周囲の気配を窺った。
「不気味な森ですね‥‥。どことなく嫌な感じがします‥‥」
簡単に周囲を見回した後で、遙は『疾走の術』を用いて自身の能力を高め、偵察に動いた。風のごとく木々の合間を抜け、枝を飛び、なおかつ、足元から発する音は最小限にとどめる。忍びとしての本領発揮といったところか。
「では、私も‥‥」
ショウゴが唱えたのは『ミミクリー』。変じたその身は狼の姿。その優れた嗅覚を用いての捜索が目的だ。
姿を変えてすぐ、ショウゴはある臭いを嗅ぎつけた。
「お、早速何か見つけたのか?」
ユーネルが訊ねるとショウゴは首を大きく振り、仲間達を促すようにして走りだす。
人の道とも獣道とも区別のつかない場所を歩き、冒険者達が辿り着いたのは、散乱した動物の骨や、火を使った形跡のある開けた場所。おそらく、人がいたと思われる跡だ。
だが、それ以上は何もない。
「はずれ‥‥か」
セオフィラスが残念そうに呟く。
「他に何か臭うか?」
コバルトがあらためてショウゴに訊ねると、彼は再び別の場所に向かって移動を始める。
どうやら、それらしい臭いのする場所がいくつもあるらしい。
しばらく森の中の探索を続けた後、冒険者達はついにそれに出会った。
「あれは‥‥!」
木の枝の上からショウゴの向かう先を見ていた遙が声を上げる。
視線の先に見えるは、森を徘徊する二体の骸骨戦士。
「出たか!」
敵の出現を聞き、殿をつとめていたセオフィラスは一気に駆け出し、仲間達の前に出る。
敵もこちらの姿に気づいたらしく、髑髏の眼をこちらに向けた。
「頼むぜ、蒼龍」
「お願いするのです」
ユーネルとイドラは、急いで蒼龍の元に駆け寄る。
「了解した」
差し出された二人の武器に、蒼龍は『オーラパワー』を付与し始める。
「眠りなさい。貴方達の戦いはもう終わったのだから」
離れた位置から狙いを定め、遙はスリングの石を放つ。
「くっ‥‥」
だが、その攻撃は骸骨戦士の骨の間をすり抜け、効果を見せない。
ショウゴは『ミミクリー』の効果が続いているため、後方に下がって待機。
コバルトとヴルーロウは、急ぎ後方からの魔法支援に入る。
先頭に立ち、骸骨戦士達と刃を交えていたのはセオフィラス。
――ザシュッ!
「ちいっ!」
肩を掠めた一撃に、セオフィラスは顔をしかめる。生前はそれなりに腕の立つ戦士だったのだろう。死してなお鋭いその剣の技は、驚嘆に値するものだった。仲間達を守るための盾となるべく受けに徹してはいたものの、二対一ではさすがに少し分が悪い。
だが、それもほんの最初だけ。
「光よ‥‥」
コバルトが紡ぐは、黒き神の光『ブラックホーリー』。
「はっ!」
ヴルーロウが放つのは、その身に宿せし力の結晶、『オーラショット』。
――ズンッ!!
突如自分達を襲った光の衝撃に、骸骨戦士達は怯む。
その隙を逃すまいと、前に出たのはユーネルとイドラ。
「はた迷惑な骨どもが! おとなしく、もう一回眠りにつきやがれ!!」
「悪い骨の人は‥‥木っ端微塵にボコすのです!」
上段より振り下ろされるクルスソードと勢いをつけたロングロッドの、オーラを纏った渾身の一撃が骸骨戦士達を捉える。
――ガンッ!!!
だが、頭部を破壊され、片腕を吹き飛ばされてもなお、骸骨戦士達はまだ倒れない。
よろめきながらも剣を持ち続けるその強い意思は、まさに戦士のそれ。
「いい加減、自分が『終わっている』って事を解らせてやるさ!」
立ち塞がったのは蒼龍。
――ブンッ!!
「があっ!?」
振るわれた剣の一撃は、蒼龍の盾では受けきれず、そのまま蒼龍の身に深い傷を刻む。
「くっ‥‥だが‥‥!!」
そう、蒼龍の待っていたのはこの瞬間。受けに使わなかった右手で、『カウンターアタック』と『ストライク』を合わせた渾身の一撃を叩き込む。
――ゴッ!!
オーラの力を受けたその拳は、骸骨戦士の残された骨格を完全に破壊した。
「やはり死者、美しくない戦い方だな‥‥」
「ブルー、援護をお願いするのです!」
「ああ、分かった!」
残されたもう一体の骸骨戦士も、ヴルーロウとイドラの連携により、すぐにとどめを刺された。
――しばらく後。
「悪ぃ、忘れ物をした。先に行っててくれないか?」
周囲に敵が残っていない事を確認し、骸骨戦士達との戦いの場を離れた後で、ユーネルは仲間達にそう言った。
「忘れ物?」
コバルトが怪訝そうに聞き返す。
「そう。まあ‥‥ちょっとしたもんさ。なに、すぐに追いつく」
軽く笑ってみせるユーネル。
「では、私達は少し先に行く事にします。お一人でも大丈夫とは思いますが、お気をつけて」
『ミミクリー』の効果が切れ、人の姿に戻ったショウゴが言う。彼自身も先の場所は念入りに調査したが、狼の嗅覚を用いてなお、それらしい臭いは発見できなかった。
「そうですね。怪しい人影なども見当たりませんでしたし、今回の骸骨戦士達は、自然に発生したものだったのではないかと思います」
遙もかなり広範囲に渡っての調査を終えていたが、発見できたものは何も無い。
「考え過ぎ‥‥だったのだろうか‥‥」
セオフィラスは少し納得のいかない表情のままだったが、出てこないものは仕方がない。
「ケガはないですか? ブルー」
「いや、その、だ、大丈夫だ。‥‥ありがとう」
イドラとヴルーロウの二人も、既に今回の依頼は終わったものと思っている様子。
冒険者達に残された仕事は、もはや無事にキャメロットまで戻る事だけだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
そう言って、ユーネルは一人、骸骨戦士達との戦いの跡へと戻った。
‥‥そして。
「おう、見てたんだろう? なにが目的なのか知らんが場合によっては乗れる話もあるかも知れんぞ」
誰にともなく、周囲に向かって語りかけるユーネル。
そこに誰かがいると分かっているわけではない。だが、もしも自分達を見ていた者がいるなら‥‥。
「ん‥‥うおっ!?」
その時、彼の耳に届いたのは羽の音。彼の横を一羽の大きな鷹が突然に横切った。
そのまま近くの枝へと止まると、それはこちらをじっと見つめてきた。
「何だ‥‥まさか!?」
彼は気づいた。そう、目の前の存在が、偽りの姿をした存在である事に。
――バサッ!
「‥‥って、おい待て!!」
ユーネルの静止を無視し、鷹の姿をしたそれは、再び空へと飛び立つ。
彼は感じた。その存在が自分を嘲っている事を。
「ちっ‥‥」
遥か遠くへと飛び去っていく謎の存在。
小さく舌打ちをし、ユーネルは仲間達の後を追った。