【狩人の宴】蠢く者達

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 63 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月20日〜06月27日

リプレイ公開日:2005年06月29日

●オープニング

 その日、ギルドを訪れたのはとある村に住む農民の男だった。
「村のはずれに今は誰も住んでいない古い館があるんだが、最近になって妙な連中が出入りするようになってな‥‥」
 依頼の内容は調査だった。
 何でも、問題の館というのは、遠い昔に財を成したある商人が使っていたものらしいのだが、時の移り変わりによってその商人の血筋が絶えてしまったため、ここ数年、すっかり空き家になっていた場所なのだという。
「今から、十日くらい前だったか。随分と酷い格好をした7、8人程度の男達がその館にやって来てな。それからずっとそこに住み着いているみたいなんだ。あれは、どう考えても‥‥」
 もし、やましい事が無いならば村人に助けを求めてもおかしくない格好。だが、何も言ってこず、村に関わろうとする素振りも見せない。どこかから逃げ延びてきた盗賊団か何かではないかと、男は語った。
「実際に話を聞きに行ったりは‥‥?」
「まさか。気味悪がって誰も近づこうとしねえよ」
 他の村人達も、向こうの正体が分からないうちは、滅多な事はできないと考えたらしい。
「では、自警団に相談などは?」
「報告はしたが、あっちはあっちでおかしかったぜ。連中、俺の話を聞いて突然顔色を変えやがってよ。そのくせまだ何もしちゃいねぇ。こっちが色々聞いても、答えられないの一点張りでよ、ありゃ何か隠してやがるに違いない‥‥ってなわけで、こうしてギルドに来たわけさ」

 しばらくして依頼書が作成され、冒険者達に依頼が出された。
 だが、話に聞いた自警団の様子も含め、どうにも今回の調査の依頼、複雑な事情が絡んでいそうだ。
 果たして、冒険者達はどう動くのか‥‥。

●今回の参加者

 ea0616 太郎丸 紫苑(26歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea1143 エイス・カルトヘーゲル(29歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1877 ケイティ・アザリス(34歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea2767 ニック・ウォルフ(27歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6917 モニカ・ベイリー(45歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 逃げ込んだその場所で、彼らは待っていた。
 それぞれの目的と、それぞれの役目を果たすその時を。
 今はまだ、じっと‥‥。

「‥‥っと、まあそういう事がありまして」
 問題の村への道中、トリア・サテッレウス(ea1716)は、先日とある依頼で、自分達が失敗をした事をモニカ・ベイリー(ea6917)に話した。古い館に逃げ込んだという男達がその時の逃亡犯という可能性もあったので、知ってもらった方が良いとの判断だ。
「なるほどね‥‥。でも、いいの? それって口止めされてたんでしょ?」
「私は承諾した覚えはありませんから。お金だって、彼らが勝手に置いていっただけですしね」
 これだけを聞くと何とも腹黒い男だが、実のところ、トリアは前回の口止め料を、不甲斐なかった自分を忘れないための戒めとして持ち続けるつもりらしい。
 その一方で、他の者達はまた別の話をしていた。作戦の打ち合わせかと思ったが、実はそうではない。
「お前という奴は‥‥」
「ううっ‥‥ごめんなさい‥‥」
 皆の前で、ケヴィン・グレイヴ(ea8773)がミネア・ウェルロッド(ea4591)を叱っていた。
 実は、ミネアは今回も食料の用意を忘れてきており、仕方なく、他の者達が少しずつ食料を分けてあげた。前回の失敗から余分に用意してきた者がほとんどだった事を考えると、ここで念入りに釘を刺しておいた方が後の彼女のためかもしれなかった。

 村に辿り着いてすぐ、冒険者達はそれぞれの目的を決め分かれて活動を始めた。
 太郎丸紫苑(ea0616)とエイス・カルトヘーゲル(ea1143)とトリアの三人は、村での聞き込みを担当した。
「館に男の人達が来てから、何か変わった事は?」
「ふむ‥‥特に変わった事ってのはないな。向こうはこっちには近づいてこないし。まあ、しいて言えば普段何をやってるのか分からないから、少し不安がっている者は何人かいる」
「じゃあ、村の中に怪しい人がいるとか〜、あの館に近づいた人とかは〜?」
「いや、いないな。ここは小さな村だし、村人同士であれば、お互いの顔も名前もよく知っている。そんな奴がいたら、すぐに噂になる」
 トリアや紫苑は他にも色々と質問をしてみたが、どうにも大した情報は得られない。
「あの‥‥館‥‥について‥‥何‥‥か‥‥詳しい‥‥事は‥‥?」
「館か? 悪いが、俺達も中の構造とかそういうのは分からないな。主人がいなくなって寂れてからは、全く人が寄り付かなくなってる。それに、使用人とかで働いてた連中も、職を求めて他所に出てったから、村には残っていない」
 エイスの方もこれといって収穫なし。どうやらそういう事なども含めて、自分達で調査しなければならないようだ。

 一方、ケイティ・アザリス(ea1877)とモニカ、ケヴィンの三人は、館の周辺と問題の男達の調査に取り掛かっていた。
「一応、デビルやアンデットの類ではないみたいね」
 モニカは館に近づいて魔法による探査を試みたが、反応はなし。
 木々や雑草の間に身を隠しながら、ケヴィンも様々な位置から館の様子を窺う。
「それほど頻繁に出入りがあるわけでもない‥‥か」
 時折、館の中から足音などが聞こえ、人のいる気配は感じられるのだが、それが何人で何をしているのかといった事までは分からない。
「少しは窓を開けるとかしなさいよ。家に閉じこもりっきりだなんて、よく気が滅入らないわね」
 望遠視力を身につける『テレスコープ』の魔法を用いて、ケイティは村の方から館の監視を続けていた。近づかなくて済むのは利点だが、やはり、相手が姿を見せなくては難しい。
「お、やっと見えた」
 ふと、窓から外の様子を窺う男の姿が見えた。少しばかり痩せて、暗い表情をした、いかにも貧相な顔の男だった。

 その頃、ニック・ウォルフ(ea2767)とミネアは村を離れ、自警団の詰め所を訪れていた。
「何をしにきた?」
 開口一番、出迎えた自警団員の言葉はそれだった。
「はぁ‥‥ちょっとお腹すいた♪ 何かお茶菓子とかない?」
 周囲の自警団員達の奇異の視線などお構いなしに、適当な場所に腰を下ろして寛ぐミネア。中々肝が据わっている。
 ただ、当然の事ながら、それでお菓子など出てくるはずもなく‥‥。
 様子を見ていたニックが、諦めて自分から話を切り出す。
「僕達って、持ちつ持たれつの関係だと思うんだ。お互いに、他に知られたくない情報を持ってる‥‥でしょ?」
 この言葉に、目の前の自警団員は目を細めた。
「‥‥何が望みだ?」
「特には‥‥。ただ、前に貰ったこのお金、返させて貰おうと思って。あ、もちろんこれが無くても、誰かにあの事を話す気はないよ」
 そう言って、ニックはお金の入った小さな袋を出した。
「こんな真似をされて、俺達が信用すると思うか?」
 その自警団員の言葉には、明らかな敵意が感じられた。一歩間違えれば、何をされるか分からない。だが、ニックは怯まない。
「知人に手紙を預けてあるんだ。僕が帰らなければ、読んで欲しい‥‥てね。これがどういう意味か、分かるでしょ?」
 そう、一歩間違えれば、本当に何をされるか分からない、そんなギリギリの探りあい。
「‥‥いいだろう、受け取ってやる」
「良かった。ああ、そうだ。少し聞きたい事があるんだけど。近くの村に、怪しい男達が来てるって話、そっちも聞いてると思うんだけど‥‥」
 ――ガタッ!!
「くっ‥‥」
 近くにいた自警団員の男に胸倉を掴まれ、ニックの体が宙に持ち上げられた。
「あんまり調子に乗るなよ。俺達の仕事の邪魔をしようってのなら‥‥」
「よせ」
 別の男がすぐさま止めに入り、その場は何とか事無きを得る。
「悪いが、これ以上話す事はない」
 そう言われて、ニックとミネアはそのまま詰め所を追い出された。
 なお、ミネアもしっかり前回の報酬は置いてきていたりする。
「本当、話の通じない人達だよね〜」
「けれど、確かめたかった事は分かったよ」
 先ほど、一人の男がいった『俺達の仕事』という言葉が意味するものを考えれば、例の男達に関して、凡その見当はついた。

 ――調査開始より二日目。
 冒険者達は村で昨日のそれぞれの調査結果を話し合った後、再び解散してそれぞれの行動を開始した。
 昨日との違いは、ミネアとニックは村での調査にあたり、紫苑とエイスが自警団の詰め所へと向かった事。
 その日の詰め所での会話は、昨日ほど荒れたりはしなかった。
「えっと〜、僕としては何でお金が貰えたのか分からないから、返したいんだけど〜」
 前回の依頼で失敗だったのにお金が貰えた事が、紫苑には純粋に疑問だった。どうも、彼には賄賂というものの認識が無いらしい。
 不思議な事に、自警団はこれをすんなりと受けとった。彼らにしてみれば、昨日のニックとのやり取りが頭の中にあるのだろう。すんなりと受け取ったものの、その表情はかなり怒りの表情。紫苑にその気がなくとも、向こうはニックの時と同じ意味で渡されたものだと思ったらしい。
「相談‥‥が‥‥ある‥‥」
 エイスがある事を自警団に告げた。村の安全のために、例の連中を明日追い払いに行く。出来るなら応援を送ってもらえるとありがたい‥‥と。
 昨日、ニックとミネアが追い出された時の事を考えれば、これは相手の神経を逆撫でする可能性が高かった。
 ‥‥だが意外な事に、
「分かった」
 とだけ、自警団は返答した。そして、二人は何をされるでもなく普通に帰された。あまりにも上手く行き過ぎて、返って余計に心配になったほどだ。
 一方、村ではミネアが村人とお酒を飲みながら話をするという、子供らしからぬ調査法を用いていたが、本人が村人達と楽しく過ごせただけで、これといって新しい情報は無かった。
 他の者達の行動にも進展はないまま、この日の調査は静かに終了した。

 ――そして、調査最終日。
「くっ‥‥身体が‥‥!?」
「て、てめえら、何者だ!? 俺達に何の恨みが‥‥ぐっ!」
 冒険者達は一斉に館に突入し、男達の捕獲にかかった。
 今までの調査では十分な情報が集まっていたとは言い難かったし、時間になっても自警団からの応援は現れなかったりと不安な点も多かった。‥‥が、それらは杞憂であったらしい。
 トリアとミネアの剣が閃き、ケヴィンとニックの放つ矢が次々と男達を襲った。ケイティの放つ光が牽制となって逃げ道を塞ぎ、それさえ抜けてまだ逃げ続けた者は、エイスと紫苑の魔法によって拘束された。大した抵抗もできないまま、冒険者達の手によって次々に捕まっていった。戦いは本当にあっと言う間に終わった。
「何か、ちょっと拍子抜けだね‥‥」
 あまりに上手く行き過ぎた事が納得いかないのか、ミネアは今ひとつスッキリしない表情。
「いや、お前達はよくやってくれた。礼を言おう」
「‥‥え!?」
 その声を聞いた紫苑の振り返った視線の先、見えたのは自警団の姿。
「いつの間に‥‥。どこから私達の動きを監視していたの?」
「さあね」
 ケイティの言葉にそれだけ返すと、自警団の男達は一斉に動き、冒険者達によって縄で拘束された男達の身柄を確保した。
「おい、何を勝手な‥‥。俺達はまだこいつらに何も聞いて‥‥」
「それは私達がする仕事だ。君達の仕事はこれで終わりのはずだろう」
「くっ‥‥」
 有無を言わさぬ自警団の態度に、ケヴィンもそれ以上は言えなかった。
「さて、私達はこれで失礼するよ。本当にご苦労だったな、冒険者諸君」
 そう言って、自警団は去っていった。
「話には聞いてたけど、嫌な連中ね‥‥」
 自警団の後ろ姿を見送りながら、モニカは苦々しく呟いた。

 依頼は成功。村にも被害はない。自警団とも争いになるような事は無かった。
 だが、何も分からないままで終わってしまった。
 今日捕まえた男達が、以前自警団の元から逃げ出した逃亡者達であったのかさえ、聞いて確かめる暇も無かった。
 言いようのない不満を感じながら、冒険者達はキャメロットへと帰還した。