【狩人の宴】再来する悪夢
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 64 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月01日〜06月06日
リプレイ公開日:2005年06月13日
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●オープニング
その手に持った灯りを頼りに、何人もの男達が夜の森を走っていた。
彼らの目に映る数人の人影‥‥逃亡者達を捕らえるために。
「くそっ、こんな馬鹿な事があってたまるか!!」
「絶対に逃がすな!! くそっ、必ずもう一度、牢にぶち込んでやる!!」
逃げ出したのは、キャメロットへ輸送中だった罪人達。
だが、逃亡者達の足取りは総じて重く、中には歩くのも精一杯という者もいるようだ。
これなら、追いつくのも時間の問題。そう、誰もが思っていた。
‥‥そこに、『彼ら』さえいなければ‥‥。
「そんな足で俺達から逃げられると‥‥がああ!!」
「どうした!? 何が‥‥ぐはっ!!」
闇の中、放たれた漆黒の重力波が戦士達を襲った。
「やれやれ‥‥仮にも人々の平和を守る自警団が、この程度ですか?」
「うっ‥‥き‥‥さま‥‥」
地に倒れ付す男達を見下しながら、そのハーフエルフは嘲笑を浮かべる。
やや細身の、銀色の髪をした背の高い男だ。名は、シャグマ。
「せっかく逃がしてあげたのに、こんな所でもう一度捕まえられては困るのですよ」
「ぬかせ!!」
剣を抜き、シャグマに向けて即座に振り下ろす自警団の戦士。
――ギンッ!!
「何っ!?」
「‥‥弱っちいねぇ、おっさん」
二人の間に割って入る形で、一人の人間の男が大剣を手に現れた。
肩までだらしなく伸びた金色の髪と、紅い瞳が特徴の若い人間の男。名は、ジェイラム。
「余計な事を‥‥」
「おいおい、助けてやったんだ。素直に礼くらい言いやがれ」
戦いの最中であるというのに、平然と軽口を叩く二人。
「罪人どもの逃亡を手引きしたのは貴様らか‥‥。ならば、相応の覚悟はできているのだろうな!!」
――ザザッ!!
二人の周囲を囲むように、自警団の男達が連携を取って動く。
「おーおー。たった二人相手に大人気ないねぇ‥‥」
「本当は、こんなつまらない連中に時間を潰されたくはないのですが‥‥。まあ、雇われの身としては、あまり文句も言えませんしね‥‥」
見かけ上、圧倒的に不利であるにも関わらず、シャグマとジェイラムは余裕の表情を崩さない。
「かかれーー!!」
一人の号令を合図に、男達は一斉にシャグマ達に襲い掛かった。
――数時間後、冒険者ギルド。
かなり慌てた様子で、受付嬢の一人が冒険者達を呼び集めている。
「取り調べのため、一時的に自警団に預けられていた囚人達を乗せた荷車が、何者かによって襲撃を受けたそうです。犯人は乗っていた囚人達を連れて逃走。現在も逃亡中との連絡が入りました。冒険者の協力を要請したいそうです」
話を聞いて、幾人かの冒険者の表情が変わる。
自警団はけして烏合の衆ではない。それなりの訓練を受けた、優秀な戦士達が何人もいる。その実力はそうそう冒険者に劣るものではない。
それが助力を必要としているという事は‥‥、
「それだけの実力を持った相手‥‥という事か?」
一人の冒険者が訪ねる。
「おそらくは‥‥」
「この分なら、騎士団にも要請が出るんじゃないのか?」
「いえ、今のところは‥‥。今回の件は完全に自警団に落ち度がありますから、可能な限り、騎士団には知らせずに済ませたいのでしょう」
「‥‥なるほど。敵の人数は?」
「脱走者は数名ですが、こちらは自警団が自分達の手で捕まえると、そう言っています。応援の要請こそしていますが、向こうにも最低限、譲れない意地というものがあるのでしょう。皆さんにお願いしたいのは、その追跡を妨害しているという二人組への対処だそうです」
依頼内容は単純明快だ。
敵はたった二人。それを倒すだけ。
だが、冒険者達は気づいていただろうか‥‥。
これが、新たな事件のほんの始まりでしかない事に‥‥。
●リプレイ本文
追う者。そして、追われる者。
長い夜が明け、日が昇り、再び闇が訪れ‥‥。
それでもなお、逃亡者達はまだ逃げ延びていた。
あと少し‥‥もう少しで、再びこの手に自由を‥‥。そして、今度こそ‥‥。
再び悪夢の始まるその時は、静かに近づいていた。
「随分と上手く逃げているようだな」
「‥‥と言うより、まだ捕まってないって事に驚きすら感じるわね」
ケヴィン・グレイヴ(ea8773)とケイティ・アザリス(ea1877)が呆れた表情で自警団の面々を見ている。
キャメロットを発ってしばらく。依頼を受けた冒険者達は自警団の足取りを追いながら、ようやく彼らに合流する事ができた。その間、いまだに逃亡した者達は誰一人捕まっていないというのだから、自警団のやる気を疑いたくもなる。
「まあ‥‥こっちも他人の事は‥‥言えない‥‥よな?」
「うっ‥‥」
「まあ、えっと、それは‥‥」
エイス・カルトヘーゲル(ea1143)の呟いた言葉に、ケヴィンの他、側にいたニック・ウォルフ(ea2767)やミネア・ウェルロッド(ea4591)も困った表情を浮かべる。
「迷惑かけてごめんね‥‥」
「ううん。困った時はお互い様だから〜♪」
一方では、フィアッセ・クリステラ(ea7174)が申し訳なさそうに、太郎丸紫苑(ea0616)に謝っている。
実は今回、冒険者達の半数が保存食を買い足す事を忘れたまま、キャメロットを飛び出してしまったという問題が発生した。幸い、紫苑がかなり多めに用意してきていたので、深刻な事態には至らなかったが、この先の事を考えれば不安が残る出発となった。
「それで、私達に相手をして欲しい二人組みというのは?」
一同の気を取り直すかのように、トリア・サテッレウス(ea1716)が自警団に敵の詳細を訊ねた。
「一人は、大剣を使うファイターだが、まともに剣を交わそうとしねぇ。何人かで一斉に切りかかっても、全部避けやがる。あんな腹の立つ野郎は初めてだ。もう一人は、とんでもなく頑丈なウィザードでな。並の攻撃じゃ傷一つつかない上に、こっちの隙をついて一瞬で魔法を使ってきやがる。魔法でこっちが転倒した隙をついては、逃げての繰り返しだ」
忌々しそうな表情を浮かべながら、頭に包帯を巻いた自警団員の一人が答えた。見れば、あちこちに負傷した者の姿がある。皆、その二人組みにやられたそうだ。
「え〜と‥‥逃げ出した人達の人数とか、名前とかは〜?」
「そっちは俺達がやる仕事だ。余計な事まで知る必要はない」
紫苑が逃亡者について訊ねてみるも、必要以上の情報を教える気はないらしい。
「それで、その人達は今どうしてるの?」
今度はニックが訊ねる。
「偵察に動いている仲間の話だと、この先の森に隠れているようだが、今は動きが無い。しかし、こちらもかなりの戦力を削られたため、うかつには動けないというのが現状だ」
つまりは、睨み合いに近い状態らしい。
「では‥‥案内を‥‥頼む‥‥」
「ああ、そうだな。行くとしようか」
エイスの言葉に、いそいそと移動の準備を始める自警団。
しかし、いざ出発というその時、何故か誰一人動こうとはしなくなった。
「‥‥何をしている? 逃亡者達が逃げ込んだ森は向こうだ。早く行かないか」
「え? いえ、どうぞお先に」
トリアがさりげなく自警団に前を譲ろうとすると、彼らは途端に訝しげな表情になった。
「お前達、自分達が何のために呼ばれたのか、分かっていないのか?」
「‥‥何?」
エイスが疑問系で返すと、自警団員達は揃って呆れた表情を浮かべた。
「お前達は、俺達が逃げた連中を捕まえるまでの間、問題の二人組を抑えるための‥‥はっきり言えば囮だ。それが俺達の後ろについて来るのでは、意味がないだろう?」
言われてみれば、自警団の返答はしごく当然だった。
敵の奇襲に備えるために自警団を囮に使おうと考えていた冒険者達にとっては、かなりの不都合ではあったが、さすがにそんな事は口には出せない。
仕方なく、彼らは自警団の前になって森に入った。
入ってみれば、そこは入り組んだ複雑な地形の森だった。
「そこ、倒れた木があるから気をつけて。あ、そっちも」
今の時期は雑草もかなり延びている。気を抜けば、どこに足を引っ掛けるかも分からない。そんな中を、ニックは事もなげに進んでいく。本当は馬に乗って来たかったが、それには難しい場所だった。
先頭を行くのはトビアだったが、どちらかと言えば、ニックやケヴィンといった、森に慣れた者達が全体を引っ張っている。
「つくづく明るい時に入れて良かったわ。こんなところ、夜に入ったら敵を追うどころじゃな‥‥ん?」
足に絡みつく邪魔な雑草を払い除けながら、ケイティが呟く。その時、森の中で、一瞬何かが光ったように彼女は見えた。だが、そう見えた次の瞬間‥‥。
「皆、気をつけて!」
彼女が叫んだのに時を同じくして、放たれたのは漆黒の光。
「きゃあ!」
「くっ‥‥」
攻撃を受けたのは、後列にいたフィアッセとエイス。隊列の横から奇襲を受けた形になった。
「やれやれ、また面倒な鼠が増えたものですね‥‥」
魔法の放たれた方角を見れば、そこには鎧を着込んだ謎の男が一人。
「なっ‥‥シャグマ!?」
見覚えのある顔に、トリアは驚きの表情を浮かべる。
「ん? 知り合いか?」
シャグマの横にもう一人、今度はクレイモアを携えた男が現れる。
――ヒュン!!
「うおあっ!? いきなり何しやがる!!」
「ああ、外れちゃった‥‥」
ニックの弓矢による先制攻撃。が、これはあえなく回避されてしまう。
「こういう間柄ですよ。分かりましたか、ジェイラム?」
「なるほど」
ジェイラムと呼ばれたその男は、すぐにその大剣を構え直し、冒険者達に向き合った。
「‥‥よく見れば同族か。随分とくだらん連中に飼われているようだな」
シャグマの姿を見て、そう言ったのはケヴィン。
「それは、お互い様でしょう」
「‥‥何?」
言われてケヴィンはある事に気づく。先程まで後方について来ていたはずの自警団の姿が見えない。
「おい‥‥無駄話はその辺にしとこうぜ」
スッと動く素振りを見せるジェイラムとシャグマ。一斉に武器を取り、身構える冒険者達。
そして‥‥。
――ダッ!!
「なっ!? 逃げた!!」
「ええ〜〜〜〜っ!?」
突然、踵を返して走り出したシャグマとジェイラムに、ケイティと紫苑は驚きの声を上げる。
「こっちは忙しいんだよ!! 真面目にお前らの相手なんぞしてられるか!!」
「申し訳ありませんが、こちらも仕事でしてね」
確かに、彼らの役目が逃亡者達の護衛であるならば、自警団を放っておくわけにはいかない。冒険者よりそちらを優先するだろう。
「はいそうですか‥‥とでも言うと思っているのか!!」
「絶対に逃がさないよ!」
すぐさま番えた矢を放つ、ケヴィン、フィアッセ。降り注ぐ矢の雨が、シャグマを襲う。そして、それらは全て直撃した。
「無駄な事を‥‥」
だが、シャグマの反応は小さく舌打ちした程度で、全くダメージを受けた様子が見られない。
「ならば‥‥」
ケヴィンはすぐさま狙いを変えた。今度はジェイラム。
「甘いんだよ!!」
全てを受けきったシャグマとは逆に、ジェイラムは全てを回避してみせた。複数の矢を同時に放つ技は、その命中率が大きく低下する弱点を持つ。数が多ければ当たるというものではない。
「魔法詠唱する余裕さえ与えなければ‥‥!」
「しつこいですね!!」
シャグマを再度狙い、何回も射撃を繰り返すフィアッセ。だが、相手は詠唱なく魔法を放つ事ができる。思うような効果は望めない。
「逃がすもんか〜〜!」
ジェイラムの前に素早く回りこんだのはミネア。手に持ったのはパリーイングダガーだ。逃亡を始めた相手に対して機動性を優先し、クレイモアは手放したのだろう。
「邪魔だぜ、嬢ちゃん‥‥どきな!!」
「きゃああ!!」
だが、ジェイラムは振るわれたミネアの剣を全て交わしてみせると、彼女の体を思いっきり蹴り飛ばした。その攻撃を受け止めきれず、ミネアは後方に飛ばされてしまう。
「合わせて!」
「はい!」
ケイティの『サンレーザー』に合わせ、トリアがシャグマに切りかかる。隙をついての連携攻撃を狙ったが、
「見え見えなんですよ、そんな戦い方!!」
――ズンッ!!
「‥‥くっ!」
シャグマは冷静に、トリアだけを狙って魔法を放つ。ケイティの魔法は直撃するも、やはり効いた様子は無い。
「‥‥まずい‥‥な‥‥」
「ま‥‥待て〜〜〜〜!」
エイスや紫苑にいたっては逃げる敵を追いかけるのがやっとで、魔法を使っている余裕が無いという状態。
「えい!!」
ニックは油の入った瓶をシャグマに投げつけ、それは見事に命中した。
そして、今度は松明を分解して自作した火矢を放つ‥‥が、これが思うように飛ばない。
「あ、あれ‥‥?」
どうやら、矢の作成に失敗していたらしい。
「ははは! そんな程度で、よくもまあ、俺達をどうにかしようなんて考えたもんだなぁ!!」
ジェイラムの嘲笑。
それからしばらくの間、鬼ごっこじみた戦闘は続いた‥‥。
――数時間後、森の外。
そこにはがっくりと肩を落とした冒険者達と、またも負傷者を増やした自警団の姿があった。
敵の奇襲に対応できなかった事、前衛の少なさ、森という空間で上手く追跡行動が出来ない者が多かった事。数々の条件が重なり、冒険者達は結局、シャグマ、ジェイラムの双方の逃亡を許してしまった。結果、自警団は逃亡者達を完全に取り逃がした。
「‥‥受け取れ」
自警団員の一人が怒りを堪えながら、懐から金貨の詰まった袋を取り出し、ケヴィンの前に投げて寄越した。
「何故だ? 俺達は完全に‥‥」
「今日、お前らはここで例の二人組を倒した。俺達は逃げ出した囚人達を捕まえたが、再び逃げ出そうとしたので、仕方なくその場で処分した。分かったな?」
自警団の体裁を保つための、事実の隠蔽。冒険者達に渡されたのは口止め料という名の報酬だった。