【戦士達に安らかな眠りを‥‥】復讐の戦士

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月03日〜04月10日

リプレイ公開日:2005年04月13日

●オープニング

 翼を広げ、空を駆ける一羽の鷹。
 しばらくの間、獲物を探すかのように飛び続けた後で、それは眼下に広がる森へと降りた。
 だが、大地に降り立った時、それは既に鷹の姿をしてはいなかった。
 そこに立っていたのは、銀色の髪の少年。
「噂通りなら、多分、この辺りのはず‥‥」
 何を探しているのか、少年は周囲を見渡す。
 戦いの後だろうか。折られた木々、えぐられた大地‥‥そして、散乱する刃や鎧の破片。
「あった‥‥」
 視線の先。そこにあったのは無惨に討ち捨てられた戦士の遺体。それは、まだ白骨化こそしていないが、だいぶ腐敗が進んでいる。
 普通の人間であれば、思わず目を覆い、顔を背けるだろう。
 だが、少年は不敵な笑みを浮かべ、さらには平然とその遺体に触れる。
「まさか、あんなに早く冒険者が来るなんてね‥‥」
 少年は戦士の遺体を調べながら、先日の事を思い出していた。
 自分が生み出した骸骨戦士達が、冒険者の手により打ち倒されたその光景を。
「全く、とんだ邪魔が入っちゃったよ。まあ、僕に賛同してくれるのなら、相手が冒険者でも良かったんだけど‥‥」
 そう呟いた後で、少年は小さく鼻で笑うと、こう言い放つ。
「あの程度の連中なら、『いらない』な」
 戦士の遺体を調べ終えた後で、少年は呪文を紡ぎ始める。
 放たれたのは、眠れる死者を呼び起こす黒き光。
 その身に再び力を得、戦士はゆっくりと立ち上がる。
「うん。いいね、君。できる事なら、君が生きている間に会いたかったよ」
 心の底から残念そうに呟く少年。
 立ち上がった戦士は、少年の倍以上もある巨体。おそらく、種族はジャイアント。
 醜く変わり果てた姿と、死してなお放たれる圧倒的な威圧感は、今の彼を魔物と称するに相応しいものとしていた。
「そう言えば、噂で聞いた君の名前‥‥確か‥‥」

 ――数日後、冒険者ギルド。
 壁に貼り出された新たな依頼は、数日前に遠方の森で起こった骸骨戦士退治の事件によく似ていた。
 今回の依頼は、その依頼の時に冒険者が訪れた森から少しだけ離れた別の森で、またもアンデットが姿を現したので、退治して欲しいとの事だった。
 全く関係のない別の事件とも考えられたが、ごく近い場所で、同じような事件が続けて起こった事を疑問視する意見も出たため、その背後関係の調査も含めての依頼となった。
 また、今回出現したアンデットに関して冒険者ギルドの記録より、とある男の名前が告げられた。
「グドル?」
「あくまでも可能性があるだけですが‥‥」
 数ヶ月前、問題の森で冒険者の一団が凶賊に襲われ、その場にいた全員が殺害されるという事件があった。
 幸い、すぐにギルドから依頼が出され、その凶賊達は撃退される事となったのだが、ギルドが調査したところ、その時に倒されたジャイアントの戦士と、今回の依頼で目撃されたジャイアントのズゥンビの間に、似たような特徴がいくつかあるのだという。
 もしそうであれば、相手は並のズゥンビとは考えない方が賢明だと、ギルドの係員は語った。
 とは言え、まだそうと決まったわけではないし、場合によってはただの取り越し苦労の可能性もある。
 何者かの手によるものなのか、それともただの偶然か。
 真実はまだ見えなかった。

●今回の参加者

 ea3761 鳳 蒼龍(41歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea3800 ユーネル・ランクレイド(48歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea7528 セオフィラス・ディラック(34歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea8807 イドラ・エス・ツェペリ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9462 霞 遙(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0117 ヴルーロウ・ライヴェン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0161 コバルト・ランスフォールド(34歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

サイラス・ビントゥ(ea6044

●リプレイ本文

 幾多の命を奪いし凶戦士。
 彼はその罪ゆえに剣の粛清を受け、暗い森の奥にて眠りについた。
 だが、永遠に続くはずのその眠りは、一人の少年の手によって解かれ、かの凶戦士は現世に甦る。
 再び、その身を血で染めるために‥‥。

「ちょっと、いいか?」
「‥‥何だ?」
 出発の日、ユーネル・ランクレイド(ea3800)はコバルト・ランスフォールド(eb0161)に一つの相談を持ちかけた。
「前の時の『忘れ物』についてなんだがな‥‥」
 そう言われてコバルトも思い出した。
 以前の冒険の帰り、ユーネルが一人で仲間達から離れ、戦いのあった現場へと戻っていた事を。
「あの場でも、おかしな話だとは思ったが‥‥。何か気付いたのか?」
「‥‥ああ。実は‥‥」
 可能性だけの、不確かな事実。
 自分でもそう分かってはいたが、どうしても頭を離れなかった一羽の鷹。
 その事を、ユーネルは悩み抜いた末にコバルトへ打ち明けた。

「ミミクリーでしょうか?」
 ショウゴ・クレナイ(ea8247)はコバルトから謎の鷹の存在があった事を伝えられると、一つの魔法の名を思い浮かべた。
「神聖魔法の使い手が関わっていたとなると、今回の敵が魔法で生み出された者だという可能性も高まるな‥‥」
 セオフィラス・ディラック(ea7528)も、合点がいくと頷く。
 前回の冒険でも、彼はずっと第三者の介入の可能性を考慮していた事もあって、ユーネルの見た謎の存在に深く興味を示した。
「そんな奴がいたとして、何をどうとち狂ってアンデットなんてばら撒いてやがるんだか‥‥?」
 理解できないという風に、鳳蒼龍(ea3761)は首を傾ける。
 この場にいる誰もが疑問に思っている事。
 だが、今のところ誰一人その理由に関して思い浮かぶ事はない。
「‥‥確かにその動機には少々興味はあります。ですが、到底理解できる動機を持っているとは‥‥」
 霞遙(ea9462)が呟く。
 死人を操り、人々を襲う。遙にとって、それは正気の沙汰とは思えない行い。
「実際に確かめてみるしかないか‥‥」
 小さくため息をつき、コバルトは天を仰いだ。

 ――冒険初日、夜。
 冒険者達の中で、大きな問題が発生していた。
「遠慮するな。このままでは、イドラの身がもたない」
「気持ちは嬉しいのです。ですが、ブルーに迷惑は‥‥」
 やけに疲労のたまった様子のイドラ・エス・ツェペリ(ea8807)の肩を、ヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)が支えていた。
 ヴルーロウはその手にある物を持って、それをイドラに受け取るように勧めている。
 それは、保存食。
「‥‥まさかこんな事になるとはな‥‥」
 呟くセオフィラスの視線の先には、イドラと同じように疲労の溜まった様子の蒼龍とショウゴの姿がある。
「ちっ、俺とした事が‥‥」
「すみません。ご迷惑を‥‥」
 イドラとこの二人の体調が優れない理由は簡単だ。三人とも丸一日、何も口にしていない。一つの保存食も用意して来なかったのだ。
 せめて用意を怠ったのが一人だけであれば、まだ他の者達が協力してある程度分け合う事もできたが、三人ともなると話は別。
 加えて、日数分の食料を用意してきたのは、ヴルーロウ、コバルト、セオフィラスの三人のみ。遙とユーネルも僅かに足りず、余裕があるとは言い難い。
 長距離を移動するにあたって、十分な寝食が行えるかどうかは、そのまま本人達の体調に大きく関わる。
 しばらくの相談の後、他の者に支障が出ない程度にという事で、ショウゴ達にも僅かな保存食は分けられた。
 それは、本当にほんの僅かだった‥‥。

 ――四日目。
 冒険者達が辿り着いた場所は、荒れ果て、人気のない森の奥深くだった。
「この辺りのはず‥‥なのです‥‥」
 イドラの目に映るのは、かつての戦いの後と思われる大地の傷跡。
「‥‥っ!?」
 突然、何かの気配を感じ、セオフィラスの肩がビクッと震えた。
「‥‥セオフィラスさん?」
 気づいたショウゴが声をかけると、セオフィラスは手にした剣と盾を強く握り直す。
「‥‥何だ、この禍々しい殺気は‥‥?」
 ザッ‥‥ザッ‥‥。
「この音‥‥あっちだ!」
 コバルトの耳に、小さな足音が届く。
 彼の示した方角に、冒険者達は一斉に動きだす。
 そして、いくつかの茂みを抜けたその先に、彼はいた。
 どこからか拾ってきたらしい錆び付いた剣を手に、彷徨い歩く巨人。
「あいつがグドル‥‥か。面白ぇ‥‥」
 目の前の敵に、蒼龍は小さな笑みを浮かべる。
 腐敗したジャイアントのその姿は見るもおぞましく、先日の骸骨戦士などとは比べ物にならないほどの威圧感がある。
「あの光‥‥。やはり、何者かが‥‥?」
 ヴルーロウが、グドルの身体を包む黒い光に気づく。
 キャメロットで耳にした、アンデットを生み出す魔法の存在と、そうして生み出された者は黒い光にその身を包まれているという話‥‥。
 本当にその魔法によって生み出された者かどうかは、その魔法を使えないヴルーロウでは断定できないが、それでも、目の前の敵が他者の手によって生み出された可能性が高いという事は分かった。
「蒼龍、頼む」
「分かった」
 ユーネルが差し出す剣を対象に、蒼龍は『オーラパワー』の呪文を唱え始める。
 そして、その剣が死者に抗しうる力を得た事を見届けると、彼は誰よりも先に敵に向かって駆け出す。
「先手必勝ってな!!」
「待て、そいつは‥‥!!」
 セオフィラスが注意を発するが、ユーネルは止まる様子を見せない。
「心配するな! こっちにも考えがあるんだよ!」
「勝手な真似を‥‥」
「援護します」
 コバルトとショウゴが即座に攻撃魔法での援護に入る。
「デカブツ相手に脚薙ぎが有効なのは、オーガ相手に実地済みだぜ」
 身体を低くし、グドルの下へ一気に走り込もうとするユーネル。
 時を同じくして、放たれる二つの黒き光『ブラックホーリー』
「‥‥なっ!?」
 ユーネルは驚嘆した。『ブラックホーリー』の直撃を受けてなお、少しも怯む事なく、その上、繰り出した薙ぎの一撃をボロボロの剣で容易く受け流してしまったグドル。自分の目の前にいる者が並のオーガなど遥かに凌駕する力を持った怪物であると気づいたその時には、己が腕はグドルの反撃を受け流しきれず、その一撃の重さに、受けた剣は弾かれて宙を舞っていた。
「ぐああぁぁっ!!」
「ユーネルさん!」
「くっ!」
 深い傷を負い、倒れたユーネルを助けるべく、グドルの側面に回りこんだ遙と、背後に回りこんだヴルーロウが、それぞれにダーツと『オーラショット』で攻撃する。
 しかし、それらの攻撃を直撃させてもなお、グドルに与えられたダメージはカスリ傷程度。
 その間に、蒼龍からの魔法付与を受け終えたセオフィラスが、ユーネルを庇うように前に出てくる。
「早く下がれ!」
 ――キンッ!
「グゥ‥‥」
 繰り出された素早い一撃に、受け止めたグドルから漏れる呻き声。
「全く‥‥。小手先の技が通じる相手かどうかぐらい、分かっていたはずだろう」
「くっ‥‥」
 セオフィラスの言葉に何も言い返せないまま、急いで距離を取るユーネル。
 逃がすまいと、グドルは剣を手に向かおうとするが、
「させません!」
 追いかけようとするグドルを、遙、コバルト、ショウゴ、ヴルーロウの四人が、離れた位置からの攻撃で牽制。
「‥‥死んだ後も世間に迷惑をかけるようでは、本格的に救えない人なのです」
「今まで散々好き勝手暴れた奴が、未練がましくしてんじゃねぇ!」
 続いて、イドラと蒼龍が生まれた隙を見逃すまいとグドルに攻撃を仕掛ける。
 それも、背後からの死角をついての攻撃。オーラを付与したその攻撃は、直撃させれば、かなりの威力を発揮するだろう。
 だが‥‥。
 ――ガン!!
「何!?」
「そんな!?」
 信じられない事に、グドルはズゥンビは思えぬほどの的確な剣裁きでそれらの攻撃を全て受け流してみせる。
 いや、受け流しただけではない。グドルは蒼龍の腕から盾を弾き飛ばし、さらにはその腕を掴むと、彼の身体をイドラに向けて投げ飛ばす。
「があっ!?」
「えっ!?」
 ――ズンッ!!!
 咄嗟の事に反応しきれずに、蒼龍の巨体の下敷きになるイドラ。
 イドラ達の体調が本調子でない事も原因だろうが、一連の攻防はあまりにも一方的だった。
「このままでは‥‥あっ!?」
 戦いの中、ショウゴがある存在に気づく。
 離れた場所にある木の陰。黒いローブをその身に纏い、顔を隠した謎の人影。
「見つけましたよっ!」
 この森に入った時から、戦いの中でもずっと探し続けていた存在。
 絶対に逃がすまいと、即座に駆け出すショウゴ。
「よせ! うかつに近づいては‥‥!」
 コバルトが声をかけた時には、もう遅かった。
 ――ブオッ!!
 謎の人影に、ショウゴが後少しの距離まで迫った瞬間、突如、彼の視界を漆黒の闇が覆う。
「くっ‥‥目が‥‥!?」
 胸元から一振りの短刀を取り出し、ショウゴに突き刺そうとする謎の人影。
「危ない!!」
 ――ドン!
「‥‥くっ!」
 間一髪、遙が間に割って入り、謎の人影を突き飛ばす。
 相手が怯んだ隙に、遥はショウゴを連れて後退。
「‥‥撤退しよう」
「ブルー‥‥」
「な‥‥敵の黒幕らしい奴はすぐそこに‥‥!」
「悪いが、私もヴルーロウに賛成だ。今、判断を誤れば、逃げる機会すら失うぞ」
 負傷したイドラを抱えるヴルーロウ。
 彼の言葉にユーネルが反発しようとしたのを、コバルトが止める。
 目の前のズゥンビにはまともなダメージを与える事ができないまま、それを生み出したと思われる神聖魔法の使い手が現れ、さらには冒険者達のうち三人が準備不足で本来の力を出せず、攻撃の要の一人であるユーネルは剣を失っている。
 冒険者側の不利は明白だった。
「ここまでか‥‥」
 セオフィラスも、グドルの攻撃から仲間を庇うのが精一杯の状況。
 冒険者達は戦いを撤退戦へと切り替え、機を見て一斉に退却した。
 幸い、謎の人影は冒険者達を追うような真似はせず、逃げる事自体は難しくはなかった。

「やっぱり、あの程度か‥‥」
 冒険者達が逃げ出した後。
 うっすらと微笑みを浮かべる謎の人影‥‥少年がそこにいた。