【魔宴】選択の時
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■シリーズシナリオ担当：BW 対応レベル：11〜ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：16 G 29 C 参加人数：9人 サポート参加人数：6人 冒険期間：02月10日〜02月20日 リプレイ公開日：2008年02月22日 |
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●オープニング
先の森での戦闘から数日。冒険者達が捕らえた男は、尋問を担当した憲兵達に、ディーク・リエラスと名乗った。
「まあ、気軽にディーとでも呼んで下さい」
手足を縛られ魔法を使うために印を結ぶことも出来ない状態にありながら、男の態度には、不気味なほどの余裕が感じられた。
あるいは、その余裕は見せかけだけのもので、実際は自棄になっているだけかもしれない。何せ、冒険者達の前で悪魔法を使い、悪魔に魂を売ったことを堂々と見せ付けた男である。村々への襲撃の件も含め、死刑は免れないだろう。
だが、本当にそうなのだろうか‥‥。
キエフ冒険者ギルド。
「あれから、ディーという男は今もキエフの牢の一つに囚われています。特に逃げ出そうとする様子も見えず、随分と大人しいものだそうです」
集まった冒険者達を前に、ギルド員が事の経過を報告していた。
「問題のガルディア氏についての、悪魔との協力関係についての話ですが‥‥現在、国からガルディア氏に対して、任意で取調べへの同行を要請している段階です」
「‥‥悠長な話だな。とっとと捕まえてしまえば良いじゃないか」
冒険者の一人が言う。
「悪魔の手先が、あっさり過ぎるほど簡単に吐いた情報だ。おまけに、ガルディアは大きな商会の代表で、色んなところに影響を与えられる立場にある。どう考えても、国の経済を混乱させるための虚言と受け取るのが普通だろうな」
別の冒険者が、実に面白くなさそうな表情で語る。
実際、国の役人達としても強くは出られないだろう。ここでガルディアを調べて、何の証拠も出てこなければ、見事に悪魔の言葉に踊らされただけの道化だ。
「そちらの方面には、まだ大きな動きが無いというのは分かりました。それで、ここに集められた私達は何をすれば良いのですか？」
率直に訊ねる女性冒険者に、係員は次のように話す。
「行って欲しいのは、先のディーの話にあった、魔物が集められている場所の情報の真偽の確認です」
情報に寄れば、問題の場所は以前にイペス達と戦った地帯から、やや北方。そこに人の足で踏み入るには少し険しく、とても深い谷があるのだという。
その奥深く、集められている魔物の総数は数百にも及ぶ。事実であれば、正直を言って十やそこらの数の冒険者では到底、殲滅は不可能。だから、あくまで確認のみを国から依頼されたという。
「それでも、生きて帰ってこられるかは怪しいな‥‥」
敵には、あの二体の悪魔とグリフォンライダー達がいる。見つからずに全てを済ませられれば良いが、見つかれば、単に逃げるだけでも命がけである。
「なお、ガルディア氏に関してですが、国の取調べには協力する意向を示しているものの、その前に、以前の騒動で商会の管理下に入った開拓地の現状を視察に行くとのことです」
何人かの冒険者の脳裏に、苦い思い出が蘇る。
元はホルスと、それを神と崇めた蛮族達のいた、あの土地だ。
今は、商会の指導の下、キエフから働き手として雇われた多くの難民達が開拓作業に従事しているという。
提示された依頼は、情報の真偽を確かめること。
だが、後のことを考えれば、魔物達の前に、ガルディアの悪魔との協力関係の有無をはっきりさせておくことも重要かもしれない。
尻尾を出させたいなら、命の危機に瀕するほどの状況に追い込め。
以前に、イペスはそう冒険者達に告げた。
あれからずっと周辺での悪魔達の目撃情報も無かったため、問題の開拓地の警備は、わりと手薄になっているという。
ある意味で、これは好機かもしれない。
しかし、谷の方に向かっても、殲滅とはいかないまでも戦い方によっては、追いかけてきた悪魔やグリフォンライダー達の何人かを倒すことが出来るかもしれない。
それも、確実に後の助けになるだろう一つの選択である。
果たして、冒険者達はどのような選択をするのだろうか。
●今回の参加者
ea0042 デュラン・ハイアット（33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国）ea5640 リュリス・アルフェイン（29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国）
ea8553 九紋竜 桃化（41歳・♀・侍・人間・ジャパン）
ea8769 ユラ・ティアナ（31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国）
eb0655 ラザフォード・サークレット（27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国）
eb2363 ラスティ・コンバラリア（31歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国）
eb5706 オリガ・アルトゥール（32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国）
ec0199 長渡 昴（32歳・♀・エル・レオン・人間・ジャパン）
ec0502 クローディア・ラシーロ（26歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国）
●サポート参加者
アド・フィックス（eb1085）／ 若宮 天鐘（eb2156）／ 鬼を食らいし羅刹 咆餓（eb3090）／ レア・クラウス（eb8226）／ クロエ・アズナヴール（eb9405）／ クレイ・バルテス（ec4452）●リプレイ本文
蠢くは魔に属せし者。轟くは憎しみと怒りの声。
その宴に集いしは、王への贄。
硬い岩だらけの地盤が雪に覆われた危険な斜面を、冒険者達は慎重に進んでいた。
「本当に険しい道が続きますね」
額を流れる汗を拭い、呟いたのはオリガ・アルトゥール（eb5706）。彼女に限らず、体力に劣る者や山歩きに慣れていない者にとっては、やや厳しい道が続く。
「少し調べたのですが、場所が場所なので余り人が近づくことも無いそうです。ここから先は、前人未踏の領域だとか」
ラスティ・コンバラリア（eb2363）の言葉に、幾人かの冒険者が疑問の表情を浮かべた。
「何故、そんなところに魔物を集めたのでしょうか？ 国に見つかりにくくするため、というのも分からなくはないのですが‥‥」
馬の手綱を引きながら、クローディア・ラシーロ（ec0502）が持っていた疑問を口にする。
「それに関してですが‥‥やはり気になるのは、ディーのことですね」
「悪魔に魅入られ魂を売った者の一人‥‥この場所の情報を吐いた例の魔術師か。ここに来る前に少し面会して来たと聞いたが、どうだったんだ？」
浮かない表情のラスティ。それを見て、長渡昴（ec0199）が隣にいたラザフォード・サークレット（eb0655）に訊ねると、彼もまた歯痒そうな表情で次のように述べた。
「どうしたもこうしたも無い。あの男、ガルディアに関してもイペスからそう聞いているだけで、それが真実か否かは知らないそうだ。どうも、あの男の持つ情報は全て悪魔の意図で与えられたもののようでな。どれだけ調べても、それが事実かどうかは疑問が残る。あの男自身も、自らを道化にすることが悪魔の意図だと分かっているから、敢えて何でも喋るというわけだ」
悪魔イペス。ラザフォードが持つ書物と知識に寄れば、天使のような外見を持つ一方で、本来の姿は複数の動物の特徴が入り混じったものであるという。人間をデビノマニへと導くことが多い悪魔でもある。事実、グリフォンライダー達やガルディア等、その候補であろう人間がイペスの周りには多い。
「う〜ん‥‥後手に回るしかないのが口惜しいわね」
「まったく、陰険な仕掛けを施した物です」
ユラ・ティアナ（ea8769）と九紋竜桃化（ea8553）も、相手に踊らされているような印象が拭えずにいるようだ。
正直なところ、冒険者達の多くが敵の意図の掴めぬまま、ここに来ることを選んでいた。ただ、その中で一人、より深いところにまで思案を巡らせていた者がいる。リュリス・アルフェイン（ea5640）だ。
（「ガルディアを追い詰めろっていう奴の言葉。それに、ディーの情報。ガルディアの開拓地への視察。舞台が整い過ぎてやがる。全部が繋がっているんだとしたら、奴が俺達をガルディアの方に行かせたいのは明らかだ。何で、そんなことをする必要がある？」）
リュリスはここに来る前、ガルディアに護衛を付けることを、キエフの支店の一つを通じて商会に提案してきた。悪魔の口封じにあう可能性を考えたのと、彼を見張る者が誰か必要と考えたからだ。
ガルディアに提案が受け入れられたかどうかは、ここに来なければならなかったリュリスには分からない。ガルディアの街も開拓地も、キエフからは遠い場所。結果を見る前に依頼に出発しなければならなかったのだから仕方がない。
もっとも、根が商人のガルディアのことだ。余計な人間を雇って金を無駄に使いたくはない、などと理由を付けて、突っぱねている可能性の方が高いだろう。
「さて、この辺りで良いか。ここからは二手に分かれて行動だったな」
デュラン・ハイアット（ea0042）がインフラビジョンの魔法を使い、遠くを見つめながら言う。遠方に、何か大きな熱の塊らしきものが見えていた。集められた魔物達がかたまっているのかもしれないが、距離があるせいもあって、正確なところは分からない。
それに、そこに至るまでの途中に、別に気になる熱源があった。数や動きの早さから見て、グリフォンライダー達に間違いないだろう。周辺の哨戒にあたっているらしく、その包囲を突破しないことには、魔物達の姿をしっかりと確認できそうにはない。
魔物の集まりらしきものが遠くから見えただけで、敵の魔物の種類やある程度の正確な数が掴めないままキエフに帰る、というわけにはいかないだろう。
この先、偵察に出るのはグリフォンを駆るデュランとユラの二人だけだ。他の者は待機の方針を取った。
ここからは間違いなく、国内最大級の危険地帯だ。敵に発見されても逃げられる移動手段を持つ者でなければ‥‥。冒険者達はそう考えたのだ。
二人の姿が谷のより奥へと消えた後で、リュリスは再び考えていた。
（「‥‥まあ、数百の魔物なんて下手にどうこうできる数じゃねぇよな。それで国だって対応を慎重にしたんだし、そんな数を聞かされたら、大抵の奴は怖気付いて深入りなんざ‥‥」）
そこまで思考して、ふと、ある疑問が浮かんだ。
（「‥‥何でだ？ むしろ俺達を嵌めるなら、数は秘密にして魔物の群れの中に誘いこめば良いじゃねぇか。まさか、敢えて情報を流したのは‥‥ガルディアっていう餌まで使って、俺達をここに来させないようにしたがったのは‥‥」）
「来たぞ、連中だ！」
ラザフォードの声に、はっと意識を外に戻すリュリス。すぐに魔よけの札を燃やせば、周囲に邪悪なる者の動きを抑制する結界が展開する。
「くっ、何とかここまで逃げ切ったか」
「とにかく、怪我の治療を。それから、すぐ反撃に出ましょう」
かなり疲弊した様子のデュランは懐から薬を取り出す。ユラはグリフォンのテイルに積んでいた長弓を取り出し、狙撃の準備にかかった。
その背後から迫る敵の姿。先陣を切るのは、クラスティ。その後ろから、グリフォンに乗った者が七人。以前に闘ったグリフォンライダー達だ。
「やはり、他にも仲間が‥‥。全員、逃がすな！ ここで仕留めるぞ！」
「そうはいきません！」
距離を詰められる前の攻撃の交差。オリガの魔法が、槍兵の男の一人を対象に発動する。生み出されたのは、氷の棺。これで一人を無力化した。
「ちいっ！」
返しとばかりに、冒険者達に飛来する矢の雨。
「そのくらいならばっ！」
「たとえ、かわせなくとも！」
オーラを纏い身体能力を高めた桃化が盾を前に翳し、矢を受ける。剣一本の昴はその身に矢を浴びこそすれ、こちらは強固なオーラの鎧で傷を最小限に止めた。
「今回は、本当の実力を見せてくれるのかしら？」
「ええ、そのつもりです！」
桃化へと距離を詰めてきたのは、女槍士。以前の戦いで自分を死の直前にまで追いやった因縁の相手。その槍撃を盾で受け止めた腕に意識を集中し、相手の動きを見極めることに集中する。
「‥‥薙ぎ払え‥‥！」
ラザフォードが重力波を放ち、接近を試みていた槍兵の一人を揺さぶる。転倒には至っていないが、小さくとも傷は負わせる。
「こんなんで、俺を止められるかよ！」
「いいや、止まってもらう」
昴はグリフォンライダーの進行方向、側面上方の降り積もった雪へと衝撃波を放った。大量の雪が男の視界を塞ぐかのように降り、たまらず槍兵は大事をとってグリフォンの手綱を引き、進行方向を変えた。
「ちいっ！ この女、小細工しやがって！」
「私は、最善と思える手を使ったまでだ。お前達、悪魔に魂を売り渡してまで力が欲しいのか？ そんなことをして得る力に、何の価値がある？」
「勇ましいこったなぁ！ だが、この国を見てみろ！ 力が無けりゃ、悪魔に差し出す命すら失う！」
「愚かですね。人であるということを捨ててまで、生き永らえるなど‥‥」
ユラは引き絞った矢を、男のグリフォンへと向けて放つ。急所を貫く一閃にグリフォンは大きく声を上げ、その動きが鈍る。
「命がけの鬼ごっこというのは、余り好きになれそうにはないのですが」
「それなら、早く降参して楽になったらどうだい！？」
「つまらん冗談だな。私達を笑い殺す作戦なら、今すぐ帰って出直してくることだ」
オリガの放つ吹雪を抜けてきたクラスティを、今度はデュランの雷撃が捉える。だが‥‥。
「ははっ、面白い冗談だ！」
何事もなかったかのように、クラスティは矢を放って来た。
避けきれず、デュランは腕を射抜かれる。
「くっ、レジスト系の魔法か。また厄介なものを‥‥！」
繰り広げられる激しい撤退戦。
だが、数の上で冒険者達が勝っており、このまま敵の増援が無ければ、逃げることはそう難しくないように見えた。
ふと、悪魔の動きを警戒していたラスティが呟く。
「‥‥妙ですね」
イペスも、ネルガルでさえ未だに全く姿を現さない。それだけではない。これだけ時間が経っていれば、移動力の高い魔物の十や二十、敵の増援として姿が見えてもおかしくない。それが、全く無い。
「まさか、やっぱり、そういうことなのかよ‥‥」
「何だ？ 何か気付いたことでもあるのか？」
リュリスの漏らした声が、ラザフォードの耳に入った。
「なあ、ラザフォード。俺達は、今、何をしてる？」
「どうした？ 錯乱する魔法でも受けたのか？」
「俺達は逃げているんだ。偵察に来たが、無理をして数百の魔物に囲まれでもしたら、命が無い。だからだよな？」
「分かっているなら下らないことを訊くな。戦いの最中だぞ！」
「もし、俺達にそういう行動を取らせることが、あのディーに情報をバラさせた目的だったら、どうすりゃいいかね？」
「何を‥‥？」
「俺達が『無茶をして谷の奥に進むことを躊躇う』ようにすることが目的だったら‥‥」
‥‥その時だった。
リュリス達の足元、大地が大きく揺れ始めた。
――時は、少し前に遡る。
巨大な陣が描かれていた。遠く、遥か昔に失われた文明の文字が並び、その陣の上に、無数の魔物達が集っていた。
それを見下すかのような高みに、二つの悪魔の姿があった。
「儀式の準備は大方、終わりました、イペス様」
「ええ。万全を期すのであれば、価値ある者の魂を完全な状態で贄に加えたかったところですが、冒険者達がガルディアを無視して、こちらに来てしまった以上、予定の変更は仕方ありませんね。まあ、こちらの狙い通り、無理にここまで立ち入って来なかったのは幸いでした。一人でも余計な侵入者がいれば、今までの活動が全て台無しになっていた可能性もありますからね。‥‥さて、始めましょうか」
突然の大地震に冒険者達は足を取られ、下手に身動きが取れない。
「何事ですか、この揺れは！？」
「大気中の精霊力が乱れています‥‥これは‥‥何かに怯えているような‥‥！？」
身のこなしには優れているはずの桃化でさえ足場が定まらず、感覚に優れたオリガは明らかな周囲の異変を感じ取る。この地震は、自然に起こったものでは無い、と。
「落ち着け、ヒョードル。空を飛んでいるお前が、地震などに怯える必要は‥‥」
異変は冒険者達の連れていた動物達にも見られた。勇敢なはずのペット達ですら、この場から一刻も早く逃げ出すべきだと、飼い主である冒険者達に訴えているようだった。
「何という殺気‥‥これが、この谷を、大地を怯えさせているのか。こんな気を放てるものが、この世に存在するというのか‥‥」
昴の全身の神経が告げていた。渦巻く憎悪、怨恨、悪意。そんな言葉で表現しきれないほどの、とてつもなく恐ろしい何かが、この近くにいることを。それを感じたのは、彼女だけではない。彼女やクローディアの連れていた幼いペット、臆病なペットなどは、恐怖のあまりにか息絶えていた。
「どうやら、俺達の仕事はここまでみたいだ。‥‥全員、この一帯から離れるぞ。急げ！」
クラスティの号令で、グリフォンライダー達が一斉に退却を始める。
「とにかく、こちらも撤退しましょう！ 嫌な予感がします！ これ以上、ここにいるのは危険です！」
ユラの声に肯き、冒険者達もすぐに動き出す。
見れば、周囲の谷の岩壁がヒビ割れ、今にも崩れ始めようとしていた。
「‥‥また、あの悪魔に踊らされたというのですか、私達は‥‥！？」
ラスティの悔しさに満ちた声が、揺れる大地の音の中に消えた。
妖しい輝きを放つ魔法陣の上空。そこに、金色の翼があった。
「肝心なところで、邪魔をしに来ますか‥‥ホルス」
対峙するのは、白い羽を広げたイペス。そして、本来の悪魔の姿をとったネルガル。
「あの冒険者達にクラスティ達が引き付けられていた隙に、姿を消してここまで入ってきたというわけですか。彼らの逃げることを優先した行動が、意図せずして、貴方にとっては都合の良い方向に働いたわけですね。偶然‥‥いえ、予知していたのかしら？」
訊ねるイペスの問いには答えずに、ホルスは言葉を返す。
『魔に属する者達よ。このような行い、見過ごす我ではない。儀式の達成は成らない。我が、止める』
「‥‥やれるものならっ！」
数日後、キエフへと戻った冒険者達に、ある情報が届けられた。
ガルディアの向かった開拓地で何かが起こり、ガルディア及び、商会の傭兵、開拓にあたっていた人間達まで全員が忽然と姿を消し、行方不明になったという報告である。
現場には何者かと傭兵達が争ったかのような形跡も残されており、現在、ローレン商会が調査を行っているとのことだ。
また、冒険者達の体験した谷での一件が関わっているのかは定かではないが、ここ数日より、ロシア各地で急に珍しい魔物の目撃例や、その活動によってもたらされる人々への被害が増えたとの話が持ち上がってきていた。
あの後、谷で何が起こったのかは冒険者達にも分からない。現在、あの大地震によって、谷は崩れた土砂に完全に埋もれており、既に人の踏み入れる場所ではなくなっているため、それを調べる術も失われている。
「私達は、切り捨てた可能性と未来の上に存在しているのだ。ならばせめて、後悔だけはせずに生きていかねばならんだろう。でなければ、切り捨てた可能性に示しがつかん」
重い表情を浮かべる仲間達を前に、ラザフォードはそう言葉を紡いだ。
