【それぞれの正義】目指したもの
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月29日〜09月03日
リプレイ公開日:2005年09月10日
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●オープニング
――某日、キャメロットにて。
そこに集まっていたのは神皇に認められ、力を授けられた者達。そして、神皇に忠誠を近い、神皇のためにその力を振るう者達。志士、そして陰陽師。
「分かっているはずだ。今、始末しなければ、いよいよ俺達の手に負えなくなる」
「命だけは‥‥と情けもかけてきた。だが、もはや限界だ」
仲間達の言葉に、彼‥‥天宮幸成はついに決断を下す。
「各所に散っている連中をできる限り集めてくれ。準備が整いしだい、奴らに襲撃をかけよう」
――後日、冒険者ギルド。
「先日はご期待に応えられず、申し訳ありませんでした」
「それは‥‥もう‥‥いいんです‥‥」
そこにあったのは、先日の依頼の失敗を謝罪するギルドの係員と、天宮小雪の姿。
「やはり今回も‥‥」
「‥‥はい。それも‥‥おそらくは‥‥最後の‥‥」
複雑な表情で語る小雪。
彼女の今回の依頼は‥‥。
「どうにかして欲しい‥‥と。ただ、それだけだそうです」
言われた冒険者達は困惑する。今までのような明確な目的は示されていない。依頼人の小雪自身、自分がどうしたいのか、どのすればいいのか分からないと、そういう事らしい。
彼女が言うには、近々、幸成を始めとする志士や陰陽師の方々が集まり、正十郎達の一団に襲撃をかけ、これを討伐するとの事だった。
「敵同士、当然といえば当然行き着くところでしょう。お互い祖国のために生きる者同士、今までは半ば暗黙の状態で命までは奪い合わなかったらしいのですが、いよいよそうも行かなくなったそうで‥‥」
小雪の話では、戦力的には幸成達が優勢ではあるが、今の正十郎達の力はけして侮れるものではなく、全力でぶつかりあえばどちらが勝つにしろ、大勢の死傷者が出るのは避けられないとの事だった。
「もし、この争いを止められるとすれば、これが最後の機会かもしれません。黙って結末を見届けるのであれば、それも一つの選択でしょう。どうされるかは皆さんが決めて下さい」
●リプレイ本文
自分とは違う正義。
自分とは違う信念。
それ故に、争いは終わらない。
彼らは選んだ道を後悔した事はあるだろうか?
信じたものを、疑った事はあるだろうか?
それは、これから起こりうる事なのかもしれない。
あるいは、最後までその意志を貫くのかもしれない。
‥‥本当に、争いは止められないのだろうか‥‥。
依頼を受けた冒険者達は、ほぼ半数ずつに分かれ、幸成達と正十郎達のそれぞれのいる場所へと向かった。
幸成達のいる場所へ向かったのはチョコ・フォンス(ea5866)、クラウス・ウィンコール(eb0911)、シェゾ・カーディフ(eb2526)の三人。なお、小雪はこちらに同行している。普段、幸成達は余り公にその姿をさらさぬよう活動しているため、会うためにはそうれなりの手引きのできる者が必要だったからだ。
「兄様から、お話はいろいろ聞いてるよ。一度会ってお話したかったんだ」
「い‥‥いろいろ‥‥ですか?」
話しかけたチョコの言葉に、小雪は少し戸惑い気味だ。今までの経緯もある。小雪自身は、余り冒険者達に良い印象を持たれていないのではとの懸念もあるのかもしれない。
「一緒に争いを止めようよ。あなたは、この争いで思ってたことを自分の兄様に伝えた?」
その言葉に、小雪は俯いて悲しげな表情を浮かべた。
「‥‥こんな争い‥‥本当は皆‥‥望んでないんです‥‥」
それから小雪はここ数日の自分達の事を語った。戦いの準備を整えながら、それでもまだ、何か戦わずに済む方法はないのかと、寝る間も惜しんで何度も話し合った事。
「でも‥‥結局‥‥」
何も良い案が出せず、途方に暮れた二人。そして最後の可能性として、小雪は冒険者への助力を要請したのだ。
ただ、依頼自体はほとんど小雪の独断での事らしい。彼女がギルドに訪れた時、どう依頼を出していいかさえ分からなくなっていた事を思えば、その心境は何となく察しもつく。
仮に、幸成や他の仲間達に相談しても、おそらく良い返事は聞かせて貰えなかったであろう事も‥‥。
「まあ、随分と警戒されているようだしな‥‥」
目的地までの道中に出会った何人ものジャパン人の顔を思い出しながら、シェゾは呟いた。何度も向けられた疑いの眼差しには、さすがに彼も気疲れを覚えた。
だが、もっとも嫌な表情を浮かべる男は最後に待っていた。
「何故、お前達がここにいる?」
「もちろん、君に会いに来たからだ」
シェゾの目から見て、久しぶりに会った幸成の表情は暗かった。少しやつれたようにも見える。戦いの準備で疲労が溜まっているのかもしれない。
「今日は、お話を聞いて貰いに来たの」
小雪にした時のように簡単に自己紹介を済ませた後、チョコはそう言って会話を切り出した。
「‥‥手短にしてくれ。こちらも忙しい身なのでな‥‥」
幸成の態度はそっけないが、話のできまま追い返される‥‥という事は無かった事に冒険者達は少し安堵した。
まず、クラウスが話す。
「提案があるんだ。精霊魔法の普及について、神皇家の方で制度を新しく設ける事はできないだろうか?」
「‥‥具体的には?」
「ケンブリッジの魔法学校のようなものを設立し、神皇家への忠誠と登録を条件に、志士と陰陽師以外への精霊魔法の普及を可能として欲しい」
「無理だ」
即答で返された。
「どうして? 今のままじゃ不安だから、正十郎さん達だって、あんな事をしてるんだよ。神皇家の権威を守ったまま魔法が使える人が増えれば黄泉人に対する不安も消えて、平和になるかもしれないでしょ?」
チョコが訊ねると、幸成はこう答えた。
「いいか。志士や陰陽師というのは、神皇家への忠誠さえあればなれるというものではないのだ。それらに加え、『家格』が認められて初めてその職に就く事を許される。分かるか? もしかしたら、お前達は『神皇家に仕える事で身分が高くなる』のだと思っているかもしれないが、それは違う。『分相応の身分だから神皇家に仕える事を許される』のだ」
忠誠心の有無と実力だけでは仕える事さえ許されぬ存在。それこそが神皇家を、引いては志士や陰陽師の地位の高さの顕れなのだと幸成は語った。
「家格や身分とは、それ自体が信頼を意味する。信頼のない者に力を持たせるわけにはいかない。そして、信頼なき者が力を得ようとするならば、それは阻止しなければならない」
厳格な身分制度があるからこそ、ジャパンという国は成り立っている。それが少しでも緩み、失われるような事があれば、その小さな綻びは瞬く間に国家の崩壊につながる‥‥。幸成はそう冒険者達に語った。
――その頃、正十郎達の方では‥‥。
「次に見える時は、また刃を交える時と覚悟していたのだがな‥‥」
「もともと、私は精霊魔法の普及に賛成でしたからね。先日は向こうからの依頼でしたので‥‥」
正十郎と言葉を交わすのは凍扇雪(eb2962)。他には朝霧桔梗(ea1169)、ショコラ・フォンス(ea4267)、ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)がこちらに来ている。
そして、ここに来た冒険者は、その誰もが幸成達の襲撃の予定について隠す事なく、知りうる限りの詳細を正十朗達に伝えたのである。
何かの罠だと疑われるかとも思ったが、意外にも正十郎達はすんなりと納得した。
「薄々気付いてはいらっしゃったのですか?」
「まあ‥‥。だが、いつどこでとなると、こちらではな‥‥。先日の非礼を詫びると共に、おぬし達の協力に感謝する」
桔梗の前で、正十朗は深く頭を垂れた。彼女はこの件に参加した動機が少し変わっていて、正十郎達に賛同したいというより、幸成や小雪を信用できないという面が強く、それで今はこちらに味方していた。敵の敵は味方‥‥などという言葉が浮かぶ。
「もし、次の月道で仲間が増えるなら、ここはいったん潜伏した方が得策でしょう。どこか良い当てはありますか?」
雪が訊ねると、正十郎はしばらく考え込んだ。
「嘘をついてやり過ごすという手はどうでしょうか? 精霊魔法の普及を諦めたと、向こうに伝えれば‥‥」
「‥‥いや、それは通じないだろう。精霊魔法の中には人の心さえ見破る術があると聞くからな」
ショコラが提案したが、これは却下。陰陽師の使う月の魔法などは、人の心に作用する術も多い。
「‥‥我らにとってはここは異国の地。それゆえ逃げ込む場所はない。‥‥が、一つの所に長く留まる必要もない。一時だが、キャメロットを遠く離れようと思う。ただし、今この時に我らの監視に当たっているだろう者達を振り切れるかがな‥‥」
「それは、私達の方でお手伝いするよ。でも、一つ聞いて欲しい事があるの」
「ふむ‥‥?」
逃亡の手助けを約束した上で、ガブリエルは言う。
「道のりが違う事でお互いが争うなんて、やっぱり駄目だよ。皆が歩み寄って、模索して、協力しないと、死人達になんて絶対勝てないなの。だから、皆に考えて欲しいの。今みたいに人間同士でいがみ合って戦い続けてたら、結局、何にもならないんじゃないかって」
しばらく悩んだ末、正十朗はこう返事を返した。
「今は、我らにはこの道しかない。だが、今のその言葉だけは、忘れずにいようと思う」
その正十朗の様子を見て、ショコラがある事を提案する。
「一つお聞きしますが、表向きで私達と同じように、ギルドに出入りする冒険者になるというのはどうでしょう? 機会があれば、精霊魔法の知識を得る事ができるかもしれませんよ」
これには正十郎は首を横に振った。
「今更そんなごまかしは効かないだろう。それでなくとも、機会が回ってくるのを待つだけというのは‥‥ん?」
その時、正十朗の近くに一人の男が近づき、何やら耳打ちをした。
「準備が整った。今すぐここを出る」
――数分後。
クラウス達が幸成に別れを告げ、その場を去ろうとした時の事だ。
足に小さな文を付けられた一匹の犬が、幸成の所へと辿り着く。そして、その文面に、幸成は驚愕する。
「‥‥なっ‥‥!!」
「どうかしたの?」
チョコの問いには答えず、幸成はその場を飛び出した。周囲の者達に声をかけ、慌てて馬を持ち出した様子を見て、冒険者達は何があったのかを悟る。
その時。シェゾが幸成の前に飛び出し、訴えるかのように、こう叫んだ。
「空を舞う鳥を見て、人は翼に憧れる!! 行過ぎた思いに、人は鳥から翼を奪う!! けれど、傷ついた翼ではもう空を飛ぶ事はできない!! ただ、鳥は傷つき‥‥人は、後悔だけを残す!!」
「何を‥‥!?」
「それでいいのか!! 本当に必要な事は何か、どちらも気づくべきだ!!」
一瞬、幸成の動きが止まる。だが、
「‥‥どけ!!」
「くっ‥‥!?」
幸成が手綱を操ると馬はシェゾを避け、瞬く間にキャメロットの街を駆けて抜けていった。
ようやく幸成がそこに辿り着いた時には、既に正十郎達の姿はなく、監視と追跡にあたっていた二人の陰陽師達の負傷した姿があった。その妨害にあたっていた冒険者達の姿も‥‥。
「お前達の仕業か‥‥」
「まあ、そういう事です」
その言葉の先には、笑みを浮かべながら刀を構える雪の姿。
その彼の後方の物陰より、一人の弓使いが姿を現す。ハーヴェイ・シェーンダーク(ea7059)だ。
「今からこんな事を言っても、聞いてもらえないかもしれないけどさ‥‥」
弓をしまい、もう戦う意志のない事を伝えた上で、彼は言葉を続けた。
「方法が違うだけで、お互い向いている方向は一緒だって、本当は気づいてるよね? 憂国の情を持つ貴重な人材、異国で果たすには、惜しいと思わない?」
‥‥しばしの静寂。
その後、呟くように幸成は言った。
「‥‥戻るぞ」
「しかし‥‥」
「責任は俺が取る‥‥」
傷ついた身を寄せ合い、撤退していく陰陽師達。
「‥‥お前達のその勝手な正義が何を招くか、よく考えるんだな‥‥」
その言葉を最後に、幸成もその場を去った。
こうして、冒険者達は正十朗達を逃がし、大規模な戦いを起こさずに済んだのである。
‥‥数日後、冒険者達に宛てて、ある情報がギルドに届く。
天宮幸成、そして天宮小雪。襲撃計画の失敗の責任を取り、二人が自害した‥‥と。