【それぞれの正義】それぞれの願い

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月10日〜08月15日

リプレイ公開日:2005年08月23日

●オープニング

 ――某日、キャメロット冒険者ギルド。
 そこに、二人の志士が訪れていた。天宮幸成という若き青年と、天宮小雪という少女。
「私達は‥‥神皇様のために‥‥この国で‥‥魔法の技術の管理を‥‥任されて‥‥います」
 集まった冒険者達に、小雪はそう切り出した。
「我らが祖国の事を知らぬ者も多いかもしれないが、ジャパンでは神皇家が精霊魔法の技術を管理しており、選ばれた僅かな者だけがその力を授けられるのだ」
 二人の話では、神皇家の精霊魔法技術の独占状態を維持するため、自分達の他にも、何人もの志士や陰陽師がここイギリスで密かに活動しているのだという。
「何でそんな面倒な事をしてるんだ? 誰もが自由に学べるようにすれば良いじゃないか」
 その場にいた一人の冒険者が訊ねる。イギリスにいる者達にしてみれば、これは当然の疑問だ。この国では魔法の技術は広く知られており、さらにはケンブリッジ魔法学校という、魔法使いの養成学校まで存在し、魔法の勉学はむしろ奨励されてすらいる。
「今のジャパンは死者の大群に襲われて大変だというじゃないか。いっそ‥‥」
 何人かがそんな言葉を口にすると、幸成は首を横に振りこう続けた。
「確かに、そうする事で助かる人々もいるかもしれない。救える命もあるかもしれない。‥‥だが、それはある大きな危険を孕んでいるのだ」
「‥‥と言うと?」
「魔法の‥‥悪用です‥‥」
 幸成と小雪が言うには、ジャパンという国では精霊魔法を悪用する者は、まずいないと言う。何故なら、ジャパンで精霊魔法を使える者はそのほとんどが志士か陰陽師。つまりは国に忠誠を近い、神皇家とその民のために力を使う者達。それこそが、今のジャパンという国の治安を守る要。
「強い力は、時に人を狂わせる。精霊魔法を人々に広く普及すれば、死者達の脅威を退ける事も容易くなるかもしれん。だが、その先に待っているだろう結末は、与えられた力に溺れた者達が起こす新たな争いだ」
「ですから‥‥必要以上に祖国に‥‥魔法の技術が広がる事は‥‥何としても‥‥防がないと‥‥いけないんです」
 そこまで語ったところで、二人は今回の依頼の内容についての説明を始める事にした。

 ‥‥事の起こりは、京の都に死者達が現れてからしばらく。戦いが長期化の様子を見せた時、一人の侍であった長谷部正十郎が精霊魔法技術の独占の中止とその普及を訴えた事。そして、彼がその結果として武士の資格を剥奪された事などを、小雪達は語った。
「ですが‥‥あの人はそこで‥‥諦めてくれませんでした」
 そう、正十郎は武士の資格を失ってなお、精霊の力を人々に広める事を望み、そのために動いた。同士を募り、精霊の力を操る者を探してはその伝授を願った。
「だが、祖国にいる俺達の仲間の手で、その全てが防がれた」
 当然と言えば当然の話だ。神皇家の膝元でそんな事が許されるようなら、とっくの昔に今の独占体制は崩れ去っている。
 しかし、それでもなお彼らは諦めなかった。そしてついに、彼らは大きな賭けに出る。監視の厳しいジャパンを離れ、遠き異国の地でなら‥‥と。
 だが、祖国には及ばないまでも、ここイギリスにも神皇家の手は届いていた。それが幸成達。結果、手詰まりになった正十郎達は、ついに強硬な手段を取るようになる。必要な物は奪ってでも手に入れ、必要な人材は攫ってでも連れていく。それが今の彼らなのだという。
「今までは‥‥私達だけで何とかしてこれました‥‥。でも、もうそれも‥‥」
 小雪が言うには、月道が開く度にジャパンより彼らと志を同じくする者がこちらに渡って来るようになり、段々と彼らへの対処が後手に回るようになってきているのだという。今のまま京都の死者との戦いが長引くようであれば、近いうちに自分達だけでは彼らを止められなくなるだろう‥‥と。
「その前に‥‥彼らを説得して欲しいんです‥‥」
 それが、今回の依頼らしい。
「説得‥‥? 何でそんな面倒な事を? 捕まえてジャパンに送り返せば‥‥」
「確かに、それも一つの手だ。だが、彼らもまた祖国のためを思って行動している。今は祖国を救うために、一人でも多くの力が必要な時。願わくば、平和的な解決を望みたい‥‥。だが、俺達の言葉では彼らには届かない」
 彼らは立場上、最初から完全に敵味方の関係だった。互いの主張は最初から平行線を辿るのみ。戦う以外の道はなかった。
「皆さんの力で‥‥どうか‥‥」

 ‥‥果たして、冒険者達はどう出るのか‥‥。

●今回の参加者

 ea1169 朝霧 桔梗(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4267 ショコラ・フォンス(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7059 ハーヴェイ・シェーンダーク(21歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0379 ガブリエル・シヴァレイド(26歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb0911 クラウス・ウィンコール(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb2526 シェゾ・カーディフ(31歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb2962 凍扇 雪(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3114 忌野 貞子(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クララ・ディスローション(ea3006

●リプレイ本文

 二つの正義の争い。
 それぞれの願いは同じはずなのに、それでも彼らは争いを続けた。
 ‥‥何故か。
 願うものは同じだというのに‥‥。
 もはや、彼らには争うしか道はないのだろうか‥‥。

 行き交う人の波。楽しげに言葉を交わす人々。平和なキャメロットの街並み。
 冒険者達もまた、その中にいた。視線の先にあるのは、一軒の屋敷。幸成達からは、そこに正十郎達がいるのだと聞かされた。
「正直に言えば、あの方々を私は信用していません。片方の言い分だけを聞かせて、それで相手を説得しろなどと、自分達の都合ばかりを押し付けて‥‥」
「確かに。一方の言い分だけを信じて、どちらが悪いと決めてかかるわけにはいかない。それは忘れないようにしなければ‥‥」
 朝霧桔梗(ea1169)とシェゾ・カーディフ(eb2526)は、そう言葉を交わした。幸成や小雪に対する彼らの疑問は消えてはいない。国の機密に関わる事項を簡単に他人に漏らせないというのは理解できない事もないが、今までの事から、まだ自分達に何かを隠しているのではないかと、そう思わずにはいられなかった。
「けれど、彼らは話し合う機会をくれました。一方的に相手を悪者にしたいのなら、こんな事をせず、倒すなり捕まえるなり、そういった依頼を出すと思います。そういった点では、彼らは悪い人ではないでしょう。疑うよりは、信じたいと思います」
「それに、平和的に解決できる可能性が僅かでもあるなら、それは実行すべきだと思う。これだけの重要な仕事‥‥。引き受けた以上は、俺にできる事は精一杯やらせてもらいたいと思う」
 言ったのはショコラ・フォンス(ea4267)とクラウス・ウィンコール(eb0911)。彼らは事前にジャパン出身者の忌野貞子(eb3114)からも、かの国の現状に関する話を聞き、この一件が非常に難しい問題である事は十分に承知している。それでも‥‥いや、だからこそ彼らは穏やかな解決を望んでいた。
「‥‥遅い」
「確かに気になるね。何かあったのかな?」
 貞子とハーヴェイ・シェーンダーク(ea7059)は屋敷の方を見ながら呟いた。
 実は、彼らに先んじてジャパンの出身である凍扇雪(eb2962)が正十郎達の元へ行っているのだが、何の動きもないまま長い時間が経過していた。何かの失敗をして捕らえられたのかとも思われたが、その割には中で争いが起こったような様子は全く感じられなかった。
「待ってればそのうち戻ってくるって言ってたけど‥‥。やっぱり心配だよ。私達も行こう」
 ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)が仲間達にそう呼びかけ、予定とは違った形で、彼らも正十郎達のいる屋敷に向かった。

「さあ、遠慮なく飲んでくれ。‥‥どうかしたのか?」
「いえ、別に‥‥」
 ガブリエル達が向かっている屋敷の中。そこでは、雪が同じジャパンの出身である男達と肩を並べて酒を飲んでいた。
(「こんなはずでは‥‥」)
 ‥‥話は数刻前に遡る。雪は屋敷の扉を叩き、そこで顔を合わせた男に、仲間に加えて欲しいと頼んだ。中に通され、当然の事ながら正十朗と顔を会わせた。
「お前はこの前の‥‥。一人か? 何の用で来た?」
「ですから、仲間に加えて貰いに来たのですよ」
 周囲の者達に刀を向けられてなお、雪は顔色一つ変えずにそう言ってのけた。
「‥‥動機は?」
 待ってましたとばかりに、雪は話を始めた。
「精霊魔法の普及は神皇家の格の低下につながり、それは国中を巻き込む大戦の火種となるでしょう。戦が起これば流れ者の私にも仕官の口が増えます。これほど良いことはありません」
 実に筋の通った、それでいて自分勝手な理由。普通に考えれば、国に対しての忠義など全く感じさせない雪の言葉。
(「これで、自分達のしようとしている事の愚かさに気付くはず‥‥」)
 正十郎達のしようとしている事がどんな結果を招くかを、彼ら自身に気付かせる事。それが雪の狙いだった。
「なるほど‥‥。良いだろう。しばらく監視はつけさせてもらうが、それでも構わないと言うなら‥‥」
(「‥‥‥‥え?」)
 全く予想しなかった答えに、雪は内心戸惑った。最悪、この場で争いになる事も覚悟はしていたし、良くても追い出されるのが席の山だろうと、そう考えていたからだ。
 何故、こうも彼が容易く受け入れられたのか、その理由はすぐに分かる事になる。

「‥‥多少の警戒はされると思っていたが、丸腰の相手にここまでするとはな。できれば酒でも飲み交わしながら話をしたいと思ったのだが‥‥」
「‥‥まさか、以前の事を忘れたとは言うまいな?」
 シェゾの言葉に、正十郎はそう返した。
 冒険者達は屋敷の中に通され、正十郎達と話の席につく事はできた。ただし、両手を後ろに縛られ背中に刀を突きつけられた状態で。ここまでせねば安心できないものかとも思うが、シェゾ達が文句を言える立場でない事は事実だ。
 ちなみに、正十郎達の側にはもちろん雪の姿もあったが、それには敢えて誰も触れなかった。
「そうですね‥‥。先日はお見事でした。わたくしも、まだまだ修行が足りないようです」
「‥‥それは皮肉か?」
「いえ、本当にそう思っています」
 見覚えのある忍者の顔を見つけ、桔梗は声をかけた。前回の戦いで桔梗は春化の術で眠らされこそしたが、それでも勝ったのは冒険者側。相手にしてみれば余り面白い話ではない。
「確認したい事があるのですが、よろしいですか?」
 桔梗は、幸成や小雪から聞いた話の内容に誤りがないかを確認するため、その場で彼らに自分達の知っている情報を話した。
「‥‥相違ない。その通りだ」
 正十郎達はあっさりと認めた。
「それなら‥‥貴方は‥‥手段が‥‥目的にすり替わっています。魔法は‥‥道具の一つです」
 そう切り出したのは貞子。ちなみに、この場で一番危険な状態にあるのが彼女だ。一応、商人の子としてイギリスに留学に来ているピチピチの女子魔法学校生徒、略して女子校生‥‥として身分を伝えたのだが、言及されていないだけで、それで納得して貰えたのかは定かではない。彼女の本当の身分は志士。バレれば、この場でどんな目に合うか分からない。
「今の‥‥ジャパンの情勢を考えれば‥‥精霊魔法の普及は‥‥権力者達の争いを‥‥起す‥‥」
 それを後押しするように、ガブリエルやハーヴェイが言葉を続ける。
「残念だけど、魔法の力っていうのは正しく使う人だけが使えるんじゃないよ。悪い人が魔法で引き起こした悲劇だって、たくさんあるんだよ‥‥。この前の聖杯戦争だって‥‥」
「それに魔法に頼らなくても、長谷部さん達には五体満足な身体があるじゃないか。今みたいにこの国で精霊魔法を調べるより、ジャパンに戻って一人でも多くの人を救う事の方が大切じゃないかな?」
 そこまでで冒険者達は一度言葉を切り、正十郎達の反応を見た。
「‥‥言いたい事は、それで終わりか?」
 呆れたような表情で呟く正十郎。全く動じた様子がない。
「いや、まだだ」
 さらに続けたのはクラウス。そして、ショコラ。
「民が魔法を習得できたとしよう。だが、経験や強い覚悟が無くては、実際の戦いでは役に立たないんじゃないか? 半端な力は不必要な争いを生むだけだ」
「精霊魔法の修得には時間もかかります。効率の良い方法とは思えません。今、それぞれが持てる力を合わせて、協力して戦う事の方が大切ではないでしょうか?」
 冒険者達にできる限りの必死の説得。思いつく限りの言葉を、精一杯に伝える。
 だが、正十郎達は、誰一人として顔色一つ変えなかった。

 ‥‥しばらくの間の後。
 冒険者達からそれ以上の意見が出ないのを確かめると、今度は正十郎達が自分達の考えを話し始めた。
「初めに言っておこう。精励魔法の普及によって戦乱が起こりうる事など、我らは百も承知だ」
 驚愕する冒険者達。彼らにしてみれば、一人でも多くの民を救うために戦乱を起しても構わないなどと、そんな話は矛盾以外の何物にも聞こえなかった。
「その戦乱で民が傷ついてもいいって、そう言うの?」
 聞いたのはハーヴェイ。だが、正十郎はそれを気にした風もなく、話を続けた。
「お主達に聞こう。今まで自分達が言った事、黄泉人に全てが滅ぼされたそうになったその時でも、同じ事が言えるのか?」
 その言葉に冒険者達は気づく。彼らと自分達の認識の違いを。死人達をどれだけの脅威と見ているのか、それが両者の間で全く違っていた事を‥‥。
「先ほど、我らが祖国に戻り、少しでも多くの死人を狩る事が人々を救う助けになるのではとの意見もあったな。‥‥今の我らの力で守れる命の数など知れている。僅かな時間稼ぎにしかならん。それを身をもって知ったからこそ、我らはここにいる」
 その声は余りにも悲しげで、必死に悔しさを堪えているようで‥‥。
「人同士が争うだけの余力があるなら、人のいる世界が消えてなくなるよりは遥かに良い」
「奴らの力が完全に我らを上回ってからでは、手遅れになる」
 周りの男達かあも次々に呟かれる声。それは、悲しみと恐怖に満ちていて‥‥。
「つい先日。京の軍や冒険者達が力を合わせ、全力をもって黄泉の軍と戦った。多大な犠牲を払ったが、それでも奴らは滅ぼせなかった」
「言ったな。精霊魔法の修得には時間がかかると。だが、他にあるのか? 奴らに抗する力を得る方法‥‥あるいは希望が」
 冒険者達は沈黙した。そう、彼らの説得には大事な物が足りなかった。それは、正十郎達が抱える問題に対する別の解決法。死者達に対抗するための別の可能性。
「‥‥話は終わりだ」
 冒険者達は順に縄を解かれ、外に追い出された。なお。この際にどさくさに紛れて雪も屋敷から抜け出している。

 依頼は‥‥冒険者達の説得は失敗に終わった。
 そして後に、事態はまた新たな動きをみせる事になる。