【破壊神の僕】封印の双竜
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■シリーズシナリオ
担当:BW
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 20 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月21日〜07月30日
リプレイ公開日:2008年08月15日
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●オープニング
遺跡でのキメイラとの戦闘より数日。
キエフ冒険者ギルドにて、パーヴェルは再び冒険者達に話を聞いていた。
「それで、祭壇には何も残っていなかったと?」
「と言うより、宝が置いてあったとか、そういった形跡が無かったのだ。強いてあげるなら、無駄に大きな台座があったが、あそこにいたのはドラゴン達だと思われる」
多数の死者を出すこととなった前回の戦い。生き残った冒険者の一人である術士が、そうパーヴェルに報告していた。
「祭壇に祭られていたのが、ドラゴンということか? 何故、そんなものを?」
「その可能性もあるけど、ドラゴンが何かの宝を持っていたって可能性もあるかもしれない。祭壇にいた時の状態を間近で確認できていたら良かったんだけど‥‥」
悔しそうな表情を浮かべて一人の剣士が言う。
祭壇の部屋の入り口。扉に書かれていた言葉は、封じられし王への鍵。
王とは何者か。鍵は何を意味しているのか。その答えは定かではない。
「でも、その鍵を欲している悪魔がいることだけは確かよ。ドラゴン達を追いかけていった以上、鍵はあそこではなく、ドラゴン達と共にあるということ。これだけは間違いないわ」
弓を携えた女が言うと、パーヴェルはしばらく悩んだ末に、こう伝えた。
「とりあえず、ドラゴン達の消息について、こちらで調べることにする。情報が入り次第、諸君らに知らせよう。ドラゴン達に遭遇出来たなら‥‥ふむ。ここでは何とも言えないな。すまないが、その現場で対応を判断して欲しい。‥‥まあ、相手が相手だ。場合によっては、先のように死者が出る可能性も考えられるので、どこまで助けになるかは分からないが、せめて治療薬の類を幾らか支給出来るように手配しておこう」
一方、その頃。
彼らは、とある山岳地帯の上空にいた。
自分達の周囲を囲む、数十にも及ぶ悪魔達と戦いながら。
――――ッ!
銀の竜の口より生み出された熱線が空を走れば、それを受けた悪魔達の身体が一瞬にして消し飛ぶ。
光が悪魔達を薙ぎ払う一方。黒の竜の口から、まるで、そこだけ世界を切り取ったかのような、広大な闇が吐き出されていた。
魔の眷族すら惑う漆黒の闇の中で、竜の影が蠢く。強大な爪にその身を貫かれて、周囲の闇に融けるように、次々と消滅する悪魔達。
陽の名を冠せし竜、サンドラゴン。陰の名を冠せし竜、シャドウドラゴン。
二頭の竜は、それぞれの属する精霊の魔法も使い、その圧倒的な力を見せ付けた。
「さすがに、下級の悪魔達だけでは話になりませんか‥‥」
遠く離れた位置から、イペスは事の成り行きを見ていた。周囲には、グリフォンを駆るガルディア達の姿もある。
「どうにか、奴らを始末しなければ‥‥」
「‥‥見たところ、この地を覆っている魔の気に中てられて暴走したようだ。放っておけば、そこらの町や村が幾つか潰された後で、キエフから軍隊でも派遣されてくるのではないか?」
「その前に、こっち側に被害が増える可能性もある。周辺の蛮族の森には、既にこちら側に組み込まれた場所も多いんだ。封印の話を抜きにしても、無差別に敵を見つけて暴れまわる竜なんてのは、邪魔だよ」
ガヴリールの提案をクラスティが否定する。
「‥‥来ていますか、ネルちゃん?」
虚空に向かってイペスが呼びかける。するとそこに、空に浮かんだ小さな子供が一人。突然に姿を見せた。
「お呼びですか、イペスさま〜?」
「ネルガル! 君も無事だったのか」
クラスティが驚いた声を上げると、ネルガルは面白くなさそうな顔で彼を見た。
「あ? 何か文句でもあるのか?」
睨み付けるようにクラスティを見るネルガルの頭を、イペスがポンと軽く叩いた。
「駄目ですよ、ネルちゃん。そんな怖い表情をしていては、可愛い顔が台無しです」
「わわっ、御免なさい。イペスさま〜」
その光景を、ガルディアは呆れた目で見ていた。
「‥‥何だ、この茶番は‥‥?」
「イペスの趣味‥‥らしいです」
深く考えない方が良いと付け足して、クラスティは苦笑いを浮かべて言った。
「生き残っている者達に、後退の伝令をお願いします。戦力を整え直して仕掛けましょう。上手く隙をついて掛かれば、私達の手で倒せない相手でもありません」
二頭の竜を見据えて、イペスは最後にこう呟いた。
「全ては憤怒の魔王の復活のために」
●リプレイ本文
この身を封じられてより、過ぎ去ったのはどれほどの時か。
長かった‥‥。本当に、長かった‥‥。
だが、それも‥‥。
「あれは洒落にならんのう‥‥」
アナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)の視界。轟音が響いて、巨大な岩が谷底へと転がり落ちていく。岩が元あっただろう場所を見れば、翼を広げた巨大な銀と黒の双竜が咆哮を上げていた。距離があって、あまりハッキリと見えないが、竜達の周囲で黒い影のようなものが、現れたり消えたりを繰り返している。
「悪魔です。それも複数‥‥」
遠視の魔法を用いて、ラスティ・コンバラリア(eb2363)がその正体を見定める。
「どう見る?」
「まともに戦おうとはしていないようだ。どこかに誘導しようとしている印象を受ける」
デュラン・ハイアット(ea0042)の問いに、ラザフォード・サークレット(eb0655)はいつになく真剣な表情で答えた。頭の上を見れば相変わらず成人男性には不釣合いな可愛らしいウサミミ飾りがあるのだが、もはやこれがラザフォードの正装のように思えてくるから慣れというのは恐ろしい。
「あまり時間を置くのは良くないかもしれないですね‥‥。悪魔の目的が何かは分かりませんけど、あのドラゴンを助けたいとか、そんなんじゃ無いと思いますし‥‥」
「ええ。今ここで悪魔達を払い、あの竜達を助けられるとすれば、それは私達だけ。厳しい戦いになるでしょうが‥‥止めてみせます。たとえ、我が身を犠牲にしても」
竜族に憧れの感情を抱き、彼らを助けたいと今回の依頼を受けたシフールの少女、マリス・エストレリータ(ea7246)の言葉に肯いて、聖なる剣を携えた白の騎士、ディアルト・ヘレス(ea2181)は強い決意の垣間見える一瞬の表情の後、穏やかに微笑んだ。
「我が身を‥‥ですか」
ディアルトの言葉に己が傍らの、金色に輝く羽を持つ二羽の鳥達を見つめるオリガ・アルトゥール(eb5706)。思い返せば、一体の竜と関わったことが彼女をここに導いた運命の始まりだった。
「ダージボグ、皆に加護を‥‥」
祈るように天を見上げて呟き、その後に紡ぐのは魔法の呪文。この先に待つであろう、因縁深き者達との戦いのために‥‥。
「始めましょうか、テイル」
「行くわよ、テュール」
ユラ・ティアナ(ea8769)とシオン・アークライト(eb0882)はオリガの魔法の加護を身に宿すと、それぞれグリフォンとヒポグリフの背に乗る。相手は悪魔やドラゴン。その背に翼を持つ存在は、心強い戦力だ。
「正直、どこまでやれるかは分からんが‥‥」
エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が弱気な言葉を漏らす。
実際、人の身で戦いを挑むには危険過ぎる相手だ。先のキメイラとの戦いでは、命を落とす経験もした。そのキメイラとほぼ同格の力を持つミドルクラスのドラゴンが二体。さらに、その周囲には多数の悪魔。両方を力で捻じ伏せるのは、まず不可能に思える。
「それでも、最初から諦めて何もしないよりはマシだ。あんただって、そう思うからここに来たんじゃねぇのか? なら、どうするかなんて決まってる」
悪魔殺しの聖剣を手に、リュリス・アルフェイン(ea5640)が言う。位の高い竜は、空を飛び強力なブレスを吐き、魔法も使う。悪魔も知性の高い者になるほど、透明化、言霊、変身など、自分が有利に戦えるよう様々な能力を駆使してくる。剣での真っ向勝負のみを戦い方とする者が挑むには、ほぼ勝ち目が無い相手と言っていい。
だが、それは剣士のみに限った話ではない。魔法に秀でようと弓に秀でようと、これらを相手に一人で勝てる人間など、そうはいない。力を合わせ、互いの足りない部分を補い合うことが出来てこそ、人は人を超えた存在に勝つことが出来る。
「弱い存在なのは、私も同じです。でも‥‥負けたくない。だから今、自分に出来る全力を‥‥」
ラスティの言葉にリュリスは応と返して、互いの闘志を確かめ合うかのように、軽く拳を合わせた。
戦いの口火を切ったのは、オリガの猛る吹雪。
ドラゴン達の誘導にあたっていたグレムリンの数体が一瞬にしてその身を消滅させた。数が定かで無いのは、広大過ぎる魔法の効果範囲に、姿を消した状態のまま巻き込まれた者もいただろうからだ。
ただ、それでも安心には早い。敵の主戦力であるはずのイペス達は、まだ姿すら見せていない。敵の出方を待っていては遅いと判断し、こちらから仕掛けたまで。
「はっ!」
手綱を引いてディアルトが駆るは、白き天馬。開かれた道を竜目指して駆ける。だが、そのままでは済まない。
動くべき時をじっと待っていたかのように、インプ、ジャイアントオウル、ホワイトイーグル、グリフォン。空を飛ぶ魔物達が、山々の岩陰や谷間から次々と姿を現す。
「やはり出てきたか‥‥」
周囲を見渡し魔物達の動き方を見て、デュランは囲まれぬようにとグリフォンのヒョードルに進行方向の指示を出し、敵の魔物達から距離をとる。
「邪魔よ!」
先陣を切るシオンの前に、最初に立ち塞がったのはホワイトイーグルが二羽。繰り出された四つの爪に魔獣騎士が反撃の刃を構えて迎え撃つ。白い羽が空に舞って、翼に深手を受けた一羽が大地へもがき落ちていく。一方、シオンも全ての攻撃を凌ぐことは出来ず、肩を走る痛みに顔を歪ませた。しかし、焦りは無い。彼女が次の行動に移る前には、もう一羽の白鷲も退けられていた。後方より放たれたユラの矢に、その翼を射抜かれたのだ。
「ドラゴンだけでなく、この数の魔物‥‥。予想はしていたけど、骨が折れそうね」
自分達に向かってくる魔物の群を見据えて、呟くユラ。
「アテナ、彼女に神の慈悲を」
シオンの傷ついた肩。ディアルトの願いを聞いて淡く輝いた天馬の、その頬が触れると、痛みは嘘のように消えた。
「ありがとう、助かるわ」
礼の言葉に微笑みで返して、しかしディアルトの視線が向くのは右より襲い来たインプ。
「はあっ!!」
魔を討つ力秘めたる聖剣を騎士が振るえば、闇の眷属は、たちまちにその身を消滅させた。低級の小悪魔などでは、この男の相手にはならない。
だが、油断ならないのが悪魔という存在。ディアルトの頭上より、爪を振りかざし飛び掛る別の小悪魔の姿。
「させませんぞ」
ディアルトの背から顔を覗かせて、マリスの唱えるのは眠りの魔術。意識を失った悪魔の爪は目標を捉えることなく、そのまま大地へと落ちていく。
「ええい。こうも次々と来るのでは、まともに進めんぞ」
慣れない騎乗状態での空中移動に四苦八苦しながら、ラザフォードは重力波を放ち、敵の魔物達を牽制する。
「‥‥いつものことだけど、イペス達の姿がまだ見えないってことは、確実に何かを企んで動いているんでしょうね」
「悪魔の戦い方なんて、そういうものよ。とりあえず私達の動きを見ているってところじゃないかしら。でも、私達がやることは決まっているわ」
警戒するユラの言葉に振り返らずに応えて、シオンは前方のグリフォンに刃を浴びせた。
――その頃。
「始まったみたいですね〜」
遠く距離を取っていたシェリル・シンクレア(ea7263)は魔法の箒に乗り、宙空にその身を躍らせながら、戦場の様子を見ていた。
複雑に飛び交う魔獣の影の中から敵と味方を識別し、その手より放つのは雷光一閃。
雷撃を受けてグリフォンが一匹、体勢を大きく崩して高度を下げたのが見えた。
「さて、次に‥‥っと」
攻撃を成功させたのを確認し、その場を急いで離れ、次の攻撃を予定している地点に向かう。彼女にとって、自分の魔法で探知できない悪魔の存在は脅威だが、この戦い方なら、転移でもされない限り追いつかれることはまず無い。
「ぬぅ‥‥邪魔な連中め‥‥」
「だが、これで‥‥っ!」
エルンストの風の刃と、デュランの雷が放たれて敵の包囲に出来た隙。それを、ディアルトは見逃さなかった。
白き天馬が翼を大きく羽ばたかせ空を駆け抜ければ、彼の前には陽の竜。竜の羽ばたきによって生まれる暴風に耐え、何とか接近を試みる。
(『ドラゴンよ、私の言葉が聞こえていますか?』)
魔法の指輪の力を借りて、竜へと呼びかける。
――ッ!!
「くっ!?」
しかし返答は無く、言葉の代わりに返されたのは巨大な爪。盾で受け流すが、敵はドラゴンだけでは無い。サンドラゴンの周囲にいた魔獣の数体がディアルトに攻撃の矛先を変えてきたのだ。
「離れるのですよっ!」
ディアルトの背中にいたマリスが、咄嗟に闇の空間を生み出して、敵がこちらの姿を見失った間に距離を取る。その寸前に、ディアルトは精神回復の魔法をドラゴンに使っていたが、効果は見られなかった。
「駄目ですか‥‥」
抵抗されることは、予想の範囲だ。十に一の確率でも、ディアルトは成功するまでやるつもりでいた。
周囲の魔物の数が半数ほどになった頃だろうか、戦場に大きな変化があった。
「ようやく出てきたわね」
ユラの視線の先に、グリフォンを駆るクラスティとガヴリール。向こうの狙いは自分達のようだ。ならば、迎え撃つまでと弓を構える。
「騎乗したアルスターの射手がどういう意味を持つか、教えてあげるわ」
ユラの弓は、ただの長弓に比べて射程も長い。先手を撃つ。
だが‥‥、
「よく知っているよ。強さも‥‥そして弱点も」
「っ!?」
ユラの放った矢はクラスティに届かず、何かに当たって弾かれた。強固な聖なる結界。ガヴリールの魔法。
「それなら‥‥!!」
シオンが剣を手にヒポグリフを操り駆ける。剣の重量を十二分に載せた一撃で、結界を砕こうと‥‥。
「させない!」
「甘いっ!」
三連の矢がシオンに襲いかかる。盾を構えて全て受けた。攻撃に出る余裕がないが、近づいてしまえばこちらのもの。ヒポグリフの速さはグリフォンを上回る。勝算は十分にあるはずだった。さらに三つの矢が襲いかかる、その瞬間までは。
「なっ!?」
クラスティが放った矢は六連。命中精度の低い大技だが、シオンはかわせなかった。矢を受けたテュールは大きく体勢を崩して、高度を下げる。
「厄介な‥‥」
ラザフォードの額に汗が流れる。捨て身の戦いをする覚悟もあったが、それが通じるようには感じられない。
「ええい、何をやっている!?」
遠くからユラ達の攻防を目にしたデュランが魔法の詠唱に入る。達人級の雷光を放てば、それは結界を破ってクラスティ達を捉えて見えた。だが、相手の動きに変化が見えない。
「クラスティめ」
過去の戦いで、彼がレジストのスクロールを持っていることは知っている。今の様子だと、他者への付与も済ませているようだ。すぐに姿を見せなかったのはこのためか。
ただ、結界は破壊している。この隙に、誰か仲間の攻撃が続けば‥‥いや、ガヴリールの再発動が早かった。
一方、別方向にいたシェリルは‥‥。
「う〜ん、やりにくいですね‥‥」
狙いは、超遠距離からの雷閃。範囲魔法のため仲間を巻き込まず、敵のみに効果を発する方角を定めようと苦心していた。
だが、敵も味方も縦横無尽に戦場を駆け巡っている。地形は複雑で、巨大なドラゴン達以外の姿は見え隠れしており、通常詠唱で範囲魔法を使うタイミングを計るのは難しい。全体の状況を把握するにも地形が災いして、不安要素となる死角は出てきた。
遠く離れた自分に合わせて、多くの敵に囲まれている仲間に動いてもらうのも難しい。悩んだ末に、狙いをサンドラゴンに絞ってのヘブンリィライトニングとする。
余談だが、達人級やそれ以上の魔法を主に使ったデュランやシェリルより、それに及ばない魔法しか使えなくとも、ディアルトと共に呼吸を合わせて、彼の隙を確実に埋めるよう動いたマリスの方が総合的に戦闘面での功績は大きかった。移動に割いた時間や、魔力回復の頻度の差もあった。高い威力の術ばかりを使うことが状況にあった戦い方とは限らない。
同じ頃。
「仕掛けますよ」
それは、アナスタシヤが氷の魔法で大白鷲の身を封じた直後だった。羽ばたく蝶の指輪を確認したラスティの声で、リュリスやオリガの緊張も高まる。空を降りたシオンも合流していた。
――ザッ!
灰で作られた偽りのラスティが崩れた。それが、合図になる。
「そこですかっ!」
オリガが水弾を放てば、浮かぶ闇の結界と白い翼の少女。
『あら、残念』
「ふざけやがって!」
余裕の笑みを浮かべるイペスへリュリスが駆けようと‥‥。
「待って!」
止めたのは、ラスティ。警戒すべきは、伏兵。そして、彼女の耳に届く敵の動く音は二つ。
――ドッ!!
「ヘパイストス ! ウルカヌス!」
オリガのすぐ近くで護衛を担っていた二羽のホルスの身が傾く。包囲を力づくで突き破るのは、炎の鳥と化したガルディア。
リュリスが立ち塞がる。だが、ガルディアの攻撃は凄まじい。レジスト魔法を付与されてなお、リュリスの身はガルディアの炎に焼かれる。リュリスが攻撃に転じる前にガルディアは距離をあけた。隙は与えてくらないらしい。
「ぬるいぜ‥‥。エセ商人は、黙って汚ぇ金でも数えてやがれ!」
一方的に攻撃を受け深手を負わされた形のリュリスだが、顔には笑みを浮かべている。強がりでは無い。敵を一人倒すより、仲間を二人守ることの方が、戦いで大きな意味を持つこともある。ここは彼の勝ちだ。
だが、敵はもう一人いて‥‥いや、
巻き起こる強風。近づいた黒い巨体はシャドウドラゴン。
人数の固まっている場所を狙ったか。暴風と化した羽ばたきが、耐え切れなかった冒険者らを空に巻き上げる。
だが、危機の中にこそ見える活路もある。
――ッ。
氷輪が宙を走った。体勢をとるべく動いた、その羽ばたきの音の先‥‥手応え。
『がぁっ!!』
「そこっ!」
巻き起こる風に耐えきったシオンの一閃。さらに続くリュリスの二刀。
『こんな‥‥ところで‥‥っ』
剣の先に浮かぶは炎纏いし悪魔、ネルガル。
「‥‥あばよ」
雷光の轟音が天に響いたのは、リュリスの呟きとほぼ同時だった。
「終わりだな‥‥」
エルンストは巨大な雷に貫かれたサンドラゴンを見て息を吐いた。一撃でもドラゴンに攻撃を行った時点で、説得という手は使えないというのが彼の考えだった。それでなくとも、重傷を負って弱った竜を悪魔達が見逃すはずがない。
直後、火の鳥が現れてサンドラゴンの身を貫いた。この時点で悪魔側の主戦力がほぼ無傷で、長期戦を不利と見た冒険者達はシャドウドラゴンの退治を主に動く。
竜殺しの魔力を持つ武具と竜の鱗すら凌ぐ魔術。全ての攻撃が一つの対象へと向けられれば、竜の命が絶たれるのに長い時間はかからなかった。
シャドウドラゴンが命を絶たれた瞬間のことだ。双竜の亡骸から黒い輝きが現れて、それは空に溶けるようにして消えていった。
目的を達して悪魔達も引き上げる。余力に不安のあった冒険者らは見送らざるを得なかった。
そしてここに‥‥封印は解き放たれる。