【穢れし牙の森】前編

■シリーズシナリオ


担当:BW

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月02日〜12月11日

リプレイ公開日:2007年12月14日

●オープニング

 鬱蒼と茂った木々に覆われたロシアの大地。
 森は、多くの命を育む場であると共に、多くの死が訪れる場所でもある。
 生まれたものはいつか死ぬ。
 それが世の理なれど、全ての生者が安らかに死を迎え入れるとは限らない。

 キエフ冒険者ギルドに、新たな依頼書が張り出されていた。
「アンデッド化した狼の群れ‥‥か」
 依頼書を眺めて冒険者の一人が呟く。
 目的地の森は、やや遠方の開拓村へと続く通り道の途中に位置し、その道中で旅人や商人が続け様に襲われたことから、今回の依頼が出る運びとなった。
 討伐対象となる敵の数は十数匹と、それなりだ。
 近隣の者達の話によると、以前から多くの狼が生息している地域ではあったらしい。
 しかし、その点を考慮しても、一度にこれだけの数のアンデッドが発生したのには何か原因があると考えるのが自然だろう。
「他に情報は無いのか?」
 冒険者の一人が、ギルドの係員に訊ねる。
「今のところはまだ何も‥‥。ですが、実際に狼達の遺体を見れば、何か分かることがあるかもしれません」
 何かが起こっている可能性があった。しかし、それが何なのかは自分達の目で確かめる必要がありそうだった。

 狼達は、その過程で二通りのアンデッド化をしているという。
 一つはゴースト化と呼ばれるもの。
 実体がない幽霊となっているもので、銀や魔法、あるいは魔法の武器による攻撃しか通用しない。
 飛行能力と高い魔法抵抗力を得ていて、触れただけで相手を傷つけることができるという厄介な能力を持つが、攻撃を当てることさえ出来れば倒すことの難しくない、魂だけの脆い存在でもある。
 もう一つはズゥンビ化と呼ばれるもの。
 朽ちた肉体となって、なおも動き続ける存在で、生前を遥かに凌ぐ体力を持つが、鋭敏な反応や素早い動作といったものは失われてしまっている。

 果たして、冒険者達はどのようにして、今回の依頼に挑むのであろうか。

●今回の参加者

 ea6572 アカベラス・シャルト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9563 チルレル・セゼル(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3338 フェノセリア・ローアリノス(30歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb5180 エムシ(37歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5685 イコロ(26歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec2843 ゼロス・フェンウィック(33歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 その命を失ってなお、森を彷徨う牙の獣。
 苦しみに魂を囚われ、生ける者達を嫌悪し、死の闇へと誘う。
 しかし、死への抗いが生ける者の望みなればこそ。
 今ここに、生者と死者の争いが始まる。

 キエフを発って三日目の朝。
 森の入り口の側にキャンプを張り、一夜を明かした冒険者達は、いよいよ魔物達の潜む薄闇の森の奥へと踏み入む前に、最後の準備を行っていた。
「私達が戻って来るまでの間、皆さんのことをお願いしますね、エルフォード」
 白き翼を持つ天馬の鬣を優しく撫で、フェノセリア・ローアリノス(eb3338)が言う。
 荷物の運搬などのために、冒険者達が連れて来たペットは少なくない。だが幾多の、それも危険な敵がいると分かっている場所に連れて行くのは、わざわざペットを死なせに行くようなものだ。だから、このまま森の手前に繋いで置いていこうというのが、何人かの意見だった。
「無理に付き合わせて散らせるのも、可愛そうですからね」
 アカベラス・シャルト(ea6572)が自分の馬達をロープで繋ぎながら呟く。正直を言えば、目の届かない場所に置き去りにするというのも、けしてペットにとって良いことではない。ロシアの地は蛮族や魔物がそこかしこに隠れ潜んでいるからだ。
 ただ、今回はフェノセリアの連れて来たペガサスがいる。頭も良く、力のある生き物だ。他のペット達の護衛役と世話役を任せておけば、ある程度の心配はせずに済みそうだった。
「はい、イコロさん。今日の朝食です」
「ありがと〜。でも、ゴメンね。迷惑かけちゃって‥‥」
「お気になさらず。困っている人に手を差し伸べるのは、神の教えでもありますから」
 寒さを凌ぐための小さな火を囲い、食事を摂っていたのはカーシャ・ライヴェン(eb5662)とイコロ(eb5685)。食料の用意というのは冒険者にとって基本的なことなのだが、今回イコロはそれを怠っていたため、十二分に用意のあったカーシャが彼女を助けた。
「感謝しときなよ。誰かの助けがなかったら、それこそ道中で死霊どもの仲間入りをしてただろうしねぇ〜」
 チルレル・セゼル(ea9563)が少し意地悪そうな笑顔を浮かべながらイコロに言って聞かせた。事なきを得たからこそ冗談で済むことではあるが、それが現実に起こりえたというのは、あまり笑えない話である。
「さて、そろそろ皆さんの準備も良さそうですね。行きますよ、ドラン」
 青く光る魔法の鎧に獅子の兜。重厚な装備に身を包んだレドゥーク・ライヴェン(eb5617)は、金色の竜を従えて歩いていた。その全ての指に、身の守りを高めるという指輪を嵌め、戦いの場へと向かう。
 だが、待ち受ける魔物達は彼の想像を上回るほどに、厳しい相手であった。

「ちいっ! こっちの都合なんざ、お構いなしかよっ!!」
 エムシ(eb5180)はその手にした魔剣エペタムと死者殺しの魔刀を振るい、迫り来る狼の怨霊達を切り払う。漆黒の装束が死霊達の中を踊り、軽やかな動きでその実体を持たぬ牙から逃れていた。
「森に入った途端、罠を張る準備も出来ぬ内に次々と‥‥。よほど、私達のように命を持って生きている者が嫌いと見える」
 ゼロス・フェンウィック(ec2843)が放つのは風の刃。
 出来ることなら、可能な限り高い威力で使いたかったが、生憎、今のゼロスの技量では、発動に失敗する可能性の方が高い。それに、幸いにして絞った威力でもゴースト化した狼達には効果があるようで、無理をせずとも十分な戦力となっていた。
「生きた狼なら、獲物を狙う時は、もっとじっくりと仕掛けるはずなのに」
「死んだものに、生前の理性を期待するだけ無駄ですか。とにかく、目の前に出てきたものから確実に潰していきましょう。戦いの音を聞きつけたのか、まだまだ、敵が押し寄せてきますよ」
 イコロが太陽の光で敵を射抜けば、アカベラスは強力な吹雪をもって、ゴーストと成り果てた狼達を薙ぎ払う。だが、その真紅の瞳に移る敵の姿は、まだ容易には減らない。
 こうなると、厳しい状況に追い込まれる者も出てくる。
「くうっ‥‥この私が‥‥!?」
 荒い呼吸。言う事を聞かぬ身体。
 レドゥークがゴーストウルフ達の攻撃に耐え切れず、地に膝を着いたのはすぐのこと。残念ながら今回の依頼において、レドゥークの選んだ重武装という選択は、余り良いものではなかったかもしれない。
 ゴーストと呼ばれる類の魔物達の攻撃は特殊な魔法じみた能力で、どんな重厚な鎧も意味をなさず、接触されてしまえばそれまでだ。これは、魔法によって身体の防御力を上げていようと同じで、逆に重い装備で攻撃の手数を減らしてしまった分、レドゥークは自分をより不利な立場に追い込んでしまっていた。
「この『美女仮面クラースヌゥィ』が、今お助けしますわ!」
 天使が使っていたといわれる魔弓を構え矢を放ったのは、マスカレードで顔を覆った女性騎士。狙いは違わず、レドゥークを襲っていたゴーストウルフを射抜いた。
 その機を逃さず、レドゥークは亡霊を払う魔剣を振るい、悪霊に止めを刺す。
「助かりました。美しきクラースヌゥィ。私にとって、貴女はまさに天使‥‥」
「そんな‥‥当然のことをしたまでですわ」
 戦いの最中だというのに、人目も憚らず見詰め合う二人。
「全く、この状況で、あの落ち着きようというか、余裕というか‥‥」
「う〜ん‥‥えっと、仲が良いのは悪いことじゃないよ。うん」
 襲い来る死霊を焼き払いながら、二人を横目に見て言うチルレルの言葉に、イコロが苦笑を浮かべながら答えた。
 とはいえ、レドゥークが奪われた体力はかなりのものだ。余裕があるように見えても、妻のカーシャを気遣ってそう見せかけているだけだろう。
「すぐに治療を。とにかく、今は傷の手当を優先しましょう」
 小さな結界を張り、フェノセリアはその中へ入るよう、レドゥークに前線からの後退を促す。
 聖なる力に覆われたそこには、死霊達も容易には侵入できない。結界の中に入ったレドゥークを、フェノセリアの祈りによって生まれた強く優しい光が包む。癒しの魔法を受けて、その身に再び戦う力が戻る。
 だが、戦いはまだこれからだ。
「少しずつ、ゴーストの数が減ってきたと思ったら‥‥今頃お出ましか」
 既に何匹もの死霊をその剣にて討ったエムシの視界。新たに映るのは森の中から姿を現すズゥンビウルフ達。あるものは肉が削げ落ち骨が見え、あるものは顔が潰れ、それぞれに無残に変わり果てた姿を晒しながら、じわりじわりと、こちらへ近づいてくる。
 その醜悪な外見は脅威だが、動きは明らかにゴースト達のそれより遅い。
「少しの間なら、私が囮になる。その間に、死霊の狼を片付けてしまえ!」
 リトルフライの魔法を用いて、ゼロスは己が身を宙に浮かべる。
「ドラン、彼の護衛を!」
「アキ、お前も行ってやれ!」
 レドゥークとエムシがペット達に、ゼロスの助けとなるよう指示を飛ばす。
 アカベラスはゼロスによって開けた場に誘い出されたウルフ達に向け、凍てつく吹雪を放つ。
 ズゥンビウルフ達を襲う魔法の力はけして弱いものではない。だが、狼達は不気味な呻き声をあげながら、構わずこちらへと向かってくる。
「少々‥‥辛い戦いになりそうですね」
 迫り来る魔物達と正面から向き合い、アカベラスは再び次の呪文を紡ぐのだった。

「終わりだ!」
 二刀を同時に用いてエムシが空を薙げば、悪霊と成り果てたウルフの最後の一匹が、完全にこの世界よりその存在を消した。
「これで、この狼達にもやっと安息が訪れます。主よ、どうか憐れな魂に、お導きを‥‥」
 フェノセリアは仲間達の治療を終えると、最後に今戦ったばかりの狼達へと祈りを捧げた。そして、完全にその動きを止めた狼達の骸を今一度、その目でしかと見る。
「どう見る?」
 ゼロスの問いに、フェノセリアは率直に意見を述べる。
「やはり‥‥自然死では無いように思われます。明らかに、何者かの手によって殺されたものでしょう‥‥」
 ただその身が朽ちたにしては、あまりに凄惨な容姿のウルフが多過ぎる。想像したくはない。だが、原型を止めぬ姿を見て、考えてしまったことがある。
「何か、強い力でその身を潰されたように見えるな‥‥」
 エムシの見た限り、どのウルフにも共通していたのは、身体のどこかが骨まで砕けてまともに動かなかったということ。場合によっては、完全に失われていたその部位の跡を見れば、切断されたというより、力任せの攻撃に捻じ切られたというように見えた。
「となると、この森の奥にいるのでしょうね。狼達を殺した何かが‥‥。どうします、皆さん。進みますか?」
 アカベラスが仲間達に問う。
「残念だが、私も既にかなりの魔力を使っている。一度、出直す方が賢明だろう」
「ま、しょうがないね。どっちにしろ、今回受けた依頼の範囲はここまでだ。大物狩りは、次の機会を待つとしようじゃないか」
 多かれ少なかれ、冒険者達のほとんどは疲労によって万全の状態とは言えなくなっており、ゼロスとチルレルは冷静に状況を判断し、そう言った。

 森の奥へと進むことはしなかったものの、アカベラスの提案で冒険者達は幾つかの墓穴を掘り、そこに狼達の遺体を埋めた。殺された全ての狼がアンデットと化したわけではないだろうから、まだ森を進めばどこかに狼達の骸があるかもしれない。
 しかし、無理の出来ない今はせめて、目の前の狼達だけでも弔ってやりたかった。

 再びここに戻り、この災いの元凶を絶つ。
 そう心に決め、冒険者達は一時、キエフへと戻るのであった。