【魔宴】消える魔物達

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:12 G 26 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月03日〜11月12日

リプレイ公開日:2007年11月14日

●オープニング

 ローレン商会が国と契約を結び、ホルスと蛮族から奪った土地の開拓を開始して早くも数日。ガルディア・ローレンは常の業務に戻り、随分と溜まってしまった書類の山と睨み合っていた。
「また、すごい量ですね‥‥」
 部屋を訪れていたイペスが呆れたように言うが、ガルディアはもはや怒る余裕もないのか、彼女の方を見もしない。さすがのガルディアも疲れが出ているようだ。
「いつも通りの仕事だけなら少しは気が楽だが、キエフから労働者の新規登用についてや、他所の商人達からの手紙が毎日のように来ている。先の土地に関して貴族からも商会内からも、土地の開発に乗っかって一儲けしようという輩が後を絶たない。返事の対応に追われて、しばらくは屋敷から出られん‥‥」
「大した苦労もなく蛮族を潰して土地を奪えた代償と思えば、安いものでしょう。もし冒険者達がホルスに味方しての戦いとなれば、結果は分からなかったのが実際のところ。見事な働きだったと他の悪魔達も感心していましたよ」
 先の土地が商会の管理下に加わったことにより、国は思いもしない場所に危険を抱えている状態になっている。もし再び先のラスプーチンの反乱と同じような事態になれば、ガルディアの策一つで、国の戦略を大いに狂わせられる可能性もある。
「世辞などいらんし、もし本気で言っているなら、お前達の目は相当な節穴だ。私に言わせれば、よく上手くいったものだと安堵こそすれ、自慢できるような行動ではなかった」
「あら、何故ですか?」
「心配した要素は幾つもあるが、一例を挙げるなら、冒険者の口先一つで私はしばらく身動きを封じられていたかもしれない」
「‥‥具体的には?」
 話しながらイペスは内心、少し驚いていた。話の内容自体もそうだが、仕事の最中にガルディアがこうした雑談に興じるのは割りと珍しい。ガルディアは他人にイペスとの繋がりを知られることを何より恐れている節があり、冒険者達がイペスの存在を探り始めた節のある現在は、以前にも増して注意深くなっている。ただ、今はガルディアなりに少し気を紛らわせたいのかもしれないし、話の先に興味もあった。
「一つ嘘をつくだけだ。あの蛮族とホルスは、既に悪魔の手先になっている可能性がある‥‥とな」
 あまりに単純な嘘に、イペスはガルディアが自分を馬鹿にしているのかとさえ思った。
「貴方は、それが嘘だと分かっているでしょう?」
「ああ。だが、私はそれが本当か嘘か分からないはずなんだ。絶対にな」
 ガルディアと悪魔達の繋がりは秘密のことで、ガルディアは悪魔達の動向を知っていても、その情報を他人に伝えることは難しく、不用意に使うこともできない。
「信じさせる材料はある。お前達は冒険者達が森を訪れてから、自分達は高みの見物を決めて込んで姿を見せなかった。だから、ホルスや蛮族が悪魔と戦う姿を冒険者達は見ていない。それでも国がホルスと悪魔が敵対関係にあると信じたのは、冒険者達がそう証言したからだ。ホルスと直に接触できたのは奴らだけで、もし、その冒険者達が口を揃えて、ホルスが国を騙そうとしている可能性がある‥‥と証言したらどうなる?」
 状況だけを見れば、それも一つの真実として、ありえないとは言い難い。
「私が国から蛮族を攻撃する許可を得られたのは、それが成功する可能性を示せたからだ。ただ、それはホルスと悪魔が敵対していた場合の前提に基づいている。もしホルスの背後に、ホルスを従える程の力を持つ悪魔が隠れているとすれば‥‥」
「作戦の前提は崩れ、真偽を調べるために再度の調査期間が要求される‥‥と?」
 そして冒険者達は時間を手に入れ、次に繋げる。
「どんなに隙がないように見える相手にも、必ず弱点はあるものだ」
 話の内容にイペスは少し感心するも、一つ疑問が浮かんだ。
「そこまで分かっていて‥‥確か、レルと言いましたか。何故、彼女の考えを引き継いで、国に提案したんですか?」
 その言葉に、ガルディアは少し苦い表情を浮かべる。
「不都合でも立場上、筋が通っている案は受け入れるしかない。実際、上手くいく可能性もあったからな。‥‥だが、ああいう目聡い者を側に置くのは、今後を思うと少し不安でもある」
「それで、あの土地の警備にあたっている傭兵達の管理を彼女に任せて、しばらく街に戻ってこれないようにしたわけですか」
 イペスの語るように、レルはあの後も森に残り、魔物や蛮族から土地を守る仕事にあたっていた。
「‥‥さて、無駄話はこのくらいにしておこう。見ての通り、私は忙しい。仲間から何か仕事を頼まれたのなら、しばらくはお前だけでやってくれ」
 大事な用件を述べる前にガルディアにそう言われ、イペスは渋々と部屋を後にした。
「ふう、仕方ありませんね。‥‥ですが、新しい私の人形を遊ばせるには、丁度良い機会かもしれません‥‥」

 ――数日後、キエフ冒険者ギルド。
 その日、ギルドに持ち込まれた依頼は、ある地域で起こっている妙な現象についてのものだった。
「森から魔物達が消えている?」
「ええ。それもオーグラやグリフォン、トロルといった、力のある魔物ばかりが次々といなくなっているそうです」
 ここロシアでは、キエフを少し離れれば国の威光は届かず、他の町や村までの道中でさえ無法地帯も同然の状態にあるのが実際のところだ。当然、キエフから離れた地域に住む人々は自分の身を守るために、相応の努力をしている。村の近くに危険な魔物が生息していれば、嫌でもその動きに注意を払うことになるし、ここ冒険者ギルドにも魔物退治の依頼は何度も持ち込まれてきた。
「自分達の近くから魔物がいなくなるのですから、それ自体は良いことだと思います。ですが、そんなことが立て続けにとなれば、不審に思うのも当然でしょう」
 人々の不安を解消するために、魔物達の消えた原因を探って欲しい、というのが今回の依頼。
「それと、この件に関係あるかは分かりませんが‥‥」
 集まった冒険者達に、ギルド員は次のことを話す。
「魔物達の消える前後に、その付近の村々を見慣れない三人組の旅人が立ち寄っていったというので、何か関係があるのではないかとの話があります」
「‥‥その三人組の特徴は?」
 もしかしたら手掛かりになるのではと、冒険者の一人が訊ねる。
「一人は弓を携えた銀髪のハーフエルフの男。もう一人は旅の修道女らしき金色の髪の少女。三人目は黒髪の小さな子供、とのことです」

 ――その頃。辺境の森にて。
「イペス様〜、もうこの辺に使えそうな魔物は残ってないみたいですよ〜」
「そうですか。では、次の森に行くとしましょう。それにしても‥‥」
 何やら不思議そうに、少女はまじまじと目の前の小さな男の子の顔を見ていた。
「‥‥な、なんですか‥‥?」
「さすがは地獄の密偵と呼ばれるネルちゃん。本当に可愛らしく化けたものですね。口調まで子供そのものです」
「だ、だって、イペス様がそうしろって‥‥」
 言われて、その少年は顔を真っ赤にしていた。だが、それも演技のうちなのかもしれない。
「ほら、いつまでも遊んではいられないよ。早く次へ向かおう」
 戯れる二人に、ハーフエルフの男が言う。
「ふふっ、少しくらい良いじゃありませんか」
 そう言って少女は男に抱きつき、耳元で囁くように、彼の名を呼ぶ。
「ねえ、クラスティ‥‥」
 それはどこか魔法の呪文にも似た響きの、甘い、甘い囁きだった。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2363 ラスティ・コンバラリア(31歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5988 バル・メナクス(29歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

レア・クラウス(eb8226)/ クルト・ベッケンバウアー(ec0886

●リプレイ本文

 大きな出来事も、始まりは小さなもの。
 僅かな変化の中に隠された未来への道。
 その先は、どこへと続くのか。

 冷たい風が吹きぬける森の一角。
 暖を取るために用意された焚き火の前。ラスティ・コンバラリア(eb2363)は仲間から借りた毛布に包まりながら、仲良くなった森のエルフ達が自分の目の前でローレン商会によって殺された時のことを思い出していた。
(「商会も悪魔も許さない。でも一番許せないのは私。無力な私‥‥」)
 ラスティにとって、大切な人を失うのはこれが初めてではない。悲しみに心が耐えられているのは、それを既に知っているからなのかもしれない。けれど、それはけして心の痛みに慣れているわけではない。もしそうなら、今もこの目に浮かぶエルフ達の最期の姿に、こんなにも苦しむことはないはずだから。
「まだ起きていたのか。明日はいよいよ連中と会うことになるかもしれん。早く休んだ方が良い」
 炎の爆ぜる音が気になったのか、ラザフォード・サークレット(eb0655)がテントの中から顔を見せた。
「すいません。少し‥‥考え事をしてしまって‥‥」
「‥‥あの時のことか‥‥。商会の行動も全て悪魔どもの指示だったとしたら今頃、ロシア王国は降伏した無抵抗な者をも虐殺する血も涙もない国などと、他の蛮族に吹き込まれているかもしれん。あの土地自体は国のものになったが、悪魔は動き易くなった。これで敵には困らんだろうな」
 皮肉を込めて、ラザフォードは忌々しそうに呟く。彼には、あの時のガルディアの行動が許されるものだとは到底思えない。けれど、それで仕事や住処を得て命を救われた者もいる。あの土地も商会の手で開発が進めば、皆が思うより早く、交易の中継地として国に大きな利益を齎す土地になるかもしれない。あのエルフ達のことを何も知らない他人には、ガルディアのしたことが間違いには見えないのかもしれない。
「おいおい‥‥その辺にしといてくれ。寝つきが悪くなる」
 テントの中から返した声の主は、リュリス・アルフェイン(ea5640)。そっけない物言いだが、彼も先の一件を忘れているはずはない。もしかすると、彼はこういう風にしか、二人に休息を促す言葉を言えないのかもしれない。
「さっさと寝ておけよ」
「‥‥はい」
 それから、ほんの少し待って火が消えると、ラスティも自分の寝袋のあるテントへと入っていったのだった。

 翌朝。冒険者達はとある森を歩いていた。
「今まで集めた情報が確かなら、この辺りですか‥‥」
 バル・メナクス(eb5988)は警戒しながら歩を進める。冒険者全員で協力し、謎の三人組が現れたという村や魔物が姿を消したという森についての情報を集めた結果、三人組の動きについて、ある程度の予想はついた。ただ、この地域はまだ正確な地図があるわけではなく、依頼人である地域の住人達から細かく情報を集め、道の方角や移動にかかる時間から大凡の見等をつけて、冒険者達なりに作った独自の地図を元にして割り出したものだ。少し信憑性に欠けるような気もするが、様々な学問に精通したオリガ・アルトゥール(eb5706)が中心になって作成したものだ。前人未踏の部分は仕方がないが、村の位置関係等については、わりと正確な地図になっているはず。
「クラスティ‥‥。やはり、彼なのでしょうか‥‥」
「さてな。それは会ってみなくては分からんだろう」
 三人組みが立ち寄ったという村の一つで、村人の話からある程度、彼らの立ち寄った正確な時間が分かり、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)がパーストの魔法を使った時のことだ。そこに映し出された三人の中に、他人の空似というには余りに似すぎている銀色の髪のハーフエルフ、クラスティの姿があった。
「私としては、側にいた娘の方が気になったがな。前のドラゴンとの一件の時に商会の傭兵の中にいた顔だ。あれが悪魔かもしれんが、あるいはあの娘も操られているだけで、意外ともう一人の子供が悪魔という可能性もある。何にせよ正体がわからない以上、迂闊に接触は出来ないな」
 デュラン・ハイアット(ea0042)はブレスセンサーの魔法を使い周囲の生物の呼吸を探りながら、同時にインフラビジョンでそれらしい影を探す。悪魔の探知や判別は、他の生物に比べて非情に困難だ。悪魔達は姿形や大きさだけでなく、呼吸や体温の有無でさえも自在に調節するという。ただ、今回は側にクラスティがいるはずで、悪魔が駄目でも彼を見つけることが出来れば、そこから悪魔達に繋がる道を見つけられるかもしれない。
「立ち寄った村々で聞いた話ですが、彼らはどうやら、その周辺で危険視されている魔物についての情報を集めていたみたいですね。旅人が道中の安全のために、そういった情報を仕入れること自体は珍しいことではありませんが、元々、偶にしか旅人が立ち寄らないような、あまり開発の進んでいない村が多いので、村人達の印象に残ったようです」
「オリガの調べでは、消えた魔物が住んでいたはずの場所に、妙な形跡などは無かったのだったな?」
「ええ。少し日が経っているので消えてしまったという可能性もありますが、少なくとも魔物達が殺されたと思えるような形跡は見つけられませんでした」
「なら、殺さずどこかへ連れていったという可能性の方が高いだろう。魔物を隠しておくには、相応の器‥‥つまり、魔物を集めている施設があるはずだが‥‥」
 デュランは空からも探索してみようと、リトルフライで宙に身体を浮かせる。
 距離があると判別しにくいが、人と同程度の大きさの何かなら、見渡せる範囲で幾つかインフラビジョンによる確認が出来る。ただ、大きな反応が固まっているような場所は無い。魔物を集めている場所があるとしても、どうやらこの付近ではないようだ。
「‥‥ん、何だ?」
 デュランは眼下に広がる樹海の一角で、淡い光が見えた気がした。地上に降り、仲間達にそのことを伝える。
「気になりますね。私達が先に進んで様子を見ます。皆さんは、後ろの警戒をお願いします」
「連中かもしれないし、念のために顔は布で隠していくか‥‥」
 余談だが、防寒具の無かったラスティとリュリスは朝方に近くの村で代わりに動物の毛皮を借り、それを着ていた。防寒具としてきちんと誂えられたものではないので、まだ少し寒いが、今時分の寒さから身を守るのに少しは役に立っているようだった。

 冒険者達がしばらく森を進むと、先行するラスティの目に一匹の魔物の姿が見えた。大きな身体に、巨大な斧と黒い雄牛の頭。ミノタウロスと呼ばれる魔物だ。そして、その魔物の傍らに人影が一つ。それはエルンストの魔法で見た、三人組の一人である少女の姿。通常、ミノタウロスは人間を見れば即座に獲物と判断して襲いかかってくる危険な魔物のはずだが、何故か争うような様子はなかった。
 すぐに後方の仲間達にスクロールでテレパシーを使って知らせ、テレスコープで様子を見る。何か喋っているのなら、読唇術で読み取れるかもしれない。
(「‥‥東の‥‥山? 入り口‥‥」)
 どこかへ向かうことを指示しているのだろうか、少女が何かをミノタウロスに指示しているように見えた。
 ‥‥だが、そこでそれ以上のことは分からなかった。次の瞬間、事態は大きく動いたからだ。
「‥‥これは!?」
 ラスティとリュリスがそれぞれ自分の指を見れば、石の中の蝶が羽ばたき始めていた。
「ちっ、どこだ!?」
 周囲を見回すが、それらしい影は全くない。後方のデュラン達も二人の様子から異変に気づくが、彼らの使える魔法でも接近する悪魔の位置を感知できない。ラスティは急いでスクロールを広げたが、その詠唱は間に合わなかった。
「がはっ!?」
「リュリス‥‥きゃあ!?」
 見えない敵からの攻撃。石の中の蝶が激しく羽ばたいていることから、近くにデビルがいるのは間違いない。だが、その相手の姿はやはり全く見えない。痛みの走る傷を見れば、鋭く大きな爪で切り裂かれたような跡。
「二人とも、急いでこっちに戻れ!!」
 後方にいたエルンストが大きな声を上げた。敵の姿が見えないのでは、後方の彼らも魔法で狙うことさえできない。状況の不利は明らかで、とにかくこの場から逃げ出すしか今はない。
「くっ、厄介な‥‥!!」
 デュランがシャドウフィールドのスクロールを広げて詠唱に入る。本当なら敵のいる方向に向けて発動したいところ。見当をつけて闇の空間を生みだすが、それで敵の視界を防げたかは分からない。
「無駄だよ。彼にその手の魔法は通じない」
「クラスティ!?」
 突然に声のした方をオリガが見れば、そこには彼女の探していたクラスティの姿があった。外見上、何かの変化があるようには見えない。そこにあったのは彼女の知る以前のクラスティそのままの姿だ。
「やあ、久しぶりだね」
「こんなところで何を‥‥?」
 もし接触せずに済むのなら、今はその方が良いともオリガは考えていた。だが、クラスティは違う考えのようだ。長弓を構え、はっきりとこちらに矢を向けている。
「残念だけど、これから死ぬ君達には教えるだけ無駄だよ」
 ――カッ!
 言葉と共に一斉に放たれる三本のクラスティの矢。オリガの前に立ち、その全てを盾で受け止めたのはバル。
「話すだけ無駄のようです! とにかく今は逃げましょう!」
 ある者は連れていた馬に乗り、ある者は魔法の靴で。冒険者達はもはや手段など構わず、一斉にその場を離れ出した。
「逃がさないよ!」
 駆け出そうとしたクラスティの肩に、そっと置かれる手。
「追わなくて良いですよ、クラスティ」
「イペス‥‥」
 それは、今さっきまでミノタウロスの側にいた、あの少女だった。

「くっ‥‥やはり追手が来たか‥‥」
 戦闘馬を駆るエルンストがブレスセンサーにかかった反応を見れば、上空から二羽のホワイトイーグルが迫って来ていた。クラスティ達からは既にかなりの距離を離れたはずだ。あとは、あのホワイトイーグル達を振り切れば何とかなるはず。
「あの時見えた淡い光‥‥。ミノタウロスの様子を考慮するなら、かけた相手を操る類の魔法だろう。こいつらもおそらく‥‥」
 デュランはそう推測し、仲間達に伝える。
「一応の目的は果たしたことになるか‥‥だが‥‥」
 ふいにラスティとラザフォードが後ろに向き直り、臨戦態勢をとった。
「あの速さで追われては、逃げ切れません」
「それに、こいつらなら姿も見える。やられっぱなしでは気が晴れんしな」
 空の魔物達へと氷の円刃と重力波を放てば、巨大な二羽の鳥は痛みと衝撃に大きく体勢を崩す。野性の鳥なら危険を悟って逃げても不思議は無いが、それでも構わず冒険者達に向かってくるのは、やはり、そういう命令に従うよう魔法をかけられているせいかもしれない。
「ならば、ここで仕留めます」
「ああ。こいつらも放っておくわけにはいかなそうだしな」
 二羽のホワイトイーグルのうち、一羽はバルが。もう一羽はリュリスが待ち構え、その手にした魔剣をもって切り払う。白い羽が森に舞えば、デュラン、エルンスト、オリガの三人が魔法で雷光と風の刃、そして水弾を生み出し止めを刺した。
 バルとリュリスは剣を鞘に戻す。別の追手が向かってくる様子はなさそうだった。
「とりあえず、今回は何とかなりましたが‥‥」
「あれがロシアのデビルか‥‥。上等だ。必ず始末してやるぜ」
 完全に姿を消しながら攻撃してくるデビル。呼吸もなく、体温も空気と同化しているのだろう存在。正確に位置が掴めなければ、剣はおろか魔法でも対抗できるものは限られる。何か対策を考える必要性があるだろう。

 悪魔達は魔物を集めて何をしようとしているのか‥‥。
 果たして、このロシアの大地に、何が起きようとしているのだろうか‥‥。