【魔狩り競い】後編
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月26日〜10月03日
リプレイ公開日:2007年10月08日
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●オープニング
キエフ冒険者ギルド。
様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる場所。
開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物や蛮族との争いに関するものが主であるが、時には少し違った依頼も舞い込む。
つい先日、冒険者ギルドにて一つの特殊な依頼が出された。
それは、開拓候補となっている地域の魔物退治を兼て、冒険者達にその成果を競ってもらうという、大会の開催の知らせだ。
そして、第一回の競技を終えた冒険者達の元に、後半戦となる第二回の競技についての知らせが送られた。
戦いの舞台は鬱蒼と茂る森の中。その森にはオーガ種の中でも高い戦闘能力を持つバグベア達が生息しており、その中には人間から奪った武器や防具で重武装したバグベア闘士と呼ばれる者もいるらしい。だが、その地域の最大の特徴はバグベア達の存在ではなく、森の奥に、いつ作られたとも知れぬ地下遺跡へと繋がる洞窟が存在しているということ。
遺跡を発見した探険家の話によると、ここには様々な魔物が数多く巣くっているという。複雑に入り組んだ通路には、遺跡を彷徨うミノタウロスの姿があり、幾つかの部屋には魔の石像ガーゴイルが侵入者を待ち受けている。また、これらの餌食となった者達のなれの果てであるズゥンビやレイス、スカルウォーリアーなどのアンデットも数多く存在している。
加えて、その遺跡へ向かうために通過する暗く湿った洞窟の中には、土の表面に擬態して侵入者を待ち、触れたものを酸で溶かし捕食するというクレイジェルが多数生息している。
果たして、この戦いを制する冒険者は誰か。
大会規則について。
◆期間は三日間。その間に参加者は指定地域で魔物を狩り、その成果を競う。
◆魔物には個別の点数をつけるものとし、倒した魔物が強いほど高い得点を得られる。
◆参加は個人でも、複数人で組んだ形でも良い。ただし、三人で組めば得られる点は三分の一というように、得点は人数に応じて割られたものになる。なお、連れているペットも人数に数えるものとする。
◆他の参加者に対しての攻撃・妨害行為となるものは原則として禁止。例外として、特定条件において狂化したハーフエルフの仲間を鎮めるために魔法で眠らせるなどの処置は可とする。
◆指定地域に他者より先行しての事前調査、情報収集などは禁止とする。
◆今大会は競技を二度行い、その得点の合計によって優劣を決定する。
◆一回目と二回目の競技ごとに、参加者は組む相手を変更してもよい。
◆得点のカウントは、運営側に雇われた監視役のシフール達が行ってくれる。
◆競技中における死亡はその場で棄権扱いとなるが、それまでに獲得した点数は次回に引き継がれる。他の理由で自主的に途中棄権した場合も同様。遺体の回収は運営側で行うが、蘇生費用は各自の負担。
◆優勝者には賞品と賞金が与えられる。該当者が複数の場合は、その人数に応じた内容になる。
●リプレイ本文
幾多の断末魔が森に木霊する。
そこで繰り広げられるのは人と魔獣達による命の奪い合い。
「聖なる母よ‥‥。どうか、私達にその御加護を‥‥」
アシュレイ・クルースニク(eb5288)が慈愛の神へと祈りを捧げれば、彼の眼前、雀尾嵐淡(ec0843)の仕掛けた落とし穴に足を取られたバグベアが一匹、その動きを完全に停止した。
「後は任せてください」
アシュレイの魔法が無事に成功したことを確かめて、嵐淡はそれに続く。
捧げる祈りは、神の試練を望むもの。目の前の魔物から、その力を、そして、命を奪う魔法。
黒く淡い光が消えた時、魔物の命もまた、その灯火を消していた。前回の競技に同じく、彼らは神の奇跡の連鎖によって、敵に一切の反撃を許さぬまま、一匹ずつ仕留めていく戦法をとって動いていた。
「ふう‥‥。少し休みましょう」
この魔物狩りにおいては、無理をせず確実に成果を上げていくことが大事と考えたか、嵐淡は戦いの合間に小まめに休息を取るようにしていた。
「今のところは順調ですね。このまま、最後までいけると良いのですが‥‥」
前回の競技において、個別の点数では最下位ではあったものの、総合的な点数だけを見れば、もっとも高い成果を上げたのがこの二人だった。
「今の私達の立場は、いうなれば大いなる父の試練。ならば、その試練を乗り越えてこそ、聖なる母の祝福を受ける資格があるというものです。今度こそは‥‥」
その胸に十字架を抱き、アシュレイはこれからの戦いに想いを馳せるのだった。
――ガンッ!!!
重厚な鎧に身を包みし魔物、バグベア闘士。その巨大な斧の重い一撃を左腕の盾で受け流すと、イオタ・ファーレンハイト(ec2055)は手にした剣で返す。
「はああっ!!」
それは、武器の重さを十分にのせたコナン流の一撃。その魔剣、シャスティフォルによる攻撃はバグベア闘士の身を切り裂き、魔物の血の飛沫が両者の間を舞う。だが、バグベア闘士の負った傷は、あくまで軽傷といった程度。魔物は怒りの声を上げ、再びイオタへとその豪腕を振るう。
「くっ、今の攻撃でそんなものなのか‥‥」
技量で言えばイオタの方が幾らか上だろう。だが、一撃の重さでは敵に分があり、意外にもバグベア達は足が速い。もし、他に一匹でもこちらに向かってくるようなら容易に背後を取られ、その時点で自分の敗北は避けられないだろう。一匹を相手にかける時間は少しでも縮めたいところだが、相手がそれを許してくれる様子はない。気ばかりが焦る。
「まったく、いつまで手間取ってるかにゃー」
「ルイーザ!?」
イオタとバグベア闘士の間に、割り込むように現れたのは、ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)。彼女も、つい今しがたまで周囲のバグベア達と戦っていたはずだが、どうやらそれを片付け終えたらしい。
「危ない時は、ちゃんと助けを呼ぶにゃー」
「‥‥もし、それが前に聞いたあの台詞なら、死んでも言わねぇ」
「えー。つまんないにゃ‥‥っとと!」
頭上より振るわれた魔物の斧をかわし、ルイーザは一気に敵の懐へと飛び込む。
「この距離からなら、まともに攻撃できないだろうにゃー」
互いの身体が触れ合うほどの、超近接状態。上手く斧を振るえず、離れようとする動きを見せた敵に、ルイーザは両の手にした剣を振るう。しかし‥‥。
――ガンッ!
「わわっ、効いてないにゃ?」
強固な鎧に身を固めたバグベア闘士を相手にするには少しばかり力が及ばなかったか、手応えはあるも、その剣の攻撃は弾かれてしまう。
「なら、この一撃はどうだ!」
足掻くバグベア闘士の背へと、ケイト・フォーミル(eb0516)が渾身の一撃を振り下ろす。日本刀を元に作られたというその剣、カターナの刃をその身に受け、魔物は激痛に顔を歪め、呻き声を上げる。
「さっすが、ケイトちん。やるにゃー」
「一人一人の力では及ばなくとも、三人の力を合わせれば何とかなるはずだ」
「ケイトさん‥‥。よし、やってやる!!」
――ドッ!!
己の体が大地へと叩きつけられると、魔物は何が起きたのかも分からぬような様子で、自分を投げ飛ばした、その小さな相手を見つめていた。
「でかい鬼ほど、投げ飛ばし甲斐があるってね。修行にはもってこいの相手だ。遠慮なくいかせてもらう!」
武具の類を一切持たず、その身一つで戦う奥羽晶(eb7699)の戦法も前回同様。森の中に簡単な罠の類を用意し、そこに誘い込んだ敵を一匹ずつ己が体術にて仕留める。それが彼女の選んだ戦術だ。
今回は傷を癒すための回復薬や、寝る時に身を包む毛布も用意した。前回とは違い、今度は最後まで一人でも戦い抜けるはず。そして、この手に勝利を‥‥。彼女は自分を信じ、バグベア達と戦い続けたのであった。
一日目の競技において、冒険者達はいづれも順調なスタートを切ったと言えよう。
だがここから、二日目にして全員がある問題にぶつかることになる。
「なかなか見つかりませんね‥‥」
「これはもしかすると、あまり良くない状況かもしれません‥‥」
アシュレイと嵐淡は森を歩きながら、あることに気づき始めていた。それは、明らかにバグベア達との遭遇率が落ちてきているという事実。
何故か。最たる理由は、この競技に参加した冒険者全員が魔物の多い洞窟や遺跡ではなく、森のバグベア達だけに狙いを絞って狩りを行ったことである。人や動物と同じく、魔物とて、一つの地域に生息している数には限りがある。そのため、計らずして冒険者達は獲物を取り合った状態となり、お互いに点数を伸ばせないという問題にぶつかってしまったのだ。
こうなると、いかに上手く魔物を探し出すかという技術が問われてくる形になるが、アシュレイも嵐淡も探査系の魔法は使えるものの、それほど広い範囲を探れるわけではない。嵐淡が魔法の箒を用いて空から探すにも、ロシアの森は暗黒の国と呼ばれるほどに木々が鬱蒼と茂っている土地なため視界が悪く、若干、索敵の効率を上げるのみに留まっていた。
その日の一場面。
話の発端は、前日にイオタが夜の番をしながら、けれども戦いの疲労から相当に眠そうだったことを理由に、やはり休む時は皆で一緒に確りと休むべきではないかとケイトが提案したことに始まる。
「しかし、やはり年頃の男女が小さなテントの中に並んで寝るのは‥‥その、色々と問題があると思うんだ‥‥」
「う〜ん、別にあたしは平気だけどにゃー。イオ太だしー」
「‥‥どういう意味だ」
ルイーザが笑って言うと、イオタはどう反応すべきかと複雑な表情をしていた。
「と、とにかくだ! 私がイオタとルイーザの間に入って寝るからな!」
「‥‥はは〜ん。もしかしてケイトちん、イオ太の隣で寝たいにゃ〜?」
悪戯な笑みを浮かべながら言うルイーザの台詞に、ケイトとイオタは思わず顔を赤くしてしまう。
「な、べ、別にそんなつもりはないぞ! いや、でも、嫉妬とかでもなくてだな‥‥その‥‥」
「ケ、ケイトさん、落ち着くんだ!」
あたふたし出した二人を見て、ルイーザは随分と楽しそうであった。
「まあ、そういうことなら仕方ないにゃ〜、あ、でも、いっそ今日はあたしが夜の番をするのも良いかにゃ〜」
「そ、それは良くない! え、えっと、私はイオタじゃなく、ルイーザの隣で寝たくてだな‥‥って、あれ?」
「ま‥‥まさか‥‥」
「ケイトちんって‥‥そっちの趣味が‥‥」
なお、この後の三人の間でどのような会話が続けられたのかは、今回も例によって皆さんの想像にお任せしよう。
三日目。
ほとんど全員が昨日と同じ状況にある中で、一人違う動きを見せたのは晶だった。
「森の魔物はもう全然いないし、狩場を変えないとな。それに、他の連中が先に来てたら、こっちも少しは楽に進めるはず‥‥」
そう睨んで、松明の明かりを手に洞窟を進む。余談だが、火をつける道具を用意してこなかったため、その火種を作るのに余計な時間を消費してしまったのは、彼女にとって少し誤算であったかもしれない。
「ま、遅れた分は足で取り戻すか‥‥」
そう呟き、洞窟をやや足早に進んでいく晶。最初は洞窟内のクレイジェル達も狩りの対象にするつもりだったが、蹴ったり踏んだりする程度ではまともなダメージは与えられず、かといってまともに身体を接触すれば酸で溶かされてしまうため投げるにも投げられず、結局、持ち前の身軽さで攻撃を避け続けて洞窟を抜けるのみに留まる。
しかし、ようやく遺跡に入ってからも、彼女の誤算は続く。遺跡の通路には、幾多のアンデッドが彼女を待ち受けていた。これを退治できれば、点数が延ばせずに苦労している他の参加者を一気に抜いてしまえるだろう。だが、現実はそう上手くはいかなかった。
「な、何だよ、こいつら!? 早いし、おまけに強いじゃん!」
ズゥンビやスカルウォーリアーには、彼女の投げ技で対処できた。問題は、彼女より移動力に優れている上、通常の物理攻撃が全く効かないレイス。そして、この遺跡で最強の魔物、ミノタウロス。その実力は完全に他の魔物を凌駕しており、晶自身、たった一度の攻防で格の違いを思い知らされることになった。ミノタウロスの最初の斧の一振りに反応しきれず、いきなり重傷を負わされたのだ。
「くそっ、ここは逃げ‥‥じゃなくって転進〜!!」
回復薬の類を大量に消費しつつ、持ち前の身軽さで命からがら遺跡を逃げ出した晶だった。もっとも、結果は散々たるものに思えるが、遺跡の魔物の群れにたった一人で飛び込み、生きて帰って来ただけでも、その実力は評価されるべきものであろう。今回の失敗も、修行を目的にこの競技に参加した彼女にとっては、大きな経験になったに違いない。
三日目の競技も終了し、残すは表彰式のみとなった。そして、今回の競技の優勝者となったのは‥‥。
「ケイト・フォーミル!! ルイーザ・ベルディーニ!! イオタ・ファーレンハイト!! ‥‥以上、三名の方が、今大会の優勝者です!!」
歓声が上がり、周囲を祝福の拍手の音が包む。
前半戦と合わせた三人の得点は、それぞれ五十二点。これに続いたのがアシュレイと嵐淡。得点は四十九点。前半戦での点差をかなり埋めるも、あと一歩及ばず。最後は晶。得点は四十六点。最終日に勝負に出るも点数を延ばせず、そのまま最下位に甘んじる結果となってしまった。
優勝した三名に賞品と賞金が送られる予定だったが、イオタは自らの技術の修練が目的であったとして受け取りを拒否し、その分はケイトとルイーザの取り分に上乗せされた。
「うむ。皆で努力したからこその結果だな」
「優勝にゃー!! 今日はイオ太の分の賞金で酒盛りにゃー♪」
「おい!」
なお、ケイトとルイーザに送られた賞品であるが、大会中の二人の様子を見ていたシフール達が話し合いの上、それぞれに似合いそうな物を選んだとのことである。その賞品を見た時のそれぞれの反応だが‥‥。
「わ‥‥私がこれを‥‥。よ、良いのだろうか‥‥」
「‥‥こ、これはどういう意味にゃー!?」
さて、何を貰ったのかは本人達のみぞ知るところである。