【魔宴】魔人の宴

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:12 G 26 C

参加人数:11人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月15日〜01月24日

リプレイ公開日:2008年01月30日

●オープニング

 山岳地帯の中の、小さな洞窟。
 そこに、イペス達の姿があった。
「あ〜あ、ホルスが出てくるなんて聞いていませんでしたよ。どうすんですかイペス?」
「全くじゃ。おかげで、小僧どもを殺し損ねたわい」
 戦いの最中、窮地に陥った冒険者達の前に突如としてホルスが現れ、彼らを助けた。
 それは、イペスや傭兵達にとっても予期せぬ事態で、巨大な力を持つ精霊を前にしては彼らとて、その場を退くしかなかった。
「こら、イペス様に文句言うな〜!」
 子供姿になったネルガルが小さな手を振り上げて怒っている。先の戦いの時に見せた真の姿と比べると、まさに別物。ネルガルは悪魔の位で言えば下級に分類されるが、その中で最も中級のデビルに近い実力を持つ存在でもある。この子供の成りをした地獄の密偵は、どれだけの力を隠しているのだろうか。
「うろたえる必要はありません。ホルスといえど、一羽で出来ることには限りがあります。先の戦いでは突然のことで不覚を取りましたが、皆さんほどの実力であれば、勝てない相手というわけでもありませんよ」
 穏やかに微笑んでみせるイペス。
 未来を垣間見る力を持つというこの悪魔の言葉には、どこか人を惹きつけるものがあり、傭兵達もそれ以上の愚痴を言わなくなった。
 だが、内心でホルスの出現をもっとも不快に思っているのは、他の誰でも無いイペス自身だ。
 各地から集めた多くの魔物。自分の手駒として揃えた少数精鋭の傭兵部隊。今のイペスは、これまでのようにローレン商会という隠れ蓑を使いながら行動せずとも、自らの思うが侭に動けるだけの力を持ち始めていた。
 実際、今ならホルスとまともに戦っても、返り討ちに出来るだけの自信はある。しかし、それでも余裕で勝てる相手ではない。もし、ホルスが冒険者達と力を合わせるつもりであるのなら、なおのことだ。上手くいっても、集めた魔物の大半と傭兵達の半数以上を失うだけの覚悟は必要になるだろう。
 それに未来を見る力を持つとは言っても、それは人と同じように陽の精霊の力を行使して行うもの。自分が関わらない形での未来しか見えない。だからこそ、あの戦いの場へのホルスの出現を知ることも出来なかった。
 何か対策を立る必要がある。ホルスと冒険者達が結び付く前に‥‥。

 後日、キエフ冒険者ギルドにて。
 集まった冒険者達の前。ギルド員が額に汗を浮かべていた。焦っているような表情。もしかすると、かなり緊急を要する依頼なのかもしれない。
「先の地域で、近隣の村が魔物の群れに襲撃されるという事件が立て続けに起こっています。それも、魔物達を従えているのは、グリフォンに乗った人間だと」
 冒険者達の頭に思い出されるのは、先の戦いで出会ったグリフォンライダー達の姿。歴戦の猛者であるはずの自分達に劣らぬ、あるいはそれ以上の実力者が揃っていた、あの傭兵達。
 勝てるだろうか‥‥。いや、再び敗れるようなことがあれば、今度は自分達だけでなく、近隣の村人達の命もないだろう。
 今度こそ、勝たなければならない。

 暗黒の森を進む魔物の一団。その中に、人と思われる存在の影が、三つだけあった。
「やれやれ、参りましたね。まさか、この私がこんな面倒な役を押し付けられるとは‥‥」
「ぼやくな、小僧。そんな暇があるのなら、新しいグリフォンの躾をもっとしっかりしておかんか。いざという時に命令を聞かぬようでは、使いものにならん」
 そう言葉をかわしていたのは、先の戦いでグリフォンを失った術士と老槍士。
「あんた達はまだいいさ。俺なんて、ろくに戦いもしないうちに氷漬けだぞ。‥‥恥をかかせてくれた借りは必ず返すぞ、冒険者どもめ」
 グリフォンを駆る若い槍士が、忌々しそうに吐き捨てた。
「心配はいりませんよ。なにせ‥‥」
 術士の身体を、黒い霞のようなものが覆う。それは、精霊魔法の発動時に見える光とは明らかに異質のもの。
「今回の私達には、悪魔から授けられた『力』があるのですから」

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1568 不破 斬(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2363 ラスティ・コンバラリア(31歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9112 グレン・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec0502 クローディア・ラシーロ(26歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

ルイーザ・ベルディーニ(ec0854

●リプレイ本文

 命。それは、代価。
 力。それは、報酬。
 悪魔の眷属となりし者達が、獣を率いて森を渡る。

「駄目か」
 魔法でホルスの反応を探したが、だいぶ遠くにいるとしか分からず、デュラン・ハイアット(ea0042)は諦めて焚き火の前に腰を下ろした。その手に、一冊の書物がある。悪魔について記された神学書だ。目を通していると、近くのオリガ・アルトゥール(eb5706)が深刻そうな表情で次のように言った。
「デュラン‥‥まさか、いよいよ人間を裏切って悪魔と契約する気に‥‥」
「おいおい、この私が悪魔の手下になるなど、あるわけがなかろう。まあ、奴らが手下にしてくれと土下座でもしてきたら、考えてやらんでもないが」
 クスリと妖しい笑みを浮かべてデュランがそう応えると、オリガも表情を崩して笑った。
「そう言うと思っていました」
 どうやら今のやりとりは彼らなりの戯れだったようだ。
「今の冗談は、心臓に悪いぞ‥‥」
「じ、冗談だったのですか? それを聞いて安心しましたよ‥‥」
 焚き火を使って温石作りの途中だったエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)は少し手を止めてしまい、テンプルナイトの立場にあって冗談の通じない性格のクローディア・ラシーロ(ec0502)などは、危うく剣を抜いてデュランに切りかかる寸前だった。デュランが言う冗談には、本気か嘘かの区別がつけにくいものが時々ある。彼の場合、大真面目に世界征服だって唱えそうな雰囲気があるので、なおさらだ。
「それで傭兵達を元に戻す方法だが、何か知恵はあるか?」
 ぱたんと本を閉じて、デュランは周囲に訊ねる。
「難しいと思います」
 悪魔の下僕となった者を普通の人間に戻すのは容易なことではない。もし一時的な魔法による効果だとすれば時が解決してくれるだろうが、浄化や治癒の魔法でも契約によって奪われた魂まで治療することは出来ない。
「イギリスだろうとロシアだろうと、デビルが関わるところには碌なことが起きないわね。たまらないわ」
 いつの間にか、周囲の森に偵察に出ていたユラ・ティアナ(ea8769)が戻って来ていた。イギリスよりここロシアへ渡ってきた彼女の話を聞けば、かの国にも悪魔の手は伸びているようだ。
「その話の続きは、戦いに勝ってからにしましょう」
 ユラ同様に偵察に出ていたラスティ・コンバラリア(eb2363)とリュリス・アルフェイン(ea5640)、それに不破斬(eb1568)らも次々と戻って来た。
「やはり、率いていたのは先日に戦った傭兵達でした。魔物の正確な数は把握できませんでしたが、おそらく以前にオーグラ達と戦った時と同じくらいだと思います。もう間もなく、ここに来ます」
 すぐにこちらも動くべきと付け加えて、ラスティは仲間達に見てきたことを報告する。
「もし今回も失敗すれば、近隣の村が犠牲に‥‥。その様な事はさせません」
「うむ。それに、前回の借りを此処で晴らさねば」
 それぞれの武器を手に、九紋竜桃化(ea8553)とグレン・アドミラル(eb9112)が立ち上がる。
「まあ、仕掛けるのに良さそうな場所は見つけておいた。あとは、始めるだけだが‥‥楽な仕事じゃねぇぞ。全員、覚悟は出来てるか?」
 リュリスが訊ね、仲間達の顔を見渡す。その表情に迷いを浮かべる者は誰一人としていない。
「怖気づくようなら、最初からここには来てないか。やれやれ、つまらないことを聞いちまったな」
「そういうことだ。いかなる相手、状況であろうと、俺は自分の役目を果たす。それだけだ」
 斬の言葉に、小さく肯く冒険者達。
「私は、同じ過ちを繰り返すのが嫌いなものでな。己が力不足で再び惨劇を起こす心算は無い」
 ラザフォード・サークレット(eb0655)は、その言葉に強い想いを込めて。
「勝ちましょう‥‥絶対に」
 知恵の神の名を冠せし杖を手に、オリガは歩を進めた。

 森を揺らす突然の猛吹雪に、魔物達は行軍の停止を余儀なくされた。
「何事だ!?」
 グリフォンを駆る若い槍士の声が響く。進んでいた先を見れば、前を歩かせていたトロル達の列に乱れが生じていた。その瞳に映るのは、金色の長い髪を風に靡かせる一人の魔術師。
「ここを抜けさせるわけにはいきません。ヘパイストス、ウルカヌス!」
 魔法を放つオリガの声に、二羽の小さなホルス達が翼を広げて空へと飛び立つ。
 鬱蒼とした森の中で、その大きな翼を存分に羽ばたかせることはできないが、ギリギリの隙間を見つけ、網の目を縫うように森を飛び、魔物達を牽制する。
「前回の不覚、此処で晴らす」
 オーガ戦士の身を貫いたのは、グレンの赤き魔槍。己の技に溺れず、敵を見極め、一撃一撃を確かなものとして敵を仕留める。雪に足をとられ、多くの魔物に囲まれたこの状況は、けしてグレンにとって戦いやすい舞台ではない。けれど、焦る必要は無い。
「今度こそ、守り抜いてみせます」
 オーラを宿した桃化の剣が、トロルを切り払う。その鋭い剣捌きに、圧倒的な技量の差を感じとったか、魔物達に動揺が走る。
 そこに生まれた隙を見て、グレンと桃化の後ろ、二人の守っていた仲間達が、その手を翳す。
「諦めず、投げ出さず、逃げ出さず‥‥。過去の失敗を未来の成功へと繋ぐ礎となすことこそ人の成長。お前達のような者に、二度も敗れる私達ではない」
「思えば貴様らも犠牲者。悪魔に踊らされて朽ちるくらいなら、せめて人間の力で葬ってやろう!」
 ラザフォードの放つ重力の波、そしてデュランの放つ雷光が、大地を覆う雪ごと魔物の群れを飲み込み、貫く。
「闇に堕ちた者達か‥‥だが侮れぬ」
「それが分かってるなら、いきなり油断してやられることはなさそうで少し安心したぜ。行こうか、不破の狼さんよ」
 それぞれの手には魔剣と名工の薙刀。リュリスと斬がトロル達の隊列を突き崩していく。押し寄せる魔物達の波を相手に、一進一退の攻防。その激しい戦いの最中で二人が探すのは、この魔物達を指揮しているであろう、あのグリフォンライダー達の姿。
「ようやく来たか、小僧ども‥‥今度こそ、息の根を止めてくれるわ!」
 トロル達の群れの後方から、グリフォンを駆って飛び出してきたのは、あの老槍士。
「嬉しいぜ。雑魚の相手にもうんざりしてたところだ。俺と同じ傭兵なら‥‥楽しませてくれるよな!」
 リュリスは剣を捨て、後方に突き立てていた銀の長槍を取る。
「待て。あれを見ろ」
 飛び出してきた老槍士のさらに後方。そこに、斬は信じられないものを見つける。
 そこにも老槍士がいたのだ。同じ顔、同じ姿をした存在が、それも何人も。
「どうなってんだ? 今、グリフォンに乗ってるのは、本物か?」
「分からん。戦って確かめるしかあるまい」
 悪魔の魔法の一つ、自身だけでなく、他者の姿さえ強制的に変化させる『トランスフォーム』。それを用いた撹乱戦術だろう。
 悪魔の術はこれだけではない。
「どうしたのですか、ヘパイストス!?」
 オリガの見つめる空。彼女のホルスの片方が、突然にもう一羽のホルスへ攻撃を始めたのである。
「ふっ‥‥そろそろ来る頃だと思っていましたよ」
 不適に笑うのは、かの術士。力ある言葉にて、相手を強制的に命令に従わせるその魔法の名は『フォースコマンド』。
 ホルスの妨害がなくなり、散り散りに飛んでいたホワイトイーグル達が次々と冒険者達に襲いかかる。デュランのグリフォン、ヒョードルも奮戦したが、この数を相手には分が悪すぎる。
「くうっ‥‥一度に、この数に来られては‥‥」
 スクロールを用いて幻惑の罠に敵を陥らせることを主として行動していたエルンストだったが、激しい攻撃によって前衛陣も攻撃と携帯薬での回復を繰り返すばかりの余裕のない状況にある。隙の多い通常のやり方で魔法を使うのは、ここからは難しいかもしれない。
「さあさあ、どうです? 前みたいに、さっさと無様に這い蹲って‥‥っ!?」
 余裕の表情を浮かべていた術士の下方。その身体を支えていたグリフォンの背が揺らいだ。見れば、突き刺さった矢が二つ。
「ちいっ、五月蝿い鼠がいるようですね!」
 周囲を見れば、先の戦いで見た弓使いの姿が複数。‥‥が、それはホワイトイーグル達の攻撃で、一瞬にして灰へと変わっていった。魔法により作られた分身だ。
「小細工を‥‥」
 忌々しげに吐き捨てる術士は、すぐにグリフォンに指示を出して地上に降り、周囲に呼吸探査の魔法を使えば、魔物達より小さく、物影に隠れた女のものと思われる息が二つ。
「気付かれた? それでも‥‥!」
 ラスティとユラの弓。それが、術士へと向けられていた。先に罠の魔法を仕掛けたこともあり、魔物に囲まれるまで僅かだが時間は取れる。
 放たれる追の矢。だが、その射線を、術士の指示を受けたホワイトイーグル達が遮る。‥‥その身を挺して。
「本当に便利なものですよ、悪魔の力は。普通の動物ならどれだけ躾ても嫌がるようなことであろうと、この力を使えば簡単にやらせることが出来ますからねぇ」
 浮かぶのは下卑た笑み。
「何と言う非道な行い‥‥そこまで堕ちましたか!」
 魔物の群れを抜けてきたクローディアが、十字の装飾がされた神々しき剣を手に、その術士の男へ切りかかる。
 だが、そうはさせまいと、男のグリフォンが横からクローディアへと飛び掛り、その攻撃を妨害した。
「くっ‥‥!?」
「アハハハッ! 人間も魔獣も、悪魔に比べれば皆、下等な存在。愚か者同士、楽しく踊ろうじゃありませんか!」
 そして、彼らから少し距離をあけて‥‥。
「子供と女性と老人には優しくするのが心情なものでな。如何だね? 私から見れば子供であるゆえ、無抵抗で降伏してあちらの情報を吐く気があるのであれば、瀕死程度に留めて置くが?」
「くだらん話を‥‥。こいつが、答えだよ!」
 話しかけたラザフォードに、若い槍士は容赦なくその手の槍を投げて寄越した。
「いけませんっ!」
 すかさずグレンが庇い、その手にした盾で投げられた槍を弾く。
 若槍士を見れば、グリフォンに取り付けた予備の槍をすぐに取り出していた。搭載力のあるペットを使えるからこその戦い方だろう。
「やはり、そういう返事になると思っていたよ。‥‥覚悟はいいな」
「道を開きます。ついてこれますか?」
「当然だ」
 駆け出す桃化の言葉にラザフォードが返し、共に走る。
 達人と呼ばれるだけの身のこなしを身につけている二人は、魔物達の合間を縫い、槍士の下へ。
 すかさず、ラザフォードは重力反転の魔法を使う。
「それくらいで‥‥!」
 しっかりとグリフォンに捕まり、地に落ちぬよう耐える槍士。
 その攻撃は失敗かと思われた‥‥が、そこに放たれる雷光。
「なっ、貴様っ!?」
「ふっ‥‥」
 槍士の視線の先にあったのは、不適に笑うデュランの姿。身を支えきれず、若槍士は地に落ちる。
「これまでです!」
 すかさず桃化が追の刃を振るえば、鮮血が宙を舞った。
 だが、二度振るわれたはずの剣が、つけた傷は一つだけ。それも、思ったより手ごたえが無い。よく見れば、男は黒の霧を身に纏っていた。
「やってくれる‥‥。だが、もう俺には通じんぞ」
 『エボリューション』。一度受けた攻撃が二度と通じなくなる悪魔法。先の手応えのなさは、おそらくこの槍士が急所を避けて攻撃を受ける術を持っていたからだろう。
 長い戦いになりそうだと、桃化は直感する。
「いざ‥‥勝負」

 魔法が飛び交い、剣が舞うたび、魔物達の断末魔の声が森に響いた。
 白き雪が血に染まった大地には、矢が刺さり、あるいは剣に切り裂かれた魔物達の骸と、薬を入れていたと思われる小さな壷などが散乱している。
「はあっ!!」
 鷲の不折に視界を塞がせて距離を詰め、強き魔力を帯びた小太刀にて斬が仕留めたのは、何人か目の偽者。
「結局、本物は‥‥」
 ――ギッ!
「こいつか!」
 槍を突き出す目の前のグリフォンに乗った老槍士を睨みつけ、リュリスは盾でそれを弾く。
「なかなか良い素質を持っておる。だが、体捌きは素人同然。それでは長く戦場で生き残れんな」
 踏み固められた‥‥というより、戦いによって踏み荒らされた雪原の凹凸に、リュリスの足場が定まらない。
 ――ガンッ!
「はっ、どうでもいいな。たとえ捨て駒にされようと、俺はただ目の前の仕事をやり遂げるだけだ」
「生意気な台詞を吐きおる。しかし‥‥」
 ――ドッ!
 重力波と水弾。それが老槍士とグリフォンを飲み込むと、魔獣は倒れ、槍士は雪原に降り立つ。
「決めてみせろ!」
 ラザフォードの声に、振るわれたのは銀の槍と魔獣の牙。
「ここは‥‥その覚悟に免じて倒れてやるわ」
 リュリスと斬の耳に、小さく老槍士のその声が聞こえた。
「手強い男だったな」
「‥‥それなりに楽しめたぜ、爺さんよ」

 激しい風に、その若槍士は目を塞がれた。
「こんなもので‥‥」
 風が止み、目を開くと、そこに桃化の姿。
「たとえ、一撃で決められなくとも‥‥!」
 ――ガギッ!
 振るわれた槍を盾で受け止める。力での押し合い‥‥競り勝った。
「がああっ!」
 雪原に叩きつけられるように、倒れる槍士。
 その隙を、仲間達は見逃さない。
「今度こそ‥‥捉える‥‥!」
「絶対に、逃がしはしない!」
 放たれる矢と氷輪が、槍士を襲う。
「こん‥‥な、ところで‥‥」
 深手を負い、槍士は懐の薬に手を延ばす。だが、もはやそんな隙も冒険者達は与えない。
「これまでだ、邪悪なる者よ‥‥散れ」
 グレンの槍が、その悪魔の黒き霧に覆われた男の身を貫くと、ついに若槍士は息絶えた。

「おや‥‥。残ったのは私だけですか?」
「ええ。そして、貴方も終わりです」
 残った最後の敵である術士は、クローディアに剣を突きつけられ、デュランとエルンストに囲まれていた。何か不穏な動きを見せれば、即座に首を切れる状況だ。
「聞きたいことは山ほどある。死んで楽になれると思うな。教会で無理やりに生き返らせてでも、口を割らせてやる」
「悪魔に魂を売った人間を、多少の理由があれ、はいそうですかと教会は生き返らせてはくれませんよ。ですが、私も命は惜しい」
「何を‥‥?」
 術士は両手を上に挙げた。降参の姿勢だ。
「貴方達の欲しかった情報をあげましょうか。ガルディア・ローレンは悪魔の手先です。ああ、残念ながらホルスがどこにいるかは私も知りません。でも、魔物がどこに集められているかくらいは教えてあげますよ」
 突然にペラペラと話し出す男に、一同はあっけに取られる。
「ククッ‥‥嫌だなあ、疑ってます?」
 話す男の顔は、不気味なほど笑顔だった。

 冒険者達は、術士の男を連行しキエフへと戻る。
 なお、死んだ二人の物もあわせ、使い道のありそうな傭兵達の道具や金銭は、冒険者達がギルドから追加報酬として受け取った。
 余りに素直過ぎる男の言動。何か意図があるのだろうことは明白だ。よく考え、選ばなければならない。男の言葉を信じるか、それとも別の道を探すかを。