【翼】堕ちた翼【Bride War】

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:12人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月27日〜06月01日

リプレイ公開日:2007年06月05日

●オープニング

 その魂は、深い闇の中にあった。
 もはや、ただの肉塊と化した身は動くことはなく、痛みも苦しみも感じない。このまま闇に抱かれて静かに眠るのも良いと、彼はそう思った。
 ゆっくりと沈んでいく意識。消えていく感情。その中で、彼は自らの過去を振り返った。
 広い大地。雄大な山々。その中で、彼は生態系の王者として君臨していた。大地の精霊の力を意のままに操り、大空も、深き大地の中でさえも、彼を阻むものは何もないと、そう感じていた日々。
 けれど、最期の時を迎えた彼を待っていたのは、そんなものは幻想であったと思わせるような、惨めな現実であった。
 突然に現れた巨大な陽の精霊によって、彼は不自由な生き方を強いられ、それに抗うべく人と手を組み、しかし最後には、その人の剣によって命を絶たれた。
 ‥‥許せない。
 ふと、そんな思いが湧き上がった。魂の内より憎しみが溢れ、怒りが全てを支配していく。
 そして‥‥。

 ホルス捕獲作戦の失敗より早数日。
 ガルディア・ローレンの苛立ちは相当なものだった。戦略、手順、人材。時間をかけ、抜かりのないよう練り上げた作戦は、冒険者達の乱入によって脆くも崩れ去った。
「あらあら、まだそんな顔をされているのですか?」
「うるさい」
 美しい娘の姿をしたイペスが天使のような微笑みを浮かべながら言う。
 ガルディアにとっては、作戦が失敗した後にイペスが上機嫌であることも面白くなかった。クエイクドラゴンが死んだことでホルスは山から去り、その妨害を恐れて今まで大きな行動を控えていたイペスのような悪魔達は鳥籠から放たれた小鳥のように、自由を取り戻して活き活きとしている。作戦の際に雇った傭兵達の多くは、妨害に来た冒険者達から奪った貴重な魔法の品々や大量の金貨を持って嬉しそうに帰っていった。正直な話、彼らにしてみればガルディアが払おうとしていた報酬よりずっと良い成果を得たであろう。結局、貧乏くじを引かされたのは自分だけの気がしてならない。骨の髄まで商人であるガルディアにとっては、周りが得をして自分が損をするというのは何よりも腹立たしいことだった。
 そんな日々を過ごしていたガルディアのところに、突如としてその報告はもたらされた。
 部屋へと近づいてくる誰かの足音。急ぎの知らせなのか、だいぶ慌てているようだ。こういう時の連絡は大きく二種類しかない。支店のどこかで問題が起きたという嫌な知らせか、でなければ何か大きな儲けに繋がる上手い話だ。もちろんガルディアとしては後者であることを願うが、大抵は前者だ。
「ガルディア様、大変です! あのクエイクドラゴンが再び動き出して、周辺の村を襲っています!!」
「‥‥何っ!?」
 大抵の問題には慣れているつもりのガルディアだったが、まさかの報告に耳を疑う。クエイクドラゴンの死骸は、戦いの後、その鱗などを武具か何かの材料にでも使えないかと、少し離れたところにある、新たな開拓村の予定地の一つに一時的に運んでおいたはずだ。完全に死んでいたはずのそれが、どうして動き出したのか。
 詳細を訊けば、アンデッド化したのだという。納得はできたが、落ち着いている場合ではない。アンデッドの生命力は、戦前を遥かに上回る。クエイクドラゴンは、特にその強固な鱗の防御力が特徴であった魔物。それがさらに増した今、誰がドラゴンを止められるだろうか。だが色々と悩んだ末に、ある結論に至る。
「放っておけ」
 ガルディアはそう命じた。
「な、何故ですか‥‥!?」
「心配ない。考えがある。お前はすぐに連絡を徹底させろ」
 部下は疑問に思うが、ガルディアはそう言って部下を部屋から追い出した。
 そして、地図を取り出し何かの作業にかかる。
「‥‥やはりな。これは面白い。どうやら、あの作戦の失敗で私にも得することがあったようだ。‥‥さて、どこまで楽しませてくれるか」

 冒険者ギルドの元に、国からアンデッドとなって暴れているクエイクドラゴンの討伐の依頼が舞い込んだのは、すぐのことだった。
「こんな時にか。悪いことというのは重なるものだな‥‥」
 ラスプーチン反逆の情報は、既にキエフ全体に広がっており、各所に波紋を広げている。冒険者達も多くが動き出しており、今、この国は大きく動こうとしていた。
 大きな問題となったのは、今クエイクドラゴンの暴れている地域が、キエフにそれほど遠くない位置であったこと。これからの王国騎士団とラスプーチン軍の動き次第では、この突然の天災ともいえるクエイクドラゴンの存在が、大きな影響を与える可能性もあった。急がなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。それを国の方でも分かっているのだろう。しかし、まだ不確定な状況であり、下手に人手を割ける状況ではない。だからギルドに支援を求めた。

 果たして、この戦いの結末は‥‥。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5840 本多 桂(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9344 ウォルター・バイエルライン(32歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea9508 ブレイン・レオフォード(32歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2546 シンザン・タカマガハラ(29歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5375 フォックス・ブリッド(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9405 クロエ・アズナヴール(33歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

セツィナ・アラソォンジュ(ea0066)/ シャリオラ・ハイアット(eb5076)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868)/ ロイ・ファクト(eb5887

●リプレイ本文

 望んだのは自由。
 選んだのは従属。
 果てに待っていたのは、死。
 その翼は、もう空には届かない。

 轟音と爆炎が大地を覆った。焼き払われた大地より立ち上る黒煙。そして、その中より出でる巨大な影。
「そんな‥‥全く通じていないなんて‥‥」
 迫りくる目の前の敵に、ジークリンデ・ケリン(eb3225)は戦慄を覚えずにはいられなかった。放ったのは、人の使える魔術の域を超越したと言って過言ではないほどの、凄まじい威力の炎。並の魔物なら一瞬で焼き払ってしまうであろう爆発。
 その直撃を受けてなお、アンデッドと化したクエイクドラゴンはカスリ傷程度のダメージしか受けていなかった。
「‥‥駄目ですね。どうやら、魔法への耐性の高さは生前の時と同じようです。アンデッドになったことで耐久力が増しているようですし、こうなると、生前なら通じたかもしれない魔法でさえ‥‥」
 オリガ・アルトゥール(eb5706)の手には、アンデッドを導く力を持つという引魂旛があったが、死したはずのその竜は村に近づいていき、効果のほどは見られない。
 この地域への冒険者達の到着は早かった。少しでも被害が小さいうちにと、全員が移動力を高める魔法の道具を使い、急いだ結果だ。まだ対処はできる。
「ではとにかく、私達は人々の避難をすすめましょう。ここでじっとしていても仕方ないわ」
 言ったのはシェリル・オレアリス(eb4803)。キエフを発つ時には、魔法で竜の飛行を封じようと考えていた彼女だったが、実際に死の竜と化したクエイクドラゴンの姿を見て、その必要が無いことを知る。
 竜の背の翼には、既に生前の力強さはない。歪み、汚れ、傷ついた翼。アンデッド化したことにより、羽ばたく飛ぶために必要な瞬発力も失っているようだ。
 耳に響くのは、苦しみ呻く鳴き声。目に映るのは、怒りと憎しみに囚われ暴れる姿。
「‥‥私達が出会ったことに、意味は無かったのかな‥‥?」
 マリス・メア・シュタイン(eb0888)は誰にともなく、そう問いかけた。思い返せば、今のこの現状を生んだのは、マリスが竜と対話したことが一つの原因であった。自分があの時、竜に語りかけようなどとしければ。あるいは、商会や他の冒険者達との間で、もっと上手く立ち回れていたら、今とは違った結果があったのかもしれない。
 少し前のことだ。竜の索敵を行っていたシェリルがこんなことを話した。
「それにしても、商会の者達の姿が全く見えないのは、逆に気になるわね‥‥」
 以前、彼女が魔法で見た未来の光景では、ガルディアはどこかそう遠くない位置から、この光景を眺めているはずだった。それが、全く見当たらない。もっとも、その時に見た竜の姿は、今のようなアンデッドの姿ではなかったともシェリルは覚えている。それが確かなら、やはり竜が死なずに済む道もあったのかもしれないと、マリスは思った。
「幸せな結末にはならなかったけど、それならせめて安らかに眠らせてあげたい‥‥」
 けれど、並の魔法では攻撃しても無駄だろうというのは、先のジークリンデの最大威力の魔法を受けて平然としている竜の姿を見れば分かる。何も出来ないことが辛い。ただ、悔しさだけが心を締め付けた。
 
「この駄竜め、また余計な手間をかけさせやがって。今度こそきっちり止めを刺して遺体も処分してやる」
「まあ、あたしらがやったことだものね。後始末くらいは、きっちり付けるさ」
 クエイクドラゴンの向かう村の手前。立ち塞がり、武器を構えながら言葉を交わしたのはシンザン・タカマガハラ(eb2546)と本多桂(ea5840)。竜の誘導に関しては、シンザンも自身を囮に試みた。だが、竜には既にシンザンを自分を殺した相手だと認識する知性も残っていないらしく、彼の呼ぶ声ではなく、目に映っていた大きな破壊対象物である、村の方へと向かってしまった。
「まさか竜種のアンデッドに遭遇するとは思い至りませんでしたね‥‥。今起こっている反乱騒ぎといい‥‥全く、厄介事は一つ二つでお腹一杯なのですがね、正直言って」
「確かに。まさかこれほどの魔物と、こういう形で相対することになるとも思いませんでした。‥‥言ってもしょうがないことですね。眠らせましょうか、早く」
 ウォルター・バイエルライン(ea9344)が死者とは相反する生者の力、闘気の魔法を行使し、クロエ・アズナヴール(eb9405)の持つ勇気の名を持つ槍へと力を注ぐ。
「別に俺はあんたに憎悪を持ってないし、ましてや好意も持ってない。だが、森の主だったあんたの屍を晒し続けるのは侮辱に思えるし、アンデッドとして、負の感情を抱えたままってのは忍びない。だから、せめて‥‥」
 剣を持つ手に、想いを込めて。マナウス・ドラッケン(ea0021)は今一度、竜へと向き合う。
「まあ、ドラゴンもこうなると形無しですな。もはや、まともに思考も働いていないようですし。さて‥‥」
 思念を砕く力を持つといわれる死霊殺しの魔弓を携え、フォックス・ブリッド(eb5375)は不適に笑う。
「後ろに守るべき村‥‥か。この状況、初めてこのドラゴンと戦った時と同じだな‥‥」
 ブレイン・レオフォード(ea9508)は、いつかの戦いを思い出していた。それは、大切な友を失った日。仇を討ちたいと、そう思った。自分は参加できなかったが、先の戦いで仲間達がそれを果たしてくれた。だから、この戦いは自分らしく‥‥。
「今、僕が戦う理由は憎しみじゃない。もっと素直に‥‥ただ、助けられる人を一人でも多く助けること! 何とかなる‥‥いや、何とかしてみせる、絶対に!」

 最初にマナウスが仕掛けた。
 彼らが持ち出したのは、不浄を清める聖水の壷。封を解いたそれを、マナウスはありったけの力を込めて竜へと投げる。壷から零れた液体が竜へと浴びせられるが、竜は何事も無いかのように、冒険者達に詰め寄る。
「くっ、効いてないのか‥‥!」
「ちょっとやそっとで浄化できるような相手じゃないという事ですか。なら、小細工は不要そうですね」
 フォックスが三つの矢を弓を構え、放つ。それらは全て竜の身を射た。痛みに苦しむかのような咆哮が空気を震わせる。けれど、竜は歩みを止めない。
 巨大な牙は、前衛の一人であるシンザンへと襲い掛かる。
 ――ガン!
 白亜の小振りな盾を用いて、シンザンはその攻撃を事も無く受け流す。
「‥‥随分と、攻撃の狙いが甘くなったじゃねぇか」
 過去に二度も戦った間柄。互いに命果てるまで戦った相手。だからこそ、一撃を受ければシンザンには分かった。目の前にいるのは最早、かつて戦った竜の形をしているだけの存在なのだと。
 繰り出すのは、反撃のメタルロッド。大きく、竜の身がよろめく。そして、この瞬間を他の冒険者達も見逃さない。
「行きますよ、ベエヤード。この一撃に、全てを‥‥!!」
 愛馬の背に跨り、槍を手に駆けるクロエ。
 マナウスが、桂が、ブレインが、その手に強く剣を握り、竜へと斬りかかる。フォックスも再び弓を構え、幾つもの矢を放つ。
「もう‥‥終わりにしよう!」
 ブレインの剣が、ドラゴンの皮膚を切り裂く。かつて彼が戦った時、この竜の力は圧倒的なものだった。だが、今は違う。その手にした剣が持つのは死者を屠る特殊な魔力と、ウォルターによって施されたオーラの力。感じるのは確かな手応え。
 ――ドゴオオォォッツ!!!
 最後の一撃は、愛馬と力を合わせたクロエの槍。驚異的な生命力と、鋼のごとき鱗をもって他を圧倒したクエイクドラゴン。それが、今再びロシアの大地に倒れる。
 敵を知り、自分達に出来る最善の攻撃方法を選んだ冒険者達の勝利だった。

「やれやれ、ようやく終わったか」
 マナウス達が聖水を用いてドラゴンの屍骸の浄化を始めると、空から降りてきたのはデュラン・ハイアット(ea0042)。その手には死者の行動を阻害するという鳴弦の弓。戦いの間、彼は空からこの弓の力で影ながら仲間達を支援していた。普段の態度は尊大だが、仕事に関しては律儀な男のようだ。
「さて、では私はこれで‥‥」
「待った」
 帰り支度を始めようとしたところで、シンザンに呼び止められた。
「何だ? 私は色々と忙しい身なのだ。用件は手短にな」
「俺達の身包み剥いだ奴の情報、何か持ってないか?」
 先の戦いで奪われた荷物を取り戻したい。それがシンザンの話だった。
「ああ、そいつはあたしも聞かせて貰いたいねぇ。女の服を毟り取って武士の魂である刀を奪った変態野郎にはきっちり借りを返したいわ」
「私も、奪われた指輪を取り戻したいのですが‥‥」
 勝利の祝いに高級な蜜酒で一杯やっていた桂、避難活動を終えて戻ってきたシェリルも寄ってくる。
「知ったことではないな」
 デュランはあっさりと切り捨てた。
 先の戦いに関しては、デュランのように商会の外部から一時的に雇われただけの者も多い。冒険者や傭兵は基本的に流れ者だ。今も商会に残っているとは限らない。デュランにも分からないというのが実際のところだ。また、戦利品といえば聞こえはいいが、実質は盗品だ。中には長く持つことを嫌う者もいるだろうし、どこかに売り払われた品も少なくないだろう。
「まあ、どうにか自力で探し出すのだな。それでも全ての品は無理だろうが、一部なら連中と関わるうちに取り戻す機会があるかもしれん。精々頑張ることだ」
 それだけ言って、彼は場を後にした。

 キエフに戻って後、シェリルとジークリンデはローレン商会が悪魔に利用されている可能性をギルドや教会に知らせるべく動いた。先の戦いでシェリルが出会った謎の女。あまりに人間離れしたその力は、二人に悪魔を連想させるには十分だった。先日、天使の依頼を受けたギルド員に女の姿を魔法で作って見せると、同一人物であると判明。教会との接触は無かった。ただ、シェリル達の推察だけでは悪魔と断定するには証拠不足であり、商会に影響を与えるような何かには至らない。また、今回の事件でガルディアの責任を問えないかとも相談してみたが、ドラゴンのアンデッド化に関しては自然発生したものであり、事故と言うほかなく、加えて、ドラゴンが暴れた地域の村々は、商会からの援助や出資によって作られたものも多く、どちらかと言えばガルディアは被害者の側になるという。表向きには、という話ではあるが。

 その頃、ローレン商会にはデュランが出した手紙が届いていた。ドラゴンの後始末を終えたことを知らせる内容だったが、当然ガルディアには既に情報が届いている。それを分かっていてデュランは手紙を出しており、ようするに一種の嫌がらせである。もちろん、それからしばらくガルディアの機嫌が直らなかったのは言うまでもない。
「冒険者風情が‥‥! 今に見ているがいい。必ず、この借りは返させてもらう‥‥」

 ラスプーチンの反乱。戦場で姿を見せたという悪魔達。一つの終わり。そして、新たな始まりの予感。ロシアの地における冒険者達の戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。