【闇光】それぞれの思惑
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 20 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月30日〜09月08日
リプレイ公開日:2007年09月10日
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●オープニング
――キエフより遠方の街、ガルディア・ローレンの屋敷にて。
「間違いないのか?」
「ええ、あのホルスですよ。正直、驚きましたけれども」
イペスからの報告を受けても、ガルディアはまだ、その事実に納得できない部分が多くあった。
精霊という存在の多くは、すすんで人と交流を持とうとはしない。ホルスもその例外ではなく、時に太陽と知の遣いとも言われるこの精霊は広く世界を見渡し、精霊や神々の動向を見守っているとされる。それが何故、ただの蛮族などに力を貸しているのか、全くもって理解し難いというのが実際のところである。
「それで、どうされますか?」
「‥‥潰すしかあるまい」
「あら、貴方にしては随分と殊勝な心がけですね? 前は、捕まえて利用しようとされていましたのに」
「ふん、あんな大損をするのは一度で結構だ。賭け事もそうだが、下手に損を取り戻すことに拘ると周りが見えなくなって、さらに負けが重なる。駄目だと思ったものには余計な手出しはせず別の機会を待つか、冷静になって今までと違う手法を考える。それが出来ずにこの世界から消えていった商人を、私は何人も知っている」
そう言った後で、面白くもなさそうに、ガルディアは机の上にあった一通の手紙を手に取り、イペスに渡した。
「これは?」
「いつぞや雇った冒険者が私宛に寄越したものだ。ギルドの方でもホルスの存在には気付いているらしい。部下にも調べさせたが、王国は例の蛮族ごと傘下に加えるつもりだそうだ。余計なことをしてくれる‥‥」
受け取った手紙に目を通し、イペスはクスリと笑みを浮かべる。
「こうして貴方に情報を流す目的は何だと思います?」
「さてね。私に何かをさせて得る利益があるのか、それとも、自分達の立場が危うくなった時に、こちらに寝返るための保険か。‥‥まあ、こういう立ち回りのできる者は嫌いではない。時が来れば、役に立つことがあるかもしれん」
「私の方も先日、面白い人間を見つけましてね」
「ほう‥‥。それで、使えそうな人間か?」
「ふふっ。それは、これから確かめるところです」
――数刻後、屋敷の一角にて。
「妙な仕事だな‥‥」
呟いたのは、銀色の髪のハーフエルフの青年。名をクラスティという。
かなり前からローレン商会に雇われている傭兵で、アルスターの流派を学んだ弓の使い手であり、精霊碑文にもそれなりに通じている。商会の傭兵の中でも屈指の実力者の一人であり、傭兵で部隊を組んで動く時の隊長を任されることも多い。
「あれ? クラスティ君、浮かない顔して、どうかしたのかな?」
金色の髪の若いエルフの女が一人、クラスティにそう声をかけた。名をレルという。主に火の精霊魔法を使うウィザードで、火の魔法の扱いに関しては超越級の実力を持つ。ただ、完全に使いこなせるわけではないし、無理をしてまで使わなければいけない機会も無いというのが本人の談で、そのレベルでの魔法の発動はクラスティも見たことが無い。
二人は、以前に商会がクエイクドラゴンを利用してホルスを捕獲しようとした時からの傭兵仲間で、その時の活躍から、共に重要な仕事を任されることが多くなっていた。
「新しい開拓地の候補となった土地から蛮族を追い出す。‥‥そこまでは納得できるんだけど、蛮族に味方する者がいた場合も同様に‥‥っていうのがね。蛮族に味方するなんて、そんな連中、いるのかなって」
「う〜ん‥‥そう言えば、前のホルス捕獲作戦の時も、商会の邪魔をしに来た人達がいたよね。ローレン商会の成功を妬んだ誰かに雇われて商会の邪魔をしにきた傭兵達かなって思ったけど、なんだか凄く強かったし、他の人の話だと、結構有名な冒険者の人もいたとか何とか‥‥」
「自慢じゃないけど、俺、他人の噂とかに余り興味ないから、その辺は疎いんだ。まあ、俺達は俺達なりに仕事をして報酬を貰うだけだし、向こうもそうなんだろうから、互いの事情なんて気にしても仕方ないとは思っているけどね」
しかし、まだすっきりない表情のクラスティは、こう言葉を続けた。
「ただ最近、ガルディアさんの行動に疑問を持つことがあるんだ。あの人の思想は俺なんか考えも及ばないところにあるんだろうって思っているし、雇われの身でこんな事を考えるのもいけないとは思うんだけど、本当はあの人は、何か良くないことをしようとしているんじゃないか‥‥ってね」
――同じ頃、ガルディアの屋敷のある街の一角にて。
「それじゃ、ネルちゃん。とりあえず今回も様子見ということで、皆さんへの連絡、よろしくお願いしますね」
『イペス様‥‥。その呼び方は止めて頂きたいと何度もお願いしているではありませんか‥‥』
地獄の密偵とも呼ばれ、下級悪魔の中でも上位の力を持つネルガル。大きな翼を持ち、炎を身に纏った恐ろしい悪魔が、若い娘の姿をしたイペスに弄ばれている様は、端からみるとかなり奇妙な光景である。
『ところで以前見かけた人間の件ですが、いかがなさるおつもりで‥‥?』
「それもまだ様子見です。まあ、行動を見ていれば素質があるかどうか分かるものですから」
――キエフにて。
「先日の調査、ご苦労であった」
開拓事業の担当者であり、今回の件の依頼人でもあるパーヴェルが再び冒険者ギルドを訪れていた。
「報告のあった内容から、こちらも色々な面から今後の対応を検討してみたが‥‥残念ながら、まだ情報が足りないというのが結論だ」
前回の調査で明らかになった、森の中に姿を隠しているホルスの存在。そして、王国の一部に加わるに際しての好意的な条件の数々を提示されながらも、頑なに首を縦に振ろうとはせず、自分達の領域を王国の人間に侵されることを嫌った蛮族のエルフ達。
今後の交渉を考えるにあたり、新たな謎と大きな難題が立ちはだかっていた。
「今回の指示も、基本的には前回と同じだ。各自の判断に任せる。とにかく、彼らと友好な関係を築くための、何か突破口となるものを見つけてもらいたい」
●リプレイ本文
先の見えぬ暗闇。
希望と絶望が入り混じる、混沌。
延ばした手に、それぞれが掴むものは何か。
交差する刃の音。森を駆ける幾つもの足音。風に混じる微かな血の臭い。
「早く逃げるんだ!!」
「くっ‥‥しかしっ‥‥」
「たった一晩とはいえ、お世話になった人達だ。放っておくわけにはいかない」
ブレイン・レオフォード(ea9508)が蛮族の森を訪れた時、そこは戦場と化していた。
幾つもの矢が森を飛び交う度、エルフ達は次々に傷を負い、徐々に森の奥へと追いやられていく。襲撃者達の人数はそれほど多くはない。だが、かなりの実力者の集まりであることは、冒険者として幾多の戦いを経験してきたブレインの目には明らかだった。このままでは、ここのエルフ達は皆殺しにされる。そう思った次の瞬間には、既に剣を抜き、襲撃者の一人に勝負を挑んでいた。
そして、ブレインと同様に、この場に居合わせた冒険者は他にもいた。
「何だ、てめぇら。蛮族の仲間‥‥って成りじゃねぇな。何者だ?」
「それはこちらの台詞だ。お前達こそ、その辺の盗賊というわけではないだろう。何の目的でこんなことをしている?」
黄金の柄を持つ魔剣を振るうのは、レイア・アローネ(eb8106)。
「さてね。どこの誰とも分からん奴に、余計なことを喋る趣味は無いんでな!」
ぶつかり合う剣と剣。戦いの音が森に響く。
レイアが見たところ、目の前の敵の剣の実力は自分達とほぼ互角か少し下。勝てない相手ではなさそうだ。だが、今はエルフ達に向けられている後方からの矢が自分達に向けられれば、状況は一気に不利になるのも目に見えている。それは、すぐ近くで別の敵と剣を交えているブレインも、同じ考えのようだった。
「くっ、何か手はないのか‥‥」
戦いながら思案を巡らすブレインとレイア。だが、そんな彼らの様々な考えも、突如森を吹き荒れる強風によって吹き飛ばされた。
「何だ、今の風は‥‥!?」
風の吹いた方向をブレインが見れば、そこに立っていたのはデュラン・ハイアット(ea0042)。今の強風は、彼が魔法によって生み出したもの。
「ふっ‥‥。騒がしいと思って来て見れば、なかなか面白いことになっているではないか」
「随分と怪我人が出ているようですね。ここに居合わせたのも神のお導きでしょう。私の力がお役に立つかもしれません」
デュランのすぐ隣に立っていたのはサーガイン・サウンドブレード(ea3811)。この緊迫した状況の中で笑みを浮かべながら現れた、敵か味方かも分からぬ二人の怪しげな男達に、その場の全員が戦いの手を止め、場は一時的に睨みあいの状態になる。
「次から次に‥‥。まさか、こんなに邪魔者がいるとはね‥‥」
声を発した男に目を移すデュラン。その相手の顔には見覚えがあった。
「ほう‥‥久しぶりだな。確か、クラスティだったか。貴様がいるということは、商会の差し金か」
「‥‥ああ、誰かと思えば、前に商会が雇った冒険者の‥‥。もし商会の仕事だと言ったら、こっちに手を貸してくれるのかい?」
「残念だが、それは無理だな。私は国の依頼で動いている。国は、ここの連中と仲良くしたがっているのだ。お前達こそ、この場は退いた方が良いのではないか? 国を相手にするわけにもいくまい?」
国の依頼という言葉が効いたのか、クラスティの表情が少し曇る。
「解せないな。これまでも、王国は邪魔な蛮族は容赦なく排除してきたはずだ。それが蛮族と仲良くだって? 何か証拠でもなければ、まともに信じられる話じゃないね」
「証拠なら、ありますよ」
「‥‥誰だ!?」
――ザッ。
森の中から、新たに姿を現す二人の男女。聞こえた声の主はオリガ・アルトゥール(eb5706)。そして、それに同行していたのはエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)。
「妙な騒ぎの音を聞いて急いでこちらに来たのですが‥‥こんなところで再び会えるとは思ってもいませんでした」
オリガが言葉をかけたのは、やはりクラスティ。彼女もこの男には面識がある。かつてホルスを巡って戦った敵として。
「あの時の決着でも、つけようって言うのかな?」
「まさか。‥‥もっとも、それも貴方の決断次第ですけれど」
応えるオリガは穏やかな笑顔を浮かべているが、殺し合いした相手を目の前に本当はどのような心境なのか、その表面からは窺い知ることはできない。
「さて、国の依頼を受けている証拠だが、必要というなら見せてやろう。もとより、機会があれば交渉事に使うつもりで用意してもらった物だからな」
エルンストは荷袋の中から、巻いて紐で閉じた羊皮紙を取り出し、クラスティに投げた。急な頼みであったため、ギルドの依頼書の写しに国の担当者であるパーヴェルが署名を入れただけの簡素な物だが、依頼を受けているという証拠としては十分だ。
書かれた内容を確かめるクラスティの表情に明らかな変化が見えるまで、そう時間はかからなかった。
「‥‥全員、引き上げだ」
諦めた風に指示を出すクラスティ。これで上手くいった‥‥と、冒険者達はそう思った。
「クラスティ君、私にも確認させてくれる?」
言って書状を手に取ったのは、クラスティの背後にいたエルフの女。
「ふ〜ん。なるほどね‥‥。でも、この内容なら別にこのまま続けても問題ないんじゃないかな?」
女の一言に、その場の全員に再び緊張が走る。
「どういう意味ですか? まさか、国を敵に回すつもりだとでも‥‥」
「レル、彼女の言う通りだ。そんなことをしても商会に得は‥‥」
オリガやクラスティが訊ねるが、レルと呼ばれた女は首を横に振った。
「まさか、王国と争うようなことはしないよ。むしろ‥‥あ、でも、ここで口にしちゃ駄目かも」
レルはそう言うと、ある魔法のスクロールを取り出した。
「そこのお姉さん、ちょっとテレパシー使わせてね」
訳が分からないまま、だが敵意があるようには感じられなかったので、オリガは頷き、レルの言葉を待つ。
ほんの少しの間。誰もが状況を見守る中で、他の誰にも聞こえない、二人の秘密の会話が行われた。
「‥‥う〜ん、ご免ね、クラスティ君。やっぱり一度引き上げないと駄目みたい。帰ろ」
レルがそう言ったため、そのままクラスティ達は武器を納めた。冒険者達は、蛮族のエルフ達が隙をついて攻撃に出るかとも心配したが、その動きはない。相手の実力を見た上で、深追いはすべきでないと判断したのだろう。
「少し待て」
デュランは声をかけてクラスティに近づき、彼の耳に何かを囁いた。
「‥‥何故、そんなことを俺に話す?」
「ふっ。知り合いに忠告の一つくらい、くれてやろうというだけさ」
デュランとの会話を終えると、クラスティは仲間達を連れて森を去った。
「さっきの女、いったい何を話したんだ?」
エルンストがオリガに訊ねたが、彼女はその場では何も答えない。
「この場では言えません。‥‥ただ、少し‥‥厄介なことになるかもしれません‥‥」
商会の者達が立ち去った後、冒険者達はそのまま蛮族のエルフ達との交渉に入った。ただ、デュランだけは別の用事があると言い、その場を離れた。
交渉の前に、サーガインは傷を負った蛮族達に治癒の魔法をかけて回った。即効性は無いが、しばらく安静にしていれば数日中に怪我は治るだろう。彼の治療魔法を大人しく受けていることについてもそうだが、商会の傭兵達を追い返したことからか、エルフ達の態度は最初に会った時より軟化したように思えた。怪我人を運ぶのを手伝うためということで、冒険者達は集落の内部への立ち入りを許可された。
ようやく状況が落ち着いたかと思われたところで、冒険者達は一つの小屋で一緒に待たされた。
「なかなか良い感じじゃありませんか。これなら、意外とまともに話し合いが出来るかもしれませんね」
サーガインの言葉に、ブレインが肯いて言葉を続ける。
「そうだと助かるな。‥‥前の時に見かけた、あのたくさんの銀の矢。もしかしたら、この蛮族達はデビルを警戒しているのかもしれない。あるいは、もう既に何度も戦っているのかも‥‥」
「だが、ここに来るまでの間、特にデビルの反応は無かったな」
エルンストが身につけている大粒の宝石がはまった指輪は、悪魔を探知する力を持つ特殊なもの。彼だけではなく、ブレインやオリガも同じ物を身につけている。
「指輪が反応する範囲はそんなに広いわけじゃないから、向こうに近づいてくる気がないと、どうにもならないんだと思う」
「仮に周辺の森の中にいるとして、あまり距離を置かれた状態だと、魔法による探査でも森の動物達と区別しにくく、有功なものは限られてきます。やはり発見は難しいでしょうね」
その頃。デュランはといえば、森の中で小さなくしゃみを一つしていた。
「なかなか見つからぬものだな‥‥小賢しい連中だ」
しばらく彼は悪魔の姿を探して周辺を探し歩いたが、最後まで発見には至らなかった。
「先ほど機会を見てここの者達に聞いたのだが、鳥を信仰する傾向があるわけではないらしいな」
レイアは供として連れて来た一羽の鷲についてのことを仲間達に語った。もし、蛮族達の間に、鳥を神聖なものとして扱う習慣があれば、そこから仲良くなるきっかけを掴めるかもしれないと考えてのものだったが、普通の鳥はあくまでも普通にしか扱わないようだった。
「せめてホルスについて、何か新たな情報が得られれば良いのだが‥‥ん?」
レイアがそう呟いたすぐ後。一人のエルフの男が小屋の中へと入ってきた。
「お前達の武器と荷物を渡せ」
突然にそう言われ、戸惑う冒険者達。
「随分と、いきなりですね。せめて理由を教えて頂けませんか?」
サーガインがそう言うと、次にエルフが応えたのは、さらに冒険者達を驚かせる内容だった。
「お前達は神に会うために来たのだろう。神の御前に、余計なものを持ち込ませるわけにはいなかい」
「‥‥それって‥‥」
「お前達を、これから神に会わせてやると言っているのだ」
こうして冒険者達は蛮族の崇めていた神、ホルスと会うことに成功する。そこで彼らは様々な話を聞き、キエフへと戻ることになるのであった。