【闇光】道を探して

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 22 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月05日〜08月14日

リプレイ公開日:2007年08月13日

●オープニング

 今より三月ほど前。
 人と悪魔と竜と精霊による、一つの争いがあった。
 人は日々の暮らしに戻り、悪魔は姿を隠し、竜は死に、精霊はいずこかへと飛び去った。
 しかし、それで全てが終わったわけではなかった。

 その日、冒険者ギルドを訪れていたのは、ハーフエルフの中年の男が一人。銀髪に碧の眼。やや細身の身体ではあるが、頼りないという感じではなく、むしろ引き締まっているという言葉が似合いそうな印象を受ける。
「私の名はパーヴェル。国に仕え、開拓事業の一端を任されている者だ。よろしく」
 ギルドに集まっていた冒険者達に向けて、男はそう挨拶をした。
「へえ、お役人さんか。それで、その人がどういった用件でギルドに来てるんだい?」
 近くにいた冒険者の一人がそう訊ねると、パーヴェルは次のように話だした。
「皆も知ってのことと思うが、ここロシアではウラジミール様の国策により、数年前から人々のよりよい暮らしのため、大規模な開拓を行っている。しかしながら、先日のラスプーチンの反逆以後、その進捗は思わしくないというのが現状なのだ‥‥」
 開拓事業は、人口過密状態にあるキエフの人々の今後のための、非常に重要な案件である。以前からも蛮族や魔物の妨害などはあったが、先の戦の影響で状況がさらに悪くなっているのだという。金も人手も余裕がないというのが、国の実情だろう。
「先日、新たな蛮族の集落が発見された。他の地域へと進出するための中継地としても申し分なく、どうにかしてその土地を国のものとしたい。だが、力で制圧するにも今の私達には余裕がない。そのため、これをできるだけ平和的に傘下に加えることができればと、そう考えている。今回は、彼らとの交渉を担ってくれる人材を募りたいと思い、ここに来た次第だ」
 パーヴェルがそこで話を一区切りつけると、また冒険者の側から質問の声が上がる。
「事情は大体分かったけど、単なる交渉なら役人の人が直接行った方が手間も少なく済むんじゃないの? 何でわざわざ冒険者に頼むわけ?」
「それなのだが、問題の蛮族達が妙なことを言っていてな‥‥。今回の件では、その辺についての調査も含めて依頼したいと考えているからだ」
「‥‥妙なこと?」
 首を傾ける冒険者達に、パーヴェルはこう言葉を続けた。
「自分達には、大いなる力を持つ『神』がついている。故に、他の何人の下にもつく気はない‥‥と、そう言っているのだ」

 ――同じ頃、キエフより遠方の街にて。
 一人の男が、机の上に並ぶ書類の山と向かい合い、黙々と計算を行っていた。
 ロシア国内のあちこちに支店を持つローレン商会。その主である男の元には、各所からの注文書や報告書が定期的に届く。その全てに目を通すのはかなりの重労働だ。
 その男、ガルディア・ローレンの部屋を美しい娘が一人、訪れていた。
「これはまた‥‥相変わらず精が出ますね」
「‥‥もし邪魔をしに来たのなら、とっとと自分の部屋に帰れ。見ての通り、私は忙しいんだ」
 話ながらも、ガルディアは娘の方をちらりとも見ず、目の前の仕事に掛かりきりである。
「あら、ご挨拶ですね。今日は、とても大事な話を持ってきてあげたのですけど‥‥」
「何だ? さっさと言え」
「ラスプーチン様からのご連絡です」
 ピタリ‥‥と、忙しく動いていたガルディアの作業の手が止まる。
 先の大きな戦の時、幾多の悪魔達と共に深い森の奥へと姿を隠したというラスプーチン。
 ガルディアは、その男と密かな繋がりを持っていた。そして、彼の目の前にいる娘も、何を隠そう、その真の姿は高位の悪魔であり、名をイペスという。
「‥‥続けろ、イペス」
「今、ラスプーチン様達がしている活動の一つに支障が出ているそうです。何でも、頑なに傘下に加わることを拒んでいる蛮族の一団がいるとか」
「気になる話だな。ただの蛮族の一つや二つ、あの方なら何とでも出来よう。何の問題があるというのだ?」
「それが、その蛮族には、厄介な味方がついているそうですよ」
 悪戯っぽく微笑むイペス。
「その厄介な相手というのが‥‥」

 ――少し時は移る。
 暗黒の国と呼ばれる森の中。エルフの青年が一人、森を歩いていた。古くからこの地に住まう彼らは、新たに勢力を広げ始めた人間達によって棲家を追われ始めている者達。時に、蛮族と呼ばれることもある森の民である。
 鬱蒼と茂った木々の合い間を抜け、辿り着いたそこに、それはいた。
「神よ‥‥」
 金色の翼を持つ巨大な鳥が、呟いた青年を見下ろしていた。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3811 サーガイン・サウンドブレード(30歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9508 ブレイン・レオフォード(32歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

エスト・エストリア(ea6855)/ アクエリア・ルティス(eb7789

●リプレイ本文

 蠢く闇。
 見えない光。
 それぞれの思惑が交錯する森の中で、新たな運命が動き出す。

「何をしているのだろうな‥‥私は‥‥」
 仲間が貸してくれたテントの中で寝袋に包まりながら、ふと、レイア・アローネ(eb8106)はそう呟いた。
 周囲に仲間の姿は無い。皆、彼女を置いて蛮族との交渉に向かった。もちろん理由はある。レイアがまともに交渉の出来る状態に無かったからだ。
 徒歩で四日間の道のり。そこに食料を持たずに来てしまったレイアは、目的地までの道中で完全に体調を崩してしまっていた。こんな初歩的なことで他人を頼るのも情けない話だが、仲間の食料にもっと余裕があれば、違う結果もあった。例えば、真幌葉京士郎(ea3190)やエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)などは、野宿になるというのに毛布や寝袋のような寝具を一切持ってきておらず、けれどもカイザード・フォーリア(ea3693)の持ってきたこのテントのおかげで、それなりに快適な就寝を行うことが出来ていた。ギルドの報告書に詳しく載ることは多くないが、こうした細かな部分での仲間同士の助け合いはよくあることだ。ただ、いつも誰かが助けてくれるとは限らない。今回のレイアのように、非常に残念な事態を招くこともある。
 しばらくして、カイザードとエルンスト。それから少し後に京士郎が戻って来た。皆、表情は堅い。
「‥‥どうだった?」
「駄目だ。やはり、一筋縄ではいきそうにない」
 状況の整理も含めて、カイザード達は自分達の見てきたことを語り始めた。

 少し時は遡る。カイザード達より前に、蛮族に接触した者達がいた。
 蛮族の領域への手前。デュラン・ハイアット(ea0042)、サーガイン・サウンドブレード(ea3811)、オリガ・アルトゥール(eb5706)の三人は、弓を構えるエルフの男達に囲まれ、非常に危険な状態にあった。
 問題の起こりは、王国に反逆したラスプーチンの捜索隊を名乗ったデュラン達が、あることを口にしたことからだ。
「調査を受け入れて安全が確認されれば、我らは速やかに撤収しよう。もし断る様なら、王国もそれなりの手段を採るやもしれん」
 多少の圧力を用いるのも立派な外交。王国と正面から事を構える気はないだろうと、そう睨んでの一言。だが、これは思い違いだったらしく、明らかに相手の態度は硬化した。
「俺達の命を奪うくらい何てことはないと、そういうことか」
「そうやって、自分達に従わない森の民は力で支配してきたわけだ?」
「馬鹿にしやがって。お前らがその気なら‥‥」
 エルフ達の弓を引く手に、より強く力が篭る。
「待って下さい。仲間の非礼はお詫びします。私達は、皆さんと争いを起こしたいわけではありません。どうか、ここは平和的に‥‥」
 慌ててオリガが状況を鎮めようとするが、どうにも反応は良くない。
 そこに、今度はサーガインが口を開いた。
「申し訳ありません、皆さん。今のは神に会いたいが故についた、愚かしい嘘なのです」
「‥‥何?」
 『神』という言葉を口にした瞬間、エルフ達の視線はサーガインに注がれた。
「噂に聞いたのです。ここに、地に降りた神がいると。その存在を疑うことが罪であるとは分かっています。しかし、心穢れたる王国の人間達は、その御姿を確かめることが出来なければ、それを信じることが出来ないのです。本当は私もクレリックとして、あなた方の崇める神を信じたいのです。どうか、分かって頂けないでしょうか」
 一部のエルフ達が目を見合わせ、何かの意志を伝え合う様子を見せる。次に、男の一人が口を開く。
「先の暴言については、不問にしよう。だが、お前達が本当に我々の神を害せぬ存在であるか分からぬ以上、やはりこの先に通すわけにはいかんな」

 デュラン達が去って少し後、カイザードとエルンストがやって来たのは、その時だ。
「ロシア王国からの遣いで来た者だ。どうか、話を聞いて貰いたい」
 カイザードは、キエフで依頼人のパーヴェルと話をして、蛮族との交渉の落とし所を探った。その結果、国側の要求は、蛮族にとってけして悪いものではないということが、はっきりと分かった。
 まず、領主には蛮族の長がついて問題無いとの返答だった。それどころか、開拓奨励の一環ということで数年に渡る長期間の税の免除を認め、さらには今後の開拓作業に伴って、ある程度であれば物資や金銭面での援助も考えているとの好条件を提示してきたのである。宗教に関しても、人に害をなさない存在であるならば信仰の自由は尊重するとの返答だった。
 しかし、一番の問題は別のところにあった。
「信用できない」
 カイザードの口から聞かされた魅力的な条件の数々を、エルフ達はその一言で切って捨てた。
 王国と蛮族達との溝は深い。今までロシア王国の行ってきた開拓事業によって、いくつの部族が棲家を追われ、何人の命が犠牲になってきたかを思えば、様々な好条件も蛮族達にとっては何かの罠ではないかと警戒してしまうものなのだろう。
 エルンストがロシアの森の何処かに身を潜めているだろうデビル達についての話を振ってみたが、こちらも同様だった。
「個々の人間をそそのかして動かされたら厄介だ。そういった事態に対する点だけでも協力できないだろうか?」
「どうかな。お前達、王国の人間こそ、デビルの手先なんじゃないのか」
 取り付く島も無いとはこのことだろう。

 ――時は今に戻って。
「とにかく、あの警戒心の強さには参ったな」
 カイザード達が交渉を行っていたのと同じ頃、別の場所で京士郎も蛮族のエルフ達に接触していた。
「神について詳しい話を聞こうと思ったら、余所者に話すことは無いときたもんだ。とにかく正面から普通に話をしにいったのでは、どうにもならないな。というか、あの異常な警戒‥‥もしかしたら、何か他に敵がいるのかもしれない」
「ありえない話でもない。暗黒の国に逃げ込んだ悪魔達が森の中で何をしているのか、王国としても情報が欲しいところだろう。その手掛かりが掴める可能性もあるかもしれないな」
「依頼の内容とは関係ないが‥‥もし、何か分かるなら、思わぬ収穫になるかもしれない。ただ、どちらにせよ、今回はここまでか‥‥」
 進展という意味では、余り良い結果ではなかったことを残念に思いながら、京士郎達はキエフへの帰途についた。

 多くの冒険者が今ひとつ成果を上げられない中で、蛮族の領域への潜入に成功した者がいた。
「本当に助かった。もしここに来れなければ、今頃は森の魔物の餌になっていたかもしれない。感謝するよ」
 エルフ達に礼を述べている男の名は、ブレイン・レオフォード(ea9508)。
 彼は、道に迷い困り果てている旅人の振りをして蛮族に接触し、その生活圏へと足を踏み入れることに成功していた。もし、この蛮族が血も涙のない者達であったなら、今頃は身包みを剥がれて森の中に捨て置かれていたかもしれない危険な賭け。その賭けに、彼は勝利した。
「余所の人間とはいえ、困っている者を見捨てるのは誇り高き我らの流儀に反する。しばし身体を休めた後は、速やかに立ち去ることだ」
 もちろん監視はついているし、行動できる範囲は制限されていたが、それでも外部からでは分からない様々な情報を知ることが出来た。
 このエルフ達の集落は、百五十から二百人程度で構成されている。女子供や老人は集落の外には出ず、見張りを兼ねた男達が狩りをして獲物を持ち帰ってくる。住居は木を組み立てた簡素な小屋が主で、あまり頑丈そうではない。
 色々と聞きたいことはあったが、エルフの男達が、王国の遣いを名乗り神について嗅ぎまわる妙な奴らが現れたと話すのを耳にし、下手なことは言わない方針に切り替えた。
「これは‥‥」
 一夜の寝床を借してもらった礼にと、壊れた生活用品や武器などの修理を申し出たブレイン。その作業の中、渡された品物の中に、少し珍しい物を見つける。
「不恰好ではあるけど、銀の矢だ。それもこんなに‥‥」
 希少な品である銀の矢。それがかなりの数あることに、ブレインは少しばかり違和感を覚えた。

 エルフ達の領域の上空。
 男が一人、浮かんでいた。
「ふっ。この私が手ぶらで帰るなどと、そんな恥ずかしい真似が出来るわけがないだろう」
 オリガ達と離れ、一人空からの調査というわけである。そして、一つの成果を得る。
「ふむ‥‥あれか」
 インフラビジョンを用いた視界の先。森に囲われた小さな谷と、その中にいる一羽の巨大な鳥、ホルスの姿が見える。あれが、蛮族が神と呼ぶ存在だろうか。近づいてみたいところだが、エルフ達の攻撃を受ける可能性を考えれば、無理はできない。
「以前、出会ったものと同じか、あるいは別か‥‥。どちらにせよ、面白くはなりそうだな」

 一方、サーガインもまた、一人で行動を始めていた。そして、彼は他の誰もが思いもよらぬような行動に出ていた。
「初めまして。私はサーガインと申します。いやいや、ここに来れば皆さんに接触できると思いましたが、どうやら当たりだったようですね」
 サーガインの視界には、インプ、クルード、グレムリン等の様々な悪魔。そして、特に気になったのは、その悪魔達の中心にいる二つの存在。金色の髪の娘と、炎を身に纏った黒い翼の大きな悪魔。
「珍しいものを見つけたものですから、ちょっとお話してみたくなりまして」
 娘は、サーガインにそう話しかけた。
「貴方のような、お美しい方の目に止まれて光栄です」
 微笑んで、娘は言葉を続ける。
「私、魔法で少し人の心を見ることが出来るんです。普通、人間は誰もが悪魔に対して敵対心を抱いているものなのですが、貴方にはそれがありませんでした」
「私は強い者が好きでして。悪魔は人間より遥かに優れた存在。以前より、私の知恵を悪魔の皆さんのお役に立たせたいと、そう思っておりました」
『イペス様‥‥このような者、役に立つとは思えませんが‥‥』
 娘の隣にいた炎を纏った悪魔が、そう言った。
「いいえ、ネルちゃん。利用できるものは、できるだけ利用しないと」
『ネルガルです。妙な呼び方はお止め下さい』
 悪魔の世界も何だか大変そうだ‥‥と、サーガインは思った。
「うふふ。サーガインと言いましたか。とりあえず、こちらも忙しいので、今日のところはご挨拶だけということで、よろしいかしら」
「それは残念です。できれば、このままご一緒させて頂きたかったのですが‥‥」
「‥‥そうですね。もし私達の仲間になりたいのなら、それに値する者であると証明して下さい。いずれ、機会もあるでしょう」
 最後にそう娘は言葉を残し、光と共に娘の姿が消えると、周囲の悪魔達も忽然と姿を消した。
「証明ですか。さて、どうしたものですかね‥‥」
 サーガインはクスリと笑みを浮かべる。
 だが、悪魔の仲間になるということは、人間であることを捨てるということ。それは、あのラスプーチンのように国を追われ、人間という種の敵となることを意味する。それでもなお。彼はその道を目指すのだろうか‥‥。