【闇光】崩壊の音

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月14日〜10月24日

リプレイ公開日:2007年10月22日

●オープニング

 薄闇に、小さな明かりだけがぼんやりと浮かぶ部屋で、その銀色の髪のハーフエルフは手足を鎖で拘束されたまま、ゆっくりと目を覚ました。
「‥‥ここ‥‥は‥‥?」
 少しずつ、記憶を辿る。最初に思い出したのは、冒険者達に依頼されて、屋敷のガルディアの部屋へと密かに入ったこと。そして、そこで部屋の資料を調べ始めたこと。
「確か‥‥指輪が動いて‥‥」
 調べ物の最中、冒険者から渡された指輪に微かな動きがあった。ただ、それに気付いた次の瞬間には、もう自分の意識は無かった。
「くそっ‥‥何があったんだ‥‥」
 その時だった。暗闇の中から、女の声がした。それはとても透き通った、けれど身を凍らせるほどに冷たい、そんな声だった。
「ようやく、お目覚めですか?」
 声の後には、少しずつこちらに近づいてくる足音。
「君‥‥いや、貴女は‥‥」
 そのハーフエルフ、クラスティの前に現れたのは、純白の衣に身を包んだ、金色の髪の美しい少女だった。
「ガルディアが残念がっていましたよ。まさか、貴方が自分を裏切るなんて考えていなかったそうですから。貴方は、あの人の右腕も同然の存在でしたのに‥‥」
「くっ‥‥」
 クスリと微笑む少女の言葉に少し後ろめたいものを感じたのか、クラスティは顔を背けてしまう。
「‥‥でも、私はとても嬉しい」
 少女の白く柔らかな指が、そっとクラスティの頬に触れる。
「な‥‥にを‥‥」
「クラスティ。私‥‥初めて会った時から、貴方のことがずっと気になっていたんです。その綺麗な銀色の髪も、淡い輝きを秘めた瞳も、その唇も、身体も‥‥貴方の全てを私のものに出来る機会を、ずっと待っていました」
 少女の言葉の一つ一つと共に生まれる甘い吐息が、クラスティの肌をくすぐる。自分を支える理性が吹き飛んでいまいそうな衝動にかられながら、それでもクラスティは己を叱咤し、言葉を発する。
「貴女は‥‥何者なんだ‥‥?」
「私はイペス。人の身に生まれし気高き魂を、人ならざる高みへと導く者。クラスティ‥‥貴方にも、その高みへと進む素質があるのです。‥‥さあ、貴方の何もかもを、私に見せて‥‥」

 ――時は移り、キエフ冒険者ギルド。
「近日、ローレン商会に雇われた傭兵達による蛮族の森への攻撃が開始されることになった。国からも少しながら、これに協力したく思っている。しかしながら諸君も知っての通り、今現在のロシア王国には、今回の一件に兵を出す余力は無いのが現状だ。よって、再び諸君の力を借りたい」
 パーヴェルは集まっていた冒険者達を前に、そう告げた。しかし、それを聞いた冒険者達の表情は晴れない。今まで、いかに森のエルフ達と友好的な関係を結ぶかに尽力してきたというのに、その果てがこの状況である。商会の傭兵達に対し、国の依頼で動いていることを盾にして動きを封じたと思えば、今度は逆にその盾を奪われた。商会の内部に協力者を得ながらも、ガルディアの裏の顔を暴けたかもしれない絶好の機会を逃し、商会の行動を止めるための策も見出せず、気付けば、自分達は商会の行動の手伝いをさせられる立場に追いやられてしまった。
「諸君には、今までの立場を利用して、工作員として蛮族の森に潜入してもらい、商会の傭兵達の助けとなるよう動いてもらいたい。罠の破壊、内部からの撹乱など、それぞれの判断で必要と思われる行動に出て欲しい。また、もし悪魔達の襲撃などがあれば、その排除にもあたってもらいたい」
 エルフ達に直接手を下す役を任されないのは、王国なりの配慮なのだろうか。だが、自分達の行動がエルフ達の命を奪うことに繋がるのなら、どちらでも同じ事だろう。
 本当にホルスやエルフ達との関係は、これで終わってしまうのだろうか‥‥。

 ――ガルディア・ローレンの屋敷にて。
「あのクラスティが‥‥か。今でも信じたくはないな」
 集めた傭兵達の名を連ねて記した羊皮紙を眺めながら、本来ならば、ここに彼の名もあったはずと思いながら、ガルディアは珍しく暗い表情で呟いた。イペスから、彼の裏切りの事実と、その場で彼を殺したと聞かされた時には、優秀な部下を失ったことを酷く残念に思った。
「認めたくないのは分かりますが、事実です。私が彼の行動に気付かなければ、今頃は、内部に敵を抱えたまま、今回の作戦を実行することになったでしょうからね」
 そう言って返すイペスに、ガルディアはこう訊ねた。
「‥‥しかし、お前の行動も些か無用心だったのではないか、イペス? もし、クラスティが一人で動いていたのでなければ、危うい立場になっていたのは、私達の方だったかもしれないのだぞ」
「それについては、少し反省しています。ですが、結果として問題なく終わったのですから、良かったではありませんか」
 穏やかな笑みを浮かべるイペス。その笑顔だけを見れば、誰がこの美しい少女を悪魔などと疑うだろうか。いや、見掛けでは分からないところにこそ、このイペスの恐ろしさはあるのかもしれない。だが、恐ろしいのは、何も悪魔だけとは限らない。
「一つ訊いておくが、イペス。お前は本当にクラスティを殺したのか?」
「‥‥どういう意味ですか?」
 ガルディアの突然の一言に、イペスの笑みが消えた。
「‥‥いや、忘れてくれ。お前が言うのであれば、それを信じよう。もう、先のクエイクドラゴンの時のような失敗はしたくないからな」
 そう言って、ガルディアは天井を仰ぎ見るように、深く椅子の背にもたれた。
「だが、覚えておくといい。お前が魔法で他人の敵意を知ることが出来るのと同じように、私も長年の経験から、他人の嘘や虚勢を見抜く目には自信がある。‥‥もっとも、たまには外れることもあるがな」
 ガルディアの言葉に、イペスは何も返さない。
「さて、無駄話が過ぎたな。そろそろ今日は休むとしよう。お前も用が済んだのなら下がれ」
 ガルディアが寝室へと消えた後で、イペスは小さく呟いた。
「さすがは私の見込んだ契約者‥‥。でも、何事にも保険の一つくらいはかけておくもの‥‥。そうでしょう、ガルディア‥‥」

 ――ガルディアの屋敷近辺の、とある酒場にて。
 商会の傭兵魔術師の一人、レルは酒場の客達からクラスティの失踪の前後の話を訊ねていた。元来、傭兵同士の関りなど深いものではないが、レルにとっては、クラスティは何度も共に仕事をしてきた親しい戦友で、彼との間には性別を超えた友情のようなものがあった。だから、その自分にも何も告げずに去っていったクラスティの行動が、どうにも信じられなかったのである。
「クラスティ君の失踪の前後に、あの時の冒険者達が街にいた‥‥。きっと、あの人達がクラスティ君に何かしたんだ。それで、クラスティ君は‥‥。何とか話を‥‥でも、素直に話してくれるかな‥‥」
 しばらく考えた後で、レルは自分なりの結論に達する。
「ううん、やらなきゃ駄目。もし、いい加減なことを言ってごまかそうとするなら、その場で何人か殺して、脅してでも‥‥」

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9508 ブレイン・レオフォード(32歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2363 ラスティ・コンバラリア(31歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

アド・フィックス(eb1085)/ クルト・ベッケンバウアー(ec0886

●リプレイ本文

 光が闇に消えていく。
 触れたはずの指から遠く離れ、手を延ばしても、それはもう届かない。
 そして、目の前に再び、闇だけが残った。

「遠慮するな。食べてくれ」
「悪い、助かった」
 蛮族の森へと向かう道中のことだ。リュリス・アルフェイン(ea5640)とラスティ・コンバラリア(eb2363)が誤って、一日分だけ食料の足りないままキエフを出てきてしまったと知り、レイア・アローネ(eb8106)は自分の予備を二人に提供した。
「すいません。テントや毛布まで‥‥」
「そんなに気にすることないよ。仲間なんだし、助けあうのは当然じゃないか」
 そう言って、ブレイン・レオフォード(ea9508)は穏やかに微笑み、自分の毛布をラスティに渡す。
「助け合い‥‥か。国と蛮族の間にも、互いに譲りあえるものがあればな‥‥」
 仲間達の様子を見ながら、ラザフォード・サークレット(eb0655)はキエフを出てくる前の、パーヴェルとのやり取りを思い返していた。

 ――時を少し遡る。
 冒険者達はパーヴェルに会い、彼に今からでも商会との契約を解消してもらえないかと詰め寄っていた。
「無茶なことを‥‥」
「森を開墾する上で、森の中に詳しいエルフ達の協力を得られるのならその方が効率はいいし、人手も多い方がいいはずだ」
 エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)は、蛮族の者達の労働力としての価値をパーヴェルに説いた。
「労働力の問題でなら、キエフの中に仕事や住処に困っている者が大勢いる。蛮族から土地を得ることができれば、開拓作業でローレン商会から働き口を得られる者も多いだろう。国としては、そうして貰った方が助かる。仕事の効率にしても、蛮族は森と共に生きていくことには長けているだろうが、森を切り拓く技術に長けているとは思えん」
「そうやって、他の集落も全部力づくで従えていくつもりですか? 今後の開拓事業で悪魔の側に付く蛮族を増やす原因になるかもしれませんよ?」
 ラスティは、他の蛮族に悪影響を与えるのではないかと語る。
「こう言っては何だが、私達はずっとそれを続けてきた。蛮族達が王国に対して持っている印象は、既に落ちるところまで落ちている。それに、異なる蛮族同士の間に大した結び付きはない。今更、また一つ部族が滅んだところで大した影響はないだろう」
「では、悪魔達への抑止力としてはどうだ? それに、ホルスから得られる情報は、今後の役に立つと思うのだが‥‥」
 ラザフォードは、戦力としてホルスとの協力関係を維持すべきではないかと説いた。
「確かに、その点では惜しい。だが、国としては土地の確保を優先せざるを得ない。諸君らも知っての通り、その関係を続けている間にも生活に苦しむ民がいるのは事実。いつになるかも分からないラスプーチンの捕縛まで待っているわけにはいかない。とにかく、あの蛮族に土地を明け渡す意志が無い以上、戦いは避けられない」
 そう。いくら、現状のままホルスや蛮族との関係を維持しようとしたところで、国が必要としているのは、ホルスでも蛮族でもなく、彼らの土地なのである。
「そのことなのだが、ホルス達が信用できないのは国なのだから、例えばパーヴェル殿個人や、その私的な仲間だけで、あの土地の開拓も管理も行うというのはどうだろう? 余計な人間の介入さえなければ‥‥」
 レイアは国の中でも信頼できる人間だけを集め、他の介入を防ぐことが出来ないかとパーヴェルに相談する。
「無理だ。国というものは様々な人の繋がりの上に成り立っている。国に属する以上、誰しもが見知らぬ他人の影響を少なからず受けることになる。私もローレン氏も、国王様でさえ例外にはなれない」
 そして、パーヴェルはこうも付け足す。
「仮にホルス達が今から降伏したとしても、あの土地の基本的な管理に関してはローレン商会が行う形で既に契約を結んでしまっている。これは決定事項だ。そして、キエフや他の土地に、あの蛮族を受け入れる余裕などない」
 つまり、今から降伏するとしても、ホルスや蛮族は全てローレン商会の、つまりはガルディアの下で生きるしかない。その方が国も初期投資や開拓作業の人員手配など、余計な費用や仕事を商会に任せてしまえる。国益を無視してまで、今さら蛮族側に都合の良いように条件を呑む必要もない。
「やはり、単なる説得や交渉でどうにかなる状況ではない‥‥ということか」
 まるで誰かの手のひらで踊らされているような感覚に、エルンストは苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 ――時は移り、蛮族の森襲撃の前夜。
「どういうつもりだ?」
 商会の一団に合流し、ガルディアの元を訪れたデュラン・ハイアット(ea0042)は、悪魔退治に協力するという仲間達の署名を連ねた羊皮紙をガルディアに見せていた。
「国の大きな仕事も請け負っている以上、憂いはなくしておきたいだろう?」
 そうデュランは呟く。彼は、ガルディアがいずれ悪魔を裏切るつもりでいるのではないかと睨み、ガルディアに悪魔達を先に潰すよう提案をしに来たのである。
「蛮族やホルスを騙し、悪魔退治に動く間はこちらに協力させる。私達も協力して先に悪魔を叩いてしまえば、蛮族との戦闘の後を悪魔達に狙われるより作戦の効率も良い」
「ほう‥‥それなりに考えたというわけだ」
 少し感心したように言うガルディアの言葉に、デュランは少し安堵した。けれど、その後のガルディアの返答は、彼の期待通りにはいかなかった。
「だが、無理だな」
「な‥‥」
「連中が漁夫の利を狙っているのは間違いないだろう。だから、こちらとの余計な交戦はまず避けて動いてくる。商会で揃えた傭兵は、あくまで森の制圧を目的として編成したものだ。悪魔どもがこちらに仕掛けてくるのなら撃退できるが、逃げる奴等を追うのは別の話だ。連中の姿を見つけられたとして、その羽を上回る速さがなければ追うだけ無駄だろう。ホルスなら追うことは出来るだろうが、奴だけで周囲の悪魔どもを片付けてしまえるなら、既にそうしているはずだ。もし、グリフォンの十頭でも冒険者が用意してきたのなら、少しは考えたがな」
 最後の方は少し冗談まじりに言って、ガルディアは冒険者達の署名をデュランに返した。
 しかし、そもそもガルディアに悪魔を裏切るつもりがあるのかどうかも怪しいところだろう。デュランは前回の国の調査でラスプーチンと商会の繋がりが出てこなかったことを怪しんだが、金銭や物資のやりとりだけが両者の繋がりとは限らないし、単に証拠が残っていなかっただけの可能性もあるのだから。

 その頃、オリガ・アルトゥール(eb5706)とリュリスの二人もまた、商会のある人物に会いにきていた。
「ふ〜ん‥‥そっちから来てくれるなんて思ってなかったよ」
 穏やかな笑みを浮かべて、レルは二人にそう言った。だが、それが偽りの笑顔なのは、二人の目から見ても明らかだ。周囲には商会の傭兵が何人かいたが、少しでも怪しい動きを見せれば、彼女は構わず攻撃魔法を放ってくるだろう。
 リュリスは周囲の者達にも目を配る。ここに来る前、一団の中に悪魔が紛れていないかをホルスに訊ねたが、ホルスが見る限り悪魔の存在はなく、むしろ一団から距離を置くようにしていると教えられた。実際、デビルを探知する指輪にも反応はない。
「少し、お話したいことがあるのですが‥‥」
「いいよ。こっちも最初からそのつもりだもの」
 そう言って、オリガとレルは手にしたテレパシーのスクロールを広げた。
 オリガとリュリスは、自分達が知りうる限りの全ての情報をレルに話した。レルは、二人の話の腰を折ることもなく、しばらく黙って聞いていた。
『彼については私達が悪いと思っています。考えれば分かるような少しの配慮が欠けていました。素直に謝ります。‥‥ただ、このタイミングで彼が失踪したとなれば、デビルが関与している可能性が非常に高いことも確かです。デビルのことで話した後に失踪‥‥話があまりにも出来すぎですからね‥‥。死体が見つかっていないところからして彼がデビルに囚われている可能性もあります。彼ほどの優れた素養を持った人物、殺すのはデビルとしても惜しいでしょうし』
『‥‥それで、悪魔に捕まっているかもしれないクラスティ君を助けるために、私に協力して欲しいって?』
『ああ。利害は一致してるし、お前はオレ達をいざという時の盾にすればいい。だから動くことがあるなら言ってくれ』
 話し終わると、三人の間に静寂が訪れる。そして、それを崩したのは‥‥。
「‥‥ッ‥‥ハッ‥‥アハハハハハッ!!」
 突如、レルが気を狂わせたかのように笑い出した。そして、ようやくいつもの表情に戻ると、もうテレパシーなど使っていなかった。
「そんな話、信じられると思う? その辺の吟遊詩人の方が、もう少しマシな作り話をしてくれるんじゃないかなぁ?」
 オリガ達に向けられた冷たい目は、明らかに殺意を含んだもの。そしてレルの手は、既に印を結ぶ形を取っていた。
 だが、それでもオリガは臆することなく、こう言葉を続けた。
「‥‥そうですね。ただ信じろとも言えません‥‥謝ってすむ問題でもありません。ですが、彼について今後、何か行動を起こす時は全力での協力を約束します。もし彼が死んでいたり、私達が約束を破った時には‥‥どうぞ遠慮なく‥‥」
 再び訪れる静寂。ふっ‥‥と、レルが印を解くまでの数秒。それは、とても長い時間のように感じられた。
「覚悟だけは本物みたいだね。分かった。貴女達の話、少しだけ信じてあげる」
「それなら‥‥」
「でも、協力はしないよ。私が信じるのは、貴方達がクラスティ君に何が起きたのか、本当は全然分かっていないっていう、そこだけ。悪魔に攫われたなんて言うけど、それって単なる想像の話じゃない。仮にそれが真実だったとしても、他の可能性だって幾らでもある。そういうことを言おうとしないで二言目には悪魔、悪魔って、嘘臭いったらないもの」
「‥‥だから、一人で動くっていうのか? それでクラスティは‥‥」
「信用できない人間と一緒に動く方がよっぽど危険だよ。私の力を借りたいって言うなら、まず自分達だけで何か成果を出してみせて。それで私を納得させられたなら、その時に力を貸してあげる」

 一方、蛮族の森の中では冒険者達とホルス、そしてエルフ達による最後の話し合いが行われていた。
「本当は、こんな状況になる前に止めたかったけど‥‥」
「‥‥すまない。力及ばず、流れを変えることが出来なかった‥‥」
 ブレインとラザフォードは謝罪の言葉を述べ、深くエルフ達に頭を垂れた。
 冒険者達に向けられた視線には、以前に火を囲い、踊り歌い、共に話した優しげなエルフ達の感情は無かった。
「神よ、どうか我等と共に!」
「神の知恵と御力があれば!!」
「もう棲家を奪われるのはたくさんだ!!」
 エルフ達は戦を訴えた。彼らに残された道は少ない。森を逃げ出すにも、待っているのは他の蛮族との衝突や魔物達との戦い。それは以前にも経験したこと。また多くの者が命を落とすだろう。しかし、商会と戦ってもそれは同じこと。さすがのホルスも容易に結論を出せずにいるのか、まだ何も答えてはいなかった。
「ほんの‥‥ほんの一時だけ、耐えては頂けませんか」
 エルフ達の前に歩み出て、そう訴えたのはラスティ。
「正面から戦って勝てるのであれば、私もここで戦いましょう‥‥。ですが、無理です。私は笛を聞いてくれる子供達がいなくなることが耐えられません。悪魔とガルディアが勝った気でいる、その隙を狙って、もう一度仕掛けます。彼らの繋がりさえ暴けば、この地を皆さんの手に戻すことも出来るはずです」
「私も‥‥無茶を言っているのは分かっている。だが、このままでは本当に、ただ土地を奪われるだけだ」
「まだ信じてもらえるなら、次は必ず‥‥」
「そうだ‥‥時間さえあれば‥‥」
 ラスティに続き、レイア、ブレイン、エルンストがそれぞれにホルスと蛮族に訴える。そして、ラザフォードが最後に訊ねる。
「‥‥頼む。降伏を、考えてはくれないだろうか?」

 ――翌朝。
 森へと立ち入ったローレン商会の傭兵達を待っていたのは、武器を持たずに手を振る冒険者達と、それに従えられて歩く、武器を持たないエルフ達だった。
「どういうことだ、これは?」
 訊ねたガルディアの前にラスティとブレインが進み出て、次のように答えた。
「彼らを束ねていたホルスが、先程この地を去りました」
「残された彼らには、もう戦う力は残ってない。武器も、もう僕らの方で押収している。彼らは降伏するってさ」
 ホルスはもう一度だけ、冒険者達の言葉を信じた。蛮族達の守り手であり支えとなっているホルスが去ることで冒険者達の望み通り、蛮族達に降伏を促すことが出来た。それに、悪魔の手先に降伏するとしても、ホルス自身がそれに心を縛られ操られるようなことになれば、今の状況をさらに悪化させるのは明らかだった。だから、それだけは何としても避けなければならなかった。その結果がこの形だ。
「さすがはギルドの冒険者。見事な働きだったな」
 ガルディアが賞賛の言葉を送るが、喜ぶ者などいない。胸にこみ上げるのは、エルフ達の土地を守ってやれなかった悔しさ。
 ‥‥だが、本当の悲劇の始まりは、ここからだった。
「では、皆殺しにしろ」
 ガルディアの口から出たその言葉に、一瞬、冒険者達は誰もが自分の耳を疑った。だが、商会の傭兵達が剣を抜き、弓を構え、魔法の詠唱を始めたのを見て、それが聞き間違いではなかったことを確かめた。
「何の真似だ!?」
「この人達はもう降伏したんですよ! そんなことをする必要がどこに!?」
 声を上げるラザフォードとオリガ。だが、ガルディアはこう言い放つ。
「蛮族は狼と一緒だ。いつ再び牙を向くか分からないから側には置けず、野に放てばやはり人を襲う。後の憂いを断つのなら、ここで殺してしまうのが商会の、ひいては国のためだ。それに生憎、私は義を重んじる騎士でも、誇りを大事にする貴族でもないんでな」
 そして、森は悪夢へとその場景を変えた。

 血に塗れた大地。
 転がるのは無数の骸。
「ホルスが助けに来るかと思ったが、全て都合良くはいかず‥‥か」
 そう言い残したガルディアや、商会の傭兵達が悪魔の襲撃を警戒して森のあちこちに散った後も、冒険者達はそこから離れられずにいた。
「こんな‥‥こんなことが出来る奴が‥‥人間なものか‥‥」
「ご‥‥めん‥‥なさい‥‥ごめ‥‥」
 怒りに肩を震わせるレイア。もう二度と笑うことのない子供達を胸に抱えるラスティ。
「必ずだ‥‥」
 リュリスは思い出す。まるで虫けらでも見るかのような目で、エルフ達が殺されていく様を眺めていたガルディアの顔を‥‥。
「この手でそこから引き摺り降ろしてやる。いつまでも、思い通りにいくと思うなよ‥‥ガルディア」